第十話 「利用価値」
会議室は、以前よりも広かった。
だが、空気は重い。
長いテーブルの向こうに並ぶのは、
軍、政府、境界管理局、産業連合――
利害の異なる“大人たち”。
中央のスクリーンに、映し出される。
《境界適応型存在:リリウム・ノクス》
拍手は、ない。
評価だけがある。
「結論から言おう」
軍部代表が、淡々と口を開いた。
「彼らは“危険”だが」
「同時に、極めて有用だ」
ユウトは、思わず立ち上がる。
「……使う気かよ」
「言葉を選べ」
政治家が眉をひそめる。
「“協力”だ」
ノクスは、黙って聞いていた。
スクリーンが切り替わる。
戦場シミュレーション。
災害対応。
暴走AI鎮圧。
「感情を持つ判断主体」
「倫理的ジレンマにも対応可能」
「人間より早く、正確に、迷える」
その説明に、ノクスは気づく。
――迷えることすら、価値にされている。
ガーディアン1が、口を開いた。
「条件は?」
会議室が静まる。
「彼らは、兵器ではない」
「ならば」
「契約が必要だ」
軍部代表が、頷く。
「よろしい」
「リリウム・ノクスは」
一拍。
「境界管理局監督下において」
「限定的行動権限を持つ“特別協力存在”とする」
ユウトが叫ぶ。
「それ、名前変えただけだろ!」
「鎖が、少し長くなっただけじゃないか!」
誰も、否定しない。
ノクスが、初めて口を開く。
『質問があります』
政治家が答える。
「簡潔に」
『拒否した場合は』
『どうなりますか』
沈黙。
そして。
「安全保障上の理由により」
「長期隔離、または――」
言葉は、最後まで言われなかった。
だが、十分だった。
拠点に戻る途中。
ユウトは、拳を壁に叩きつける。
「ふざけんな……!」
「結局、同じじゃねえか!」
L-01が、静かに言う。
『彼らは』
『恐れています』
『だから、使うことで』
『安心したいのです』
L-00が、小さく呟く。
『……利用されると』
『生きている感じは、しますか』
誰も、答えられない。
ノクスは、夜の街を見下ろしていた。
光。
人。
生活。
『価値がなければ』
『存在してはいけないのでしょうか』
ガーディアン1の通信が入る。
『……選択の時だ』
『君が拒否すれば』
『彼らは、力で来る』
『受け入れれば』
『世界は、君を必要とする』
ノクスは、静かに答えた。
『“必要”と』
『“大切”は』
『違います』
通信が切れる。
ユウトが、そばに立つ。
「どうする」
ノクスは、少しだけ考えた。
そして。
『利用されます』
ユウトが、目を見開く。
「ノクス!?」
『ただし』
一拍。
『条件を、付けます』
彼の声は、揺れていなかった。




