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純愛バトラー  作者: 天沢 祐理架
其の伍 執事、奮闘す
24/30

祭・愛戦士

 いよいよ学園祭当日。

 準備の甲斐あって、学園内は大勢の来客で賑わっている。

 今年は例年よりも圧倒的に客数が多い。

 なんでも、集客のためにうちのクラスの出し物のプロモーションビデオを作り、国内最大手の動画サイトに流したという話だった。

「客のいないショーほど惨めなものはないわ」

 というのは千沙子の弁で、動画を作る際の撮影や作曲における機材の提供など、全面的なバックアップを行ったようだった。その甲斐あって、サイトでもそこそこ有名になり、煽りを含めたコメントも多数ついていたから、宣伝効果としては充分だった。そのため市外のみならず他県からも客が集まり、今までに例がないほどの集客数となった。

 会場もインディーズバンドの演奏が夕方五時からなのをいい事に、千沙子が無理矢理大講堂での開演にねじ込んだ。出し物が終わった後に舞台をバンド用に仕込み直さないといけないので、担当の学園祭実行委員は嫌な顔をしていたが、千沙子に逆らうほど命知らずではなかったらしい。

 大講堂の前には、まだ開場前だというのに長蛇の列が出来上がり、会場の収容数に収まるかどうか既に怪しい雲行きになっている。しかし、野次馬も含めてこれだけの客が来たのは素直に喜ぶべきだろう。

 オレは『最後尾』と書かれた看板を持ち、列の整理を行っていた。

 当日のオレの仕事はこれだけだ。終わったら、後は自由。

 昼時になったら絵理のクラスのメイドカフェに行くんだ。誰にも邪魔はさせん。

 元々、ミスコンの票目当ての女子とその手の趣味の男子が率先してやってるので、オレみたいに醒めた心境の生徒が無理に手伝わなくてもいいのだ。

 客は圧倒的に男性が多く、やたら大きなリュックサックを背負っていたり、アニメのヒロインがでかでかと描かれたTシャツを着ていたり、待ち時間に携帯ゲーム機を取り出して暇をつぶしていたりと、専門用語で言うところの『大きなお友達』ばかりだった。

「それでは開場しまーす!」

 受付担当の女生徒の声が響き渡り、大講堂の扉が開いた。

 大講堂は収容数が千人規模のホールだが、列の中ほどまで収容した段階で既に満席になってしまった。

 動画による宣伝効果恐るべし。

 人数が人数なので、急遽整理券を配り、上演数を増やして対応することになった。

 キャストと裏方スタッフの仕事が増えたわけだが、ミスコン票を獲得する機会も増えたことでかえってテンションアップしたようだった。

 ミスコン効果恐るべし。

 受付には『ミスコン開催中!』という札がかけられていて、投票アピールも忘れない。

 客の収容を終え、舞台準備が整い、いよいよ幕が開いた。

 どんな仕上がりになっているか少しだけ興味があったので、立ち見で冒頭だけ見ていくことにした。

 舞台が明転すると、ヒロイン役の女生徒が五人、様々な色のセーラー服をモチーフにした戦闘用衣装を身に纏い、舞台中央で決めポーズを取っていた。

「らぶっきゅあ♪ らぶっきゅあ♪」と、どこかで聞いたようなオープニングテーマが大音量で流れ、ヒロインたちがダンスをしながら歌い出す。放課後に毎日練習していただけあって、歌もダンスもなかなかいい仕上がりになっていた。

 しかし、曲調と歌詞と雰囲気があまりにも大きなお友達向けなので、オレはだんだん頭が痛くなってきた。

 そんなオレとは対照的に、会場内を熱気と歓声が包む。

 この時点で舞台は九割方成功したようなものだ。後は芝居で下手を打たなければいい。

 ストーリーは、世界から愛をなくすため、恋人同士を仲違なかたがいさせている悪の秘密結社『カップル死ね死ね団』との戦いを描いたものだった。

 メインヒロインの一人であるラブピンクが彼氏とホテルで初デートの際に女幹部ブラックウィドウの襲撃を受け、怒りに燃えたヒロイン達との戦闘になり愛の力でブラックウィドウを撃退するというシナリオだ。

 後で聞いた話だが、このラブピンクの彼氏役の候補にオレの名前が挙がっていたと知った時は思わず戦慄を覚えた。

 しかし、他のヒロイン役の女子や千沙子の猛反対によって、無難に元演劇部の男子生徒に落ち着いたようだった。この点は千沙子たちに感謝するべきだろう。

 応援という名目の元、デートの様子を他のヒロイン達が出歯亀しているあたりでげんなりしてきた。

 ……ほんとに、誰だよ、脚本書いた奴……。

 しかし、演劇による非日常空間とは恐ろしいもので、冷静に見ると痛い脚本でも、役者や舞台装置がしっかりしているとそれなりに面白く感じてしまうようだ。

 いよいよクライマックスの戦闘シーンになり、ブラックウィドウが登場するや否や歓声が上がった。

 迫力のある高笑いと共に、黒と赤を基調としたボンテージ風の衣装を完璧に着こなし、鮮やかな鞭捌きでヒロイン達を翻弄するブラックウィドウ。

 他のヒロイン役の女生徒もよくやっているとは思うが、残念ながら役者が違う。

 負けず嫌いで努力家の千沙子は、あれから毎晩屋敷で高笑いをしながら鞭を振っていたらしい。その事を、偶然街で会った元同僚に聞いた。

「お嬢様が変な趣味に目覚めたようで心配だ」

 苦悩の表情でそうぼやいていたのが印象的だった。

「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られておしおきよ! 受けてみなさい! ラブ★ストリーム!」

 ヒロインの決め台詞が出た時点で、オレは完全にそれ以上見る気力が無くなり、大講堂を後にした。

 昼まで少し間があった。絵理のシフトは昼から午後にかけてという話だから、今行っても意味はない。

 あの絵理に『ご主人様』と呼ばれるからイイのであって、普段からオレのことを『陣様』と呼んでいる女生徒達から、今更『ご主人様』と呼ばれても、何の感慨も沸かない。

 オトコゴコロもそれなりに複雑なのだ。

 ふと、青司が演劇部で、今回役を割り当てられているという話を思い出し、劇の会場である小講堂に冷やかしに行こうと思い立った。

 小講堂は大講堂の隣の部屋で、大体三百人程度収容できるホールだ。

 設備も大講堂ほどではないが基本的なものは全て揃っており、演劇部の公演はいつも小講堂で行われていた。

 中に入ると、劇は既に終盤に差し掛かったところだった。

 セイラという名の姫が主人公で、魔王にさらわれた婚約者の王子を助けに行くという、ありふれた冒険活劇だった。

 主人公のセイラ役の女生徒は背が高く舞台栄えする役者で、殺陣たてのシーンも鮮やかに演じていた。

 セイラは王子の命を盾に求婚する魔王を王子ごと張り倒し、魔王にさらわれた恐怖と姫が助けに来てくれた喜びで泣き出す王子にハイキックをかますという暴力姫だった。

 男どものヘタレっぷりに嫌気が差したセイラは、王子との婚約を破棄して自ら皇帝に即位するというシーンで劇は締めくくられた。

 カーテンコールの時に青司の姿を探してみたが、見当たらない。

 劇そのものはありふれたシナリオながらもきちんと構成されており、楽しめた。

 青司の演技を見られなかったのは期待はずれだったが、それを差し引いても面白かったのでよしとしよう。さっきの劇の口直しとしては充分だった。

 思っていたよりも早く劇が終わってしまい、再び暇になった。校舎の方に移動し、各クラスの出し物を適当にぶらぶら見ていると、純白のロリータファッションの小雪とばったり会った。レースとフリルのたっぷりついたドレスを身に纏い、ふわふわのツインテールの真ん中にティアラがちょこんと乗っている。手に雪の結晶をモチーフにしたステッキを持っているところを見ると、占い師の衣装なのだろう。

「うふふ~♪ 占い師のリトルスノーです☆ じん先輩、よかったら占いどうですか~?」

 小雪にロリータファッションというのは完璧とも言えるほど似合っているが、それ故にどこからどう見ても小学生にしか見えない。

 時計を見るとまだ時間がありそうだったので少し見ていくことにした。

 2‐Aの教室に行くと抑えた照明に神秘的な雰囲気の飾り付けがなされていて、やたらとレースやフリルのついたゴスロリ系ドレスを着た女生徒たちが客を前に占いをしていた。

 占いに使われている机は一つ一つ布で仕切られているので、隣の様子が目に入って気が散るという事もなさそうだった。

 占いはいいんだが、教室の一角に『撮影場所』なる札がかかっていて、そこに大きなお友達が列を作っている。

「何アレ」

 端的に小雪に尋ねると、小雪はニコニコしながら答えた。

「あれね、ゆうちゃんのアイデアで占いの他に一枚百円で魔女と写真を撮るっていう出し物も付け加えたの~☆ せんせーにちゃんと許可は取ったよ♪」

「そうなのか……。よく許可出たな。そんなあこぎな商売」

 オレがそう言うと、小雪はにひひ、と笑った。

「最初は駄目って言ってたんだけどぉ。るみちゃんが『デートできなくて淋しい』って言ってたの思いだして、るみちゃん悲しませちゃだめだよって言ったの☆ そしたらせんせーすっごい慌てて。だめ元でもう一回お願いしてみたら、申請許可してくれたんだっ」

「……るみちゃんて誰」

「クラスの友達☆」

 ……小雪め、ナチュラルに担任を脅迫しやがったな。

 未成年相手の変な犯罪が多い昨今、生徒に手を出したなんて知られたら、良くて懲戒免職、悪けりゃお縄だ。例え真面目な付き合いだったとしても、万人に理解はされないだろう。友達を心配するスタンスで、お前の秘密を知っているぞ、とアピールしたわけだ。

 そりゃ多少の要求なら飲むわな。

「じん先輩、手に入れた情報って効果的に使わないと意味ないよねっ☆」

 純白幼女の姿をした腹黒魔女は、再びにひひ、と笑った。

「ホントは一回五百円なんだけど、今は気分がいいから、特別にただで占ってあげる☆ そのかわりさっきの内緒ね♪」

 そう言って小雪はオレを席に座らせ、カードを取り出した。机の上には雪の結晶をモチーフにした小物や水晶玉などが置かれており、神秘的な雰囲気を演出していた。

「じゃあ、リトルスノーがじん先輩のために、えりちゃんとの未来を占いま~す☆」

 いきなりそう宣言されて、オレは一瞬言葉に詰まった。

「マジデスカ」

「だってここの出し物は『魔法少女による恋占い』だよっ☆ それとも、ちさこ先輩の方がいい?」

「え……えりちゃんでオネガイシマス」

 小雪は満足そうににっこり笑うと、カードのシャッフルを始めた。慣れた手つきでシャッフルを終えると、カードを裏返しにしたまま展開していく。六芒星の形にカードを配置し、最後は六芒星の中心に一枚、カードを伏せた。

「じゃあ、結果発表で~す☆」

 そう宣言してカードを一つ一つめくり、占いの結果を話しはじめた。

 オレはタロット占いについての知識はさっぱりなので、めくられたカードを見ても結果の良し悪しが全くわからない。

「うーんと、過去の状況は……すごーい! 運命の輪だって☆ 二人が出会ったのはやっぱり運命だったんだねぇ」

「そんな大層なモンじゃない気がするけどな」

「そうかなぁ? でもね、恋に落ちたのはやっぱり運命だと思う☆ でもって現在は……うーん、吊られた男かぁ。やっぱりねぇ」

「やっぱりって……。どういうカードなんだ、それ」

「忍耐とか、苦労とか、そんな意味を表すカードなんだよねぇ」

 当たっているのが嫌だ。

 成り行きで占いを頼んでしまったが、今更ながら、結果を見るのが少々怖くなってきた。

 しかし小雪はそんなオレの心境など露知らず、説明をしながら次々とカードをめくっていく。

 未来の状況は月。オレの意識は隠者。絵理の意識は女教皇。障害は戦車のリバース。

「んーと。近い将来、不安定な状況になるかもねぇ。それか、心に迷いが生じたり。障害の戦車のリバースが暗示するのはライバル。せーじ君だね。同時に衝突も表すから、そのせいで一時期不安定な状況になるってことなのかな」

「すごいな。そんなことまで解るのか」

「わかるよー☆ カードに全部出るもん♪

 たとえば……じん先輩、まだえりちゃんに好きって言ってないでしょ。えりちゃん以外には公言してるのに」

 ずばり言い当てられて、思わずフイタ。

「じん先輩の隠者が表すのは理性、沈黙、秘めた愛。あとは、孤独も。対して、えりちゃんの女教皇が表すのは、清らかな心、知性、直感、平常心、安心。理性的な精神性を強く表すカードだから、恋愛事だと、隙がなさすぎるのかもねぇ。だから現在の状況が吊られた男なんだねぇ」

 話してもいないことをスパスパと言い当てられ、心の中を覗かれているようで非常に居心地が悪かった。

 そうなのだ。絵理には隙がない。

 だから、ぶつかる覚悟はあっても言い出せない。わざわざ勝てる見込みのない時に突進していくのは勇気ではなく、無謀と言う。今はただ、じっと忍耐してチャンスを窺うしかないのだ。

「でも、大丈夫だよっ☆ 正位置の吊られた男は、ちゃんと実のある忍耐を表してるから♪」

「ちなみにリバースだとどうなんだ」

「ムダな努力♪」

「……本当に実も蓋もないな……」

「うん~☆ 正位置でよかったねっ。じん先輩♪」

「しっかし、ここまでスパスパ当てられると正直心臓に悪いな。まだめくってないカードあるんだろ?」

 六芒星の中心に、伏せられたままのカードが一枚残っている。おそらく最終結果を表すカードだろう。

 今すぐ見たいような、ずっと伏せたままにしておきたいような、複雑な心境だった。

 そんなオレに、小雪はうふふ、と笑いかけた。

「ではでは、ついに最終結果で~す☆」

 小雪のめくったカードの絵柄は


 恋人。


「良かったね、じん先輩☆」

 そう言って小雪は笑った。

 カードの文字通りの意味と捉えていいのだろうか。散々な結果ではなかったので、とりあえず安心した。

 占いごときで一喜一憂するなんて馬鹿らしいと思っていたが、考えを改める必要がありそうだった。

「恋人のカードって文字通りの意味の他に、もう一つあるんだ☆」

 おもむろに小雪がそう告げた。

「もう一つの意味は、選択、決断。

 未来は掴み取るものだよ! がんばってね!」

 純白の魔女リトルスノーは、くるり、と雪の結晶のステッキを回した。

 まるで、魔法をかけるように。

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