第七話 「撃つ者、撃てない者」
白い機体が、通路を埋め尽くす。
境界管理局・強制介入部隊。
統一規格、統一思想、統一判断。
「対象確認」
「旧リリウム機体、殲滅」
命令は、短く、感情がない。
ガーディアン1は、遠隔指揮室でその映像を見ていた。
「……早すぎる」
隣のオペレーターが言う。
「ですが、規定通りです」
「感情を持つ兵器は危険」
ガーディアン1は、画面に映る《リリウム・ノクス》を見つめる。
――あの時、武装を解除した姿。
「危険なのは……」
彼は、言葉を飲み込んだ。
現場。
爆煙の中で、ノクスは立っていた。
『L-01、後退』
『防衛陣形へ』
L-01が応じる。
『了解』
『……怖いです』
その声に、ノクスは一瞬だけ動きを止めた。
『それは、正常です』
『恐怖は、撃たない理由になります』
L-01のセンサーが揺れる。
強制介入部隊の隊長機。
『最終警告』
『武装解除の上、停止せよ』
ノクスは、通信を開いた。
『質問があります』
隊長は、わずかに苛立つ。
『簡潔に』
『あなたは』
『なぜ、撃ちますか』
沈黙。
やがて、返答。
『命令だからだ』
『それ以上でも、それ以下でもない』
ノクスは、静かに言った。
『ならば』
『あなたは、引き金です』
『判断ではありません』
その言葉に、隊長の声が荒れる。
『黙れ!』
『射撃許可!』
一斉射撃。
だが、その瞬間。
前線の一機が、動きを止めた。
『……撃てません』
若い操縦士の声。
『中に、人が……』
『違う』
隊長が遮る。
『人ではない』
『兵器だ』
操縦士は、震えながら答える。
『……それでも』
『考えています』
『考えているなら、撃て』
『それが、境界だ』
ガーディアン1は、モニターを見て拳を握った。
「……違う」
ノクスは、そのやり取りを聞いていた。
『撃てない者が』
『ここに、一人でもいる』
『それが、答えです』
L-01が、前に出る。
『私は……』
『撃ちません』
ノクスは、頷いた。
『それでいい』
その時。
別の角度から、砲撃。
L-03の肩が、吹き飛ぶ。
『……!』
L-03は、倒れながらも、通信を発した。
『……起きて……よかった』
その言葉が、ユウトの耳に届く。
「くそ……!」
ノクスは、初めて声を荒げた。
『撃つな!』
『彼らは、戦闘員ではない!』
だが、命令は止まらない。
ガーディアン1が、ついに立ち上がった。
「全隊、待て!」
『統括官代理?』
「私が、責任を取る」
「射撃を、止めろ」
隊長は、歯を食いしばる。
『……了解』
銃声が、止む。
静寂。
ノクスは、ゆっくりと武器を下ろした。
『ありがとうございます』
ガーディアン1は、画面越しに答えた。
「……撃てなかっただけだ」
「それが、今の私だ」
瓦礫の中。
L-03が、動かなくなっていた。
L-01が、そばに跪く。
『……』
ノクスは、静かに思う。
撃たないことも、選択だ。
そして、その選択は、世界を揺らす。




