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81、後片付け−3

王宮と王都の復興に8ヶ月かかった。

魔獣の被害に遭った地方も王都よりは進んでいないが、順調に復興している。魔法がなければもっと多くの時間を要したことだろう。

ロナルドが何を考えていたかは分からないが、バファローク王国の食料を賄っている土地を中心に破壊された為、一時は食料不足にパニックを起こしそうだったが、王家主導で食料支援を行ったお陰で徐々に平穏を取り戻していった。


ロナルド・マンセル男爵は暫く放置された後、処刑された。

罪状が細かに発表されると、人々の怒りは膨れ上がり処刑を望む者が多く出た。

よってロナルドに自白魔法をかけ詳細を調べ上げると処刑となった。

人々はロナルドを悪魔の魔術師と呼び、処刑された日には悦びに沸いて、酒を飲んで祝った。


表向きはそうだが実際は違う。

ロナルドは『最期の楽園』で飼われている。

何故ならばロナルドは確かに普通の人間より魔力量が大きい、それを利用することにしたのだ。最初は牢に繋いで魔力が貯まると『最期の楽園』の還元され魔獣たちに分け与えていた。毎日睡眠後に魔力が少しずつ復活していくので、魔獣たちは『最期の楽園』の中で目一杯遊んでは、回復魔法で復活し、ロナルドの魔力を浴びて元気を取り戻した。


処刑はいつでも出来る、と言うことで魔獣たちの魔力補給に使われている。

ただ、表面上は処刑済みとなるため表に出す事はできない。そこで『最期の楽園』内部で飼われることになった。『最期の楽園』は魔法空間のため、今のロナルドには自力で破って出てくる事は出来ない。しかも魔獣が見張についている、不穏な動きをすればアシュレイ王太子殿下の魔獣グリフォンのサリュがセシリアに連絡を取る、そして万が一ロナルドが暴走を始めた時は粛清するつもりだ。だが、ロナルドにセシリアの術を破る事は出来ないだろう、つまり生涯を『最期の楽園』で過ごすことになる。



そしてシルヴェスタ公爵家はセシリアの助言通り、ロナルドとの共謀による反逆罪でとして、お取り潰しの上、処刑が決まった。

オスカリア・シルヴェスタ 処刑

シャルロット・ベルサーチ 身分剥奪 平民へ降格 生涯ベルサーチ公爵家で軟禁

ディアナ・シルヴェスタ  処刑


ローレン・シルヴェスタは、随分前にシルヴェスタ公爵家から籍を抜いていた、そしてアシュレイ王太子殿下の手足となって働き、忠誠を誓っていた為今回咎はなかった。と言うより、ローレンに咎がないように動いてきた。ローレンはマルゴット侯爵家に養子として入った。

レイモンド・マルゴット 王都 警備副騎士長は多くの国民に正義の人と認識されている為、そのマルゴット副騎士長の家に養子に入った事で、ローレンの正当性を示した。


ローレンは、ローレン・マルゴットとなり、かつての義姉ディアナに会いにいった。


牢屋の中のディアナはボロボロのドレスを見に纏い、薄汚く痩せ細っていた。その姿に胸が詰まる。

王都の流通はセシリアのお陰で食べるのに問題は無くなっていた。囚人といえど以前のような芋1個と言う事もなくなり、今は普通に質素だが3食出ている。つまりディアナが痩せ細っているのは精神的に追い詰められて食事が喉を通らないからだ。


「ディア…」

牢屋の中のディアナに声をかけた。

虚な瞳のディアナが地面に座ったまま、声の主を見上げた。

声の主がローレンだと分かると、ポロポロと涙を零した。

「ロー…なの?」

「ああ。ちょっと待って清浄魔法をかけるから」

かつての義姉とは思えないほど、薄汚れ悪臭を放つディアナにそっと体と服を綺麗にする魔法をかけた。だがどうでもいいようだった。


「貴方…何故 外にいるの? ねえ、今どうなっているの?」


「………何が聞きたいの?」

「お父様は何をしていらっしゃるの! ノーマン子爵家は何を! 何故わたくしがこんな場所にいなければならないの!? 早く連れ出して頂戴!! わたくしをこのような目に遭わせた奴らを1人残らず殺してやるわ! 一番許せないのはマルゴットね! ねえ、わたくしの影はどこにいるの? 連れてきて頂戴! それから…、わたくしが何日ここにいると思っているの? わたくしの従者は何をしているのかしら!何の差し入れもないなんて。いいえ、それより早くここから出して頂戴! お母様は静かになったけどどうなさっているの? きっとここでの生活が耐えきれず泣いていらっしゃるのね…、早くお母様も救い出して差し上げなければ。それから…」

ブツブツと思いつくままに口に出す、昔のような理路整然とした話し方をしない、かつての義姉が失われた事が今はただ悲しい。


「ディア! ディアナ! 落ち着いて」

「え!? ええ、ふぅー、ごめんなさい……ここは考える時間が多くて、したい事が溢れてしまって…。出てからゆっくり話すわね、さあ出して頂戴」


「ディア、落ち着いて聞いて? シルヴェスタ公爵家は反逆罪で取り潰しとなった。もう、シルヴェスタ公爵家はどこにもないんだ」

「ロー、何を言っているの? 馬鹿なこと言わないで? 笑えない冗談だわ」


「お義母様は、お義父様と離縁し現在は平民となりベルサーチ公爵家で軟禁されている。ベルサーチ公爵家を出る事があれば、捕縛され処刑となる。

お義父様は捕まってはいないが、屋敷に監禁されている状態だ。捕まり次第処刑が決まっている。抵抗すればその場で首を落とすこともやむ無しと命令が出ている」

「はっ? 冗談でしょう? 処刑? 待って、お母様はここにいないの?いつ! 何故お母様がここから出る時…わたくしを連れて行かなかったの? わたくしを置いてご自分だけ帰ったですって!?」

「ディアナを連れて行けなかったのは、ディアナ自身が罪に問われていたからだよ?

ソディックを使ってプリメラ・ハドソンに対する誘拐未遂や様々な嫌がらせ、取り巻きの令嬢に対する暴行教唆、事件の証拠隠滅・揉み消しを図ってソディックの殺人教唆、その後も使用人の殺害・暴行、プリメラ・ハドソンの家を故意に嵌めて破産に追い込んだ事、執拗な嫌がらせ……、それらの罪の首謀者として裁かれていたから出られなかったんだよ」

ローレンの顔は口調こそ同情的だったけど、顔は無表情だった。


「な、な、何を言っているの!? ソディックの件は終わった事でしょう? 全てはソディックが罪を背負って死んだのだから証明のしようもないのに、今更何を言っているの!!

それに…、ナディアやシャクランの事も既に終わった事でしょう!?」

「ディアナ、ディアナの中では終わった事でも、被害者の中では今も悪夢の中なんだよ? ………兎に角、ディアナは当事者だから出る事は出来なかった。全ての嫌疑でディアナの指示だという証拠も提出されている、ディアナの有罪は確定したんだよ」


「生意気ね。わたくしがここから出た時は全員殺してやるわ! ねえ…ロー、わたくし芋を齧ったのよ? 地面に座って横たわって、硬い地面の上で眠ったの! 湯浴みもできず同じドレスを何日も着て髪から異臭が出る…この屈辱は忘れない、絶対に倍にして返してやるわ!!」


「芋を齧っただけで復讐を誓ったみたいだけど、芋を齧っているのはディアナだけじゃない、お義父様と共謀したロナルドのせいで流通はストップして王城で働く者たちもここ王都に住む者たちも皆 芋を齧って耐えてた、勿論僕もね。その怒りの矛先であるシルヴェスタ公爵家への恨みは凄まじいものがあるよ。


ふぅ、ディアナはね、明日 処刑されるんだ。今日は最期の挨拶に来たんだよ?

ああ、そうだ 言い忘れていたけど、ソディックは生きていたよ、そしてディアナの過去の所業を暴露していた、証拠付きでね。昔は慕われていたのにね、ディアナが変わってしまったのか、それが本性だったのか…残念だよ。

もう二度と会えないからこれだけは言っておくね、小さい僕に優しくしてくれて有難う。反省して…死ぬ時は安らかに眠ってね。じゃあね さようなら」

「え? 待って! 処刑って何? 冗談でしょう? 嫌よ! 待って!」

ディアナが牢の中からローレンに必死に呼びかけるが、ローレンが振り向く事はなかった。


その様子を見ている者たちがいる事に気づかなかった。




プリメラ・ハドソンは王立学園が休校となり皆が家に帰る中、帰る家がなかった。両親は親族や知り合いを転々としている為、帰れなかった。

そこで、プリメラは声をかけてくれる友人の屋敷を泊まり歩いていた。本来ならば王家で保護するところだが、王城も被害があり余裕がなかったのでそうなった。


聖女プリメラはどこに行っても上げ膳据え膳で特別な歓待を受けていた。王都に食料がない中でも招待してくれる家は、自領から送らせた食料で生活には不自由がなかった。

流石にパーティーなどは自粛されていたが、親しい友人を屋敷に呼び、ちょっとした食事会やお茶会は内輪で行われていた。


プリメラは王都復興の際に傷ついた兵士や疲労困憊の職人たちのところへ赴き、モモちゃんの回復魔法を使って多大な貢献もしていた。プリメラの名声は更に高まっていく。一部ではアシュレイ王太子殿下の婚約者にしたらどうかと話しが上がってきていた。

だが、アシュレイ王太子殿下は首を縦には振らない。それは過去のプリメラの人となりを知っているからだ。それと、回復魔法で実際に貢献しているのは『聖獣モモちゃん』であってプリメラではない。聖獣が万が一失われた場合、残るのは……。それにプリメラには王妃としての資質はない。この意見を汲んでプリメラは王太子妃候補から外された。


だが、情報が入らない者たちはプリメラに取り入ればいずれ王太子妃との太いパイプが作れると、欲深い者たちは菩薩の顔で近寄り甘言を吐いてプリメラを持ち上げた。

どこへ行ってもドレスに宝石に美味しい食事を提供される、プリメラは文字通り 身一つで各家を渡り歩いた。その中で悪い遊びも覚え始めた。


所謂 乱交パーティーのようなものだ。

自粛された禁欲的な風潮の中、こっそり行われる秘密の仮面舞踏会、仮面をつけて会員制のパーティーに忍び込む。

仮面をつけてパーティーコードを合わせておけばバレる事はない。元から身割れしないための仮面だ。中には冷え切る夫婦仲の捌け口に来る者もいれば、一夜の遊びの来る者も、気持ちの良いセックスを覚える為に来る者もいる。

政略結婚が常の貴族社会では、義務的に抱くだけで子供ができれば互いに他所に愛人をこっそり作っているなんて事もある。お酒を飲んで男女の駆け引きを楽しみ、気分が乗ればそのまま気に入った者と朝を迎える。互いに詮索はしないのがルール。娯楽がない今 流行っている遊びだ。


プリメラにとっては耳触りのいい言葉は聞き慣れた言葉ではあるが、今までは品のいい学園と言う限られた空間、強引に迫られる事はない。それがここでは口説くのにいきなり腰に手を回し、耳元にイケボで甘く囁かれる。ジッと見つめられて渡されたグラス、ドギマギしながら口当たりのいい酒を飲み、体を寄せ合ってダンスをする。ステップなんて気にせず仮面越しの瞳を見つめ、互いの温度、匂い、会話を楽しむ。ここには常識なんて堅苦しいことを言う人間はいない。

大人の階段登るぅ〜! 知らなかった世界の扉が開かれ楽しくて仕方なかった。

回を重ねるごとにドレスも大胆になり、慣れも出てきて、仮面越しの顔馴染みも出てきた。

悪い遊びを教えたのは、ソニア・キリング伯爵令嬢。2週間ほど滞在して別の屋敷に移ってからも、楽しかった会話や雰囲気を思い出してはニマニマしていた。


仮面舞踏会って言ってみれば前世のクラブって感じ?行ったことないけど。やっと門限も緩くなってきたのに死んじゃったから。どの世界に行っても若者たち?が求めるものは同じだなと思うと、青春を謳歌している!って気になって楽しかった。一夜のお遊びをするつもりはないが、お酒と香水と人目を気にせず甘えられる時間は刺激的だった。


あーあ、ソニアちゃんの所は楽しかったな…。


他の屋敷もこれまでと何も変わらず楽しい、食事が終わるとサロンでお話ししたり、お部屋で本の話をしたり、噂話に花を咲かせたり、いつもと同じで楽しいけど、もっと楽しいことを知ってしまった今となると物足りなさを感じていた。


今滞在しているのは、ハナリア・スマイラー子爵家、そこへソニアから招待状が来た。

『カラルーニャ国から美味しいワインが届いたので、ご一緒に食事でもいかがですか?』


仮面舞踏会ではないけど、ソニアからのお誘いはまた何か楽しい事があるのでは?と思えて嬉しくなった。そこで、ハナリアと共に食事に呼ばれる事にした。


美味しい食事に美味しいワインに楽しい異国の話し、やはりソニアは楽しい人だった。

ソニアの部屋で甘めの果実酒を飲みながら、異国の楽器を見せて貰っていた。

自国にはない音の響きに、異国のちょっとエッチな物語に顔を赤くしながらもキャーキャー言いながら夢中になっていると、ハナリアがベッドに横たわった。


「大丈夫!? ハナリア!!」

「うふふ、ハナリア様ったらお酒が結構弱かったのね。この果実酒は口当たりが良くてつい進んじゃうけど、飲みすぎると酔ってしまうのよね」


そうだったかしら? ハナリアはそんなにそんに飲んでいなかったと思うけど…?


「スマイラー子爵家には今日は泊まるって連絡するので、プリメラ様もお泊まりになって行って! ね?」

「ええ、有難う」

ハナリアは執事が来て別の部屋に移動し寝かせて貰った。

苦しそうな様子もないし、顔色もそこまで悪くない、ソニアの家の侍女もついててくれるというので、部屋に戻り飲み直す事にした。


「ハナリア様は明日まで目覚めないかも知れませんね」

「まあ、そうなのですか?」

「そうだわ! 仮面舞踏会の招待状を頂いていたのだったわ! 少しだけ覗いてみません?」

「まあ!でもハナリア様がお休みの間に置いて行ってしまってもいいのかしら?」

「置いていくと言っても私の家ですし、3〜4時間の事ですもの、運動がてらいかがですか?」

「……でも、何も準備してなくて…」

「それでしたら心配要りませんわ! 以前の衣装が残っていますもの!」


少しソニアちゃんが強引にも感じたけど、プリメラも仮面舞踏会に嵌っていたので、嫌よ、駄目よと言いつつ気持ちは向かっていた。時間がない、いそいそと準備して化粧して、その時間もJKっぽくて楽しんだ。


ソニアは以前の衣装があると言っていたが、以前着たものではなく、更に際どいドレスだった。胸元は紐で組まれていて谷間はガッツリ見えているし、ドレスの裾は折り重なるシフォンスカートが何枚も折り重なって可憐だが、スリットが際どく回転すると花弁のように広がり足が丸見えで、ステップによっては太腿まで丸見えだった。そして背中がパックリ割れていて首元でリボンで結ばれている。うなじのリボンを解くとドレスが落ちてしまう。心許無いドレスだった。


「ね、ねえ ソニアさん、このドレス…私には少しセクシー過ぎるわ。もしダンス中にでも後ろのリボンを外されたり、背中から手を突っ込まれたらと思うと不安で…」

「確かに…ごめんなさい。他のドレスを用意しますね、………あっ! どうしましょう! 先日ドレスを下げ渡ししてしまって、他にはないわ…。どうなさいますか? やはり今日は止めておきますか?」


プリメラも流石に『仕方ないからこれで行く!』とすぐに決断は出来なかった。

その様子にソニアが打開策を出した。


「そうだわ! ならこのリボンを前に持ってくれば勝手に解くことは出来ないんじゃないかしら? それから背中は…軽く糸で縫ってしまいますか? そうすれば手を勝手に入れられたりしないわ!」

『まあ、それはいいかも知れない!』

「そう? ではそうしてくださる?」

「ええ、急いで侍女に塗ってもらいますわね」


プリメラが立ったまま簡単にササッと縫われたドレスの背中、鏡越しに確認すると背中から脱ぎ着するようには見えなくなった。これで一安心とプリメラたちは仮面舞踏会へ向かった。

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