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94、狙われたセシリア−2

遅れて来たランクル魔獣管理局長は、ブライト伯爵家に挨拶をしてセシリアとダンスをしに行った。


「私は本当にダンスなんて久しぶりすぎて…、足踏んだらごめんなさい」

「ふふ、大丈夫ですよ、怪我したら自分で回復魔法かけますから」

いや、普通は大丈夫ですよ、気にしないで!ってフォローして応援するところじゃ?

セシリア嬢って少しずれてんだよな。


「今日も美しいですね」

「まあ! ランクル局長が魔獣以外に褒め言葉を言うなんて珍しいですね」

「ゴホン、お世辞やおべっかは苦手ですけど、美しいものを素直に美しいという事くらい出来ます。それに今言わないと、タイミングがないし」

「そうなんですね。有難うございます、レンブラント様」

「どわぁー!」

めちゃくちゃ動揺してステップを間違えた。

「クスクス、大丈夫ですか?」

「おじさんを揶揄わないでくださいよ…いきなり名前呼びなんて…」

あら、案外純粋ボーイ。


「でも今日はどうしてお相手してくださるのですか?」

「まあ、正直言えば参加は今回強制でしたし、いつもは顔を出して挨拶したら帰るんですけど、叔母が…私に会わせたい人物がいるって、先に帰ったら結婚を進めるって言われて」

「あはは…相変わらずみたいですね。誰かはお聞きになったのですか?」

「いや、知り合いではないみたいで、どこかで見かけた人物が…その…セシリア嬢に似ているから見てごらんなさいって…男性みたいでしたが」

「セシリア嬢だと、私の友人以下になるので、セシリアと呼び捨てにしてくださいまし」

「ぐふっ! セ、セ、セ、セ」

「それでは自分の名前と気付けません、はっきりおっしゃってください」

「ぐぬぬ、セシリア、セシリア、セシリア これでいいか?」

「まあ、子供っぽい事。まあ、よしとしましょう。それで、私と似ている方がいらっしゃるのですか?」

「ああ、でもセ、セシ、セシリアにもブルーム卿にも似ているみたいだよ? 髪色とか、雰囲気とか…」

「へぇー、どなたかしら? わたくしも興味が出ました、是非教えてくださいましね」

「ああ、分かった」


ブルームの元へ戻ると、ランクル局長は各方面に挨拶に向かった。

そしていつも通りブルーベル侯爵家の皆さんと挨拶をしダンスをして歓談していると、誰かが近づいて来た。そちらを見ると何とも言えない気持ちになった。

歳は50歳くらいかと言うところで、自分たち兄妹と似た容貌をしていた。1番目を引くのは銀髪だ。男は銀髪を肩甲骨位まで伸ばしていて1つに纏めていた。180cm位の身長にがっしりとした体格に銀色の髭を蓄え、はっきり言ってイケオジである。その服装から爵位も高そうだ、身だしなみと言うか、自分を魅せる方法を知っている、そんな感じがした。ただ、一筋縄ではいかないやり手、ただならぬ雰囲気を感じた。


その人物に気がついたブルーベル侯爵が挨拶をする。

「これはスターライド侯爵、ご無沙汰しております」

「え、ええ。ブルーベル侯爵、こちらこそご無沙汰しております」


挨拶を交わしているが、目はセシリアをロックオンしている。何となく全員が警戒をしている。このスターライド侯爵とは自分からブルーベル侯爵に挨拶をするタイプの人物ではないらしい。


徐ろにセシリアに向き直ると、

「いつまで呆けているのだ、さっさと父親に挨拶をしないか!」

場が凍った。

はっ? 何が? 誰が誰の父親だって!?


「勘違いされているのでは? セシリアはブライト伯爵家の令嬢です」

ヨハンが割って入ると、侮蔑したような視線で見返す。

「ええ、ですから言っているのです。セシリアは私の子供だと。役にも立たない女児を産んだので捨てようとしたところ妹が育てさせて欲しいと懇願するからくれてやったのです。ですが、使い道が出来た。だからスターライド侯爵家に迎えてやると言っているのです」


殺気で人が殺せるならこの男は死んでいただろう。

「どうしても子供が欲しいと言うから作ってやったら、女だなんて…どこまでも使えない、忌々しい女だ。セシリア、お前はスターライド侯爵令嬢として嫁に行って実家を支援させるのだ」


呆然とするセシリアをブルームが抱きしめ、リアンが必死に耳を塞ぐ。


そこへ現れたのは、ブルームたちの両親、ブライト伯爵家だった。


「どう言うつもり?  女を蔑み役立たずと言うならセシリアをアテにするべきではないでしょう? お兄様は生まれた瞬間からこの娘を捨てたのですからもう放って置いてくださいまし! 二度とセシリアに近づかないでくださいませね!」


セシリアの足の力が抜けて意識を失ってしまった。ブルームが抱いていたのでそのまま抱き止められて、遠くで言い争う声が風船越しに聞こえるかのようにポワンポワン聞こえて飲み込めなかった。


ああ、私という人間は親子の縁がどこまで薄いのだ。

今世では優しい家族を手に入れたと思ったのに…、私はまたも本当の親に捨てられていたのだ。


「大体、セシリアは既に婚約しています。お兄様の思い通りにはなりません、諦めてください」

「どこの誰とだ? 金を持っている家ならそのまま結婚させてやってもいい」

「私とです。セシリアは私と婚約しています。レンブラント・ランクルと申します」

上から下まで睨め付けると、側仕えらしい男が耳打ちをした。


「ランクル侯爵家の変人の三男坊か、実家とは縁を切っているとか、そんな者にはやれないな。後妻でも構わないが、金だけは持っていないとな〜。局長程度の端金では私の娘はやれない、今すぐ婚約破棄しろ」

「お断りします、大体貴方は父親面していますが、書面上は既に父親ではないのでしょう? 貴方こそ引っ込んでてください」

ランクル局長がいつになく強気で発言している。この男は間違いなくセシリアの敵だと認識したのだ。


ここにいる者は全員セシリアを守りたいと思っている。

スターライド侯爵は周りを見ると、

「くだらない連中だな。カルネラ、セシリアには今度は直接話をするとする。面倒だからお前から経緯について話しておきなさい。この程度で気を失うとか、全く…失望しかないな。所詮、お前が育てた子供か…」


ブルームはセシリアを抱き上げ、両親を見て

「母上、キチンと話をしてください」

「……ええ、分かったわ」

「ブルーベル侯爵、皆さま もうしわけありません、今宵はこれにて失礼致します」

ブルームはセシリアを大切に抱えながら退出していった。



ブライト伯爵邸に着くとセシリアを寝かせた。話はセシリアが起きてからする事にした。

ブルームが先に聞いて隠すべきことは隠したかったが、セシリアはきっとそれを望まないので、起きるのを待った。青白い顔のセシリアの頭を優しく撫でる。


眠っているセシリアの手を取りブルームは額につけ祈った。

『何故、またセシリアなのだ!! どうか、これ以上セシリアを傷つけないでください!』


リアンはそっと隠れ家の辰巳のところに行った。

「やあ、リアン舞踏会は無事に終わったかい?」

「…セシリアが倒れた」

「セシリアが!? 何かあったのかい!?」

「セシリアが…、セシリアの本当の父親って奴が突然現れて、生まれた子供が女だったから捨てたって、役に立たないから捨てようとしたら欲しいって言うから妹にやったけど、使い道が出来たから返せって。セシリア…今世では優しい家族に巡り会えたと思ったのにって…泣いてるんだ…伯父さんどうしよう…セシリアが悲しんでる…」


「ああ、なんて事だ! どうしてあの子にばかりこんな運命を背負わせるんだ!」

2人はそれぞれ憤り悲しんでいたが、どうにも出来なかった。リアンは正直言ってあの父親を殺して問題解決したいが、それではセシリアが疑われることが分かっていた、だから人間のように必死で理性を働かせて我慢している。辰巳は今すぐそばに行って抱きしめてやりたかったが、何も知らない今世の両親がいる所へは行けなかった。


「リアン、今はそばに行けないけど、また教えてくれるかい? あの子が傷ついて帰って来た時に優しく迎えてあげたいんだ」

「うん。折角 忘れかけていたのに…、伯父さんセシリアに泣いて欲しくないよ」

「ああ、私もあの子には幸せに笑っていて欲しい」



セシリアが目を覚ますと、ブルームはセシリアの手を握ってベッドの横の椅子に座っていた。

セシリアはブルームの手を握り返した、するとブルームはすぐに目を覚ました。

人がいない事を確かめると「キスして?」潤んだ瞳で強請られブルームは優しくそれに応えた。セシリアが落ち着くと両親が待つ部屋へ向かった。


「セシリア…大丈夫?」

「はい、ご心配をおかけしました」

「どこから 話したらいいかしら…」

「どこからでも構いません。出来れば、全てを話して頂きたいです」

「そう、ね…分かったわ。


私の実家は悪名高きスターライド侯爵家、私はそんな家が嫌でレスターと結婚して実家と縁を切ったの。

スターライド侯爵家の人間は皆自己中心的で相手がどうなろうとお構いなし、結果が全てって家訓でね、最低な人たちよ。勿論、父親に反抗するなんて許されない家。


貴方の本当の父親 グレッグお兄様は生まれて初めて反抗したの、それが結婚の事。

家の利益になる相手と結婚しろって言われていたけど、学園に入ると同級生のクレア・アンバー男爵令嬢と恋仲になった。でも当然お父様には許して貰えず、次々に婚約者候補を連れてこられて、アンバー男爵家には嫌がらせをされて、それでもお兄様は諦めずに説得を試みたわ。でもお父様が首を縦に振ることはなかった。未婚のまま25歳の時、長男をクレアさんとの間に授かったの、それでもお父様はお許しにならず、別れないならアンバー男爵家を潰すと脅され、泣く泣く別れた…フリをしたの。陰でずっとクレアさんと家族を支援していた。

それで、お兄様はお父様のお決めになったフィーリア・ヘネシー伯爵令嬢と結婚したの。それがセシリアのお母様よ。


フィーリア様は兄に恋人がいることも子供がいることも知らないで嫁いできたの。

お兄様はフィーリア様に優しくすることはなく…毎日お泣きになっていたわ。スターライド家に味方はいない、その上やっと身籠った貴女が女の子だと分かると、お兄様はお父様にもフィーリア様にも当たり散らしたの。すると、フィーリア様は自分を責め、セシリアを憎むようになってしまった。『お前が女だったから私がこんな仕打ちを受ける、お前さえ男の子だったら』ってね。全ては狂ったスターライド家が悪いのに…。それでとうとう、心を病んでしまったフィーリア様が暴力を振るった上セシリアを家の外に捨ててしまったの。お兄様はフィーリア様もセシリアも関心がなく別邸で過ごしていたから、お母様が私に育ててくれないかと連れて来たの。兄もフィーリア様もいらない子としてすぐに養子の手続きをして二度とセシリアに会うことはなかった。


フィーリア様は離婚して出ていくものだと思ったけど、お父様は離婚をお許しにならずお兄様に、『爵位は時が来れば譲ってやる、だが、財産はお前ではなく全てフィーリアに渡す』そう、仰られその通りにした。だから本邸に両親とフィーリア様が同居なさり、お兄様は別邸でクレアさんと子供たちと暮らしているの。お兄様は自分の会社を作り、両親とは犬猿の仲なの」


「お祖父様、お祖母様はご存命なのですか?」

「ええ、まだ生きていらっしゃるわ。もう執念ね、自分たちが死ねばお兄様は間違いなくフィーリア様から全ての権利を奪い取るわ、だから両親は生きながらえているのだと思う」


「クレア様との間に子供は何人いるのですか?」

「私が把握しているのは2人よ。ライアン23歳とマイラ15歳。当てつけのようにフィーリア様がご出産なされて子供を作ったの、兄としては男の子を産んでお父様を罵るつもりだったのでしょうが上手くいかず、お父様もクレア様と陰で会っていることはご存知だったから、お兄様を家から締め出して会おうともしなかったし、スターライド侯爵家の権利は何も渡さなかったわ。


フィーリア様は普通の伯爵令嬢だったの、セシリアに似て美しい方だったわ。望まれて結婚したと思ったのに現実は酷いもので、恐らくフィーリア様がお心を壊されたのは…クレアさんが原因だと思うの。何も知らなかったフィーリア様に『お前が愛する2人を引き裂いた、子供だっているのに この悪魔』ってのしかかって罵って…。それでフィーリア様はお兄様が自分に冷たい理由を知ったのね。それから塞ぎ込んで離婚も考えてらしたようだけど、お父様は『今だけだ、麻疹にかかったようなもので、すぐに戻ってくる』とお許しにならずあんな事になった…。フィーリア様は今も本邸でお暮らしになっているけど、ご自分が誰かも分からないらしいわ。


セシリアは貴女が生後半年に私たちの元へ来たの。

驚くほどブルームと似ていて誰に見せても兄妹と言って疑われることもなかった。今になってこんな事になってしまってごめんなさい」


「お父様、お母様、私にとってお父様とお母様が本当の父であり母でした。私はお2人に育てて頂けて幸せでした。私に謝罪など不要です。お父様やお母様やお兄様がいたから幸せに生きることが出来た、愛を知ることが出来たのですもの。感謝しています」


セシリア的貴族名鑑を作った時、何で身内を外したんだろう、よく知ってるからなんて高を括ってこの始末、馬鹿だよなー。


「今でもあの人ではなくお父様とお母様に育てて貰えてよかったと思っています」


私はスターライド侯爵家特有の髪色と母フィーリア譲りの顔をしているのね…。


「お母様、話し難い事をお話し頂いて有難うございます」


『リアン、白いカラスたち、あらゆる情報を集めて頂戴! まずは敵をよく知らなければ、ね』


「私たちはセシリアの味方よ! 何でも言って頂戴!!」

「はい、そうします」


敵はグレッグ・スターライド及びそれに纏わる全て。

何故、私が生物学上ってだけの父親の金の道具にならなきゃいけないの? ふざけるな!私の幸せ壊すなら覚悟してくることね!! 私は私の居場所を守ってみせる!

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