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65、常識外

シルヴェスタ公爵家は国内最大の大貴族だ。

今まで同じ公爵家でもシルヴェスタ公爵家に睨まれれば生き残るのが難しい、それが通説だった。国内の主だった商売は、裏でシルヴェスタ公爵家が牛耳っている事は周知の事実だ。つまり王都で何か商売を始めるにもシルヴェスタ公爵家の許可が降りなければ叶わない、発想が面白いと拾われれば、商売そのものか金を掠め取られる。

形が変わっても搾取される、分かっているけど、現状は打開することができない、それが現実だった。

これまで多くの者が挑み、多くの者が敗北していった。


シルヴェスタ公爵家がこのバファローク王国の産業、流通、財政を握っている。

ディアナがアシュレイ王子に『誰がこのバファローク王国を動かしているか理解していないのかしら?』そう言ったのはこう言う事だったのだ。事実、王家と言えどシルヴェスタ公爵家に睨まれれば生きる術がない。


ところがそこに異変が起きた。

ヴェスタは気付けば自分の息のかかる領地・業者以外は全て脱退した。だが商売しなければ食えない、そうなれば結局頭を下げて戻ってくる、そう思っていた。

あれからだいぶ経ったがどこも王都でもう一度商売をしたいと頭を下げに誰も言ってこない。勿論、ヘムストラもそれぞれの領地へ赴き現状を調べた。だが何も変わりなかった。商売を廃めたという割に未だに窯には火がついたまま。探りを入れてみたが、王都では商売はしておらず、地元で細々と商売をしているだけだと言う。

そう言う者たちの顔は悲壮感どころか、やる気に満ちた顔をして充実している様子だった。


どこへ行っても同じ印象だ。何があったと言うのか?

このままでは私がシルヴェスタ公爵に始末されてしまう…。どうしたものか…。



南の地方のカンバーチ侯爵領にあるサーマルと言う陶器を作る街に来ていた。

何ヵ所か回って偶然取引現場に居合わせた。


男が5人、全員帯剣し頭に布を巻き口元を覆っていて顔は確認できない。陶器を買い付けに来ていたようだった。そいつらが帰った後、職人に話を聞いた。

だが相手はヴェスタのヘムストラ、皆いい顔はしない。


「先程の者たちは誰だ?」

「客です」

「どこの者だ? 何をどのくらい買った?」

職人たちは胡乱な目で見ている。

自分たちが精魂込めて作ったものを、ゴミのように扱った恨みは消えていない。


「何でそんな事あんたに言わなきゃなんねーんだ」

「貴様、私にその様な口の聞き方をしてただで済むと思っているのか?」

「ああ? どうするって言うんだよ!」

「王都で二度と商売が出来ないぞ?」

「既にしてねーよ! あんたが出来ねーようにしたんだろーが!」

既に一触即発の状況だ。


「帰れよ! あんたと違って、ここへ来て現物見て買ってくれる客を大事にしたいだけだ。お前らは俺らの作ったものをゴミにしただけではなく、金を巻き上げて血を吸うヒルと一緒だ! もうここには二度とくるな!!」


ヘムストラは追い返されてしまった。

職人たちの反応を見ると大量注文ではないらしい。アイツらは王都でも見かけない…、国外で売っているのか…? それともどこかの貴族の注文か? 結局何も分からなかった。



異変が起きているのはヴェスタだけではない。

王都の食糧を牛耳っているシルヴァータも同じだった。

王都の店は基本シルヴァータから食材を購入しなければならなかった。それが1店舗、1店舗と脱退し始めた。食材が手に入らなければ商売が出来ないはず! それがシルヴァータとの取引を止めても商売を続けている。

こんな事! こんな事シルヴェスタ公爵に知られたら私の首はない!!


各店舗に人を配置し、どこから食材が運ばれているか確認をする。

監視していると1台の馬車が荷物を卸していることが分かった。1台の馬車に8人の護衛がついている。そしてそのまま尾行する。郊外に倉庫がありそこから各店舗に食材を卸している事がわかった。その会社の名は『マーベラス商会』聞いたこともない会社だった。


それからマーベラス商会について調べ始めた。何とか尻尾を掴めた気がした。




アシュレイ王子殿下の私室、アシュレイ王子殿下とシリルが部屋で話をしている。

「殿下、ディアナ様がセヴィリール公爵家で行われる夜会にご一緒頂きたいと、連絡がございました」

「嫌です」

「殿下、オブラートに包んでください」


「はぁー、セヴィリール公爵家の夜会と言うのも勢力拡大に、私に客寄せマスコットになれと言っているのだろう? 絶対嫌だ!」

「そうですね。焦っている様ですよ? シルヴェスタ帝国が思わぬ事になっている様で、その為にあちこちと声をかけている様です」


『殿下、お邪魔してもよろしいかしら?』

「ああ、構わない」

「…どうなさったのです?」


目の前にセシリアとリアンが現れた。

「こんばんは、お邪魔致しますわ」

「ああ、よく来たね。シリルお茶を頼む」

「承知致しました」


こうしてシリルと2人きりで話をしていると突然セシリアの声が頭に響く事があり、了承するとセシリアとリアンが転移してくる様になった。シリルも最近では慣れてお茶を頼まれると、すぐ様廊下に出て人払いをする。そして4人で密談をする。

以前は手紙が私室の机の上に届いた、その情報が正しいか偽物か分からなかった。だが確信はないが密かに信頼していた。過去を思い出しノアとはセシリアだと認識してからは、王宮に潜り込んでいる密偵の名前などを記したメモにはノアと署名があり、信頼して情報を活用した。だがメモは証拠として残る。アシュレイの魔力のみ反応して文字を浮かび上がらせたが、いつ誰に見られるか分からない、それにアシュレイ以外の人物が先に触れると文字が浮かび上がらない。アシュレイ王子から改善要求があり面倒になったセシリアは直接脳に話しかける様になった。だけどそれだとアシュレイがメモらなければならず、しかも一人で喋っている変な人間になった。結果、面倒になったセシリアが直接転移してくるようになった。


「今日はどうしたの? いや、その前に婚約おめでとうと言うべきかな?」

「恐れ入ります殿下。早速ですが1つご報告がございますの」

自分の結婚に関してはスルーか、食えないな。


「なんだ?」

「んー、シリル様をお待ちしますか?」

「ああ、どちらでも。リアンと結婚するのかと思ったよ」

「リアンの結婚は国が関与するのでは?」

「それはそうだが、そういかない事も分かっているじゃないか。そうじゃなくて」

「そうですね、それが一番だったと思いますが、現状リアンの身分では…リアンを守れませんもの、高位貴族からリアンが標的にされるのは望むところではなかったので」

やはりセシリアの婚約には裏があるのか、そして相変わらずリアンが一番大切なのだな。


ガチャ

「シリル、お前を待っていた。さあ、座って話をしよう」


セシリアはシルヴァータに取って代わるマーベラス商会の存在を、シルヴァータの人間が認識したことを告げた。


「まあ、仕方ないな。配達している以上バレるのは時間の問題だった」

「そうですね」

「ん? なんだ、マーベラス商会の話が本題ではないのか?」

「ええ、まあ。実は、ヴェスタに代わる別のものを画期的な形で作るつもりです。

郊外にホテルを作ります。許可、頂けます?」


「…………、セシリア もっと説明しろ。いくら何でもそれだけで許可は出せん。キチンと計画書を提出して……、どうせあるんだろう? ほら、見せろよ」

ニヤっと笑うと計画書と完成予想図などを出してきた。


「はぁぁぁぁ、セシリアーー!! もう、いつも試験を受けている気分になるから止めてくれ! 

全く………、おい、こんな事可能なのか!!」

「ええ、まあ。恐らく」

「こ、こんな物を…実現可能なのですか?」

「ふーーー、凄いな、こんなの見たこともない。お伽噺のようだよ…。

セシリア、君はこれを本当に可能にしてしまうんだな。

ところで、シルヴェスタ公爵の目的は何なのだ?」

「さあ、シルヴェスタ公爵は『魔法国家シャングリラ』と呼んでいましたけど、そこには潜入できなかったので本当のところは分かりません」

「くそっ! 踏み込んだら?」

「無駄です。シルヴェスタ公爵とシャングリラと責任者ダンヒルの関係性は証明できません」

「まだか…まだ届かない」


「でも、シルヴェスタ公爵家からシャングリラに流れる大金は大幅に止めることができました。流通も産業も独占していたものを奪い返しています。焦らず一つ一つ崩していくしかありません」

「ああ、すまない。感情的になった、焦ってしまうんだ」


「ふー、分かった 至急ホテルの認可を取り付ける」


「ああ、そうそう。ディアナ様からデートのお誘いが頻繁でお疲れですか?」

「ああ、まあね。煩わしいよ」

「まあ公爵閣下の厳命でもありますし、女王様の立場をプリメラ様に取られ焦ってもいるので、今後 悪質な行為をなさっていく様な気がします。ディアナ様の悪事の証拠を1つ1つお集めになるのがよろしいかと思いますよ」

気付けば、原作通りの悪役令嬢とヒロインになっている。そこに攻略対象者との恋愛ゲームはないけど、恐らくディアナはプリメラを陰でイジメ倒すだろう、本人自らね。


「分かった、シリル頼むぞ」

「承知致しました」

「では殿下、また。そうそう、近々遠方へデートでも如何です?」

「んん? ああ、そうだな、期待せず待っている」


アシュレイ王子の私室を後にした。


すぐにセシリアが指定した郊外にぐるっと囲む塀ができていた。ホテルの準備が始まったらしい。



ディアナの元取り巻き、ナディア・カラリラ子爵令嬢とシャクラン・デュフル伯爵令嬢に対する暴行の捜査をそれぞれの父親が王都の警備隊に訴えた。

通常 娘の名誉の為隠すことが多いが、頭の中に声がする。

『ディアナやシルヴェスタ公爵の横暴を許していいのか!? 何の落ち度もない娘はずっと汚れ仕事をさせられて、ディアナの虫の居所が悪かっただけでこんな卑劣なやり方で排除された。自分が手の者に娘たちを襲わせたのに涙まで見せて、その後 噂を流し修道院へ送った。静かに自領に留まり、いつか社交界に復帰することさえ許さなかった、自分の娘を権力の犠牲にしていいのか? 娘は心に傷を負ったまま修道院で朽ちていくのだぞ? 娘が二度と戻れない社交界にあの女は王妃として君臨し、人生を謳歌するのだぞ? 真実を知った娘は恨みを抱いたまま狂って死んでいく、それでお前はいいのか? 後悔はないか? 嘆くだけで何もせず、恨んで指を咥えて死んでいくのか? シルヴェスタ公爵に切り捨てられ家は衰退し、気付けばシルヴェスタ公爵の密偵が家を乗っ取り何も遺すことが出来ない、何もかもが奪い取られても我慢し続けるのか?そんな人生でいいのか? 黙認は罪だ、同罪だ。地獄に落ちるぞ』


こんな事がずっと頭の中をぐるぐると廻る。ノイローゼになりそうだった。

だが、楯突くにはシルヴェスタ公爵家はあまりに強大でなかなか踏み切れなかった。


そんな折、シルヴェスタ公爵から「養子を取ってはどうか?」と打診があった。

あの言葉が過ぎった。『密偵が家を乗っ取る』完全に切り捨てられた事が理解できた。

今まで得体の知れない恐怖に、娘が無惨な目に遭ったと知っても身を震わせるしか出来なかったが、急にスーと頭が冷えた。

『どうせ殺されるなら、一矢報いてやる』そして、行動に移った。


不思議と頭の中で声を聞き考え行動すると、道が拓かれた。

王都の警備隊もシルヴェスタ公爵家が絡むとなれば及び腰になるところ、マルゴット副騎士長が親身に話を聞いてくれ捜査をしてくれた。

これにより、真偽はともかく

『ディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢が嫉妬から取り巻きを男に襲わせ、修道院に追いやった』と社交界に広がった。

いつも通り全てを絡め取りつもりが、シルヴェスタ公爵家は窮地に陥っていた。

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