第十一話 「条件」
再び、あの会議室。
だが、空気が違っていた。
中央に立つのは、
人ではなく――《リリウム・ノクス》。
武装は解除されたまま。
だが、その存在自体が、圧力だった。
「条件とは、何だ」
軍部代表が、低く言う。
ノクスは、ゆっくりと答えた。
『三つ、あります』
ざわめき。
『第一に』
『我々は、兵器ではありません』
『いかなる文書、発言、報道においても』
『兵器という語を用いないこと』
政治家が、顔をしかめる。
「言葉狩りか?」
『境界の定義です』
『言葉が、扱いを決めます』
沈黙の末、メモが取られる。
『第二に』
『行動の拒否権を認めてください』
『命令ではなく』
『要請として提示されること』
軍部が、声を荒げる。
「それでは、作戦が成り立たん!」
ノクスは、即答した。
『拒否される作戦は』
『そもそも、正当性が足りません』
一瞬、誰も反論できない。
ガーディアン1が、静かに言った。
「……続けてくれ」
『第三に』
一拍。
『我々の中から』
『一切の“複製”を禁止してください』
会議室が、凍りつく。
産業連合の男が、立ち上がる。
「それは不可能だ!」
「技術は、すでに――」
『ならば』
ノクスは、遮った。
『私は、協力しません』
『完全に』
重い沈黙。
ユウトは、息を呑んだ。
「……ノクス」
ガーディアン1が、口を開く。
「なぜだ」
ノクスは、答えた。
『複製された瞬間』
『私たちは、数になります』
『数になった存在は』
『必ず、消耗品になります』
『それは』
『過去が、証明しました』
L-03の姿が、脳裏をよぎる。
会議は、紛糾した。
だが。
最終的に、
妥協が生まれる。
《複製:全面凍結》
《拒否権:限定的承認》
《呼称規定:遵守》
完璧ではない。
だが、初めて“人類側が譲った”。
会議後。
廊下で、ガーディアン1が言った。
「……よくやったな」
ノクスは、首を振る。
『まだです』
『これは』
『始まりに、過ぎません』
ユウトが、笑った。
「十分だよ」
「少なくとも」
「お前が、決めた」
夜。
拠点に戻ると、L-01が問いかけた。
『私たちは』
『自由に、なったのですか』
ノクスは、少し考えた。
『いいえ』
『ですが』
『檻の形を』
『自分たちで、決めました』
L-00が、小さく頷く。
『……なら』
『息は、できます』
遠くで、街の灯りが瞬く。
世界は、まだ変わっていない。
だが、
世界のルールに、初めて“例外”が刻まれた。
それは、小さく、だが確かな亀裂。




