67、婚約破棄−2
アシュレイ王子からディアナの元に、夜会には行けない旨の連絡が家に届いていた。
「こんな手紙一つで、間の悪い人。どこへ行ったのかしら?」
部屋にいると父から呼び出しを受けた。
「お父様、お呼びでしょうか?」
「一体何をやっているのだ!」
「何にお怒りになっているのですか?」
「ボーダー伯爵とバリー伯爵が、娘をお前の取り巻きから外して欲しいと言ってきた。どう言う事なのだ!」
「………、学園にいる生意気な女に悪戯をさせていたのですが、その者の周りに人が多くてこれ以上はできないなどと言うのです! 言われた事もまともに出来ないならわたくしが王妃になった際に側にいることは出来ないと言っただけです」
「はぁーーー、今は目立つ行動は取るなと言ってあったはずだ! 大体女1人ぐらい放っておけばいいだろう!この馬鹿が! 以前の事を忘れたのか!!」
「……申し訳ありません」
「お前が前の取り巻きを嫉妬から男たちを雇って襲わせたとの噂は聞いているか?」
「何故、そんな事…今になって!!」
「正式な捜査依頼も入った。お前も取り調べられるかも知れん」
「な、何を!? あの子たちは修道院に入って終わったことではありませんか!」
「父親たちが証拠を集め、警備隊の捜査依頼をした。マルゴット警備副騎士長が主導して捜査している」
「またあの男!! …何故、お父様は圧力をお掛けにならないの?」
「状況が悪いからだ! 様々な疑惑がある時に行動すれば、藪蛇となる! 元はと言えば全てお前の不始末からだ!まったく余計な事を!」
「本当にマルゴットって何にでも首を突っ込んで邪魔ばかり!」
「マルゴットじゃない! お前だ!!馬鹿もの! アシュレイ王子の心は掴んでいるのだろうな!」
「……最近は分かりません」
「何だと!?」
「最近は忙しいと昼食も別ですし、夜会に誘っても断られています。今回の視察だって!
…何も聞いていませんでした」
「視察? どこへ行った?」
「分かりません。明らかに避けられています。ですからその原因と思われるプリメラを排除しようとしたのです!」
「また、その女か。お前より余程魅力的なのだな?」
「いいえ! いいえその様な事はありません。伯爵家は嵌めて借金苦で領地も聖獣召喚の際に取り上げられています。顔も教養も人並み以下です」
「そんなものにお前は負けるのか!」
「うぐっ」
「王宮ではお前の婚約破棄の話が出ている」
「何ですって! 嫌です! 王妃はわたくしの物です!!」
「噂の件は、…ソディックをが首謀者だったと噂を流し、証拠を作る」
ゴクリと唾を飲み込む。
ソディックはディアナがブルームを嵌めようとして間違ってマルゴット副騎士長を嵌めてしまった、がすぐにバレて事件収拾のためにソディックに罪を被せ殺害したのだ。シルヴェスタ公爵は今回の事件も死んだソディックがしでかした事にするつもりだ。
「それは名案ですね! ああ、良かった。やっぱりソディックは死んでも使える子だわ」
「ところで何故お前はこんなにも情報に疎い、やった密偵はどうしたのだ?」
「最近は入れ替わりが激しくて誰が誰か分かりませんが、大した情報を持ち帰らないのです。お前、今の密偵は誰だったかしら?」
「さあ、私が変わった後は一度も見ておりませんので、存じ上げません」
「あー、使えない、役立たずね。やっぱりソディックは優秀だったわ」
「お前は人の上に立つ人間ではないのだな。お前に対する認識を改める必要があるな」
「ど、どう言う意味ですの!? わたくしは生まれた時から支配する側の人間ですわ! 何を改めるですって? 変なことを仰るのはおやめ下さいまし!」
「うーーむ、お前では役に立ちそうもない。
ふー、仕方ない 優秀な者を探しその者に子供を産ませるか…。今度こそ一から育て上げ優秀な跡取りを作らねば」
「な、何を言ってますの!? わたくしを捨てる、そう仰っていらっしゃるの!?」
「なーに、お前と同じだ、使えない道具は新しく使えるものに交換する、それだけの事だ」
「嘘よ! 嫌よ! 冗談ですわよね!!」
「ディアナを部屋に連れて行きなさい」
「はい、承知致しました」
「嫌よー!! お父様―! お父様!!」
ディアナの訴えは虚しく廊下に響いていた。
王宮では正式にディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢が、王子妃に相応しいかの審議に入ることになったと通達があった。
王宮の魔術師団の最深部にある書庫、叡智が詰まっていると言われている秘密の部屋、そこを何者かに侵入された。
それはあり得ないと思われていたことだった。
その秘密の部屋『アラバスタ』は誰でも入れるわけはない、入室を許された者しか入ることは出来ない。
許可を得て入室出来るとなっても代々引き継ぐ魔道具で鍵を開けなければならない。
鍵を持つのは3人、
国防部のトップである騎士団総長 カルロス・キャスター
魔術師団長 ハディド・ウィンザード
魔法騎士団長 ヒュース・サルヴァトス
この3人がそれぞれ魔道具を管理している。
愕然としながら、それぞれが自分が管理している魔道具を確認した。結果、全員が紛失してしまっていた、あるべき所にはなかったのだ。だがもう一つの事実に戦慄していた、それは魔道具だけでは鍵とならない。つまり本人が魔力を通さないと鍵が発動しないのだ! 3人揃っての解錠が条件、だが全員が鍵を開けた認識はない、そしてアラバスタの中に禁呪とされている魔術が記載されている魔導書と、過去の罪人に嵌られた魔道具の鍵もゴッソリ無くなっていた。床にはアラバスタ入室の魔道具の鍵が転がっていた。つまり自分たちが持っていた鍵を使って入室したと言うことだ。
信じ難い事実ではあるが、恐らく信じたくない想像が事実なのであろう。
「魔術師たちを呼べ、そして我々に何かの術がかけられたのか、何か魔道具を持っているか確認し、この部屋から持ち出した者たちの痕跡を追え!!」
「「はっ!」」
セシリア、ブルーム、ローレン、リアンはアシュレイ王子殿下と合流した。
セシリアは女性のままだと目立つので男装し、髪の色を変え前髪で目を隠した。ブルームとセシリアは実家に帰っていることになっているので、ブルームもリアンも変装をしている。
ここはシャングリラの本拠地の隣のライリー伯爵領。
アシュレイ王子殿下は視察としてこの地に来ているため、セシリア達は皆 アシュレイ王子殿下の側近として側に控える。
ライリー伯爵家は一家総出で出迎える。
ライリー伯爵とその妻、息子と娘2人。
着飾って歓待してくれる。
アシュレイ王子殿下は専属の護衛がいる。そっとセシリア、ブルーム、リアンはその場を離れる。ローレンは会場でアリバイ作りの為に残る。皆には気づかれない様に白いカラス(式神)も置いていくので問題ない。
そしてそっと気配を消して姿を消して偵察に出る。
上空からリアンに乗って見る、天然の要塞には人の営みを感じない魔獣の楽園だった。
見えないとは言え、リアンの気配に魔獣達は気づくと上空の気配に注視している。
畑や産業といったものは見当たらず、ホーンラビットや一角デグーやジャンボ蟻が物凄い数蠢いている。
『これは…餌だわね』
『ああ、しかも高魔力の魔獣を作ってる』
『どう言うこと?』
『ここにいる魔獣は恐らく大型魔獣たちの餌として飼われる。繁殖力が強く魔力を持つ魔獣として重宝されているけど、ここにいる奴らは通常では考えられないほど強い魔力を持っている』
『ここにいる魔獣は強制的に魔力を高められている。それを餌として食べている大型魔獣も何処かにいると言うことね』
『どこかに大型魔獣がいる…、それは何だろうか?』
『ああ、気になるね』
『どうして止まるの?』
『結界が張られている、破れない訳ではないけど、気づかれると思う』
『やはり見られたくないものがあるんだね』
『どうする?』
『……、リアンこのままの位置を暫く維持してくれる?』
『了解!』
セシリアは結界の解析をしながら、近くを飛ぶ鳥を結界の中に入れてみた。すると反応はなかった。次にコウモリ型の魔獣の形をした式神を作り少し魔力を入れて中に入れてみた。
すると、すぐ様偵察のコンドルが飛んできて追い払う素振りを見せた。この魔獣も通常よりかなり魔力が高い。
『やはり…、ただの侵入者ではなく魔力を持った侵入者に反応するみたい』
コウモリ型の式神を結界から出すとコンドルは来た方角に方向転換し帰って行った。
『この結界は侵入防止ではなく侵入者の探知のためみたい』
『ああ、確かに ほらあそこ! 監視塔がある。人間はあそこからしか通れないんだな』
『ああ、本当だ、山とか海とかにもゲートを作って侵入を阻んでいる、正に砦だな』
『食料はシルヴェスタ公爵が孤児院とかから掠め取った金で購入しているんだな』
『ここで飼われているものたちの正体が知りたいわ』
『結界の上から全体をもう一度確認しよう』
『はい、リアンお願い』
『了解!』
セシリアはカメラでパシャリ!
『見つかるかも知れないけど試してみたい事があるんだけどいいかしら?』
『何するつもり?』
『さっき、魔力を持たないものは気づかれなかったでしょう? だから私たちを結界で囲ってみようと思ったの!』
『なるほどね』
セシリアが3人を囲う結界で中に入ってみた。
すぐに気づかれてコンドルが飛んできた。
『あっ! ごめん結界に魔力が含まれてた!』
『どうする?』
『ヤバイ! こっち来た! セシおいで!』
その声にリアンが焦ってしまった! つい反射的にコンドルをお口でキャッチしちゃった。
口に入ったモンだからついバリバリカミカミゴッくん。
あっ、食べて飲んじゃった。本能だから仕方ないよね?
騒ぎ出した人間がいた、結界を張ったまま近づいてみた。
コンドルの飼い主なのだろうか?
『今のコンドルは契約獣だ』
『契約獣? では契約獣が突如消えたからあの男は探しているのかしら?』
『恐らく人間の目では、今何が起きたか気づけていないと思うから、こちらには気づいていないと思う』
『ならもう少し近づいてみようか、いざとなったら転移しちゃえばいいんだから』
『オッケー』
リアンが小型のドラゴンになっても羽ばたきで風が起きてしまう。だから、地上から8mくらいのところを飛んだ。
「おい、コンドルの消息が消えた!」
「侵入者は?」
「分からない。コンドルを捕獲したのだろうか?」
「ここら辺は魔獣は生息していないはずだろう?」
「通りかかることはあるんじゃねーの?」
「くそっ! またコンドルを召喚して調教するしかねーか…」
「侵入者はいないんだろう?」
「はい、ゲートは誰も通っておらずコンドルは東南の方角に飛んでいったと思ったら消えました」
「そうか、ついてなかったな」
「コンドルより遅くなるがカラスを出すか」
「そうだな」
見ると男たちの手には全員『S』の入った指輪をしていた。
セシリア達は男たちの後を追うことにした。




