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74、罠−3

ワグナール侯爵領は今日も雨だった。

出来ることもないので情報収集と情報分析に徹した。


セシリアの屋敷は現在リアンの眷属のオルカが取り仕切っている。

オルカが各地に飛ばしたリアンの眷属たちの取り纏めもしているので、報告を聞く。リアンはドラゴンなので魔力量が多く、必要に応じて眷属を次々生み出した。これも全てセシリアの為、眷属だけではなくいつの間にか各地に配下まで作っていた。案外魔獣って何処にでもいたんだね。セシリアが望む事は何でもしてあげたいリアン、文字通り魔獣の頂点に立ちセシリアをサポートしていた。セシリアの式神 白いカラスも各地にいるので多くの情報が集まる。

ワグナール侯爵領の宿から度々戻って情報の整理を行う。


シルヴェスタ公爵の真の目的は何なのだろうか?


国内を破壊してしまえば、王権を奪っても立て直すのに相当な時間を要する。

本当の目的は何なのだろう? 魔法国家とは何だろう? この破壊行動の先は何があるのだろう? 


そこで以前作ったセシ的貴族名鑑 自分用を紐解いた。

シルヴェスタ公爵家は代々続く公爵家筆頭で実力も魔力も兼ね備えたまさに名家だ。


父、母、ディアナにローレン 特に変わったこともない。

領地なども現在の当主 オスカリア・シルヴェスタになって更に拡大している。派閥なども盤石で以前よりかなりの発展を遂げている。夫人 シャルロットはベルサーチ公爵家の長女、ベルサーチ公爵家も歴史のある重鎮の家柄、ただ気になったのは公爵と公爵夫人の年齢だ。

オスカリアは50歳、シャルロット夫人は38歳、かなりの年の差婚になる。調べてみたが、ディアナは間違いなくシャルロット夫人の実子で互いに初婚だった。オスカリアに内縁の妻がいた形跡もない。シルヴェスタ公爵家の嫡男であれば、早ければ5歳位には婚約者が決まるものだ、シャルロット夫人が21歳でディアナを産んだとなると、やはりオスカリアの結婚は遅すぎる、前妻が死んで後妻に入ったと言うならまだしも、初婚が31歳とはあり得ない、子孫を残すことは重要な役割の一つだ。何か問題があったのだろうか?


その前の代は……、

ロスティア・シルヴェスタ、母にヘレン・マグワイヤー殿下 他国の王女、長男オスカリア、次男にジュード、妹メルリアン……、変わったこともない。

ん? そう言えば、貴族名鑑を作っていた中で、ジュードやメルリアンの名前は見なかったわ。

「ねえ、ジュード・シルヴェスタとメルリアン・シルヴェスタが何処かに載っていないか確認してみて。ついでに両親ロスティアとヘレンもどうして死んだか調べて!

私の記憶では見た覚えがないの!」

「何だって? でもそれが何?何かあるの?」

「分からない…、でも何となく気になるの。このバファローク王国は既にシルヴェスタ帝国と言っても過言ではないわ、それでも魔法国家を作ろうとする背景が気になるの」


いくら探してもやはり見つからなかった。シルヴェスタ公爵家の当時の当主と次男と長女が忽然と消えた?

「いつ代替わりしたのかしら?」

「誰か詳しく知っている者…、そうだ! ローレンに聞いてみたら?」

「そうね!」


早速部屋にいるローレンの元に転移して突然現れた3人にローレンは飲んでいた紅茶を噴き出した。

「せめてさー、これから行くよ? くらいの優しさはあっても良いと思うよ?」

「悪い、時間がなくて。早速で悪いけどローレンはジュード・シルヴェスタやメルリアン・シルヴェスタと会ったことはあるか? 現当主の弟と妹なのだが」

「叔父と叔母? いや、会ったことはない。って言うか存在を初めて知った。これまでの家の集まりにも派閥などの会合にも、祖父の死を悼んだ集会でも一度も来たことがないし、話も聞いたことがない。ディアナも話をしているのを聞いたことがない」

「タブーと言った訳でもなく話に出ないんだな? 祖父が死んだのはいつだ?」

「ああ、誰も口にしないから…、そう言えば、祖父の命日も知らない。義父上に本当に弟と妹がいたの?」

「ああ、弟とは公爵の2つ下、妹は公爵の4つ下だ。因みに祖母に関しては聞いたことはあるか? 肖像画とか見たことはある?」

「いや…ないな。そう言えば祖母もいつ亡くなったのだろうか? いや、生きているのか? 何も聞いたことがない」

「この屋敷に肖像画はない?」

「今の家族の者しか…、そう言えば地下に鍵のかかっている部屋がある。入ってはいけないと言われて入ったことはないが、両親の部屋も入ったことがない、だが恐らく飾られてはいないと思う」

「じゃあ、少し覗かせてね」

そういうと3人は姿を消して何処かへ行ってしまった。


手っ取り早く3人は分かれて確認に行った。

やはりオスカリアの部屋もシャルロットの部屋も肖像画は今現在のものしかなかった。ディアナの部屋は拡張されていて広い作りなっていた、そこには家族の肖像画とかディアナ自身の絵が飾られているだけ。1階から4階まで全ての部屋を見て回ったがなかった。そこで3人は落ち合い地下へ降りていった。


地下はワインの貯蔵庫、食料庫、宝物庫有るだけだった。

ローレンの言っていた鍵のかかっている部屋は宝物庫だった。貯めに貯めた金銀財宝と言ったところだ。それから、使用人用の別棟があった。そちらも念のため確認に行ったが、特段変わったものはなかった。厩の横に倉庫があったのでそちらも確認に行った。

そこには使わなくなった家具や美術品などが無造作に置かれていた。これらの絵は宝物庫でも良いような価値の物に思うが、気に入らないようだ…。


奥の部屋に置かれている家具は埃が被り忘れられた家財道具が山となって置かれていた。以前使われていた家具たちの墓場と言った感じだ。

被されていた布を捲ると劣化した布が床に滑り落ちていってしまった。しまったと思ったが後の祭りだ。

何の気なしに目をやった、そこに現れた家財道具は一目でかなりの価値と見てとれた。

一流の職人が長い年月をかけて作った一点もの、超一流品だった。何となく残りも布を捲り見ると、そこに型取られた家紋があった、マグワイヤー国の王家の紋章だ。つまりこれらはディアナの祖母ヘレン・マグワイヤーの嫁入り道具って事だろう。セシリアは念のためにカメラでパシャリ。家具以外の物がないかと漁っていると、肖像画を発見した。


「あった…」


大きな肖像画は恐らく玄関ホールにでも飾られていたのではないか、と言うほど大きい物だった。3m×5mはあるか、これは置き場に困るな、などと思って引きで1枚パシャリ。

アップでそれぞれパシャリ。恐らく、この神経質そうな男が祖父のロスティア・シルヴェスタ、赤い髪に金色の装飾品をこれでもかと付けているのが祖母ヘレン・マグワイヤー、父親譲りの榛色の髪に深藍色の瞳の子供が 現当主のオスカリア・シルヴェスタ、少し小さい男の子がジュード、ジュードはヘレン譲りの金髪にペリドットの碧色の瞳でまるで天使のように可愛らしかった。そして更に小さい女の子がメルリアン・シルヴェスタだろう。メルリアンも金髪に父譲りの海色の瞳でこちらもお人形のように可愛らしい顔をしていた。


幸せの象徴であるような肖像画、横にはいくつも小さな写真立て位の大きさの絵があった。手に取るとジュードだった、屈託なく笑う姿の人物画が幾つも出てきた、生まれてから成長する姿が間を置かず無数に描かれ深い愛情が手に取るように分かった。偶にメルリアンの物もあったが圧倒的にジュードのものばかりだった。これは溺愛を通り越して偏愛と言った感じだ。他にある物も恐らくヘレンが特注で作らせたジュードの物なのだろう。

例えばここにある椅子、小さなものから大きいものまで7脚もある、成長に合わせたサイズで用意してある。クッションなどで調整しない、カトラリーも手のサイズに合わせた物。

ここにある物は主人の拘り『一流の人間には相応しいものを』と言う信念が聞こえるようだ。


ローレンにも見せてみたが全く知らないと言う、やはりこんなにも拘りの子供用品があるのに、この家の子供たちに使われた形跡はない。埃の被り方でかなりの年数が経っていることは分かっていた、それに流行もある、ここにある物は40年以上前の物と見てとれた。


ローレンは前公爵夫妻と義父の弟妹を初めて見た。

なんとも言えない感情になった、


「ねえ、義父上は養子なの?」

「いいや、正真正銘の実子だと思うよ」

「そう、まるで私みたいだな、義父上だけ違和感がある」

「ねえローレン、前公爵夫妻をよくご存知の方を知らないか?」

「そうだね…、確証はないけどノーマン子爵家であれば或いは、ノーマン子爵家は代々シルヴェスタ公爵家の側近を務めている。ああ、それとハデス! 家令も代々バーナム家が務めている、現在はハデス・バーナム その前の家令はハデスの父のグレン・バーナムだ!

グレンはかなりの老齢だけどまだ生きてる筈だ! 北の領地を…確か北の領地を任されている。最近はハデスが采配を振るっているけど、長年家に尽くしてくれたグレンには余生をのんびり過ごしてほしいって言って、そこに住まわせている筈だ…」


「場所を教えて、もし話が聞けたら聞きたいの」

「ああ、分かった。 ……そう言えば、買い付けじゃな買ったの?」

少しいじけてみせるローレン。

「実はね、またシャングリラに潜入するつもりなの。だけど魔獣が出たとかで殿下は王宮に戻るだろうから別れたの、ごめんなさい」

「なんだよ、私を連れていってくれてもいいじゃないか!」

「護衛たちとギスギスしてたし…」

「私を連れてく連れて行かないに関係ない、寧ろ連れて行くべきだ」

「だから、ローレンは周りに殿下と視察って言ってたんだろう?殿下が王宮帰るのにいないと不味いだろ?」

「だって、凄く楽しかったのに…」

「悪かったって、ただ私たちも2人で実家に帰っていることになっていたから、また良かったら一緒に出かけような!」

「絶対だからね…。ブルーム! 絶対の絶対だからね!」

「ははは、分かったって」


「それから…ごめんな、シルヴェスタ公爵の家の者として本当に申し訳ない」

「お前のせいじゃない。…お前がシルヴェスタ公爵を継いだ時、一緒に変えていこう! 

なっ! でも、真面目な話、シルヴェスタ公爵がシャングリラのロナルドと何かを仕掛けるかもしれない。お前は気をつけないと巻き込まれる、心して…踏ん張れよ!」

「くすっ、ああ 分かってる! ずっと一緒にいてくれるんだろう? 頼りにしてる!」


こうしてセシリアたちはシルヴェスタ公爵家の北の領地へ向かった。




恐れていたことが現実味を帯びてきた。

魔獣の出現の報告が続々と寄せられる、それは着実に王宮に近づいてきている。

各地で大きな被害を出している、強化された魔獣は途轍もない魔力と圧倒的な魔法で、人間たちを嘲笑い翻弄した。

王都の近くの地域は、王都に近い分警備は手薄だった。それが仇となっている。


ここで意外にも活躍したのが王宮で飼われている魔獣たち。

今までは魔獣騎士の指示がなければ攻撃が出来ない温室育ちと思われていた、ところが指示を出すと魔獣同士で連携をとり攻撃し、相手の魔獣を滅ぼしていった。自分のパートナーの魔獣がイキイキと攻撃を仕掛ける様を見て皆獣魔騎士たちは驚愕していた。相手の魔獣は強い魔法を繰り広げるが、魔獣同士の連携はしなかった。同種族であってもあまり仲間という意識はないようで、個々に持てる力を命令通りにぶっ放す、その結果 別種族でも連携の取れるこちら側にも攻めることが出来た。


何故 こんなにもいい動きをするようになったかと言えば、勿論セシリアの作った『最期の楽園』で日々訓練しているからだ。本人たちは訓練とは思っていない、ただ本能のままの攻撃し遊んでいる。そして目一杯魔力を使い、回復魔法で補充される、を毎日繰り返すうち、当初の倍以上の魔力を保有するようになっていた。攻撃され傷ついたモノも皆 殺す目的ではないので止めは刺さない、それは制限もされている、そこで傷を負ったものは自分の檻に戻ると自動で回復される。そんなギリギリの攻防を続けているので自然と攻撃も防御もスキル爆上がり! 狭い檻で大人しくしているものたちとは経験が違っていた。


黒い魔獣集団は、魔力も魔法も通常の魔獣よりは高いが、戦闘の経験値は高くはなかった。しかも思っていたより王宮育ちは想像より魔力も魔法スキルも高かった、黒い魔獣たちであっても弱い個体がどんどん滅ぼされていった。

戦況はシャングリラの思う通りには行っていなかった。


だが ついに恐れていた事が現実になった。

王宮の上空にグリフォンとサーペントが出現したのだ。

思っていたよりあちら側の駒は多かったが、戦況が思う通りになっていない事から、シャングリラは奥の手といったものを出してきたのだ。必死に応戦する、魔術師団、魔法騎士団、近衛騎士団 総出で王たちを守るために戦う。

キャスター総長たちは内心『もし操られていた者たちがあれほどの数いたのであればこの局面で内側から狙われれば一溜りも無かった』と身震いする、あの時まずは身体検査で内通者の特定をすぐした事に感謝した。

背中を預けられる部下に後ろから刺されたとあっては、死んでも死に切れん。


そして姿を見せたのはかつての同僚 ロナルド・ダンヒル 魔法の天才と呼ばれた男だった。その腕にはもう魔道具は嵌っていなかった。


「お久しぶりですね 皆さん。如何ですか、私の可愛い魔獣たちは?

あなた達がかつて馬鹿にした私の魔法に翻弄される気分はどんなもの…くっくっく。 

あははははははは、ああそうそう、お礼を言わなくちゃ。あなた達が間抜けだったから無事に魔力を奪って鍵を盗む事が出来ました。相変わらず化石みたいな頭で常識に囚われているから、もしかしてどうやって扉を開けたか未だに分からないんじゃないですか?

自分たちが時代遅れの間抜けなだけなのに!凡人だからって私を異端児扱いしやがって! 

まあ、どうせもうすぐバファローク王国は終焉を迎え新たな時代と共に魔法大国シャングリラが生まれるのだ! 命乞いなんて無駄なことはしないでくださいね?殺す以外の選択肢は無いのですから! お前たちは最後に殺してやる、己の無力さを恨みながら死んでいけ!! 血筋しか能がない猿が! 聖女だ! 高魔力保有者だなんて言いながら 大した子孫も残せないボンクラが!! この国の滅びを目に焼き付けて死ね!!」


そう叫ぶとロナルドはグリフォンに乗ってあちこち魔法で破壊して行く。

本当の悪夢は始まったばかりだった。

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