『ノストラダムスの大予言』の真相
23世紀初頭。
爆発的に増え続けた人類は、滅亡の危機に瀕していた。
直接的な原因は、今まで『後進国』とされていた国々に『先進国』とされている国々の人間が人口過密の結果流出していったからだ、と歴史の教科書には書いてあった。
先進国の人間が後進国に行ったら、どうなるか。
進んだ文明の恩恵を余すことなく受け入れていた人間が、不自由な生活に耐えられるはずがないことは想像するのも難しくない。
自国から、他国から様々なものを持ちこみ、自らの生活水準を維持しようと目論み、最終的にそれは後進国と言われていた国々の水準をも一気に引き上げる結果になったらしい。
あとは時間さえ経ってしまえば、予想通りに堂々巡りの状態。
飢えで死なない。
病気で死なない。
平均寿命は伸び続け、結婚が遅くなり、少子高齢化社会が始まる。
しかも、今度は地球全土がそうなった。
いよいよ人口の過密は歯止めが聞かなくなり、新天地―――――そう、新たな『国土』を求めて世界中が宇宙へと旅立とうと躍起になり始めたその時。
それが起こった。
まず、日の光が遮られた。
当時の技術でも日食の周期はぴたりと当てられたらしいから、これには誰もが驚いたそうだ。
次に、空が赤く染まった。
驚かないのは、寝ていたやつだけらしい。
そして、最後には空一面に醜悪な化け物の顔が映し出され、耳障りな馬鹿笑いが響き渡った。
『ガハハハハハハハ!!我が名はアンゴルモワ、世の終末を成す魔王なり!!!』
20世紀の最後。
諸説があり、馬鹿馬鹿しいとされながらも、当時の誰もが気にかけていたことがあった。
『ノストラダムスの大予言』である。
内容としては、こうだ。
『1999年、7か月
空から恐怖の大王が来るだろう
アンゴルモワの大王を蘇らせ
マルスの前後に首尾よく支配するために。』
解釈によっては暦法の関係で『7か月』は8月のこととされていたから、その時にこのことがあったなら誰もが信じ、恐れ慄いただろう。
しかしそれは、多少のズレであればこそ。
200年以上も前に起こるはずだった予言の事象は既に忘れ去られて、稀代の予言者は大嘘吐きとして定着するか、ほとんどの記録からも抹消されていた。
もし、ことことをノストラダムスが知ったら―――――涙目で周囲に触れ回っただろう。
「ほら、私の予言した通りじゃないか!私、嘘吐きじゃない、分かるよね、嘘吐きじゃないもん!」と。
どうでもいいことなので、世界規模で全スルーされることは間違いないが。
しかし、当然のように疑問も湧きあがってくる。
どうして今頃。なぜこんなに時間が経ってから、と。
声に出した者もいたようで、それに対するアンゴルモワの答えは。
『あ、さーせん。ちょっと寝坊して遅刻しました』
だったという。