表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/12

第2話 刻印のベーゼ(3)

「……ねえ、賭けをしましょう?」


カトリーナが、あらかじめ決められた台本のように提案してくる。


今までは、私はこれを受けて、そして敗北した。

けれど今回は、私が脚本を書き換える。


「――ええ、受けますわ」


私は扇子を閉じ、ホールに響く声で告げた。


「ですがカトリーナ様。ただの『所有権』ではつまらなくありませんこと?」


「……何が言いたいの?」


私は一歩前に出る。

周囲の貴族たちの視線を集めるように、優雅に、そして不敵に。


「レートを上げましょう。……私が負けたら、オティアだけでなく、この『ニーナ・ド・ラ・ヴァリエール』の命も差し上げます」


「なっ……!?」


「ニーナお嬢様!?」


オティアが驚愕の声を上げるが、私は手で制する。


カトリーナは、意地の悪そうな笑みを浮かべて目を細めた。


生意気な伯爵令嬢を合法的に殺せるチャンス。

実際には殺さないとしても、性格の捻じ曲がった彼女が飛びつかないはずがない。


「その代わり――」


私は逃さない。

畳み掛ける。


「もし私の騎士が勝ったら――我が家の()()をすべて帳消しにしていただきます」


「は……?」


カトリーナが呆気にとられた顔をする。


「あら?公爵家ともあろうものが、たかだか小銭を惜しまれるのですか?それとも、負けるのが怖いのかしら?」


「……いいわ。乗ってあげる!」


カトリーナは叫ぶように宣言した。


プライドの高い彼女に、衆人環視の中で逃げ場はない。

それに彼女の中では、公爵家の誇る一流の護衛が負ける可能性などゼロなのだ。


私は心の中でほくそ笑んだ。


「始め!」


合図とともに、一方的な蹂躙が始まった。

――もちろん、カトリーナの護衛が蹂躙される側の。


大上段の斬撃。

オティアは最小限の動きで回避。


続く蹴りの連撃。

彼はまるで舞踏のステップのように躱し、すれ違いざまに腱を斬り裂く。


「な……?」


カトリーナの顔から血の気が引いていく。


「おのれぇぇ!!」


護衛が大男が咆哮し、暴風のような連撃を繰り出す。

過去のループで、オティアをねじ伏せた絶望の暴力。

けれど今のオティアには、その剣筋が()()()()()として見えている。


剣と剣のぶつかり合う金属音が、会場に響き渡る。


弾くのではない。

流している。

あの一撃一撃が、かつて自分をなぶり殺した暴力であることを、彼の生存本能が理解していた。


そして、敵の息が切れたほんの一瞬の隙。


オティアが踏み込み、剣を振り上げる。


そして、静寂――

オティアの剣先が、大男の喉元寸前でピタリと止まっていた。


「……勝負あり、です」


決闘の審判の勝利を告げる声が、静まり返った会場に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ