城の尖塔の後日談
柔らかな風が頬を撫で、小精霊たちが私の髪にイタズラをしていく。
花々が咲き乱れる庭園で、私は精霊たちと長閑な午後を過ごしていた。
何の心配もなくこんなにゆっくり過ごせるのは、結婚前以来のことであった。
婚家から出戻った私を、国のみんなは以前と変わらず、快く受け入れてくれた。
……いや、変わらずというのは少し違う。
みんなが私に対して過保護になっていた。
家族や臣下だけではなく、全ての精霊を含めてである。
私はくすぐったい気持ちになりながらも、甘えさせてもらっている。
過保護な家族は、グリエット国について何も教えてくれないが、噂好きの小精霊たちが話を運んできてくれるから、あの国や国王たちがどうなったのかよく知っている。
何処にでも行くことが出来る精霊は、時に人の情報網を凌駕する情報を持ってきてくれたりもする。
グリエット国は作物が枯れてしまった事で、多くの人が冬を越せないほどだと言う。
私に対する扱いが悪かった事で、精霊たちが怒ったことと、グリエット国から離れたことが原因だ。
一番被害を被るのは国民だろうが、シンフォニー国は一切助力はしない。
国民が直接悪いわけではないが、国同士の争いとはそういうものだ。
国民や善良な貴族は、国王やその関係者に怒りをぶつけた。
極刑の案も出たようだが、それでは生ぬるいと判断されて平民落ちとした。
国民の苦労を思い知らせることと、国民に殺させることが目的らしい。
それだけ怒りが深かったことがわかる対応だ。
そして案の定、国王と愛妾は国民の手にかかってもういないとのこと。
死体すら残らなかったようだ。
……まぁ、自業自得の結果なので、私は特に何も思わない。
グリエット国は何とか国として保っているが、弱り切った国に対して周辺国が黙って見ているわけはなく、周辺国はお互いに牽制し合いながら、虎視眈々と侵略の準備をしている。
正式にグリエット国が無くなるのも、もはや時間の問題だ。
すでにシンフォニー国は手を引いているので、後は勝手にするといい。
シンフォニー国の目下の悩みとしては、離婚したとは言え、一度国外と婚姻をしているため、他国からの縁談が押し寄せいること。
もちろん、私を含めて。
他国にかまけてないで、自国で完結すればいいのに。
「ローゼ、ここにいたのか。」
「スヴァルトゥル、ごきげんよう。」
「ああ。」
闇の精霊王スヴァルトゥル。
幼い頃からよく一緒にいたのに、ここ数年は姿を見せなかった。
けれど私がシンフォニー国に帰ってきてからは、頻繁に顔を合わせるようになった。
そして会うたびに花を一輪ずつ持ってきてくれる。
今日の花はファレノプシス。
昨日はマッティオラ、一昨日はアネモネ、その前はアルギランセマム。
私は気になって花を調べてみた。
これらの花言葉は全て――――。
スヴァルトゥルと一緒にいる時間は、他の精霊も人も邪魔をしにこない。
みんないつの間にか気がついたら居なくなっている。
たくさんお喋りをするわけではないけど、スヴァルトゥルがいると心が落ち着いて安心する。
今日もまた挨拶を交わした後は、二人で並んで庭園をただ眺めるだけ。
でもこの穏やかな時間が、私にとって大切な宝物だ。
――――――
「いい加減、ズバッと告白すればいいのに……」
「うるさい。」
「ムッツリめ。」
「黙れ。」
学名ファレノプシス・アフロディーテ→胡蝶蘭
学名マッティオラ→ストック
学名アルギランセマム・フルテスケンス→マーガレット
よければ、花言葉を探して見てください!




