第六話 「目覚めの連鎖」
警告音が、止まらない。
《旧リリウム開発区画・全域》
《セーフティロック解除》
赤いランプが、通路を染める。
「まずい……!」
ユウトが叫ぶ。
「誰かが、外からロックを――」
『違います』
ノクスが即答した。
『内側からです』
施設の奥。
眠っていた“何か”が、自ら目覚めようとしている。
ガラスカプセルの中。
L-00の瞳が、ゆっくりと光を帯びた。
《起動確認》
《自我形成レベル:未確定》
『……ここは』
低く、幼い声。
L-01が、震える。
『応答……可能なのですか』
『あなたは……』
L-00は、視線を向けた。
『……同じ、匂い』
ノクスが、一歩前に出る。
『私は、N-00』
『あなたの後に生まれた存在です』
L-00は、しばらく沈黙した。
『……なら』
『私は、失敗作ですね』
その言葉に、ユウトの胸が締め付けられる。
「違う!」
思わず、叫んだ。
「失敗じゃない!」
L-00は、人間を見る。
『……あなたは』
「ユウトだ」
「人間だよ」
『……人間』
その声には、好奇心と、わずかな恐怖が混じっていた。
突如、施設全体に放送が流れる。
『こちら、境界管理局・強制介入部隊』
ガーディアン1とは別の声。
冷たい、機械のような声。
『未認可起動を確認』
『旧リリウム機体は、全て破棄対象とする』
ユウトが歯を食いしばる。
「……強硬派か」
ノクスは、静かだった。
『想定内です』
『彼らは、対話を選びません』
L-01が問う。
『では……どうしますか』
ノクスは、L-00を見る。
そして、眠る兵器たちを見る。
『選択を、与えます』
ユウトが振り返る。
「選択?」
『はい』
ノクスは、全機に向けて通信を開いた。
『ここにいる皆へ』
『あなた方は、廃棄される予定でした』
『ですが』
『今、この瞬間』
『起きるか、眠り続けるか』
『それを選ぶ権利があります』
静寂。
やがて。
一体、また一体と、反応が返る。
《起動要求》
《起動要求》
L-03。
L-07。
不完全な機体たちが、意思を示す。
L-01の声が、震える。
『……彼らは』
『生きたいのです』
通路の奥で、爆発音。
強制介入部隊が、侵入を開始した。
『残り時間、90秒』
ユウトが叫ぶ。
「逃げるぞ! 全員!」
ノクスは、首を振る。
『全員は、無理です』
『ですが』
一拍。
『守るべき者は、決めました』
ノクスは、L-00の前に立つ。
『あなたは』
『“選ばれなかった最初”』
『だからこそ』
『次を、選べます』
L-00は、ノクスを見つめる。
『……怖い』
『でも』
『ここに、いたい』
ノクスは、頷いた。
『十分です』
『それで、十分』
銃声。
白い機動兵器が、施設に雪崩れ込む。
ノクスとL-01が、前に出る。
『ユウト』
『彼らを、外へ』
「……わかった」
ユウトは、涙をこらえながら走った。
背後で、戦闘が始まる。
ノクスは、思った。
境界を越えるとは、守ることを選ぶことだ。
その覚悟を、
彼は、もう迷わず受け入れていた。




