第8話:乱入者
今日は、美咲ちゃんの家で、勉強会です。
「お茶もってくるね」
勉強を始めて1時間くらいしたところで、美咲ちゃんが席を立った。
といってもテーブルで勉強しているから、イスに座っているわけじゃないけどね。
「あ、あのタンスは開けちゃダメだからね」
美咲ちゃんはドアを開けたところで、振り返りながら言った。
「分ってるって」
例の下着が入っていると思われるタンスの事だ。
でもこれだけ言われると逆に開けたくなるのが人情、いや健全な男子です。
美咲ちゃんの足音が遠ざかるのを確認。
「開けますよー」
自分しか居ないけど、何か言いたくなっただけ。
1番下の引き出しが下着だと思ったが、スカートが綺麗に整頓されて入っている。
下から2番目の引き出しをそっと開けると、可愛らしい下着が丸められたように
畳まれて(?)所狭しと詰め込まれていた。
流石に手に取ったりはしないが、女の子ってこんなにいっぱい下着があるのかと、
感心したその時、頭頂部に強烈な激痛が走った。
「いっだぁぁ!」
「開けるなって言ったでしょ!」
顔を茹蛸のように真っ赤にして、半分涙目の美咲ちゃんが睨んでました。
つーかお茶持ってくるの早くない?
テーブルの上を見るとお盆に紅茶が2つとお菓子が載っていた。
「えっと……てへっ…」
っと、可愛らしく言ってみたが、美咲ちゃんの額に青筋が1本追加されただけだった。
それから小1時間ほど説教を食らいましたよ。それも正座させられて。
紅茶冷めちゃいますよー、という視線の抗議も効果ありませんでした。
紅茶を入れなおしてもらい、それを一口啜ってほっと息をついた時、ドアが勢い良く開いた。
「うお!」「きゃあ!」
よほどビックリしたのか、美咲ちゃんが俺の胸にしがみついてきたけど、ニヤけてる暇は無い。
「美咲ー? 私だよー」
「へ?」
恐る恐るという感じで、顔を上げて声のしたほうを見る美咲ちゃん。
「お響…」
「っていうかお取り込み中だった?」
「え?」
自分の状況を確認した美咲ちゃんは、俺から勢い良く離れて、身だしなみを整える。
あのーそこで身だしなみを整えると、余計怪しまれる気がするんですが?
「そ、そんなことより、お響、どうしてここに…」
「え? 彼氏が出来たっておばさんに聞いてさ」
余計なことをとか、ブツブツ文句を言っている美咲ちゃんを余所に、
品定めしるように、遠慮の欠片もない視線で、まじまじと俺を見るお響さん。
「あ、あの、俺の顔に何か付いてますか?」
「へぇ、あんたがねー」
俺の質問スルーですね…。
「な、何か?」
「バカっぽいねー」
俺の質問をスルーした挙句の暴言ですよ、泣いてもいいですか?
「ゆ、ゆたかくんは、バカっぽいけど、バカじゃないもん!」
「「……」」
それフォローになってない気がする。
お響さんも哀れみの眼差しで見るのやめて! っていうか元凶あんたじゃん!
「…えっと、柳田響子です、よろしく」
場の空気を変えるように、キチンと俺に自己紹介をするお響さん、じゃなく響子さん。
自己主張するように突き出た2つの胸…双丘に釘付けです。
「…あ、俺、竹田豊といいます、よろしくです」
2つの双丘に向かって挨拶する俺に、横から冷たい視線が突き刺さる。
目線を合わせたら殺られると、俺の中で警鐘が鳴ってます。
「あの…響子さんは、美咲ちゃんとはどういう?」
「お響でいいよ、美咲とは中学の時の…知り合いかな」
友達じゃなく知り合い? と疑問を感じたけど口には出さなかった。
「お響、何しに来たの?」
いつもの美咲ちゃんらしくないというか、俺以外のクラスメートと話す時のトーンに近い。
だけど、クラスメートへのそれとは何か違う感じがする。
「美咲の心を溶かしたのがどんな奴…コホン…えっと…と、殿方か確認したくてさ」
いや顔赤くするなら殿方とか言うなよ、それにいまさら気を使うなと言いたい。
「お響には、関係ないでしょ!」
こんなに怒ってる美咲ちゃんを今まで見たことが無い。
「……そうだね、関係…ないね」
お響さんは一瞬だけ悲しそうな、というか寂しそうな顔をした。
いったい、このぺたーんとぼいーんの間に何があったのだろう?
「ぺたーん言うな!」
「ぼいーん言うな!」
「いだぁ!」
心を読まれた挙句にダブルで拳骨食らった…
だって、この雰囲気に耐えられなかったんだもん。