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25話 契約の空白

 07時26分。


 警察庁地下のSERT区画に、紙の匂いが満ちていた。


 中央行政記録管理センターから保全された契約資料。


 段ボール箱にして18箱。


 電子化されていない古い契約書、下請け一覧、設備仕様書、変更申請、廃棄記録。


 どれも単独で見れば、過去の行政契約にすぎない。


 だが、その中には三科耀司が関わった企業の名前があった。


 梶原は3台の端末に資料を取り込み、文字情報を照合していた。


 望月は原本を一枚ずつ確認し、付箋の位置まで記録している。


 紙そのものが証拠になる可能性があるため、順番も勝手には変えられない。


 片桐は古い設備仕様書を読んでいた。


 水瀬は薬剤散布、空調、災害訓練設備に関する契約を抜き出している。


 神崎は施設名と搬入経路。


 真壁は閉鎖された訓練施設、地下設備、避難経路。


 吉田は人材派遣と研修記録。


 戸張は机の上に広げられた資料を見て、早々に眉を寄せていた。


「これ、全部読むのか」


 梶原が画面から目を離さずに答える。


「副班長は読まなくて大丈夫です」


「そう言われると腹立つな」


「では、この委託契約変更履歴をお願いします」


 戸張は渡された分厚いファイルを見る。


「やっぱり読まなくていい」


 吉田が少し笑った。


「諦めるのが早いですね」


「得意な人間に任せるのも指揮だ」


 上原が隣から言う。


「お前は副班長だ」


「だからだよ」


 岡野は会議卓の端に立ち、全体を見ていた。


 DIVIDER-1。


 敵は、SERTを分けようとした。


 その目的の一つが、この資料の消去だった。


 ならば、ここには相手が隠したいものがある。


 問題は、それがどこに埋まっているかだった。


 08時11分。


 梶原が最初の重なりを見つけた。


「班長、同じ設備が別の名前で3回契約されています」


 上原が画面を見る。


「何の設備だ」


「広域災害時の情報集約システムです。最初は自治体向け。次は警察・消防連携用。その次は民間物流の緊急制御用」


 神崎が言う。


「情報、人、物流」


 吉田が顔を上げる。


「M-03、L-07、NOISE-LINEと同じですね」


 梶原は頷いた。


「表向きの用途は違います。でも、基幹部分の設計者コードが同じです」


 画面に表示された短い識別番号。


**MK-Y03**


 戸張が聞く。


「三科か」


「おそらく。三科耀司のローマ字表記と、当時の技術者番号が一致します」


 望月が原本を見ながら言った。


「ただし、契約書に本人の名前はありません。別会社からの技術協力という扱いです」


 岡野が聞く。


「会社は」


 梶原が一覧を出す。


「東都システム防災研究所。都市安全連携機構。首都圏物流制御サービス。この3社です」


 神崎が資料をめくる。


「全部、現在はありません」


「倒産ですか」


 水瀬が聞く。


「1社は清算。1社は合併。1社は事業譲渡です。ただし、社員と設備の移動先が途中で切れています」


 梶原が指で画面を拡大した。


「契約の最後だけ空白です」


 上原が見る。


 設備の搬出先。


 運用データの移管先。


 保守責任者。


 その欄だけが黒く塗られているわけではない。


 初めから何も書かれていない。


 契約が終了したなら、どこかへ移す。


 廃棄したなら、廃棄記録が残る。


 だが、そのどちらもない。


 岡野が静かに言った。


「消したのではなく、残さなかった」


 梶原が頷く。


「はい。追えないようにしたんだと思います」


 片桐が仕様書を広げた。


「このシステム、情報だけじゃありません。非常用扉、照明、空調、放送、車両ゲートまで繋げられる設計です」


 水瀬も別の資料を示す。


「NBC訓練用の環境制御機能があります。低濃度煙、換気遮断、区域封鎖」


 真壁が図面を見る。


「地下救助訓練区画もある。瓦礫、閉鎖空間、冠水設備」


 戸張が言った。


「訓練センターと同じか」


「近いですが、こちらの方が古いです」


 片桐は図面の端を指した。


「おそらく、関東広域危機対応訓練センターの前身か、試験施設です」


 上原が聞く。


「場所は」


 梶原は画面を切り替えた。


「契約上は空白。でも、資材搬入記録に残っています」


 神崎が同じ記録を見つける。


「湾岸北部。都内から千葉方面へ向かう臨海工業地帯。搬入先コードはK-18」


 望月が原本を確認する。


「住所の記載はありません。ただ、運送会社の受領印があります」


 神崎は地図上に過去の運送会社営業所とルートを重ねた。


「この時代の車両運行記録なら、片道距離から範囲を絞れます」


 梶原が言う。


「できます。高速料金、燃料、出発と帰着時刻もあります」


 上原は短く言った。


「出せ」


 09時03分。


 範囲は、徐々に狭まった。


 都心から東へ。


 首都高湾岸線。


 大型車が出入りできる区域。


 当時は国または関連企業が使用。


 地下設備を備える。


 現在は閉鎖、売却、または用途変更。


 候補は7か所。


 そのうち、5か所は現在も別企業が使用している。


 1か所は完全に解体済み。


 残ったのは、千葉県境に近い湾岸部にある古い研究施設だった。


 名称は、**東湾広域災害シミュレーション研究所**。


 15年前に閉鎖。


 表向きは、災害時の交通、避難、物流、行政連携を研究する施設。


 閉鎖後、建物は民間会社へ売却されたことになっている。


 だが、登記上の所有会社は3度変わり、現在の会社はペーパーカンパニー。


 敷地利用の記録はない。


 固定資産税は払われている。


 電気契約も最低限で継続。


 完全な廃墟ではない。


 梶原が言った。


「少量ですが、通信回線も生きています」


 戸張が身を乗り出す。


「見つけたか」


「まだ断定はできません」


 梶原は慎重だった。


「回線は監視カメラや防犯設備用とも考えられます。ただ、昨夜から今朝にかけて短い通信があります」


 上原が聞く。


「NOISEか」


「識別情報はありません。でも、通信間隔がNOISE-LINEと似ています」


 岡野が全員を見る。


「まだ踏み込まない」


 戸張が顔を向ける。


「でも、今なら」


「相手は、この資料を消そうとした。保全されたことも把握している可能性が高い」


 岡野の声は静かだった。


「こちらが場所を見つけることも想定している」


 吉田が頷く。


「拠点ではなく、次の誘導先かもしれません」


 上原は地図を見た。


「まず外から見る」


 神崎が言う。


「周辺の人と車両の流れを確認します」


 梶原も続ける。


「回線には触れません。受動監視だけにします」


 岡野は頷いた。


「少人数で行って」


 上原が人員を決める。


「俺、龍一、神崎。梶原は遠隔。吉田は本部で資料照合。片桐、水瀬、真壁は即応待機」


 戸張が立ち上がる。


「今度は止めないんですね」


 岡野は彼を見る。


「観察だけよ」


「分かってます」


「戸張副班長」


「はい」


「あなたの“分かってます”は信用度が低いわ」


 吉田が小さく笑った。


「統計的にも低そうですね」


 戸張は上原を見る。


「直城」


「諦めろ」


 10時36分。


 上原、戸張、神崎を乗せた黒い車両は、首都高湾岸線を東へ進んでいた。


 空は曇っている。


 湾岸の高層建築と倉庫群が流れていく。


 コンテナ車。


 配送トラック。


 工事車両。


 広い道路には、大型車の低い振動が続いていた。


 神崎は助手席で地図を見ている。


「研究所の正面道路は、現在ほとんど使われていません。北側に物流会社、南側は資材置場。海側は防潮堤」


 上原が運転しながら聞く。


「逃走路は」


「車両なら正面と北側の旧搬入口。徒歩なら防潮堤沿い。小型船を使うなら海側もあります」


 後部座席の戸張が言う。


「逃げ道、多いな」


「元研究施設ですから、災害時に複数方向へ出られるよう作られています」


 上原は前を見た。


 相手にとっても都合がいい。


 入る道が多い施設は、出る道も多い。


 梶原の声が車内に入る。


「施設回線、変化なし。周辺基地局には端末が17。物流会社側がほとんどです。研究所敷地内と推定される端末は2つ」


 戸張が聞く。


「少ないな」


「置き端末かもしれません」


 神崎が言う。


「人間は端末を持たないこともできます」


 上原が答える。


「数字で人数を決めるな」


「了解です」


 11時18分。


 東湾広域災害シミュレーション研究所。


 外壁は灰色。


 3階建ての本館と、低い実験棟。


 敷地を囲む金属フェンス。


 正面ゲートには古い会社名が残っている。


 塗装は剥げていた。


 だが、完全に放置されてはいない。


 雑草は伸びているが、車両が通った跡がある。


 防犯カメラは新しい。


 ゲート横のカードリーダーも、数年前の型。


 神崎が車窓から見た。


「建物は古い。でも、警備設備は更新されている」


 上原は車を通り過ぎさせる。


 正面には停めない。


 1度目は通過。


 少し離れたコンビニの駐車場で方向を変える。


 2度目は別の道から裏側へ。


 戸張が言う。


「中にいるな」


 神崎は周辺を見ている。


「正面ゲートのカメラが、車両を追いました。無人監視だけなら固定の動きで十分です」


「人が見てるか」


「可能性が高いです」


 梶原の声。


「今、施設回線から短い送信。上原班長たちが正面を通過した直後です」


 戸張が低く笑う。


「歓迎されたな」


 上原は答えない。


 裏手。


 旧搬入口の近くには、白い業務用ワゴンが1台停まっていた。


 ナンバーは正規。


 登録先は設備保守会社。


 だが、その会社は半年前に清算されている。


 神崎が言った。


「車両だけ名義が残っている」


 上原は速度を落とさず通過する。


 建物2階。


 ブラインドの隙間で、何かが動いた。


 人影。


 一瞬だけ。


 戸張も見た。


「いた」


「見た」


 上原はそのまま離れる。


 突入しない。


 追わない。


 まず読む。


 11時31分。


 3人は施設から1キロほど離れた立体駐車場へ入った。


 上階から、研究所の一部が見える。


 神崎が双眼鏡を使う。


 上原は肉眼で周辺道路。


 戸張は車両と屋上。


 しばらく、誰も話さない。


 研究所に動きはない。


 白いワゴンもそのまま。


 カメラだけが、ときどき向きを変える。


 梶原が言う。


「施設内端末2つのうち、1つが移動。東側実験棟から本館へ」


 上原が聞く。


「もう1つは」


「地下と推定される位置で固定」


 戸張が言う。


「地下があるのか」


 神崎が資料を見る。


「旧図面では、本館地下に管制室とシミュレーション設備。実験棟の下に水没・瓦礫訓練区画があります」


 上原の端末に、吉田から資料が届く。


「上原班長、古い人員配置表を見つけました」


 吉田の声。


「研究所閉鎖時の責任者は、名義上は別人です。ただ、技術統括補佐に三科耀司の旧社員番号があります」


 梶原が反応する。


「MK-Y03?」


「はい。名前ではなく番号だけ」


 岡野が通信に入る。


「上原。拠点である可能性は高い。ただし、それだけではないわ」


「何か出ましたか」


「契約資料に、研究所の最終実証試験計画が残っていた」


 上原は聞く。


「内容は」


「複数地点同時発生型の都市機能障害。交通、医療、通信、警察指揮を同時に乱し、各機関の対応限界を測る計画」


 車内の空気が変わる。


 戸張が低く言う。


「今までの事件、そのままじゃないか」


 岡野は続ける。


「計画名は、都市適応性総合試験」


 梶原が資料を検索する。


「待ってください。略称が……」


 数秒後。


「UAT-0」


 神崎が聞く。


「ゼロ?」


 吉田が言う。


「NOISE-00と関係がある?」


 岡野は断定しない。


「可能性はある。でも、もっと問題なのは実施規模よ」


 上原が聞く。


「どの程度です」


「当時の計画では、都内3地点を同時に停止させる想定だった。交通結節点、医療関連施設、行政通信拠点」


 戸張が身を乗り出す。


「訓練じゃなく、本当にやる気か」


 岡野は静かに答えた。


「相手が過去の計画を今の技術で実行しようとしているなら」


 梶原が施設回線の変化を拾った。


「班長、研究所から大きな送信が出ます」


「どこへ」


「複数です。都内方向へ3系統」


 上原の目が変わる。


「追えるか」


「暗号化されています。でも、経路だけなら」


 画面上に3本の線が出る。


 1本は都心北側。


 1本は湾岸西側。


 1本は都心中央。


 どれも、正確な施設までは分からない。


 だが、同時に動いている。


 岡野が言う。


「上原、離れて」


「まだ見ます」


「相手はこちらを把握している。送信は、あなたたちに見せるためかもしれない」


 その瞬間。


 研究所の正面ゲートが開いた。


 白い業務用ワゴンが動き出す。


 ゆっくり。


 逃げる速度ではない。


 見せるように道路へ出る。


 戸張が言う。


「追うか」


 上原はワゴンを見る。


 運転手1人。


 助手席は空。


 後部は見えない。


 追わせる車。


 分かりやすい。


 だが、放置もできない。


 上原は決めた。


「所轄に追跡を任せる。俺たちは動かない」


 戸張が少し不満そうにする。


「中身が本命なら」


「本命なら、もっと隠す」


 神崎が頷く。


「追跡車両を研究所から遠ざける役ですね」


 梶原が言う。


「所轄へ車両情報を流しました。目立たない距離で追わせます」


 白いワゴンは交差点を曲がり、見えなくなった。


 直後。


 研究所の屋上に人影が現れた。


 1人。


 灰色の上着。


 細身。


 距離があり、顔は見えない。


 だが、その人物は立体駐車場の方向を向いていた。


 こちらを見ている。


 上原は双眼鏡を使わない。


 覗き返せば、自分が確信したことを伝える。


 屋上の人物は、しばらく動かなかった。


 そして、右手を上げた。


 挨拶のように。


 戸張が低く言う。


「あれが三科か」


 上原は答えない。


 人影は屋上扉の奥へ消えた。


 梶原がすぐに言う。


「屋上カメラありません。顔の照合は無理です」


 岡野が通信越しに聞く。


「上原、見えたの?」


「人物1名。こちらを認識していました」


「三科だと思う?」


「分かりません」


「そうね」


 岡野もそれ以上は言わない。


 似ている。


 そう思わせることも、相手の手口だ。


 決めつければ、罠になる。


 11時46分。


 研究所敷地内の電源使用量が急に上がった。


 梶原が異常を告げる。


「地下設備が起動しています。複数サーバーと、空調。施設全体が動き始めました」


 神崎が研究所を見る。


 今まで暗かった本館の窓に、ひとつずつ明かりがつく。


 1階。


 2階。


 3階。


 実験棟。


 まるで、長い眠りから起きるように。


 次に、屋外スピーカーから音が流れた。


 距離がある。


 それでも聞こえる。


 加工された男性の声。


「確認を終えました」


 戸張が身を固くする。


 上原は動かない。


「SERTは、契約の空白に到達した」


 スピーカーの声は、静かだった。


「観測は終了。分断試験も終了」


 梶原が音声を記録する。


 吉田は本部で声の特徴を分析している。


「合成音ですが、基礎音声は同じ人物です。過去のOBSERVERとは違います」


 声が続く。


「次は、都市で行う」


 上原の目が細くなる。


「何をする」


 距離があり、こちらの声は届かない。


 だが、相手は最初から答えを用意していた。


「3つの地点。3つの判断。1つの部隊」


 研究所の明かりが、一斉に消えた。


 次の瞬間、梶原の画面から施設回線が消える。


「通信断。内部電源も落ちました」


 神崎が言う。


「逃げた?」


「分かりません。地下に別電源がある可能性」


 戸張が立ち上がりかける。


「今なら入れる」


 上原は止めた。


「待て」


「でも」


「今入れば、向こうが決めた時間に、向こうが決めた入口から入る」


 戸張は研究所を睨む。


 上原は本部へ言った。


「岡野室長。研究所を拠点候補として包囲準備。正面突入はしません。周辺道路、海側、防潮堤、地下配管経路を確認します」


 岡野が答える。


「了解。警察庁内の要員を絞って動かす。大規模には見せない」


「3地点の特定を優先してください」


「梶原が追っている」


 梶原が言う。


「送信経路は途中で切られました。ただ、3つとも別系統です。交通、医療、行政通信という推定は合っているかもしれません」


 水瀬が本部から聞く。


「実行時刻は」


「分かりません」


 片桐が言う。


「今日かもしれない」


 吉田が静かに続ける。


「あるいは、こちらに今日だと思わせたい」


 上原は研究所を見た。


 暗い建物。


 何も動かない。


 だが、地下では何かが動いているかもしれない。


 ここが本拠地なのか。


 中継拠点なのか。


 巨大な罠なのか。


 まだ読めない。


 ただ、ひとつだけ分かった。


 相手は次に、SERTの一人を狙うのではない。


 都市そのものを使う。


 12時18分。


 上原たちは研究所周辺から一度離れた。


 逃げたわけではない。


 包囲を作り直すため。


 相手に、こちらがどこまで見ているかを悟らせないため。


 SERT区画では、全員が集められていた。


 画面には研究所の図面。


 都内3系統への通信。


 過去の都市適応性総合試験。


 UAT-0。


 M-03。


 L-07。


 NOISE-LINE。


 NOISE-00。


 断片が、初めてひとつの計画に見え始めている。


 岡野が言った。


「三科耀司は、災害対応を研究していたのではない」


 梶原が画面を見る。


「対応する側の限界を研究していた」


 吉田が続ける。


「人がどの順番で迷うか。どこで判断を間違えるか」


 神崎が言う。


「交通が止まれば、人の流れが崩れる」


 水瀬が言う。


「医療が止まれば、救助先がなくなる」


 梶原が続ける。


「行政通信が止まれば、命令が届かない」


 片桐が低く言った。


「そこに偽情報と罠を重ねる」


 真壁が拳を握る。


「現場は救助を選ばされる」


 戸張が上原を見る。


「3地点へ同時に来たら、また分かれるしかない」


 DIVIDER-1。


 相手の狙いが、そこでつながった。


 SERTを分けるための予行ではない。


 分かれざるを得ない大規模事件を起こすための確認だった。


 岡野が全員を見る。


「第1段階、観測。第2段階、個人への圧力。第3段階、関係の分断」


 上原が続ける。


「次が実行」


 区画内が静まる。


 岡野は言った。


「全員、今日から完全待機。研究所の包囲と3地点の特定を同時に進める」


 梶原が聞く。


「対象範囲が広すぎます」


「だから、過去の契約から絞る」


 岡野は机上の資料を見る。


「三科は、新しい仕組みを一から作っているわけではない。昔、自分が設計したものを使っている」


 上原が頷く。


「過去を見れば、次が分かる」


 戸張が装備を確認する。


「今度は資料読むしかないか」


 吉田がファイルを渡す。


「こちらをお願いします」


 戸張は表紙を見る。


**都市適応性総合試験 想定対象施設一覧**


 彼の表情が変わった。


「これなら読む」


「最初からそうしてください」


 梶原が画面に新しい解析結果を出した。


「班長、研究所から最後に出た通信の一部を復元しました」


 上原が見る。


 時刻。


 暗号化された短文。


 送信先は3つ。


 その下に、実行識別。


**PHASE-1 READY**


 さらに、時刻欄。


 数字は欠けている。


 だが、日付だけは残っていた。


 翌日。


 区画内の空気が一段階、冷えた。


 片桐が言う。


「明日」


 水瀬が時計を見る。


「準備時間は、長くありません」


 神崎が地図を開く。


「3地点を今夜中に絞る必要があります」


 真壁が立ち上がる。


「救助計画も同時に作ります」


 吉田は過去の対象施設一覧を広げた。


「相手は、こちらが3地点を選ぶところまで見ているかもしれません」


 岡野が頷く。


「それでも選ぶ。何も決めないことが、一番危険だから」


 上原は全員を見る。


「三科の計画は、俺たちを3つに分ける」


 戸張が言う。


「分かれても崩れなければいい」


「違う」


 上原は静かに答えた。


「分かれても、ひとつとして動く」


 その言葉に、全員が頷いた。


 シーズン1で積み上げてきたもの。


 突入。


 交渉。


 爆発物。


 化学災害。


 救助。


 サイバー。


 重要施設警備。


 鑑識。


 それぞれが別の専門を持つ。


 だが、別々の部隊ではない。


 3地点に散っても、SERTはSERTだ。


 撃つ前に読む。


 突入する前に救う。


 それでも止められないなら、制圧する。


 そして、都市全体を使って部隊を分けようとするなら、離れた場所から同じ現場を読む。


 契約の空白は、埋まった。


 そこにあったのは、閉鎖された研究所だけではない。


 15年前に作られ、実施されなかった都市規模の試験。


 そして、それを現実に変えようとする男。


 三科耀司。


 NOISE-00。


 翌日。


 東京のどこかで、3つの事件が同時に始まる。


 SERTは、その夜、誰ひとり帰らなかった。


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