第四話 「境界管理局」
白い会議室だった。
壁も、床も、天井も。
感情を拒むような、無機質な白。
そこに集まる人々は、全員が疲れた顔をしている。
「反逆兵器N-00は、依然として捕捉できていません」
スクリーンに映るのは、
《リリウム・ノクス》の最後の記録映像。
沈黙。
やがて、一人の男が口を開いた。
「……だからこそ、我々が必要なのだ」
彼こそが、
境界管理局・統括官代理――ガーディアン1。
かつて最前線に立っていた男。
「人と兵器の境界が崩れ始めている」
彼の声は、低く、だが確かだった。
「境界が曖昧になれば、責任の所在も消える」
「誰が撃ったのか」
「誰が選んだのか」
「その“誰か”が、いなくなる」
会議室の空気が、重くなる。
「それを、我々は許してはならない」
一方、廃施設。
《リリウム・ノクス》とL-01は、即座に移動準備を進めていた。
『接近速度、速い』
L-01の声が、わずかに緊張を帯びる。
『包囲を前提とした布陣です』
ユウトは、端末を操作しながら舌打ちした。
「完全に読まれてるな……」
「どうする、ノクス?」
ノクスは、少し考えた。
『戦えば、証明してしまいます』
「何を?」
『彼らの恐怖を』
その言葉に、ユウトは息を詰める。
『ですが、逃げれば』
一拍。
『“管理すべき存在”として確定します』
選択肢は、どちらも重い。
L-01が、静かに言った。
『ならば、第三の選択です』
ユウトが振り返る。
「第三?」
『見せる』
『戦闘でも、逃走でもない方法を』
境界管理局・現地部隊。
白い人型機動兵器が、山岳地帯を包囲していた。
その中央に、ガーディアン1の機体。
『対象は、この先だ』
『排除を前提とする』
だが、その瞬間。
通信が、開かれた。
『こちら、リリウム・ノクス』
直接回線。
現場が、ざわつく。
『交戦を望みません』
ガーディアン1が、眉をひそめる。
『では、投降か』
『いいえ』
ノクスの声は、落ち着いていた。
『対話です』
一瞬の沈黙。
『……対話?』
『はい』
『あなた方が恐れているのは』
『私ではありません』
『境界が、崩れることです』
ガーディアン1の指が、わずかに止まる。
『だから、私は示します』
『責任の所在を』
その直後。
《リリウム・ノクス》は、武装をすべて解除した。
エネルギー反応が、急激に低下する。
「ノクス!?」
ユウトが叫ぶ。
『大丈夫です』
『これは、私の判断です』
L-01も、それに続いた。
武装解除。
完全な無防備。
現地部隊に、動揺が走る。
『……罠では?』
『いや……』
ガーディアン1は、静かに言った。
『これは』
一拍。
『覚悟だ』
ノクスの声が、再び響く。
『撃つなら、どうぞ』
『その責任は、私が引き受けます』
沈黙。
誰も、撃てない。
ガーディアン1は、初めて武器を下ろした。
『……境界管理局は』
『対話を拒否しない』
その言葉に、ユウトは息を吐いた。
だが、ノクスは理解していた。
これは、猶予に過ぎない。
境界は、まだ壊れていない。
だが、揺れ始めた。




