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第2話 刻印のベーゼ(2)

ホールの中央が空けられ、即席の闘技場となる。


「始め!」


合図とともに、大男が動いた。


人間離れした膂力から繰り出される、大上段からの斬撃。

それは前回、オティアの剣ごと膝を粉砕した一撃だ。


(来る――!)


私は息を呑んで見守る。


オティアが剣を構える。


その瞬間。

ビクッ、と。

彼の身体が、何かに弾かれたように痙攣した。


「――っ!?」


金属音。

オティアの剣は折れなかった。

彼は無意識に半歩――いや、わずか数センチだけ身体をずらし、直撃を受け流したのだ。


(避けた……!)


衝撃は殺しきれず、オティアは体勢を崩して石畳に転がる。

けれど、剣は折れていない。膝も砕けていない。


「なっ……!?」


驚いたのは、対戦相手の方だっただろう。

確実に肉塊に変えるつもりだった一撃を、格下の騎士にかわされたのだから。


「は、ぁ……っ」


オティア自身も、自分の動きに驚愕しているようだった。

荒い息を吐きながら、震える手で剣を握り直している。


(すごい。すごいわ、オティア!)


私の胸の奥で、どす黒い歓喜が湧きあがる。


記憶はないはずだ。

あの一撃で殺されたことも、痛みの記憶もないはずだ。


けれど――彼の細胞は覚えていた。

魂の恐怖を。


(残ってる。前回の死が、無駄じゃなかった!)


「ちょこまかと……!」


大男が苛立ち、追撃を加える。


横薙ぎの一閃。

さらに強化魔法で加速した蹴り。


「が、はっ……!」


さすがに二撃目、三撃目は対応しきれなかった。


オティアの身体が宙を舞い、壁に激突する。

口から鮮血を吐き出し、彼はぐったりと崩れ落ちた。


「オティア!」


私は駆け寄る。

前回のような悲痛な叫びではない。


実験結果を確認する研究者のような、期待に満ちた足取りで。


彼は血に濡れた顔を上げ、うつろな瞳で私を見た。


「申し、訳……ありま、せん……ニーナ、さま……」


肋骨が折れているのだろう。

呼吸が浅い。


このまま放っておけば死ぬか、あるいはカトリーナに、()()()()()として処分されるか。


どちらにせよ、今回のやり直しはここまでだ。


「いいえ、謝らないで」


私は血で汚れるのも厭わず、彼を抱きしめた。

その耳元で、甘く、優しく囁く。


「よく頑張ったわね、オティア。()()はあったわ」


(そう、あと数回……いいえ、数十回死ねば、あの一撃を完全に回避できる)


あともう少し()()()があれば、次は反撃ができるかもしれない。


「ニーナ……お嬢、様……?」


私の腕の中で、オティアの意識が遠のいていく。

私は彼を見下ろし、恍惚とした笑みを浮かべた。


(……オティア、愛しているわ)


だから――


もっと死んで。

もっと傷ついて。

その痛みを全部、強さに変えてちょうだい。


「さあ、次に行きましょうか」


私は脳内に潜む魔女に語りかける。


(嫉妬の魔女。私を殺して!)


『――承知した』


心臓を、氷の指で握り潰される感覚。

激痛と共に世界が暗転する。


私の二度目の死。

そして、オティアの三度目の生が始まる。

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