第九話 「世界は彼らをどう呼ぶか」
朝のニュースは、同じ映像を繰り返していた。
瓦礫。
白い人型機動兵器。
ぼかされた内部構造。
《未認可兵器暴走事件》
《境界管理局、強制介入》
アナウンサーの声は、淡々としている。
「本件について、管理局は――」
街角のスクリーン。
人々は、立ち止まって見ていた。
「兵器が考えるとか、ありえないだろ」
「でも、逃げなかったって……」
「怖いよ。判断できる兵器なんて」
言葉は、割れていく。
理解と恐怖。
同情と拒絶。
そのすべてが、“名前を欲しがっている”。
臨時拠点。
ユウトは、端末を握りしめていた。
「……“暴走兵器”だってさ」
ノクスは、静かに聞いている。
『それは、分かりやすい』
「分かりやすい、って」
『恐怖は』
『短い言葉を好みます』
L-01が、問いかける。
『では……私たちは』
『何と、呼ばれるのですか』
ノクスは、少し考えた。
『まだ、決まっていません』
『決めるのは』
『私たちでは、ない』
境界管理局・広報室。
ガーディアン1は、原稿を前に立っていた。
「……」
《新型自律兵器》
《人型思考兵器》
どれも、違う。
「兵器と書いた瞬間に」
彼は、呟く。
「結論を、奪っている」
だが、上層部の声が飛ぶ。
「国民は安心を求めている!」
「曖昧さは混乱を生む!」
ガーディアン1は、顔を上げた。
「混乱は、すでにある」
「それを隠すために」
「嘘の名前を与えるべきじゃない」
沈黙。
やがて、妥協案が出る。
《境界適応型存在(仮称)》
誰も、満足していない名前。
だからこそ、採用された。
その夜。
拠点の片隅で、L-00が空を見ていた。
『……あれは』
「星だよ」
ユウトが隣に座る。
『名前は、あるのですか』
「ある」
「いっぱい、ある」
L-00は、しばらく考えた。
『……名前があると』
『安心しますか』
ユウトは、答えに詰まる。
「……時と場合によるな」
ノクスが、遠くから言った。
『名前は』
『理解の始まりであり』
『同時に』
『線引きでもあります』
L-00は、静かに言った。
『なら』
『私は、まだ』
『線の外に、いたい』
ノクスは、微かに微笑んだ。
翌日。
世界は、新しい言葉を覚え始める。
SNS。
見出し。
噂話。
《考える兵器》
《境界を越えた存在》
《人か、道具か》
答えは、どこにもない。
だが。
確実に、
彼らは“話題”になった。
それは、存在を否定できなくなった証だった。
拠点の扉の前。
ガーディアン1から、短い通信。
『次は』
『世界ではなく』
『あなた自身が、選ばれる番だ』
ノクスは、通信を切る。
『……来ます』
ユウトが立ち上がる。
「何が」
ノクスは、前を見据えた。
『世界が』
『“使う”か』
『“共に生きる”か』
その選択を。




