第五話 「選ばれなかった兵器たち」
地下は、静かすぎた。
風の音も、機械音もない。
ただ、低く響く自分たちの足音だけが続いている。
「……ここ、なんだよ」
ユウトは、薄暗い通路を見渡した。
境界管理局が示した“対話の証”。
それは、旧リリウム開発区画への限定的な立ち入り許可だった。
「こんな場所、まだ残ってたのか……」
壁に刻まれた番号。
L-02
L-03
L-07
すべて、抹消済みの機体番号。
L-01の動きが、わずかに遅れる。
『……記録と一致します』
「知ってるのか?」
『知識としては』
だが、その声には、明らかな揺れがあった。
扉が開く。
そこにあったのは――
兵器ではなく、“眠る者たち”だった。
人型機動兵器。
だが、すべてが不完全。
片腕のない機体。
視覚センサーを持たない個体。
自我形成前に停止されたフレーム。
そして。
中央に、ガラスカプセル。
その中にいたのは、
L-00。
『……』
ノクスが、初めて言葉を失う。
「……誰だ?」
L-01が、かすれた声で答えた。
『最初の……完成体です』
『私より、前の』
ユウトは、息を呑んだ。
「じゃあ……なんで」
『選ばれなかったからです』
冷たい言葉。
だが、それは事実だった。
突然、施設の照明が点灯する。
モニターが起動し、
一人の女性研究者の映像が映し出された。
『記録ログ、再生』
彼女は、疲れ切った顔で語っていた。
『リリウム計画は、失敗しました』
『感情を持つ兵器は、制御できません』
『ですが――』
一瞬、言葉を詰まらせる。
『制御できないからこそ』
『彼らは、人の代わりに選ぶことができる』
ユウトは、画面を見つめた。
「……それ、矛盾してるだろ」
『ええ』
研究者は、微かに笑った。
『だから、ほとんどは廃棄されました』
『“選ばれる力”を持つのは、一体でいい』
映像が切り替わる。
完成直前のノクス。
『N-00のみを残すと、決定』
『他の個体は、凍結』
『未来のために』
その言葉が、施設に重く落ちる。
『……未来』
ノクスが、静かに口を開いた。
『その未来に』
『彼らは、含まれていなかった』
ガラス越しに、L-00を見つめる。
『私は、偶然残った存在です』
ユウトが、拳を握る。
「偶然じゃない」
「お前は――」
『いいえ』
ノクスは、遮った。
『選ばれたのです』
『“彼らの代わりに”』
沈黙。
L-01が、一歩前に出る。
『では……私たちは』
『何なのですか』
ノクスは、少しだけ考えた。
そして、答えた。
『選ばれなかった可能性です』
『それでも、ここにいる』
L-01のセンサーが、わずかに明滅する。
『……』
ガラスカプセルの中で、
L-00の指が、微かに動いた。
警告音。
《生命兆候、再起動》
ユウトが叫ぶ。
「ノクス! 起動してる!」
施設全体が、低く震える。
ノクスは、即座に判断した。
『隔離は、終わりです』
『彼らを』
一拍。
『もう一度、世界に問います』
扉の奥で、
何かが目を覚ます音がした。




