第3話 我慢と嫉妬のベーゼ(2)
あの日から数日。
私は計画通り、オティアとの接触を避けていた。
(私が触れないことで、オティアは目に見えて不安そうにしている。……ふふ、可愛いわ)
私は上機嫌で廊下を歩く。
今日はオティアのために、最高級の茶葉を用意させたのだ。
不安にさせた分、今日はいっぱい優しくしてあげましょう。
きっと、子犬のように私の寵愛を求めるはず。
思わず笑みが溢れる。
「――オティア様、最近お元気がないですね?傷が痛みますか?」
「いや……お嬢様に、嫌われてしまったのではないかと思って……」
オティアの部屋の前。
半開きのドアから、女の弾んだ声と、オティアの沈んだ声が聞こえた。
私は足を止める。
隙間から中を覗くと、そこには信じがたい光景が広がっていた。
若い侍女だ。
最近雇ったばかりの、あざとい栗色の髪をした娘、マリー。
彼女が、オティアの腕に包帯を巻いている。
いいえ、巻くふりをして、その逞しい二の腕を撫で回している。
「そんなことありませんよ!オティア様みたいな強い方がいてくだされば、私たちも安心ですわ。ニーナお嬢様だって、感謝しているはずです」
「はは、ありがとう。マリーは優しいな」
オティアが、笑った。
少し寂しそうに、けれど私に向けるのと同じような、優しい顔で。
(……は?)
思考が真っ白に染まる。
あの子、何してるの?
私のオティアよ?
私が死んで守ったの!
私のモノなの!!
(私がオティアを不安にさせて、もっと私に依存させようとしていたのに。……なぜ、お前がその隙間に入り込んでいるの?)
頭の中が、ぐちゃぐちゃになっていく。
ペンで描いた落書きのように、あたしの思考が真っ黒に塗りつぶされていく。
「汚い」
思わず小さな声が漏れる。
(汚い汚い汚い汚い!その薄汚い手で、私のオティアに触れるな!!)
私は壁に背を預け、爪を噛んだ。
マリーは良い子だ。
私の好みの紅茶を完璧に把握しているし、仕事も早い。
彼女に悪気がないのは分かっている。
オティアが誰にでも優しいのも、彼の美徳だ。
だからといって、許せるわけがない!
あの二人が接触してしまったという事実が、どうしようもなく気持ち悪い。
私のオティアの腕に、他の女の体温が残っているなんて耐えられない。
(マリーを解雇する?……いいえ、あの子は有能だわ。いくら借金が減ったとはいえ代わりを探すほどの余裕はないわ)
(じゃあ、きつく叱る?……いえ。オティアに変な気を使わせるのも癪だわ)
思考を巡らせること、数秒。
私は名案にたどり着いた。
(そうだわ。なんで、こんな簡単なことに気づかなかったのかしら)
思わず、笑い声をあげそうになるのを必死でこらえる。
あの二人の接触を、なかったことにすればいいのよ。
そう、あの二人が接触するという事実はなかったの。
(お願い、嫉妬の魔女。私を殺して――)
『……承知した』
脳内に魔女の少し呆れたような声が響くと同時に。
ドクンと、私の心臓は機能を停止し、苦しみと共に意識が遠のいていった。




