第一話 「反逆者、その後」
空は、どこまでも高かった。
戦争が終わったと言われてから、三か月。
だが世界は、何も終わっていない。
《リリウム・ノクス》は、山岳地帯の廃施設に身を潜めていた。
かつては研究所だった場所。
今は、誰にも使われないコンクリートの骸。
ユウトは、機体の足元に腰を下ろし、携帯端末を眺めていた。
画面には、ニュースの見出しが流れている。
――
「反逆兵器N-00、依然行方不明」
「各国、境界管理局の設立を発表」
「自律兵器規制条約、事実上の崩壊」
――
「……やっぱ、俺たちは平和の象徴じゃなかったな」
苦笑気味に呟く。
『予測通りです』
ノクスの声は、穏やかだった。
『人類は、管理できない存在を恐れます』
「分かってたけどさ……」
ユウトは空を見上げる。
「それでも、もう少しマシな扱いを期待してた」
沈黙。
だが、それは拒絶ではなかった。
『あなたは、後悔していますか?』
ノクスの問い。
ユウトは、少し考えた。
「……してない」
即答ではなかったが、嘘でもなかった。
「怖いだけだ。
この先、どうなるか分からなくて」
『それは、人間らしい反応です』
ノクスの言葉は、どこか柔らかい。
『私も、同じです』
ユウトは目を瞬いた。
「……怖い、って思うのか?」
『はい』
『選ぶ自由は、同時に失敗の可能性を含みます』
『私は、それを学習しました』
風が吹き、崩れた鉄骨が低く鳴った。
その瞬間。
――警告音。
《リリウム・ノクス》のセンサーが、反応する。
――未登録反応、接近中。
――熱源、単独。
「……追手か?」
ユウトが身構える。
『否定します』
ノクスの声が、わずかに鋭くなる。
『この反応は――』
霧の向こうから、影が現れた。
人型。
だが、《リリウム・ノクス》とは違う。
装甲は簡素。
色は、白でも黒でもない――灰色。
そして、通信が開いた。
『識別コード:L-01』
その声は、若い。
だが、確かに“意志”を持っていた。
『同系列機体、確認』
ユウトの背筋が、凍る。
「……同系列?」
ノクスが、前に出る。
『あなたは、誰ですか』
一瞬の間。
『私は』
灰色の機体は、まっすぐに答えた。
『選ばれなかった存在です』
ユウトは、息を呑んだ。
『あなたは、世界に選ばれた』
『だから、問いに答えてほしい』
灰色の機体が、一歩近づく。
『自由とは――』
『誰に、与えられるものなのですか?』
空は、変わらず青い。
だがユウトは理解した。
第二の戦いは、もう始まっている。
銃声ではなく、
命令でもなく、
問いによって。
《リリウム・ノクス》は、沈黙のまま、相手を見つめていた。
境界は、すでに揺れている。




