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22/27

22話 帰路の侵入

 20時18分。


 警察庁地下のSERT区画は、夜になっても明るかった。


 合同訓練センターから戻ってきた後、全員がそれぞれの報告書と解析に追われていた。


 訓練ではない訓練。


 NOISE-00。


 OBSERVER-3。


 次段階、個別対応へ移行。


 その言葉は、誰の頭からも消えていない。


 梶原伊織は、自分のデスクで端末を3台並べていた。


 押収した端末。


 訓練センターの制御ログ。


 NOISE-LINEに関係する通信断片。


 画面には無数の文字列と時刻、IPアドレス、端末識別子が流れている。


 誰が見てもただの数字の羅列だ。


 だが、梶原には違う。


 それは人の足跡だった。


 どこから入り、どこで迷い、どこで隠れ、どこで焦ったか。


 通信にも癖がある。


 嘘にも、手癖が出る。


「帰らないんですか」


 吉田が声をかけた。


 梶原は画面から目を離さずに答える。


「帰ります。あと5分だけ」


 戸張が後ろを通りながら言う。


「それ言うやつの5分は、だいたい1時間だ」


「副班長と違って、僕の5分は誠実です」


「俺の5分も誠実だ」


 水瀬が横から言った。


「副班長の5分は、現場では7分30秒です」


「細かいな」


 片桐が書類を閉じながら言う。


「梶原、今日は帰った方がいいですよ。端末に見られすぎると、端末の向こうからも見られます」


 梶原は苦笑した。


「怖い言い方しますね」


 上原が奥の席から顔を上げた。


「梶原」


「はい」


「今日はそこまでにしろ」


 梶原の指が止まる。


 上原の声は強くない。


 だが、決定だった。


「了解です」


 岡野も室長室から出てきた。


「単独行動禁止は継続中よ」


 梶原は肩をすくめる。


「分かっています。帰りは誰かと」


 戸張が言う。


「俺が送るか?」


「いえ、遠慮します」


「即答するな」


 吉田が少し笑う。


「私は方向が違いますね」


 水瀬が言う。


「私は途中まで同じです」


 梶原が少し安心した顔をした。


「じゃあ、水瀬さんと途中まで」


 岡野は頷いた。


「その後は?」


「駅から自宅までは近いので」


 上原が言った。


「近い距離が危ない」


 梶原は黙った。


 前回の護送でもそうだった。


 短い移動ほど狙われる。


 自分で言ったことを、今度は自分に返されている。


「分かりました。自宅近くまで所轄の巡回ルートに合わせます」


 上原は短く頷いた。


「そうしろ」


 20時47分。


 梶原と水瀬は、警察庁を出た。


 外は冷えていた。


 霞が関の街灯が、ビルの壁を白く照らしている。


 夜の官庁街は、人が少ない。


 昼間の忙しさが嘘のように、道は広く、音が遠い。


 水瀬は淡々と歩く。


 梶原は肩にバッグをかけ、少し眠そうな顔をしていた。


「水瀬さん」


「はい」


「単独行動禁止って、いつまで続くんですかね」


「危険が下がるまでです」


「その危険が下がったって、誰が判断するんですか」


「岡野室長と上原班長です」


「じゃあ、長そうですね」


「長いでしょうね」


 梶原は小さくため息をついた。


「非番も監視されるの、サイバー担当としては複雑です」


「監視ではなく警戒です」


「言い方の問題では」


「実際に違います」


 水瀬は前を見たまま言った。


「あなたが狙われる可能性は高いです」


 梶原は少し黙る。


「……ですよね」


「制御奪取速度高。そう書かれていました」


「そこ、褒められてるみたいで嫌なんですよね」


「敵の評価は、褒め言葉ではありません」


「分かってます」


 交差点の信号が赤になった。


 2人は足を止める。


 その時、梶原のスマートフォンが震えた。


 画面には、通知。


**未送信ログの復元が完了しました。**


 送信元は、SERT内部解析端末。


 だが、梶原はすぐに眉を寄せた。


「おかしい」


 水瀬が見る。


「何がですか」


「この通知、内部端末からのものに見えますけど、時刻がズレてます。今、地下端末はネットワークから切っているはずです」


 水瀬の表情が変わる。


「開かないでください」


「もちろん」


 梶原はスマートフォンを操作せず、画面だけを見る。


 通知の下に、もう1行表示された。


**梶原伊織。

あなたは帰路でも解析を続ける。**


 水瀬が短く言った。


「罠ですね」


「はい」


 信号が青に変わる。


 だが、2人は動かない。


 梶原はすぐに別回線の端末を取り出した。


 SERT用の緊急通信。


 上原へ接続する。


「班長、梶原です。帰路で端末に直接メッセージ。内部端末偽装です」


 上原の返答は早かった。


「位置は」


「霞が関駅近く。水瀬さんと一緒です」


「動くな。周囲は」


 梶原が視線を上げる。


 タクシー。


 自転車。


 歩道の会社員。


 交差点向こうの白いワゴン。


 路肩に停まる配送車。


 誰も、特別に怪しくはない。


 だから怪しい。


「白いワゴンが1台。配送車が1台。あと、歩道橋側に人影」


 水瀬が横から言う。


「歩道橋側の男性、こちらを見ていません。ですが、スマートフォンの向きが固定されています」


 上原の声が低くなる。


「撮影か」


「可能性があります」


 梶原のスマートフォンがまた震えた。


**止まるな。

止まれば、君の端末ではなく、信号が止まる。**


 梶原の顔が変わった。


「班長、信号制御を触っている可能性があります」


 梶原が周囲を見る。


 交差点の信号が、青のまま長い。


 反対側の車両が止まっている。


 不自然に長い。


 水瀬が言った。


「交通を操作して、こちらの移動を誘導するつもりですか」


 梶原は短く答えた。


「たぶん、僕を歩かせたい」


 上原が言った。


「その場で待て。龍一が向かう。神崎も近い」


 戸張の声が割り込む。


「梶原、動くなよ」


「動くなと言われると、逆に動きたくなるタイプじゃありません」


「ならいい」


 水瀬は周囲を見ていた。


「歩道橋の男、移動します」


 男はゆっくり階段を下りてくる。


 スマートフォンを持っている。


 会社員風。


 だが、歩き方が一定すぎる。


 視線を上げない。


 梶原を見ない。


 見ないようにしている。


 水瀬は低く言った。


「私が声をかけます」


 梶原が止める。


「待ってください。あの人、端末を持たされているだけかもしれません」


 男のスマートフォン画面に、反射で文字が見えた。


**近づけ。

止まるな。**


 梶原は息を呑む。


「操られてます」


 水瀬の声が少しだけ冷たくなる。


「脅迫ですか」


「たぶん」


 男が近づく。


 梶原のスマートフォンには、次のメッセージ。


**彼には妻がいる。

止めれば、別の通知が飛ぶ。**


 水瀬が言う。


「人を端末として使っている」


 梶原は歯を食いしばった。


「本当に、嫌なやり方ですね」


 男は2人の前まで来た。


 顔色が悪い。


 汗をかいている。


 手が震えている。


 梶原は一歩だけ前に出た。


「大丈夫です。警察です」


 男の目が見開かれる。


「言うなって……言われて……」


 水瀬が静かに聞く。


「何を持っていますか」


 男は震える手でスマートフォンを差し出そうとした。


 その瞬間、梶原の端末に表示。


**渡すな。

渡せば公開。**


 男の手が止まる。


 梶原は言った。


「渡さなくていいです。持ったままでいい。画面だけ見せてください」


 男は泣きそうな顔で画面を向ける。


 そこには、妻と思われる女性の写真。


 勤務先。


 住所。


 そして、脅迫文。


**指定場所まで歩け。

スマートフォンを警察へ渡したら、全情報を流す。**


 梶原は怒鳴らない。


 声を低くする。


「水瀬さん、この人を座らせてください。スマホは持たせたまま」


「はい」


 水瀬が男をベンチへ誘導する。


 彼の手首や首元を見る。


「体調は」


「大丈夫……です」


「呼吸が速い。吐いてください。吸うより先に」


 吉田がよく使う言葉を、水瀬が使った。


 男は震えながら息を吐いた。


 梶原は端末を見た。


「班長、相手は一般人をリレー端末に使っています。スマホを渡すと脅迫情報が公開される仕組みかもしれません」


 上原が返す。


「解除できるか」


「やります。でも、ここでは不利です。相手は僕の操作を見たい」


 上原が言った。


「見せたい操作を見せろ」


 梶原は一瞬だけ黙り、すぐに理解した。


「偽の解除作業ですね」


「そうだ」


 梶原はスマートフォンを取り出し、わざと目立つように操作を始めた。


 相手に見えるように。


 焦っているように。


 失敗しているように。


 実際には、別のSERT端末から梶原の位置と周囲の通信を拾っている。


 梶原の指は震えていない。


 だが、表情だけは少し焦って見せる。


 20時58分。


 戸張と神崎が近づいていた。


 戸張は警察車両ではなく、タクシーから降りた。


 目立たない。


 神崎は反対側の歩道から歩いてくる。


 2人とも、梶原の方を見ない。


 梶原は通信で小さく言った。


「白いワゴン、動いてません。配送車も。ですが、歩道橋下に自転車の男がいます。さっきから同じ位置です」


 神崎の声。


「見えています。自転車の男は、逃走役ではなく監視役。体重がペダルに乗っていない。逃げる準備をしていません」


 戸張が言う。


「じゃあ本命は」


 神崎が答える。


「配送車の荷台です。路駐しているのに、後部がわずかに沈んでいる。中に人がいます」


 梶原の端末にまた表示。


**上手い。

だが、近づいている男は戸張龍一。

もう見えている。**


 梶原の表情が変わった。


「副班長、見られています」


 戸張は足を止めない。


「見せとけ」


「いや、そういう話では」


「梶原、お前は自分の仕事をしろ」


 その声に、梶原は息を整えた。


「了解」


 水瀬はベンチの男を守る位置に立つ。


「梶原さん、一般人のスマホ側、タイマー表示が出ました」


 男の画面に、残り2分。


 公開までのカウントダウン。


 梶原は舌打ちした。


「ほんと性格悪いですね」


 彼は自分の端末で偽の解除作業を続けながら、隠し回線で男のスマートフォンと脅迫サーバーの通信を追う。


 相手は、スマホを警察に渡したかどうかを、加速度センサーと画面操作で見ている。


 さらに、位置情報。


 さらに、カメラ。


 梶原は言った。


「水瀬さん、その人のスマホ、向きを変えないでください。手もそのまま。画面は見える位置で」


「分かりました」


 残り1分20秒。


 上原の声が入る。


「梶原、無理なら男と家族を保護する。公開されても命は守る」


 梶原は画面から目を離さずに答えた。


「公開させません」


「無理はするな」


「無理じゃないです」


 梶原の指が速くなる。


 敵は、梶原が直接サーバーへ入ると思っている。


 だが梶原は入らない。


 入ろうとする姿だけを見せる。


 実際には、脅迫サーバーではなく、その手前にある通知配信経路を偽装する。


 公開した、という結果だけを相手に返し、実際の投稿先には空のデータを流す。


 以前、三浦佳奈の事件で使った手に近い。


 だが、今回は相手が梶原の手口を見ている。


 同じやり方では読まれる。


 だから、半分だけ同じにする。


 半分だけ変える。


 残り30秒。


 梶原は小さく言った。


「公開したことにします」


 水瀬が聞く。


「実際には?」


「何も出ません」


 残り10秒。


 梶原の端末に、新しい文字。


**君はまた隔離する。**


 梶原は笑わない。


「違います」


 残り3秒。


 2秒。


 1秒。


 男のスマートフォンに表示。


**公開完了。**


 男が崩れそうになる。


 水瀬が肩を支えた。


「落ち着いて。まだ確認していません」


 梶原の端末には、別表示。


**送信失敗。**


 脅迫サーバーは、公開したと思っている。


 実際の投稿は空。


 通知だけが戻っている。


 梶原は息を吐いた。


「止めました」


 その瞬間、配送車の後部ドアが開いた。


 中から男が1人、飛び出す。


 ノートPCを抱えている。


 監視役ではない。


 現場操作役。


 逃げる方向は、地下鉄入口。


 だが、神崎がその前に立っていた。


「そちらは混みます」


 男は方向を変える。


 そこに戸張がいる。


 男が小型のスタンガンを抜く。


 戸張は一歩で距離を詰め、手首を外側へ逃がす。


 スタンガンの先が空を切る。


 次の瞬間、男の膝が落ちる。


 戸張はノートPCを地面に落とさないよう、片手で受け止めた。


「確保」


 神崎は配送車の荷台を確認する。


「中に端末2台。通信機材あり。もう1人」


 荷台奥の男が逃げようとする。


 戸張が制圧した男を神崎へ任せ、荷台へ向かう。


 水瀬は一般人を守る。


 梶原は端末から目を離さない。


「副班長、奥の端末を切らないでください。まだ通信が生きています」


「了解」


 荷台奥の男は、端末の電源を抜こうとしていた。


 戸張は腕を押さえ、端末から引き離す。


 神崎が反対側から入って、逃走路を塞ぐ。


 男は抵抗するが、数秒で床に押さえられた。


「2人目確保」


 21時06分。


 交差点の信号は正常に戻った。


 一般人の男は、近くの警察施設へ保護されることになった。


 彼の妻に関する情報は公開されていない。


 水瀬が男の状態を確認する。


「過呼吸気味ですが、命に別状はありません。念のため救急搬送を」


 男は涙ぐみながら頭を下げた。


「ありがとうございました……」


 梶原は少し困った顔をする。


「僕じゃなくて、水瀬さんに」


 水瀬は淡々と答えた。


「どちらでも構いません。あなたは悪くありません。脅された側です」


 男は何度も頷いた。


 戸張は確保した男2人を所轄へ引き渡す。


 ただし、表向きは不審車両内での脅迫事件。


 SERTの名前は出ない。


 神崎は周囲の人流を見ていた。


「騒ぎは最小限です。通行人は、車内トラブル程度に見ています」


 戸張が梶原を見る。


「無事か」


「はい」


「顔、白いぞ」


「サイバー担当なので、もともと屋内色です」


「そういう返しができるなら大丈夫か」


 梶原は笑おうとしたが、少し失敗した。


 その手は、わずかに震えていた。


 水瀬が気づく。


「梶原さん」


「大丈夫です」


「大丈夫な人は、端末を両手で握りません」


 梶原は自分の手を見た。


 確かに、強く握っていた。


「……少し、腹が立ちました」


 水瀬は頷いた。


「分かります」


 21時22分。


 SERT区画へ戻ると、全員が待っていた。


 上原、吉田、片桐、真壁、岡野。


 梶原は端末を抱えたまま入る。


 戸張と水瀬、神崎が続く。


 岡野が最初に聞いた。


「けがは」


 梶原は答える。


「ありません」


「一般人は」


「保護しました。情報公開も止めています」


 岡野は静かに頷いた。


「よかったわ」


 その一言に、梶原は少しだけ肩の力を抜いた。


 上原が聞く。


「相手は」


 戸張が答える。


「配送車内で2名確保。現場操作役と補助。監視役と思われた自転車の男は、脅されていただけの別人でした。所轄が保護しています」


 神崎が続ける。


「一般人を複数使い、監視役に見せかけていました。本命は配送車内」


 水瀬が言う。


「脅迫された一般人にスマートフォンを持たせ、梶原さんに解除作業を強要。操作手順を見ようとしていました」


 吉田が低く言った。


「個別対応ですね」


 片桐が顔をしかめる。


「梶原の手口を見に来た」


 梶原は端末を机に置いた。


「見せた手口は偽物です。半分だけ本物ですが」


 真壁が言う。


「半分?」


「完全な嘘だと見抜かれるので」


 梶原は椅子に座り、画面を出した。


「相手は、僕が隔離環境へ誘導すると思っていました。だから、そう見せました。でも実際には通知配信経路の方を触っています」


 上原が頷く。


「相手は何を得た」


「間違った情報です。次に同じ前提で来れば、こちらが取れます」


 岡野が静かに言った。


「よくやったわ」


 梶原は少しだけ目を伏せた。


「でも、一般人を巻き込まれました」


 吉田が言う。


「巻き込んだのは相手です」


「分かってます」


「あなたが止めたから、公開されなかった」


 梶原は黙った。


 しばらくして、小さく頷いた。


「はい」


 上原は画面を見ている。


 配送車内の端末から抜いたログ。


 そこには、また識別名があった。


**OBSERVER-4**


 そして、短いメモ。


**梶原伊織、感情反応あり。

一般人保護を優先。

偽装操作の可能性。

次回、直接端末ではなく人間側を揺らす。**


 戸張が拳を握った。


「まだ観察してやがったのか」


 水瀬の声が冷える。


「人間側を揺らす、ですか」


 吉田が目を細める。


「次は、誰かの感情を狙う」


 片桐が言う。


「個別対応、本格化ですね」


 岡野は画面を見たまま言った。


「全員、今日の件を他人事にしないで」


 上原も頷く。


「次は別の誰かだ」


 梶原は椅子に座ったまま、端末を見た。


 自分の名前。


 感情反応あり。


 一般人保護を優先。


 それを弱点のように書かれている。


 だが、違う。


 弱点ではない。


 それがSERTの前提だ。


 人を守る。


 それを狙われるなら、狙わせないようにする。


 守り方を変える。


 だが、守ることは変えない。


 21時58分。


 梶原はようやく温かい缶コーヒーを手にしていた。


 戸張が自販機で買ってきたものだ。


「珍しいですね、副班長が奢るなんて」


 梶原が言うと、戸張は肩をすくめた。


「今日は若手社長じゃなくて、うちのサイバー担当だったからな」


「それ、普段は奢らない理由になってません?」


「細かいこと言うな」


 水瀬が横から言う。


「糖分を取ってください。手の震えには、少しは効きます」


 梶原は缶を両手で包む。


「ありがとうございます」


 吉田が言った。


「今日は帰りませんよね」


 梶原は苦笑した。


「この流れで帰れます?」


 片桐が答える。


「帰らせません」


 真壁が頷く。


「仮眠室を使いましょう」


 岡野が言う。


「今日は全員、ここで待機。非番扱いでも、帰宅は明朝以降にします」


 戸張が小さく言った。


「合宿みたいだな」


 水瀬が即座に返す。


「最悪の合宿です」


 少しだけ笑いが起きた。


 上原はその様子を見ていた。


 笑えるなら、まだ崩れていない。


 相手は個人を狙い始めた。


 梶原の帰路。


 端末。


 一般人。


 脅迫。


 感情。


 次は、別の形で来る。


 誰かの非番。


 誰かの過去。


 誰かの大切な人。


 考えればきりがない。


 だが、ひとつだけ確かなことがある。


 SERTは、ひとりで帰る部隊ではない。


 ひとりで戦う部隊でもない。


 撃つ前に読む。


 突入する前に救う。


 それでも止められないなら、制圧する。


 そして、帰路にまで侵入してくる相手には、帰路そのものを罠に変える。


 梶原は缶コーヒーを開け、ひと口飲んだ。


 苦い。


 甘い。


 熱い。


 その感覚で、ようやく少しだけ、自分が戻ってきた気がした。


 画面の向こうからではなく、現実のこちら側へ。


 その夜、SERT区画の明かりは消えなかった。


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