彼女は
奔放でわがままだけど、裏表のないタイプに憧れますが、なかなかそうはなれないものです。
私は双子の姉。周囲に言わせると、私は、自分勝手でわがままな人間らしい。全く、不本意な評価だわ。
そしてそれはたいてい、妹と比べて評された言葉だった。
妹はやんわりとしていてひとあたりがよく、どのような場面でも自分よりも相手を立てる。
顔はそっくりだけど私とはまるで正反対で、だからこそ、私達姉妹は良好な間柄を築くことが出来ているように思う。
妹とは通う高校も同じで、どうせルートが同じなのだからと登下校も共にしていた。クラスこそ違うものの、あんまり仲が良さそうなものだから、私達姉妹は学年の間ではちょっとした名物になっていた。ふん、まったく!見世物じゃないんだからね!
さて、下校時刻になり、今日も私は妹と並んで廊下を歩いていた。
私の、嫌いな教師への恨み言を、隣で微笑みながら聞いている。
前方から、同学年の女子のグループが、横3列に広がり、他の生徒の通行を妨げながらこちらに近づいて来た。
彼女らに気付いた妹は、さりげない動作で私の横から、背後へと移動する。思慮深い妹らしい行動だ。
だけど私はそんな妹の気遣いを無駄にする行動に出た。
我が物顔で道を歩く連中には我慢ならない。だから通りすがりに舌打ちをひとつしてやった、というわけ。
案の定女子三人組は私の挑発的な行動に飛び掛かってきた。…いや、飛び掛かろうとしたのだが。
妹がすかさずフォローに入ったのだ。ごめんなさい、今のは舌打ちじゃなくて投げキッスなんです…って、あんたねぇ!
女子三人組が一瞬呆気にとられた隙に、妹は強引に私の制服の袖を引っ張ると、一目散にその場を離れたのであった。
その話を聞いたママは、夕飯を作る手を止めて、はぁ、と大袈裟にため息をついた。
やっぱり、私はわがままで思いやりがなくて、妹は優しいいい子、らしい。
隣で妹が、ふいに冷たい瞳をする。
そういえば、こういう話になると、この子はとても無口になる。どうしたのかしらね。
何にしても、私はこの子がうらやましい。あんな風に温厚になれたらいいのに…。私は荒れ狂う闘牛のような自分の心に、人知れずため息をついた。
あなたは優しい子。
その言葉が、あまりにも空々しくて私は表情を変えずに笑った。
私は双子の妹。
今日も、姉と一緒に帰路に着く。廊下を並んで歩いている。
姉は、体育の鬼教師がよっぽど気に入らないようで、文句を並べる口は当分閉じられそうにない。
ほんとに、姉はパワフルだ。だって怒るのって、疲れない?
前方から、おしゃべりに夢中な女子生徒が3人、歩いてくるのが見える。あぁ、ああいうタイプの子は、絶対道を譲らないのよねぇ…。
私はつとめてさりげなく姉の横から後ろに移動する。
こうして他人と極力摩擦を起こさない。それが私のやり方だ。
しかし女生徒達との擦れ違い際に、姉の背中から舌打ちが聞こえた。女生徒達が一瞬にして険しい顔に変わる。
あぁ…やだな、私を巻き込まないでよ、お姉ちゃん。
私は慌てて、笑顔を作りその場を取り繕う。投げキッスだなんて馬鹿っぽすぎたかな……まぁいいか。
私は姉の制服の袖を引っ張って、走る。
ママが言った。あなたは優しいと。
それは違う。私は、他人にはなから期待していないから、腹も立たないだけ。礼儀のない同級生も、鬼教師も、べつに想像の範囲内というだけ。
どうでもいい人のためにエネルギーを使いたくないだけなのよ。
ママはああいうけど、たぶん、本当に優しいのはお姉ちゃんの方だと、私は思うのだ。
ありがとうございました。