84、乙女ゲームの外の世界
プリメラは考えていた。
現在第2学年へと上がり、アシュレイ王太子殿下は第5学年で最終学年となった。
本来はアシュレイ王太子殿下が卒業のタイミングでディアナに対する断罪イベントが起きるはずだったのに、ストーリーが色々変わってしまっていた。
まずアシュレイ君 ゲームでは王太子ではなく王子のままだった。
アシュレイ王太子卒業の断罪イベント前にディアナが退場してしまった。悪役令嬢 もうおしまい?
攻略対象者が誰も私プリメラに言い寄ってこない、イベントが発生しない。何故に? イベントの場所に行っても起きない。なんでなん?
乙女ゲームの中に転生したんだから、ずっと同じストーリーを辿る物じゃないの?
あれ? 何か間違ってる? 何か引っかかる…なんだろう…? 分かんないや。
私はアシュレイ、グラシオス、ベルナルド、ローレン 誰を選択したんだろう?
あれ? クエストは? このゲームって誰がプレイしてるの?
もしかしてだけど…、ヒロインは私だけど、操作している人は別にいるとか?
えっ? まさか友達エンド?
イヤイヤイヤイヤ…、それにしてもミッションも何もしてないし、そもそも選択肢が3つじゃない!! 完全フリーってどう運んだら良いか分かんないって!! コマンド見れないし。ステータスも分かんない。
あれ? 最近…攻略者と一緒に過ごしてない。
それに魔獣が王都を襲うとかって設定無かったよね?
何が、どうなっているのーーーー!!
主人公は私…なのよね??? 私のハッピーエンドってどうなるの? ここって乙女ゲームの中だよね?
攻略対象グラシオスの婚約話しが出ていた。
父からの再三に渡る見合い話もなかなか良い返事をしなかったが、今年が最終学年のため、卒業すればそのまま王宮勤めとなる、そこで今年婚約を整え卒業後、結婚となる手筈だ。セシリアが婚約し付き物が落ちたように、婚約自体は了承していたが、これと言う人物には出逢えなかった。今回アシュレイ王太子殿下の婚約者選定でバーナー侯爵家が目をつけていた人物も、アシュレイ王太子殿下の候補者となってしまった。そこで早急にアシュレイ王太子殿下のお相手を決める方向で動いた。
アナスタシア・マルゴット 侯爵令嬢 18歳
タフィナ・セヴィリール 公爵令嬢 18歳
ソレイユ・キャストレイ 公爵令嬢 19歳
リディア・エヴァレット 公爵令嬢 17歳
アシュレイ王太子殿下の婚約者候補はこの4名まで絞られた。
リディア以外はブルーム・ブライトが本命だ。王族が伯爵に負ける…アシュレイ王太子殿下、残念。
エヴァレット公爵家は言わずと知れたルシアンの妹だ。
エヴァレット公爵家も前回の候補に入れても良かったが、当時はルシアンの婚約者のエレンの姉のアリエルが候補に入っていた為、辞退した形だった。まあ、その当時はディアナ・シルヴェスタが大本命で後は出来レースだったので、無理をする必要性もなく、縁を結ぶブルーベル侯爵家を優先させた。
それにリディアには元々婚約者もいた。だが今回シルヴェスタ公爵家の粛清の煽りを受けて、お相手が領地の一部を売ったりと何かと落ち着かないので、あちらから婚約を白紙にしたいと申し出があった。あちらとすればエヴァレット公爵家との繋がりは欲しいが、この弱っている状態では吸収されてしまうのは目に見えている。しかも若いがルシアンは新たな事業『レガシー』で大儲けしている、既に取り尽くしたであろう鉱山を使って再び流行を生み出し、死に体の休眠状態の鉱山を再び輝かせた。決して侮れない人物だった。それに恐らく内情は既に調査済みだろう、支援の申し込みでもすれば、家ごと取り込まれてしまう…、今は家を存続する為に、金持ちの平民あたりが丁度良い。そんなところだろう。
そう言った訳で、シルヴェスタ公爵家の事件以来、余波を受ける家が続出していた。
リディア・エヴァレットはブルーベル侯爵家の件もなくなり、断る理由もない為選ばれた。
この4人の中に入らなかった為、グラシオスはケイティア・ハービル伯爵令嬢に婚約を申し込むことになった。このケイティアはセシリアが入学した時に校内を案内してくれた女性だ。兄も王立学園で教師をしているように、非常に優秀な家系だ。そして欲深くない、平凡な家。
今回 様々な所で余波が出ていると言った通り、多くの貴族はシルヴェスタ公爵家の恩恵にあずかろうと媚を売ってき傘下に収まっていた。シルヴェスタ公爵家は商売を陰で牛耳っていた事もあり、シルヴェスタ公爵家と一緒に利益を貪っていたファブシーやヴェスタ、シルヴァータなどに関わりがあるものとなると、王都で仕事をしている者は殆どと言っても過言ではない。例えば今回ディアナの処刑は延期となったが、『S』のマークの刺青の入ったシャングリラの人間は容赦なく見つけ次第次々処刑されて行った。ペンダントなどの小物の場合は取り上げて暫く牢に入れた。セシリアのお陰で額に『S』が浮かび上がっているので間違えようもない。
シャングリラの主要メンバーはロナルドが目をつけた魔術師とシルヴェスタ公爵の子飼いの密偵たちが主だ。そこで温情をかけても危険と判断し、処刑となった。魔道具による強い洗脳もあったが、危険な思想をすぐそばで見ていたとなると、第2、第3のロナルドやシルヴェスタ公爵を作ろうとしてもおかしくない、魔力を貯める方法は知っており、魔道具で人を支配する事も知っている…、処刑以外の道がなかった。
それにヴェスタやシルヴァータの責任者も暴力を働いていた荒くれ者たちも全員処刑となった。本来はここら辺の人間は強制労働や奴隷刻印で他国に売られる事が多いのだろうが、見せしめと、シルヴェスタ公爵が捕まっていない今、反撃の目を摘むために次々罪名を明らかにした上で公開処刑をおこなって行った。
大なり小なり関係者は多く、無関係な者を探す方が大変だった。
権力に執着せず、金に固執せず、普通の感覚を持った家と令嬢、最早 天然記念物ばり。
そこでシルヴェスタ公爵家に並び立つことが出来る高位貴族か、平凡かの2択で、グラシオスはセシリアを見つめていた時に隣にいた令嬢を思い出した。
あのセシリア嬢が側に置く者…。調べてみるとやはり家柄は至って普通だが、好奇心旺盛な勤勉な者だった。そこで父親に彼女を迎えたいと話をした。
父親は宰相職にあり、『邪魔にならない者であれば構わない』と了承していたが、申し込む前にアシュレイ王太子殿下の婚約者候補で、未婚女性でかつ婚約者がいないとなると、自動的にケイティアも候補に入ってしまった為、一時保留されていた形だ。
そして今回 候補が絞られていく中、無事に落ちてくれたので申し込めることとなった。
まあ、家格からして向こうから断ることは出来ない、よって決まったも同じだった。
ベルナルドはと言うと、凄く真面目に騎士訓練をして上達していた。
セシリアと親しくなれ、との父親命令は取り消され『親しい友人』で構わないとなった。セシリアだけではなく、ブルームとも親しい友人になれ! ベルナルドは困惑した。ブルームと親しい関係?
父は詳しい話をしてくれなかった。
ただ 『あれは我々の手に負える者ではない』と言い残した。何を言っているか、全然分からない。
まあ、一つ良かったと思うのは自分はセシリア嬢に全く相手にされていない、この状況から彼女に関心を持ってもらうのは不可能と言うことだ。父親の期待に応えたいが、アレは無理。
王子にもグラシオスにも落ちない女、すぐ側には完全無欠のイケメン兄ブルームがいては、誰もが引き立て役だ。しかも婚約してくれたことでやっと、無謀な策は自分には荷が重すぎたと気づいてくれたようで安心した。 でも父親がどこか怯えているように見えるのはなんなのだろう? まあ いっか。
そして私にもとうとう婚約者が出来そうな予感。
今まで女は煩わしいと思っていたが、真面目に訓練して、軽薄な態度を改めたら、寄ってくる女性の系統が変わった。今まではどの女性も見た目が好みだとか、連れて歩くのに良い、本気ではない女性が多かったように思うが、今は『応援しています』と声をかけてくれる控えめな女性が多く感じる。大半の女性がブルームに吸い寄せられていくから…なんてことはないだろう!
私の婚約者候補は騎士を輩出している家柄の女性だ。
ゴリマッチョみたいな女性ではごめん被るつもりだったが、遠目で見た女性は普通の女性で安心した。ただ、小さい頃から兄や弟たちと訓練をしていたので剣を振ることが出来るらしい。それを聞いてますます好感が持てた。大人しいだけの女性には…結婚相手には向かない気がしたのだ。遊び相手ならどんなタイプでも構わない、でも結婚相手は健康的で一緒に馬をかけられるような溌剌としたタイプが良いと最近思っているからだ。
決まったら、お手合わせ願おうと思っている。
ローレンは未だ落ち着かない闇の中にいるようなものだった。それはやはりシルヴェスタ公爵が捕まっていないからだ。
周りも今はシルヴェスタ公爵家の人間ではない、と言われてもイマイチ切り替えられずに、ただ『アイツは上手くやったよな』そんな反応だった。ローレンは針の筵。
ただそんな中でも、アシュレイ王太子殿下は側近として側に置くし、同学年のセシリアは一緒にいるところをよく目にするようになった。2人はとても自然な関係でお似合いに見えた。
『セシリア、ローレン』と呼び合う2人に、皆その関係を勘繰っていた。とは言ってもテストでは学年1位2位、品位も成績も容姿も何一つ勝てるものもない。ただ遠巻きに見ているだけ。
セシリアはケイティアとも一緒にいる。
他の人間は物怖じしてセシリアに近づけないが、最初に案内役をやった事もあり、知らない事はケイティアによく聞くのだ。ケイティアも面倒がらずに教えてくれる、偶にケイティアでも知らないことは兄に聞きに行ってくれる。ケイティアも自分の結婚相手の事よりも学ぶ事が楽しいらしく、他の令嬢とよりはセシリアの方が話が合う。ただ身分的には同じ伯爵家なのにセシリアは目立つので、気後れしていたが中身は案外サッパリした性格だし、嫌なことはやんわりとしないで済む方向に持っていくのが上手だった、それは是非とも見習いたい。
最初はセシリアがいる時に、ローレンとケイティアの3人でいるところを見ることが多かったが、最近はセシリアがいなくてもローレンと一緒にいるところを見る事もある。
ケイティアもローレンのイメージは、シルヴェスタ公爵家を背負い高慢な人間に見えていた。
セシリアが入学するまでは常にトップで、この学年の代表挨拶もしていた。まさに雲の上の存在でこんなしがない伯爵令嬢とは、授業で強制的ペアでもなければ話すことどころか近づくことも出来ない存在。まあ、実際に話しかけても虫ケラを見る目で相手にして貰えないって噂だったが…。まあそんな相手と普通に話している自分は肝が据わっているとケイティアは思っている。
だが、セシリアと同じで話してみると、内面は自分達と変わらない同年代の普通の人間だと思うようになった。今までは少し人を見下した感じがあったが、国内最大の筆頭公爵家を継ぐプレッシャーも、家の風潮もあったのだろうと思えた。それは私たちの様な、ものの数に入らない伯爵家では分からない苦悩があったのだろうと。セシリアと話している時のローレンはその仮面が剥がれる、彼を知るようになってその違いが分かるようになった。今も仮面を被って侮られないように、食われないように必死に戦っているのが分かった。だからセシリアは孤独にならないようにローレンの側にいてあげるのだなと理解した。私も友人が頑張っているのだから側にいるとか応援ぐらいはしたいと思った。
それにしても意外だったのはローレンだ、あんなに警戒して硬い殻を被っている感じなのに、セシリアに全幅の信頼を寄せていて、私のことも最初見た時は訝しんでいた癖に、セシリアが『友人のケイティアよ』と紹介すると途端に警戒を解いた、そして私に対しても友人として扱うようになった。恐らくローレンにとってセシリアは特別な存在なのだろうと思った。
それから少しして何と私の縁談が纏まった。
相手はグラシオス・バーナー侯爵令息で現在の宰相閣下のご令息様!!
身分違い甚だしい! 天変地異の前触れか!? だって未来の宰相様だぞ!
……それにしても、グラシオス様は…セシリアに気がありましたよねぇ〜。気づいてましたよ?
あの堅物 グラシオス様が女性を追いかけ回すなんて珍しいので噂になっていまスたよ?
ま、まさか! セシリアの友人だから選ばれた!?
なんて疑っていたけど、顔合わせし、ちゃんと話をしたグラシオス様は案外ちゃんと私の事を見てくれていた。その上 正直だった。
私を選んだのは、権力や金や見栄ばかりを気にする中身の無い、煌びやかな人間は苦手だと。セシリアに目が行ったのも、国立図書館で令嬢らしからぬ本を読んでいることが気になったからだと。自分は結婚相手に知性を求める、同じ趣味、同じ本を好きでなくとも良い、でもその本が好きだと言う私に、何故自分は好きではないかを話すことが出来る女性と人生を歩みたいと思っている。そして私は相手が興味あることに耳を傾けたい、何故それに興味を持ったのか、何故それが面白いと感じるのか話をしたい。
上辺だけの『素敵ですね、流石に天才と称されるだけあって難しい事を常に考えてらっしゃる』などの言葉はいらない、私は相手に私について興味を持って欲しいし、相手のことも知りたいと思っています。だから、知性のある方を妻にと望みます。
貴女が図書室でいつも読んでいるのは『昆虫』と『気候』と『魔法陣』に関連ある事ですね? 宜しければどうしてそれらに興味を持ったのか教えて貰えませんか?と言われたのだ。
案外私は、以前からこの秀才にロックオンされていたらしい。
「勿論です。長くなると思うのでお茶でも飲みながら如何ですか?」
こうして始まった関係。
考えてみれば、これもセシリアが繋いでくれた縁だと言えるだろう。
今年もサンフォニウムの季節がやってくる。今年は楽しくなりそうだ。
ブルームは王宮でウィンザード魔術師団長立ち会いの元、医官の診察を受けていた。
その結果にその場にいた者は驚愕し、言葉を失い、アシュレイ王太子殿下に報告された。
だがどうしても信じ難くもう一度検査をさせた、結果は変わらず、その内容を共有する者たち立会の元で書類は作成され、正式に提出された。その場にいた者たちは唇を噛み締め、秘密を共有することにした。
後日、正式にブルーム・ブライトの婚姻は王家預かりとなり、アシュレイ王太子殿下の許可なくば出来ないこととなった。




