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神の流刑地

小魚はねる

作者: 林伯林

「神の流刑地」シリーズのお魚が跳ねながら徒然考えています。



 ある日目覚めると、お空の上でした。


 綺麗なお水ときらきらのお日様。


 美味しい魔力に満ちた場所でした。





 お魚はお水の中を泳ぐものだそうです。


 魔法使いはそう言いました。


 そう、お空の川は地上の森に繋がっていて、自在に行き来が出来るのです。


 小雨という形で。


 森の奥深くには特別美味しい魔力の魔法使いが住んでいて、庭で遊ぶお魚たちを見ていつも呆れているのです。


 この地は魔力でひたひたで、精霊たちは好きなだけ自由に遊べるのに。


 お魚達は、たまたまお魚の形をして生まれただけで、本当の水の中に住むお魚とは違うのに。


 そう言っても、魔法使いは頭が固いのか、首を振って溜息をつくばかり。


 「では、何故水に縛られている?」


 逆に尋ねられ、お魚たちも首をかしげました。


 お水は移動しやすいのです。ただそれだけ。


 そしてお空の「あの人」が小川を作ったから。




 「あの人」の名前はリウというそうです。


 ソラリスから聞きました。


 ソラリスは、私たちと同じ精霊です。


 私たちと違って人の形をしています。


 そして、元は人間なのだそうです。


 「人としても長く生き過ぎた者」なのだそうです。


 生まれたばかりのお魚たちとは違います。




 リウは精霊ではありません。


 ソラリスと同じく人の形をしていますが人でもありません。


 「ただただ空にぷかぷか浮かんでいる存在」なのだと言いました。


 お魚たちには理解が及ばず、ソラリスに説明を求めましたが、ソラリスは笑うばかり。


 人でなく、精霊でもないリウは、地上の魔法使いと同じように、美味しい魔力を豊富に持っています。


 そしてゆるりゆるりとそよ風のようにその魔力を常にまとわせています。


 小さな清水の湧きだし口のように、その魔力が溢れる場所を持っています。


 右肩とお腹と左足。


 力の弱い小魚である私でも、少し見つめているとそれが金色に光って見えてきます。


 それが全身を薄く覆って、リウの姿をなしているのだと気が付きました。


 リウは本当に、「空に浮かんでいる」儚い存在なのでした。


 そこは生まれたてのお魚たちと似ています。


 ですが、あふれ出す魔力が、リウの存在をしっかりと補強し、固定し、あの形にとどめているのです。




 精霊に、とても似ている存在。




 ですが、精霊ではありません。


 ソラリスが苦笑いするわけがわかります。


 誰にも説明できない存在なのでしょう。




 リウはいつもお空にいて、お茶を飲んだり、本を読んだり、地上のあちこちを覗いてみたりしています。


 海の底をお散歩する姿を見た時は、本当に驚きました。


 「確たる存在ではないが故に、どこにでも行けるのよ」


 とリウは言いました。


 私たちは、空から水鏡を覗く事しか出来ず、ソラリスは呆れながらも面白がり。


 リウは海の精霊と邂逅し、風変わりな問答を行って、海底の神殿を一つ手に入れました。



 リウは、たまにそこへ行って暫く戻ってこない事があります。


 「一人になりたいのよ」


 ソラリスはそう言います。


 海の精霊は広大な海底にそれぞれの住処を持っていて、あまり他者と関わらないのだそうです。


 リウが手に入れたのは、深海の中でも特別深い場所にある神殿で、殆ど生き物の気配が無い場所で、それはそれは静かなのだとか。


 そこで何を考えて過ごしているのかは誰にもわかりません。


 ソラリスもそちらへ行こうとは思わないそうです。


 「重くて圧がすごいの。息苦しくて、私には向かない場所よ」


 何故と尋ねると、そう言いました。


 ソラリスは大気や光に近い属性の精霊ですから、深海は合わないのでしょう。


 そんなところへ平然と行ってしまうリウは、一体どういう存在なのでしょう。


 と、そこでぐるりと疑問の円環に入ってしまうのです。



 私たちお魚は、生まれたばかりのうたかたに似た存在です。


 小雨がやめば、たちどころに消えてしまうような。


 それ故ふわふわと、歌ってはねて楽しんで、喜びだけで生を満たして過ごすのです。


 込み入ったことは考えずに。



 ですけれど。



 ソラリスは苦笑しながら私を見るのです。


 「どうしてそんなにリウの事ばかり考えているの」


 何度も何度もソラリスにリウの事を尋ねていると、ついにそう問われました。


 「何故でしょう」


 私は私の事をよく知りません。


 そもそもうたかたの生に大した意味は無いのです。


 ソラリスは溜息のような苦笑とともに、私の小さな頭を指先でちょんとつつきました。


 そうしましたら、まあ不思議。


 儚い泡沫であった私の身体がしっかりとした輪郭を得たのです。


 「小魚、名づけはリウに頼みなさい」


 そう言って、どこかへ消えてしまいました。



 リウが深海の神殿から戻ってきた時、嬉しくて跳ねて勢い余ってテーブルに着いたばかりのリウのお膝の上に乗ってしまったのはご愛嬌。


 叱られるかなと見上げましたが、気にした様子もなくお茶をいれてちらりと私を見て言いました。


 「ソラリスの気まぐれ?」


 存在が他の小魚よりも明確な事にすぐさま気づいたようでした。


 私はリウのお膝の上で驚いていました。


 お腹の辺りから湧きだす魔力にじかに触れ、それはもう甘くて暖かくて。


 うっとりしながらそれを浴びていると、全身がほのかに光った気がしました。


 「あらまあ」


 リウの声が聞こえて見上げると、そのお顔が以前より近いような気がしました。



 「あなたちょっと大きくなってるわよ」



 言われて水鏡を見てみると、リウのお膝の上のお魚は、小さな小さな小魚ではなくなっていました。


 リウの手のひら大くらいはありそうです。


 鱗まで少し金色を帯びているような気がします。


 

 「名前を付けてくださいな」



 私はソラリスに言われた通り、リウに願いました。


 リウは不思議そうに私を見て、それから溜息をつきました。



 「そのうちね」



 それから眉間にしわを寄せて「ソラリスめ」と呟くのが聞こえました。




 私は川へ飛び込みました。


 そのうち名付けてもらえるのです。


 急ぐ必要もないでしょう。


 今日は剣士の畑へ行って遊ぼうと思います。


 お天気雨が降ってきました。 


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