第1話 魔女のベーゼ(1)
きらびやかなシャンデリアの光が、私の神経を逆撫でする。
王都の舞踏会。
着飾った貴族たちが談笑するこの空間は、没落寸前のヴァリエール家にとって本来なら居心地の悪い場所だ。
けれど、今日に限っては違う。
「……ニーナお嬢様、足元にお気をつけて」
差し出された腕。
私はその逞しい腕に指を絡ませ、扇子の裏で口角を吊り上げる。
(見て。この美しい騎士を)
周囲の令嬢たちの視線が、私ではなくオティアに釘付けになっているのがわかる。
羨ましいでしょう。
妬ましいでしょう。
(でも、この子は私のモノよ)
優越感が、背骨を甘く痺れさせる。
オティアがいれば、家の格なんて関係ない。
彼さえいれば、私は世界で一番幸福な女でいられる。
そう、思っていたのに。
「あら、どこの貧乏貴族かと思えば……ヴァリエール家の残りカスじゃないの」
甲高い声が、甘美な空気を切り裂いた。
人垣が割れ、現れたのは豪奢なドレスを纏った公爵令嬢、カトリーナ。
彼女は蔑むような視線を私に向けた後、ねっとりとした熱情を込めてオティアを見上げた。
「もったいないわねぇ。そんな見目麗しい騎士が、泥舟に乗っているなんて」
「……失礼ですが、言葉を慎んでいただきたい」
オティアが一歩前に出る。
私を庇うように。その忠義すら、この女には刺激材料にしかならなかったようだ。
「威勢もいいのね。気に入ったわ」
公爵令嬢は扇子をパチンと鳴らし、残酷な提案を口にする。
「ねえ、賭けをしましょう?そこの騎士と、わたくしの護衛で決闘をさせるの。……わたくしが勝ったら、その騎士の『所有権』を譲りなさい」
「ふざけないで!」
私は即座に声を張り上げていた。
(所有権を譲れですって?そんなバカな要求、飲めるわけがないわ!)
私の顔は紅潮し、知らぬまに拳が強く握られていた。
「断れば……ヴァリエール家の借金、即座に返済を迫ることになるけれど?」
カトリーナが、冷たい視線で私を見下す。
(――っ、卑怯な!)
没落寸前のヴァリエール家は、あちこちからの借金でなんとか家名を遣いでいる状態だ。
ここで公爵家を敵に回せば、ヴァリエール家は終わってしまう。
唇を噛み締める私の前で、オティアが静かに剣の柄に手をかけた。
「お嬢様。……私にお命じください。必ず勝利を捧げてみせます」
その瞳には一点の曇りもない。
彼は信じているのだ。
自分の剣技を、そして正義が勝つことを。




