塔の上の後日談
青い空、心地よく吹く風、優しい緑の匂い。
王都のように人の騒がしさを感じず、自然の騒めきが心を和やかにする。
天気がいい日は、今日のように庭でお茶を飲むのが習慣になっていた。
王都を賑わせ、貴族の力関係をも揺らがせたあの出来事から、一年近い時間が経過していた。
私――リーゼロッテ・アリソンは、侯爵領にある片田舎の別邸で、悠々自適な生活を送っていた。
長年のストレスをぶちまけたあの告白は、私の全てをかけた告白だった。
確かにあの時は究極のストレスにさらされていたが、何も考えずに衝動的に叫んだ訳では……ない、はず。
一応、打算はあった。
魔法において、私を越えられる人物は、この国にはいない。
そして慈善事業や普段の行動から、多くの人は私を支持してくれている。
国の戦力、人々の同情とこれまでの実績、事なかれ主義の貴族の同調。
国にとって、私は失えないだろうと思っていた。
だから、病死も処刑も、まずないだろうと考えての行動だった。
悪くて幽閉、良くて無罪放免。
結果、三年間王都への立ち入り禁止。
無罪放免ではないが、それに近い状況に持っていくことができた。
どうやら、私の予想以上に他国からの反響が影響したらしい。
好奇心の赴くまま、魔法を極めた私を褒めたい。
噂では王都は大変らしい。
犯罪をやらかした元王太子のせいで、王の権威が揺らぎ、貴族が強気に出ているようだ。
王と新しい王太子は、助長する貴族や民から反発を抑えるのに苦労しているそう。
まぁ、自業自得ですけどね?
我が侯爵家にも、変化があった。
チラッと侯爵である父のことも話題にしたため、侯爵家を攻撃される前に、兄が侯爵の椅子から父を蹴り落とした。
親族たちも、満場一致だった。
現在父は、私とは別の片田舎で強制的に隠居となっていると、兄から連絡があった。
私はそこまで興味がなかったので、「そうですか」とだけ返事をした。
私は、婚約者に難題を押し付けられることもなく、父から縛られることもなく、初めての自由を謳歌していたのだった。
――のは、三ヶ月ほど前までの話。
何故そうなったのかわからないが、三ヶ月ほど前から、国外から私宛ての求婚状が多数寄せられてきた。
もともと求婚状を送られることは多かった。
上位貴族の侯爵令嬢であり、魔法の実力が高いことで、それらを目当てに国内外から求婚が絶えなかった。
元王太子との婚約でそれは下火になった。
今回の騒動で婚約破棄されたが、だからと言って騒動の一端である私に、何故国外から求婚状が来るのか。
本当に不思議だった。
それにしても……
「……ガルニア王国イブルフ公爵家三男。加虐趣味の幼児性愛者って話を聞いたのだけど……?」
それだけではない。
他の求婚状の名前も、やけに聞き覚えがある。
暖かくて気持ちのいい気候なのに、やけに冷たい風が通り過ぎていった。
「母親大好き、クズリカ公国マーブル公子。被虐趣味、ハーシャ王国アブスカ侯爵家次男。食人趣味、ボラム聖国第二王子。機械性愛者、ムスタ王国マドレッド伯爵家長男。動物性愛者、ヨロモス公国エビン公子……。」
全員、とんでもない噂がある男たちばかりだった。
婚約破棄された私にまともな縁談はないと思っていたが、これは、ない。
結婚するくらいなら、生涯独身で、魔法で食べていく方がよっぽどいい。
はぁ……
せっかくのお茶の時間が、台無しになってしまった気分だ。
「お、お嬢様!侯爵様から魔法通信が!」
何とも言えない空気を破ったのは、通話状態になったままの通信機を持った侍女の声だった。
「お兄様?」
「お前!今どこで、何している!?」
「え?……別邸の庭でお茶を飲んでいますが……?」
「どういうことなんだよ、これは!?」
「ですから何が……」
「お前の声が王都中に響いているんだよ!王侯貴族のトップシークレットをしゃべっているお前の声が!」
お兄様は何を言っているのだろう?
私は魔法を使って………………………………………………………いた。
あ、あら?
あらら?
それもあの告白の時と同じ規模の魔法を、無意識のうちに発動していた。
魔法を極めた私には、たった一つ弱点があった。
魔力が強すぎて、感情が勝手に魔法を発動させてしまうのだ。
王都では気を張って気をつけていたのに、ここに来てどうやら緩んでしまったらしい。
先程の冷たい風は、気のせいでも自然発生でもなく、私の魔法の発動だったと、今更気がついた。
「……あー……ごめんなさい?」
「この、大馬鹿者ーーーーーー!!!!」
このうっかりミスで暴露してしまった真実は、あの時のように、うっかり世界中を駆け巡ってしまったのだった。




