僕らだって人間だもの
「僕が一番憎い物」と「僕らの正義」を読んで頂いている事が前提の小説です。
「僕だって人間なんだ。“好き嫌い”ぐらい有ってもよかろうに……」
なんて、現在僕がぶつくさと文句のように戯言を言っているのにはれっきとした理由が有る。
あの最強の母に、食べ物の好き嫌いに関して注意を受けてきたのだ。
何と言っても、僕はとてつもなく好き嫌いが多い。最低でも、友人に多すぎるだろと呆れられるくらいには。
数え出したら本当に嘘偽り無く、キリがないかもしれない。
それを、注意されたのだ。
いい加減直せ、と。
「僕よりも妹の方が多く…ないのか」
扇風機を独占するような運動バカの妹は僕と反対に好き嫌いが極端に少ない。
僕からすれば不思議で珍しい事に甘藍がダメだとか言っていたが。
だから我が家でキャベツの千切りはおろか、ロールキャベツだってロクに食卓に並ばない。
そんな事はどうでもいい。戯言の域に到達すらしない。
何か無いものか。好き嫌いが無くなる画期的なものが。
そんなモノ、下手すればの◯太君だって要求しないだろうけど、僕はするのだ。
ジャイ◯ンに負けるわけじゃないけど、もっとタチの悪いものに負ける気がしてならない。
まぁ、そんな便利な物が有ったらこの世に好き嫌いなんて概念自体が存在しない訳で。
僕の好き嫌いは直らないだろう。
だが、それで終わらない所が戯言なんだよ。
それでも、いくら考えたって解決策など浮かぶはずもなく。
僕は妹に声を掛けるべく、隣の部屋に顔を覗かせた。
「おい」
「うわぁッ!? 部屋入る時はノックくらいしろっての!! 何!!」
「お前さ、母さんにキャベツ食えるようになれって言われたら――」
「無理って即答するね」
その回答すら即答。せめて皆まで言わせてくれ。
「僕が好き嫌いなくしたら食うか?」
「無理。つーかそれ、兄ちゃんの方こそ無理だろあの膨大な数の好き嫌い克服するって」
う。それを言われるとぐうの音も出ない。
「つまり、お前は好き嫌いの克服を……」
「する気は毛頭ないね」
さいで。んじゃあ僕もそうすることにしよう。
「参考になった」
「何のだよ。まさか人の部屋乱入して用件それだけかよ」
「そのまさかだが何か?」
よし黙った。つまり反論無し。
あれ……そういえば――
思い出した事を忘れないように心の中で何度も繰り返しながら、母の元へと歩みを進めた。
そんな大層な距離でもないけれど。
「…母さん」
「ん?」
「好き嫌い直せって、さっき言ったよね」
「あぁ。そうね」
「それ、もしかして遺伝じゃない?」
その一言に母は凍りついた。
そう。我が家の母は、実は僕に負けじ劣らず食べ物に関する好き嫌いが多いのだ。
「人の事言えないんじゃないかって思って。母さんも好き嫌い多かったよね」
「………………」
よし黙った。つまり反論無し。
この勝負――僕の勝ちだ。