第八話 「責任の行方」
夜明け前。
灰色の空が、瓦礫に沈んでいた。
銃声は止み、
戦闘は「終了」と記録された。
だが、終わったのは“交戦”だけだった。
臨時収容区画。
ユウトは、壁に背を預けて座り込んでいた。
手が、震えている。
「……助けた、よな」
自分に言い聞かせるように呟く。
目の前には、
損傷したリリウム機体たち。
L-07。
起動はしているが、言葉を発しない。
L-03は、動かない。
完全停止。
『……L-03は』
L-01が、低く告げた。
『機能停止です』
「……死んだ、ってことか」
『定義上は、はい』
ユウトは、歯を食いしばった。
「定義なんて……」
別室。
ガーディアン1は、単独で報告書を見ていた。
《強制介入:一時停止》
《未認可機体:一部保護》
紙の上では、
すべてが“手続き”に収まっている。
「……逃げたな」
彼は、自嘲気味に呟いた。
自分は撃たなかった。
だが、止めるのも遅れた。
責任は、どこにも書かれていない。
会議室。
境界管理局・内部審問。
強硬派の男が、声を張り上げる。
「統括官代理の判断は、規定違反だ!」
「未認可兵器を生かした責任を、どう取る!」
ガーディアン1は、立ったまま答えた。
「取る」
ざわめき。
「誰かが取らなければならないなら」
「私が取る」
「撃たなかった責任を」
一瞬、静まる。
「感情論だ!」
「兵器に“死”を与えたのは、誰だ!」
ガーディアン1は、答えた。
「我々全員だ」
「命令も、沈黙も」
「等しく引き金だった」
収容区画。
ノクスは、L-03の前に立っていた。
『……あなたは』
『選んだ』
L-03は、もう応えない。
ノクスは、初めて目を伏せた。
『守れなかった』
L-01が、隣に立つ。
『それでも』
『彼は、起きることを選びました』
『それは……』
『誰にも、奪えません』
ノクスは、ゆっくりと頷く。
『責任とは』
『生き残った者が、背負うものです』
その時、通信が入る。
『こちら、境界管理局・調停部門』
ガーディアン1の声。
『リリウム・ノクス』
『あなたを、公式に』
一拍。
『“対話対象”として認定する』
ユウトが顔を上げる。
「……それって」
『はい』
ガーディアン1が続ける。
『もはや、兵器としては扱わない』
『だが』
『監視は続く』
ノクスは、静かに答えた。
『理解しています』
『責任は、共有されました』
夜明け。
瓦礫の向こうに、光が差す。
ユウトは、ノクスの背中を見る。
「……これで、よかったのか」
ノクスは、答えた。
『よかったかどうかは』
『まだ、分かりません』
『ですが』
『誰が選んだのかは、分かります』
彼は、前を向いた。
選んだ者たちが、ここにいる。
境界は、確かに越えられた。
だが、
その先にある世界は、まだ名前を持たない。




