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86、シルヴェスタ公爵家の最後−2

諦めきれないルクレツィア王女は学友にセシリアを入れたいと強請った。

しかしこちらも却下された。

極秘だが、優秀なブライト兄妹はアシュレイ王太子の側近として働いている為と説明された。それに、『ブルームとも縁を断ち切るために、セシリアがフリーであってもルクレツィアの側には置かない』と王妃陛下からも言われてしまい、もう絶対にブルームとは縁を結ばせて貰えないと知り、また落ち込んだ。


何故? わたくしでは何故駄目だったの!?


直接聞きたい! わたくしでは何故駄目だったのか、わたくしは王族だし、顔だって悪くない、いいえ正直言って可愛いわ、それにブルームの為に努力も出来る、我儘もちょっぴりは言うけどそこまで酷くないと思う! お金は伯爵家では大して無いかも知れないけど、わたくしと婚姻すれば、王家から支度金も出るし、月々の支援金だって出る!そうなれば生活の補償もされ良いことばかりでしょう? それなのに…それなのに何故 わたくしでは駄目だったの!?


悶々と考えてその勢いのまま、ブルームの学舎まで来て彼を呼び出した。

王女とは言え、正当な理由がない者は通す事が出来ない。

ここで権力を振りかざす事は出来ない。引き下がるしかなかった。

休み時間の度に足繁く通った。

だけど噂になると困ると、侍女からアシュレイ王太子殿下へ密かに話せないかと相談があって、普段ストーキングしている事が発覚。


「暫く任務で王都にはいない。仮にいてもお前たちの橋渡しはできない、ブルームとルクレツィアとの婚姻は認めない、いや誰とも出来ない理由がある。相手が誰であってもしないのではなく出来ないのだ、ルクレツィアには相手の気持ちを慮るように言ってくれ。ブルームが今 理由を明かして断ったのはルクレツィアや王家に対する誠意だ、それを理解してやって欲しい」


思ったより重い内容だったみたいで侍女もそのままルクレツィアに伝えた。

それでもどうしても理由が知りたかった。行き場のない思いは冷めるどころかますます熱されて行った。




シルヴェスタ公爵 捕縛のための隊が組まれて向かっている。

責任者であるウィンザード魔術師団長にはセシリアとブルームたちの参加が伝えられているが、他の人間は知らない。

ウィンザード魔術師団長が部屋で仕事をしていると、突然頭の中で声が響いた。


『ウィンザード魔術師団長、セシリアです。少しお邪魔しても宜しいでしょうか?』

「はっ!?」

辺りを見回すが何もない。取り敢えず返事をしてみる。

「ああ、構わない」

すると目の前にセシリアとリアンが現れた。


『本当に現れた…』

この部屋は魔術師団長の部屋だ、当然 侵入防止の魔法陣が張られている。それを易々潜り抜けてきた。それに敵意を持った者に対する様々な術式の魔法陣や魔道具で何重にも仕掛けがしてある、何一つ反応するものはない。何をやっても彼女たちには無駄なのだろうか? 敵に回せば恐ろしい脅威だな…。


「突然お邪魔してすみません。ウィンザード魔術師団長様」

「やあ、いらっしゃい。今日はどうしたのかな?」

平静を保ちにこやかに返す。


「王太子殿下から聞いてらっしゃるかと思いますが、今度の遠征 魔術師団長自ら出兵されるとか、それに同行するよう申しつかりました」

「いや、その件はこちらも申し訳なく思っている。こちらでも何度となく優秀な者を派遣しているが…全滅だ。情けないが正直手詰まりだ。まだ学生の君たちを巻き込んで…こちらこそ申し訳ない」


ウィンザード魔術師団長の目には悔しさが滲んでいた。

セシリアからヒントを聞いて、十分検討し対処を考えて優秀な者を派遣した。だが持ち帰られる報告は毎回無情なものだった。我々はなす術なく手をこまねいていた。消えた人間はどこに行ったのか? 何の痕跡もないまま、消えた者たちの家族に遺体も何もないまま『殉職した』と伝える苦しさ。1つの作戦が失敗し、更に手探りの作戦で向う兵士の遺言を預かりながら送り出す苦しさ…、あまりに無力だった。この国最高峰の魔術師団と謳いながら、今までにあった事象にしか対応出来ない。

この職位に就くまでも魔術に並々ならぬ情熱を注いできた。だが、虚しくも知らない事が多すぎる…、未だに有効な手段を見出せていない。故に今は藁にも縋りたいのだ。


「早速だは、作戦を教えて欲しい」

「実はまだありません」

「……そうか」

「強力な結界をかけると内側から魔法を使えなくなるし、シルヴェスタ公爵の魔法がどれほど強力かも分からない。だからやっぱり現場に行ってみることにしました」

「そうか、かなり危険だぞ?」

「ええ。以前行った時は、部屋の肖像画が幻影を見せる鍵になっていましたが、私たちが建物に足を踏み入れても、姿を消すような事はありませんでした。ですから、この魔法はシルヴェスタ公爵が自ら魔法を使っていると考えるべきだと思います。今 考えているのは、ロナルドが使っていた魔力を吸い取る魔鉱石を投げ込み吸い込ませてみたらどうなるか、と」

「ああ、確かに…、人間の魔力であれば、上限はある訳か…、復活する前に弱ったところを叩いて魔道具を嵌める」

「ただ、そう上手くいくかは疑問です。あの北の領地は側に公爵が不在でも術中にあり、使用人たちもまた長年シルヴェスタ公爵の術中にいた訳です。一筋縄ではいかないと思います」

「…………ああ」


「王太子殿下にもお話ししましたが、彼方でも私たちは姿を表すつもりはありません。そこでウィンザード魔術師団長が彼方に着いたら、着いたと教えてくだされば、転移で向かいます。そこでまた実際に見て打ち合わせをしましょう。もし打つ手がなければ、その時はまた…考えます」

「ええ、分かりました」


セシリアはウィンザード魔術師団長と打ち合わせを終えると、魔道具を渡して部屋を後にした。渡された魔道具は指輪、『これで遠く離れた地まで転移してくると言うのか?』それはとんでもない事だった。魔法陣でマークングしてならない事もない、ただ それでも膨大な魔力が必要だった。それを相手がどこにいるか分からない人物の座標を探し出して転移する。今回はその距離も知っていればこそ、とんでもない事だと分かる。


「はっ、こちらもバケモノだな」


誰もいない部屋に思わず溢れた。

「団長、何か仰いましたか?」

部屋の外にいた護衛に聞かれた。

「いや、何でもない 独り言だ」

くっくっく、流石! 防音結界まで張っていたか!

ふっ、正真正銘のバケモノはこちらの味方だ、今度こそ、絶対決着をつけてやる!!



ブルームはセシリアの屋敷に来ていた。そこで力の使い方をリアンやパンに教わっていた。

今のブルームの体には魔力と聖力が混在しているので、今までの力の使い方だと魔力は使えても上手く聖力は使えない、上手く切り替えないと聖力が魔力を打ち消してしまうため大量に魔力と聖力を消費してしまう、今までの魔力MAXで術を使えなかった。(まあ、人間相手に魔力MAXで戦えば相手はすぐにしんでしまうが) 

調整と加減をリアンに教わりながら練習している。ブルームはセシリアを危険な目に遭わせたくない、今 側にいても盾になる位しか出来ない、これではセシリアに余計負担をかけてしまう。だから真剣に訓練して感覚を掴むべく取り組んだ。


その様子を見ていた伯父さんも一緒に魔力の使い方を学ぶ。

ブルームもリアンもセシリアの大切な人だと知っているので、怪我をしないように見守る。

ブルームもリアンもセシリアが大切にしている伯父さんに丁寧に色々教えている。


伯父さんの魔法は望愛を助けたいと言う思いが元になっており、元々 平和な国の生まれの為、攻撃魔法系は持っていなかった。ただ、力の使い方を覚えれば、生活魔法は使えそうだったので、それも併せて伝授。伯父さんは魔法のない世界から来たので純粋に面白かった。そして63歳で新しいことを覚える喜びに第4の人生を謳歌していた。


第1の人生は辰巳悠馬としての人生、第2の人生は妻と子供と本来の自分の人生、第3の人生は全てを失い絶望の中で同じく孤独な望愛との生活、そして再び生きる目的だった望愛を失い絶望し…どん底の人生、第4の人生は失ったものを再び取り戻しやっと肩の荷を下ろし、人生を謳歌している望愛の幸せを見ながら自分の人生も楽しめる位置にある。それが魔法と言う奇天烈な世界でまるで少年に戻ったような、冒険譚に入り込んだようなワクワクする感じで毎日を過ごしている。


それにセシリアが作った『ファーム』や他の店も安心材料の一つであった。望愛であった頃は自己肯定感の低い、私に金を返すことだけが生きる目的のような生き方で、いつか倒れてしまう、と心配したものだった。セシリアは店の経営や孤児たちの支援を『生きるために必要なことをしているだけ』と言うが、他人と深く繋がりを持てる人間に成長したことを喜んだ。

孤児たちの痛みもローレンの苦しみも…、苦しみ痛みとして捉えるだけでなく、共感し手を差し伸べる強さを持つ成長を見せたことに喜びを感じた。

それにブルームやリアンやローレンは心からセシリアを愛している事がわかり見てて微笑ましい。この世界では愛される人生を歩めている事に胸が詰まる思いだった。


ブルームがここで懸命に訓練しているのもセシリアの為、そう思うと辰巳もブルームたちが本当の子供のように愛おしい。辰巳もまた充実した毎日を過ごしていた。




プリメラは脅迫され呼び出された場所に来ていた。

ドキドキしながら立っていると、愛想の良い男が近づいてきた。


「聖女プリメラ様ですか?」

「え? ええ、はい」

「宜しければあちらでお茶でも如何ですか?」

「………、ごめんなさい ここで人を待っているので…すみません」

手紙の主が誰かを知らないプリメラには確かめる術がない。誰でも構わずついて行く訳にはいかない。


「そうでしたか、ではまた」

『ふぅ〜、違うのね』

こんな事が3〜4度あった後、また男が近づいてきた。


「あちらでお茶でも如何ですか?」

「ごめんなさい、待ち合わせをしているので」

耳元に顔を寄せて、こっそりと告げた。

「あの映像がばら撒かれたくなければついてきてください」

『あ、この人がそうなんだ』

顔は上品な紳士だった。とても恐喝する様な人間には見えない。

今までに会ったことはない筈…。

年は、40〜50歳くらい? 髪や口髭に白髪が混じりロマンスグレーって感じ、身長は170cmくらい、お腹は出ていない、マッチョでもなく普通、あっ靴は高級そうなの履いてる、匂いは…シトラス系? マルスってこの人なのかな〜?


言われた通り、男の後をついていく。

促されるまま馬車の中に乗り込み、目的地も分からない、帰って来れるかも分からない、自分の身がどうなるかも分からないまま、無言で馬車に揺られていく。


「貴方が手紙を送ってきた人? ねえ、何が目的なの? 私をどうするつもり?」

「まずは騒がずについて来た事は褒めて差し上げますよ? 因みに貴方に声をかけた者たちは全員こちらの手の者です。貴方が誰か連れて来ていないか確認させて頂きました。

貴方をどうこうするつもりはないですよ? こちらの要望を叶えてくだされば…、丁重に扱い元の場所へお送り致しますよ」

「要望って何? 私に何させるつもりなのよ!! うぅぅぅ」

「聖女には聖女の仕事をして貰うつもりですよ? ……あ゛あ゛―、泣かないでください、煩いのは嫌いなんです」

「……うっく」

「あー、誰かに話しましたか?」

何も言わずに男を睨みつける。


「懸命な判断ですね。流石に男に股を開いて乱れている姿を見せるのは躊躇しますものね。ふふふ 賢い方は好きですよ。んー、では少しだけお話しすると、仲間が怪我をしているので治して欲しいだけですよ」

「怪我? モモちゃん連れて来てないから回復魔法は使えないわ?」

「ああん!? ふざけるな!! ちっ、予定が狂うな…、そのモモちゃんはどこにいるのだ!」

「寮にいるわよ…」

紳士的な口調が荒くなりビクッとしながらも男を睨むプリメラ。


「…ちっ! おい、学園の寮に向いなさい! おい聖女様 そのモモちゃんを連れて来なさい! 誰かに言ったら殺すだけじゃなく、あの映像ばら撒くからな!!」

「ひっ! ひーん、ひーんモモちゃん怖いよぉ〜」

夕闇が濃くなる中、馬車は学園の寮に向かった。


モモちゃんはプリメラに『今日はお留守番しててね』と言われたが、嫌な予感がして姿を消して同行していた。だから何が起きているのかも知っている。プリメラが自分を迎えに来ると姿を現して待っている。残念ながらプリメラは魔力が多くないのでモモちゃんと意思疎通ができないのだった、だからプリメラの声は聞こえてもモモちゃんの声は聞こえない。


モモちゃんと合流するとプリメラは

「ごめんねモモちゃん…あなたを連れて行かなくちゃ…いけないの。悪い人たちだから何されるか分かんない…。モモちゃんにね、助けて欲しい人がいるって言ってたけど…本当かどうかも…分からない。モモちゃん、危ないと思ったら逃げてね! それでアイツらがいなくなったら私を助けて! 絶対捕まらないでね!!」


モモちゃんはプリメラを人質にして自分を酷使するつもりではないか、と考えるが敢えて頷いて見せた。モモちゃんも聖獣、回復魔法以外も使えるのだ。


モモちゃんを肩に乗せたプリメラはまた男の馬車に乗り込み出発した。

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