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98、ロックオン−4

セシリアは今日も今日とて待ち伏せをされている。

面倒なのでセシリアは学園内の隠し部屋と家を転移して移動する。

ずっと見張っている者たちは、朝から晩まで学園の門とブライト伯爵邸で見張っているがセシリアの居所を掴めないでいた。

だから、ブルームの後も付け回していた。ブルームは学園、王宮、ブライト伯爵邸へ帰る。その報告を受けてブルームに接触を図ろうとするが、察知すると馬車ではなく馬で移動するようになりやはり捕まえられない。無理やり立ちはだかるといつの間にか昏倒されていて気づけばいなくなっている。


考えるにどこかの屋敷に匿われていると思い、手の者を使って探していると、意外なところからセシリアの情報がわかった。それはマイラ。マイラはセシリアの1つ下なので同じ学園に通っていた。学園内で見たと言うのだ。

密偵たちはそんな筈ないと言うが、マイラが見たと言うので、変装して誰かの馬車に乗っているのかもしれないとなり、マイラはセシリアに接触を図るように命令された。


何故、こんなに捜しているかと言えば、セシリアの結婚相手をだいぶ絞ったからだ。

4人の金持ちたちはセシリアと会わせろついでに味見をさせろと煩い。夜会にもあまり出席しないセシリアに接触する機会がない。そんなセシリアと結婚出来るとなれば多くのものを差し出しても惜しくないと目を血走らせる。グレッグはなんとかセシリアを逃げ出さないように手元に置いておきたいと考えていた。それは最近、その4人は腐るほど金があるのでセシリアに『贈り物』を届けにくる。早く相手を決めて纏まった金を手にしたい気持ちもあるが4人を競わせて金を落とさせるのも手だと、ほくそ笑んでいた。


『なんとかセシリアの身柄を押さえなければ…

ルクレツィア王女殿下の誕生記念パーティーがあったか…、それならアレも来るだろう』

そこを狙って連れて帰る算段を考え始めた。




アシュレイ王太子殿下は学園を卒業して現在は王宮で執務を執られている。

そこにはグラシオスもいる。これまでのアシュレイ王太子殿下に与えられていたものより大きな権限が与えられる。それを全てアシュレイ王太子殿下の裁量で決める訳にはいかないので、陛下の側近たちと綿密なやり取りをしている。


前陛下が退任されたが、宰相や大臣などはシルヴェスタ公爵の影響のない者は留任した。よって宰相もグラシオスの父 バーナー侯爵が務めている。何もかも新体制で始めるのには無理がある。現陛下の側近と以前の体制の者たちが調整を図り、多めの人数の中からアシュレイ王太子殿下の補佐にも入っている形だ。

これは不慣れな自分の仕事を補うための措置ではあるが、正直言って気が抜けないし面倒の種でもあった。


今までは基本的に自分の友人兼臣下と事に当たっていた、だから最終的な判断はアシュレイに委ねられていた。だが今は謂わば父側の人間と祖父側の人間と自分側の人間が混在している訳で、意見は対立するし、互いの立場の位置どりで余計な神経をすり減らす。だが、これも自分に課せられた試練の一つだと心得る。今後、それぞれの立場が違う者も利害の不一致から敵対する者も自分で纏めていかなければならない。自分とは違うと一々排除していけばシルヴェスタ公爵どころではない独裁者の誕生だ。上手く人を使うことを覚えなくてもならない。

本音をポロリしてしまえば、翌日には各所に広まってしまうかも知れない。どちらかに肩入れも出来ない、かと言って聞く耳も持たなければならない。目の前の問題だけを解決しているだけではいられない立場に、気が休まる時がない。


何故こう争いたがるのか、もっと仲良く出来ないのかなぁ〜。



「殿下、宰相閣下より急ぎの決裁をいただきたいと参っております」

「通せ」

『はぁー、また問題が一つ増えた…』


扉から入ってきたのはなんとブルームだった。

「なんでブルームが!?」

「お忙しい中 失礼申し上げます。こちら宰相閣下より、急ぎの目を通しご判断を仰ぎたいとの事でございます」

「ブルーム君? ど・う・し・て! 教えてくれるまで見ない」

「はぁー、私にも分かりませんよ。私は学園で勉学に励まなければならないと言うのに、突然迎えがきて王宮に連れてこられたのですから。バーナー宰相の何故か手伝いを言われるままにしております。さあ、こちらをご覧になってください」

「宰相は自分だけブルームを使って狡いな。 アレ? この書類にある予算申請は先日も見た気がするな。 ゲイル 確かお前が持ってきた物ではなかったか?」

「あ…いえ、その…」

「どう言うことだ? 何故、この短期間に陛下が決裁するものと私が決裁するものがある? カーティス…持ってきてくれ」


持ってきた書類は同じオービス伯爵領の橋の建設に関する予算申請の書類だった。

同じ橋に関する申請なのだが、申請金額と日付が違っていた。

つまりこう言うことだ、アシュレイ王太子殿下に予算申請を通し決裁が降りたら金を受け取って、今度は陛下に予算申請し決裁を貰う、二重取りだ。


橋の建設に通常金貨300枚程かかる。だが、300枚で申請するともう少し削れとなかなか降りない。そして結局領側が金貨50枚を負担し250枚で申請が通る。だからオービス伯爵は最初から50枚を負担するからと250枚で申請を出す、他領より少ない申請に感心と許可を出す側もいつもより気を良くして許可を出してしまう。そしてそれをこっそり陛下にも同じことを行う、最終的に300枚の工事費用のところ500枚せしめて150枚を着服するのだ。


「これはどう言うことだ、ゲイル?」

ゲイルは脂汗を垂らし顔色が悪い。

「いえ…恐らく手違いではないかと…、私が責任持って確認いたします」

「ブルーム、お前がこれをここに持ってきたのには理由があるのだな?」

「はい。宰相の元でお手伝いするようになって、こう言った書類を何度か目にしました。

一つ言えるのはこの手法はオービス伯爵だけでは行えない犯行だと言うことです。

まず1つ、宰相の目には触れない形で陛下に認可を頂かなくてはなりません。

そしてもう1つタイミングが大事だってことです。陛下が忙しく内容を精査する時間がなく、シルヴェスタ公爵関連と思わせて認可させなくてはなりません。これは万が一内容を覚えていた場合に前陛下であれば、シルヴェスタ公爵関連であれば仕方ないと決裁して下さる可能性が高いですが、現陛下ではそうは参りません。

そして今回は、陛下と殿下で認可の時期を見て書類を申請を上げてきました。意図的としか言えませんね」


その場にいた者が全員ゲイルを見る。

「ゲイル、何か言うことは?」

「し、知りません! そこのブルームが勝手に言っているだけで、私は何も知りません!!」


「そうですか…、私は新人のお手伝いなのでよく分かりませんが、こちらが過去にゲイルさんが回した重複請求の書類、それに関わった領主、それとこれが見返りに受け取ったものです。殿下どうぞご確認ください」


「ああ、これは言い訳のしようもないな。ゲイル・ギリバス 本日付けで解雇する。横領容疑で取り調べを受けてもらう。連れていけ」

「はっ!」


『ふふ、これで少しはストレスが減るかしら?』

『セシリア! これは君の?』

『ええ、意見の対立と言うよりいつも引っ掻き回されて大変そうだったから』

『有難う、セシリア』

「ブルームも有難う。ところで学園には行かないのか?」

「今はセシリアを狙ってあちこちに密偵がいるので、成り行き任せです」

「そうか、何か協力出来ることがあれば言ってくれ」

「ええ、あてにさせて頂きます」


『お兄様 ちゅ』

姿は皆に見えていないが、確かにセシリアはそこにいてブルームの頬に口付けた。

『酷いなセシリア、こんな場所じゃお返しも出来ない』

『ごめんなさい、でも今したくなったの』

『帰ったら覚悟してね?』

『ふふ 大好き』


セシリアとブルームのお陰でアシュレイ王太子殿下は仕事が少しし易くなった。

まだ改革は始まったばかりだ。順調な事ばかりではない、不正にどっぷり浸かっていた者たちは減った収入を稼ぐためにあの手この手を使ってくる、見落とすわけにはいかないのだ。毅然とした態度で臨む。




ルクレツィア王女殿下の誕生パーティーが開かれた。

王家主催の盛大なパーティーは久しぶりだ、これを見てやっと世の中が正常化し始めたと実感できる。シルヴェスタ公爵の件で没落した貴族も取り潰しになった貴族も多く、貴族名鑑が大幅改定があり発刊が間に合わないと聞く。その際に、再興した家名の中にもシルヴェスタ公爵関連の者もいたと聞く(某侯爵令嬢のたれ込み)、まだ明らかになっていない事もあるだろう。一朝一夕には自分の抱く理想国家なんて出来はしない、ここにいる模範的な貴族も腹黒い貴族も力を持たない平民も皆が等しく幸せなんて夢のまた夢だろう。

だけど、今の私には成すべきことを理解している、理想に突き進み共に戦う友も臣下もいる、この場に立てていることを幸せに思う。


「アシュレイ王太子殿下、ご挨拶をお願い致します」

「分かった」


彼方でも此方でも情報交換と情報収集に余念がない。情報に疎い者は淘汰されるのだ。特に以前と違って珍しいもの、利益が出るものをシルヴェスタ公爵に貪られる心配もない。各地の産業も随分活気が出たようだった。流通もシルヴェスタ公爵の息のかかった者以外の台頭も著しく、経済が活性化している。儲け話に飛びつく為にも情報は重要だ。


今回も1番話題に上るのはバンダル・ゴールドバーグ。彼は貴族ではないようでこう言った場に出てくることはない。代わりに代理人をしているフリード・クラウン子爵を探し出し、何とか紹介して欲しいと言い募るが、のらりくらりと躱されてしまう。



グレッグ・スターライド侯爵はセシリアの姿を探す。側にはクレア・アンバー夫人、それから彼らの子供のライアン・スターライドとマイラ・スターライドもいる。

「見つけたか?」

「いいえ、まだ確認できておりません」

「まさか来ないつもりか?」

「兄のブルームはアシュレイ王太子殿下の側にいるのを確認しております」

「…外れか? いや、引き続き確認してくれ」


扉の方が騒がしい。

『なんだ? まさか…いよいよご登場か!?』


「確認してきてくれ。いや、近くに行ってみよう」

グレッグは扉の方へ近づいていくと驚愕する光景を目の当たりにした。

そこにいたのは自分の妻、フィーリアその人だった!!

フィーリアは頭がおかしくなって実家で監禁されているはずだった…、だがそこには自分の足で立って微笑む姿の女がいた。しかも隣にはあれほど探しても見つからなかったセシリアがいるではないか!彼女たちの横にはヘネシー伯爵家が寄り添っている。

一体これはどうなっているのだ!!


フィーリアは元々9歳も年下で40歳と自分より若いのだが、彼女は時が止まったかのように昔の姿のまま若々しく美しかった。 セシリアの横にいても姉妹のように見える。白薔薇姫、妖精姫は健在だった。2人は髪の色こそ違えど面差しはよく似ていた。

その横でヘネシー伯爵夫妻は満足そうに微笑んでいる。


グレッグの足は止まった。

当然だ、蔑ろにしスターライド侯爵家は正気を失ったフィーリアを監禁し実家に帰すことも会わせることもせずに16年が過ぎたのだ。グレッグはフィーリアに苦痛を与えただけではなく、見舞うこともなくただ無視し続けた。自分は別に家庭をつくり放置してきたのだ

ヘネシー伯爵はフィーリアの手を取り、ヘネシー伯爵夫人はセシリアの手を取り、幸せを噛み締めている。

そこへグレッグが近寄って歓迎されるわけがない。

セシリアがすぐそこにいるのに手が出せず歯痒く見ている。


そこへブルームが近寄ってくる。

セシリアは満面の笑みでブルームを紹介する。その仲睦まじさに孫が幸せに育ったことを泣いて喜んだ。実はヘネシー伯爵家にはフィーリアが娘を産んだこともその娘を捨てたことも伝えられていなかった。初めて知った時、その事実に恐れ慄いた、愛する娘が心を壊したとしても自分の娘を虐待し捨てただなんて、そしてその事実を隠していたスターライド侯爵家も更に憎んだ。ただセシリアが『スターライド侯爵家では自分は幸せにはなれなかった、結果としてブライト伯爵家で愛されて育ててもらえたことは幸運だった』と言ったことで、何とか気持ちを落ち着かせた。 今、自分たちの目でセシリアがブルームと一緒にいると心から安らげると知ってやっと安心し、確かにあの外道のグレッグの元で育てられなくて良かったと思ったのだった。


グレッグはセシリアが見つからないと思ったらヘネシー伯爵家に匿われていたと知り忌々しく見ている。グレッグの元へは婚約者候補に絞った脂ぎった男たちがセシリアを紹介しろと近づいてくる。流石に近づけない場所にいるセシリアだったが、幸運にもブルームがダンスに誘ったのかその場を離れてくれた。

この千載一遇のチャンスを活かさない訳にはいかない。タイミングをはかるために注視していた。

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