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第24話 本物の微笑み

 オリンポス杯十一日目。


 明日が最終日。今日は最終種目前の調整日で——予測業務はない。


---


 するめは分析室で石板を整理していた。


 これまでの成績をまとめる。


 全十種目のコンペ結果(途中経過):


| 順位 | 女神 | 平均査定 |

|---:|:---|:---|

| 1位 | 先代ニケ | S |

| 2位 | アルテミス | A- |

| 3位 | するめ | C+ |

| 4位 | アフロディーテ | C |


「…………三位。微妙」


「微妙じゃないわ。初参加でC+は十分よ」


 アテナが言った。


「でも先代とは——差がありすぎる」


「それは当然でしょう。数千年の経験に数ヶ月で追いつけるわけがない」


「…………」


「ただ——仕組みの質では、一度だけ上回った。あれは大きいわ」


---


 その夜。


 分析室の扉を叩く音がした。


「……はい」


 扉を開けると——先代ニケが立っていた。


「邪魔するわよ、するめ」


「……先代」


「入っていい?」


---


 先代が分析室を見回した。


 壁に貼られた石板の分析シート。巻物の山。そろばん。テンプレートの石板。ヘルメスが持ち込んだ「異常リスト」の束。


「……へぇ。本当に仕組みで回してるのね」


「まぁ……こうしないと私のスペックじゃ追いつかないので」


「私の部屋、何もないわよ。巻物すら置いてない」


「知ってます」


---


 先代が椅子に座った。


「あなた——変わったわね」


「何がですか」


「最初は嫌々やってた。ジャージで半目で、分析もめんどくさそうに。——まぁ、それはそれで面白かったけど」


「面白がられても困る」


「でも今は——あなたの目、データを見てる時と同じくらい、戦場を見てる時に輝いてる」


「……え?」


「気づいてないでしょ。自分の目が輝いてること」


---


「飲む?」


 先代がどこからか酒瓶を取り出した。バッカスの最高級。


「平日三杯ルール……」


「明日は調整日の延長みたいなものでしょ。今日くらいいいじゃない」


「……じゃあ一杯だけ」


「一杯で済むわけないでしょ」


---


 二杯目を飲んだ頃に——バッカスが嗅ぎつけてやってきた。


「おい! 俺抜きで飲んでるんじゃないよ!」


「……なんで毎回来るの」


「酒の匂いがしたら来るに決まってるだろ!」


 三杯目を飲んだ頃に——アテナが来た。


「……飲んでるの? 明日が最終日なのに?」


「先代が悪い」


「一杯だけって言ったじゃない」


「三杯飲んでる」


「平日三杯ルールの範囲内よ」


「オリンポス杯中は平日とは言わないと思うんだけど」


---


 四人で飲んでいると。


 先代が——ふと、つぶやいた。


「ねぇ、するめ」


「なんですか」


「あの歌の途中——『いいこと言ってる風』のところ、覚えてる?」


---


 するめは一瞬、固まった。


 あの歌。前世で作った歌。神をディスった歌。先代をブチギレさせた歌。


「……えーっと」


「♪『頑張った人に微笑むの……って思うでしょ? ちょっと待ってよ』♪——あのフリ。ギャグのつもりだったんでしょう?」


「……はい。『微笑むの』で感動させといてディスに転換する構造です」


「構造って言うな」


---


 先代は杯を回しながら、窓の外を見た。


「でも今のあなたは——あの歌詞を本心で歌えるでしょう。ギャグじゃなく」


「…………」


「♪『頑張った人に微笑むの』♪——あなた、それを本当にやってるじゃない」


---


 するめは——言葉が出なかった。


 前世であの歌を書いた時。勝利の女神は「微笑むだけの簡単なお仕事」だと思っていた。


 でも今は——


 微笑むことがどれだけ難しいか、知っている。


 予測を立てて、勝敗を見届けて、勝った人に微笑む。


 その微笑みに——嘘がない時がある。


 頑張った人が勝った時。するめの分析が——その勝利を見つけられた時。


 「頑張った人に微笑む」。


 ギャグのつもりで書いた歌詞が——本当になっていた。


---


「先代」


「何?」


「……勝利の女神の微笑みって、予測が当たることじゃないんですね」


「ようやくわかった?」


「勝った人が——勝ってよかったって感じること。それに嘘のない微笑みを贈ること」


「……ええ。そうよ」


---


 アテナが隣で小さく微笑んだ。


「以前私が言ったこと——覚えてる?」


「『あなたの微笑みには嘘がない』?」


「ええ。——あなたの微笑みは不格好だけど、本心で微笑んでいる時がある。それは——予測が当たったからじゃなくて、勝った人の勝利を一緒に喜んでいるから」


「…………」


「それが——本物の微笑みよ。先代のように完璧じゃなくても。タイミングが少しズレても。半目でジャージでも」


---


「……はぁ」


「またため息?」


「いや——なんか、恥ずかしくて」


 先代がケラケラと笑った。


「あはは。恥ずかしいのね。——でも、悪い気分じゃないでしょ?」


「…………まぁ」


「まぁ?」


「まぁ……悪くないです」


---


 バッカスが酒をもう一杯注いだ。


「四杯目だぞ」


「明日は三杯で止める」


「明日は最終日だぞ。酒飲むなよ」


「……善処します」


---


第24話 完


> するめ語録 #24

> 「頑張った人に微笑むの。——前世で書いた時はギャグだった。今は……まぁ、本気かな。たぶん。……たぶんね」


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