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純愛バトラー  作者: 天沢 祐理架
其の伍 執事、奮闘す
21/30

祭・準備期間

 長い長い夏休みも終わり、今日から二学期だ。八月中に誕生日を迎えたオレは十八歳になっていた。後は免許を取れば車の運転も可能になるのだが、進路が決まっていないと教習所へ通う許可が学校側から下りないのだ。そのため、相変わらず、登下校の送り迎えは基本的にお付の運転手さんに行ってもらっていた。

 始業式とホームルームが終わった後は、例によって生徒会のミーティングがあった。こと二学期は学校行事が多く、それを開催するための下準備を行わなくてはならなかった。

 数ある学校行事の中で、最大といえるのは十一月頭の学園祭だろう。条星祭という名で呼ばれるそのイベントは、市外からやってくる一般客も多く、近隣の高校の学園祭としては最大規模のものだ。それゆえに入念な下準備が必要になるわけで、二学期が始まったら即準備に取り掛からないといけなかった。

「……とはいうものの、生徒会の仕事は総括ですから、具体的なプランを練るのは学園祭実行委員なんですよね」

 長船が自作の資料を配りながら、そう一人ごちた。この段階ではまだまだ具体的な案は出ておらず、せいぜいステージイベントをやってもらう芸能人に、誰を呼ぶかという候補が上がっているくらいだった。

「新鋭のインディーズバンドと、お笑い芸人か。正直どっちがいいんだろうなぁ」

 芸能関係の流行にはオレはほとほと疎く、果たしてどちらがいいのか判別できなかった。

 オレの言に対し、長船は

「さぁ」

 と首を傾げるばかり。

 絵理においては言わずもがなで、青司も千沙子もその手の流行には興味がなく、頼れるのは小雪だけという有様だ。

「うーん。小雪の好きなほうでいいの?」

「いいよ。というか、小雪の他に判別できる人間がいないからなぁ」

「やったー☆ じゃあ、小雪ミュージシャンの方がいいなっ」

「あら。随分と簡単に決まったわね」

「だってだって! 小雪、このバンド好きなんだもん♪ それにね、今どんどん人気でてるんだよ! 来年になったら呼べなくなっちゃうかも」

「では、音響設備を整える必要がありますね。ステージは体育館より大講堂の方がいいでしょう。できれば照明も凝りたい所ですが」

「叢雲君、あなた、確か演劇部に所属していたわね? 裏方で腕のいい子を二、三人こちらに回してもらえないかしら」

「とは言っても、俺、ほぼ幽霊部員ですよ……。今回、なぜか役が割り当てられてて驚きましたが。とりあえず、話だけはしてみます」

 こんな調子で具体的なプランが組みあがっていく。

 今上がっているプランについては大体の方針が決まり、あとは恒例になっているバザーやミスコンについてどう運営するかという話に移っていった。

「ミスコン、ねぇ。正直いらないと思うけど。容姿で女の良し悪しを決めるなんて、低俗ではなくて?」

 千沙子はどうやらミスコンイベントに関しては反対派らしい。

「それについては興味深いデータが存在していまして。ミスコンをやった年とやらなかった年の集客数と売り上げの比較があるんです。それを見たら、なんとミスコンを開催した年は開催しなかった年に比べて、集客数、売り上げ共に約二五%の増加が確認されています。学園祭を盛り上げるためにも、ミスコンイベントは必要だと僕は考えています」

「ところで、『みすこん』というのは、一体どのようなイベントなのだ?」

 話についていけなくなったのか、絵理がそう質問した。

「んとね、簡単に言うと、学校一かわいい女の子を決めるイベントなんだよー♪」

 小雪の簡単すぎる説明に、長船が補足を加える。

「投票方式については、来客に一人一枚、ミスコン投票用の札を渡しまして、帰りに一人名前を記載してもらい、こちらで回収します。

 より多くの票を集めた女子が、ミス条星の座を獲得できるというわけです。

 勿論、来客だけではなく、生徒による投票も行えます。エントリー方式ではないので、各女子に平等に機会がありますが、何かしら来客や生徒に印象を与えておかないと、票を獲得するのは難しいでしょうね」

「という事は、学園祭により積極的に参加した者は、それだけ印象に残る確率も高いというわけか」

「ええ。勿論、客として積極的に参加しても意味はないわけですが」

「なるほど。女子限定ではあるが、それを行えば士気高揚にも効果があるやも知れぬ。

 私は開催派に回ろう」

「もう、御剣さんまでそんなくだらないイベントに賛成なの?」

 千沙子は不満顔で絵理を見やった。密かに、絵理も反対派に回ってくれるかもしれないと思っていたようだ。

「女子限定、というのがいささかいただけないが、プラスになる事項が多いのだ。無碍むげに取りやめにしなくても良かろう」

 それでもまだぶつぶつ不満を言っている千沙子に対し、長船がこう切り出した。

「実は、ここだけの話ですが。今年のミス条星は伊勢村先輩が第一候補に挙がっているんですよ」

 千沙子の不満がぴたりと止み、驚いた顔で長船に向き直った。

「……私が?」

「ええ。考えてもみて下さい。容姿、学力、気品、財力。どれをとっても伊勢村先輩はトップクラスです。隠れファンは多いですよ」

「小雪のクラスでもちさこ先輩にあこがれてる子っているよぉー☆ 男の子も、女の子も♪」

 小雪の一言が後押しになったらしい。暫くの沈黙の後、一言こう言った。

「ま……どうしてもって言うならやればいいんじゃないかしら」

 あまりにも解り易い反応にオレ達は一瞬顔を見合わせたが、それに千沙子が気付く前に、長船が迅速に開催の方向で取りまとめた。

 ここで今日の会議は終了となり、オレ達も下校する事になった。

「しかし、まさか千沙子がミス条星の第一候補になっているとはな。全然知らなかった」

 帰り際、長船と顔をあわせた時に何気なくその話題を振ってみた。

「そうですね。僕も初耳です」

 長船はいつもどおりの口調で、しゃあしゃあと答えてのけた。

「チョットマテ」

 こいつはもしかしたら、詐欺師としての才能もあるのかもしれない。

「詐欺じゃありませんよ。方便です」

 長船は眉一つ動かさずにそう答え、

「それでは失礼します」

 と自転車置き場の方へ去っていった。

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