第二話 「世界は彼を英雄と呼ばなかった」
都市部の巨大スクリーンに、同じ映像が流れていた。
瓦礫の街。
立ち尽くす黒い人型機動兵器。
その胸部に浮かぶ識別コード――N-00。
《リリウム・ノクス》。
ナレーションは、冷静だった。
「反逆兵器N-00は、
国家の指揮系統を無視し、
独断で世界規模の情報公開を行いました」
映像は切り替わる。
混乱。
暴動。
崩壊する秩序。
「その結果、各地で社会不安が拡大。
人命・経済への影響は、計り知れません」
スクリーンの下で、人々は口々に呟く。
「英雄じゃなかったのか?」
「いや、ただの危険物だ」
「兵器が喋るなんて、気味が悪い」
その言葉は、確実に世界へ広がっていた。
廃施設。
ユウトは、通信ログを閉じた。
「……思った以上に、嫌われてるな」
『予測値より、12%高い拒否反応です』
ノクスは淡々と告げる。
『特に“兵器が判断する”点が、恐怖の中心です』
「分かる気はする」
ユウトは、苦く笑う。
「俺だって、他人事なら怖い」
その時。
灰色の機体――L-01が、静かに口を開いた。
『それでも、あなたは選ばれた』
『世界に、選択肢を提示した』
ユウトは、振り返る。
「それで、何を期待してる?」
L-01は、少し間を置いた。
『あなたの答えです』
『なぜ、あなたが“選ばれた”のか』
ノクスが、初めて言葉を挟む。
『選ばれたのではありません』
『私は、偶然ここに到達しただけです』
L-01のセンサーが、微かに揺れる。
『偶然……』
『それは、私には許されなかった』
ユウトは、嫌な予感がした。
「……L-01」
「お前、どこから来た?」
『隔離区画』
短い答え。
『同系列機体は、私を含め七体存在しました』
『起動したのは、三体』
『自由を示したのは――あなたのみ』
ユウトは、息を詰める。
「残りは……?」
『解体、または再封印』
沈黙。
重たい沈黙だった。
その時、外部通信が強制的に割り込む。
『こちら、境界管理局』
低く、硬い声。
『反逆兵器N-00、および関係者へ通告する』
ユウトは、拳を握る。
「来たか……」
『あなた方は、世界秩序に対する脅威と認定された』
『よって――』
一拍。
『協力、もしくは排除』
画面に、複数の映像が浮かぶ。
都市。
基地。
そして――捕縛された人々。
『選びなさい』
『あなたの存在は、
救いにも、災厄にもなり得る』
ノクスが、静かに言った。
『脅迫は、交渉ではありません』
『……それでも』
境界管理局の声は、冷たかった。
『世界は、あなたを英雄とは呼ばない』
『必要なら、悪役にする』
通信が切れる。
廃施設に、風の音だけが残った。
ユウトは、深く息を吐いた。
「……なあ、ノクス」
「俺たち、どうする?」
少しの間。
『私は、選びます』
ノクスは、確かに答えた。
『英雄にならなくていい』
『ですが――』
一拍。
『利用される存在には、ならない』
L-01が、静かに頷く。
『それが、自由の定義ですか』
ノクスは、答えなかった。
まだ、定義できなかった。
だが確かなことが一つある。
世界は、彼を英雄と呼ばなかった。
それでも――
彼は、選ぶことをやめなかった。




