62、舞踏会と月を囲む夕べ−3
セシリアとアシュレイ王子殿下が戻って来るとダンスに誘いたい男性陣が群がったが、セシリアを引き受けたブルームとまたフロアに行ってしまったので、男たちは散り散りに去っていった。
その後、舞踏会はお開きとなり、月を囲む夕べに移行した。
半分以上の者が帰り、1/3程度の人間となった。魔力が皆無の人間はほぼ参加しない。
魔力の花はとても美しい、がその美しさは劣等感を刺激するものであったので、舞踏会が終わると帰っていく。残った者たちは生徒会から持つ魔道具に手を翳す。そして奥庭に進んでいく。1人1人と魔道具に魔力を吸われていくと、庭には魔力の種類別の花が咲いていく。空には雲もなく月明かりが優しく地上を照らす。色の濃い影に優しい魔力の花が映える。
恋人同士はロマンティックに散歩を楽しむ。結婚相手が学園に在学していなくても1人が在学していればこの月を囲む夕べには参加できるとあって後からやってくる婚約者もいる。政略結婚でも流石にこのムード満点の環境では、肩を寄せ合い見つめ合い手を取り唇を重ねる。
うーーーーん、きっと始まりは、この魔道具は多くの魔力を蓄える目的で作られたのだろう、多くの人間たちから少しずつ魔力を集める為に、こう言う会を催し魔力を奪われると言う感覚を持たれないように考えた、謂わば試作品だ。
魔力量は人それぞれ違う、魔力を取りすぎれば命に関わる。そこで個人に合わせ害にならない程度の魔力を奪う、そしてどの程度の魔力が奪えたのか分かるように花として表現したのだろう。実際にその後 魔道具は改良され王都を守る結界の魔道具になった。この最初の魔力の花から結界まで多くの時間と試行錯誤を繰り返したのだろう。魔道具管理局に敬意を表し今も『月を囲む夕べ』として続いているのだ。
決して恋人たちに甘いイチャラブな空間を提供するための催しではなかったが、今は年に1回の風物詩みたいなものになっている。
あっちでもほっぺにちゅ、こっちでもほっぺにちゅ。
唇を重ねちゃう恋人たちは流石に人目のない暗がりへ移動。一応節度あるLOVEモード。
何も恋人たちの為の催しではないので、シングルで来る強心臓もいるし、来年の下見とばかりに友人と来る人もいる。生徒会の人間はこんな雰囲気の中、仕事で走り回っている。
プリメラは相手もいないので帰るつもりだったが、よく覚えてはいないけど少しだけ夢で見た風景が引っかかっていたので、一人で会場に来た。
「やあ、プリメラ ここに手を触れてくれる?」
「ビフさん、ジェシカさん、お仕事お疲れ様です。ここに触れればいいのですね」
「ええ、きっとプリメラさんが触れると美しい花が咲くわ」
「ああ、私もそう思う。他にはない美しい花が咲くだろう」
「うふふ、そうだといいな」
プリメラが魔道具に触れて少し経つと赤い花と白い花が咲いた!
赤い花が多い中に白い花がチラホラと可愛らしく咲いていた。その場にいた者たちは歓声をあげた。
だが当の本人プリメラは首を捻った。
あれ? なんか違う気がするんだけど…? なんかもっとこう沢山…あれ?
「聖属性の花は美しいですね」
「有難うございます…」
『そっか、私の魔力はそこまで多くないから…、モモちゃんが触ればいいのね!』
「モモちゃん! ここを触って!」
モモちゃんが魔道具に触れると沢山の白い花が咲いた。
それは見事で更に歓声が上がった。
『これもちょっと違う気がするんだけど…何が違うのかは…分かんないや』
「ねえリアンって何色の花が咲くのかしら?」
「そうだね、リアンは聖魔獣だもんね。リアンは全属性使えるの?」
「うん、そうだね。それに人間が認識している以外の魔法も使える。僕たちの種族は魔獣たちの頂点にいるから、記憶や能力を引き継ぐんだよね。だから戦って得た能力は蓄積されて、次世代になればなるほど強者が生まれるって事。
それに僕とセシリアは完全同期しているから、セシリアが生み出した魔法も僕の魔法も合わさって、かなり万能だよ」
「ふむふむ リアンちゃ〜ん!」
「うわぁー、僕のセシリアがめちゃくちゃ悪い顔してるぅー」
「ははは リアンも棒読みだよ」
「ちょっと姿消して触れてきて、えへ」
「はいはい、行ってきますよ」
今 咲いている花は桜の花くらいの大きさなので遠目に見ると小さな光の塊にしか見えない。ところがリアンが触れた途端、10cmくらいのダリアの花が虹色に輝いている。
「ほほう、魔力が強いと花の大きさ、形にも影響があるのね。そして全魔法属性という事は七色という事なのね。
見て見て! リアンの花はとても綺麗ね…まさに王者の貫禄って感じ」
「うん、凄く綺麗だねリアン」
「うん、僕も綺麗だと思う。僕の魔法の色か…、人間って面白いものを作るね」
一際美しい花に、歓声を上げる前に、時が止まったようにこの光景に目を奪われ魅入っていた。そして我に帰ると轟音のような歓声をあげた。
「なんて美しい!」
「これほどのものを見たことがない!!」
「何という奇跡だ!!」
「美しい以外の言葉が見つからないわ!」
多くの人間がプリメラの起こした奇跡だと思っていたが、アシュレイ王子だけは会場を見回した際にセシリアたちを見つけていた。そしてセシリアとブルームはリアンを見ている。
どうやらこの現象の犯人?の元はリアンらしい。
この美しい光景を見ることが出来たのはまさに奇跡だな。
アシュレイ王子殿下はシリルと回っていた。
「殿下、私は今まで生きてきた中で最も美しい光景を見ております」
かなり感動している。
まさかその原因がドラゴンとは思いもよらないだろう。
「ああ、本当に。素晴らしいな、この光景を直接見ることが出来た幸運に感謝しかない」
「これはプリメラ嬢が齎したものなのでしょうか?」
「いや、違うな…。彼女の魔力量は少ない。それに聖属性の魔力は白だ。先程見た白い花が彼女の魔力なのだろう」
「ではこれは一体?」
「どこぞの聖獣ではないかな?」
「どこぞ、ですか?」
「ゴホン、恐らくこれだけの魔力量だ、人外のものだろうと言うことだ」
「確かにそうですね。これほどのものは見たことがありませんものね」
「アシュレイ王子殿下!」
呼ばれた声に振り返ればプリメラだった。
「うふふふ、素敵な光景ですよね!」
「…? ああ、そうだね」
「私の魔力って綺麗ですよね?」
「…? ああ、そうだね」
「特別って感じがしません?」
「ああ、そうだね。それで何が言いたいの?」
「えっ!?」
「はぁ?」
「あれ? おかしいなー。あまりの美しい光景に私にキスしたくなりません?」
「いや、なりません」
「はぁーー、そうなんだ。じゃあ、いいです。さようなら」
「あ、うん。さようなら」
一体何なんだ? 何で美しい光景を見るとキスしたくなる? 私がプリメラ嬢と!?
勘弁してくれよ。ディアナだけでお腹いっぱいなのに、プリメラまで!? イヤイヤイヤイヤ勘弁して欲しい。
「シリル、もう帰ろう。寒気がする」
「不思議なお嬢さんですよね? 殿下がキスしたくない事が理解できないみたいな。殿下が好きって感じでもないのに、そうするのが当然みたいな話し方をするから、理解し難くて…怖いですね」
「ああ、まさにそれだ」
グラシオスは魔力の花を咲かせたのが誰か特定に動いていた。
会場にいる人物はインプット、しかも魔道具に触れた順番も咲いた色も確認している。
プリメラは確かに白い花を咲かせた、だが数は多くない。その後に聖獣『モモちゃん』が触れて沢山の白い花を咲かせた。その後に魔道具に触れたのは…いない。それなのに、急に虹色の花が大量に咲き始めたのだ。
これはどういう事なのか?
普通に考えれば聖獣の力、穿った見方をすれば、我々には見えない何かが触れて咲かせた花。見えない以上憶測でしかない。
一体何が起きたのだろう!?
ベルナルドはセシリアに近づきたくてセシリアやブルームの近くを彷徨いていた。でもセシリアの側には常にブルームがいて近づく事ができない。
こんなにも焦がれているのに、自分を視界に入れないセシリアに苛立つ。
最初 女性は放って置いても向こうから勝手にくるものと興味もなかった。この年でもまだ婚約者を決めなかったのは、魔法騎士として稽古に明け暮れ、余計な時間を使うのが面倒だったから。その場しのぎの甘い言葉を吐けば皆うっとりしてベルナルドを褒め称える。遊び人風を装えば、周りもキャーキャー騒ぐだけで踏み込まれなくて丁度良かった。
正直言ってセシリアよりブルームの方に興味があった。
それが父親からの厳命でセシリアと接触を図ろうとするも進捗状況は芳しくない。
ブルームと共に働くうちに今までの中途半端な自分を見つめ直し、チャラい姿を封印!切磋琢磨し自分を磨いた。そうすると今まで見えていた景色と違うものが見えるようになった。
セシリアと懇意になるように言われ何もアプローチ出来ないまま、ずっと見ていた。今まで見られる事はあっても自分から見る事はなかったのに、ただ1人を特別な目で見ているうちに、感情に変化が現れた。
『私のことを、私のことだけを見て欲しい』
彼女はあまりに眩しかった。
彼女は何にも囚われず好きなことを自由にやっていた。
あんなにも目立つのに、人の目を気にせず平民である従者リアンを大切にし、兄ブルームを大切にし、自分の関心あることにしか興味を示さない。高位貴族にも諂わない、結婚とか家の繋がりとか何も気にしない、縛られない、変な女だった、それがグッときた。その上、グラシオスから聞かされるセシリアのアピールポイントを聞いているうちに、セシリアの魅力は倍増していった。
それに永遠のライバルと思っていたブルームも結構良い奴だし、騎士の仲間から聞いたブルームの話も、思っていた人物とは違っていた。それから私が思っていたよりブルームとセシリアは苦労していた。また彼らに対する見方が変わった。
いや、もう好きだった。
だって、気づけば彼女の姿を追いかけていた。
探りを入れているだけなんて言い訳、もう出来なかった。ぶっちゃけ夢中だった。
執務室でもブルームから新たな情報を得るために、下僕になりそうな勢いだ。
そして得た情報はセシリアに縁談が毎日届いて本人はうんざりしているって事。
くっそー!俺が知りたい情報はそんなものじゃなーーーい!!
何とか近づく手はないだろうか?
ローレンは婚約者と共にいた。
舞踏会でも月を囲む夕べでも共にいた。
ローレンの婚約者はリネット・メディチ侯爵令嬢だ。年はローレンより1つ上。
メディチ侯爵領は上質な魔石が産出されるらしい、だからメディチ侯爵家は王家から信頼を得て山と領地を管理している。義父上はそのメディチ侯爵家の利権を手に入れるつもりなのだろう、それだけではないかも知れないが、義父上からは決してリネットを逃してはならないと言われている。
普段の夜会であれば、互いの友人と過ごしたり、家族と過ごしたり、人脈を広げるために、リネットと離れる時間が持てるのだが、ここは学園の為、ダンスでパートナーチェンジの時しか離れる事ができない。
こんなに長い時間一緒に過ごした事がなく、いい加減ネタも尽きた。今はリネットの話に笑顔で相槌を打っている。はぁー、女性はどうしてこう噂話の憶測と考察が好きなのか…。誰か真実を確かめた者はいるのだろうか? 次から次へと出てくる噂話、いい加減笑顔を作るのも難しい。
「そう言えば、セシリア・ブライト伯爵令嬢をご存知?」
「ああ、同じ学年だし、兄のブルームは今一緒に殿下の元で働いているからね」
「そうなのですね。実は、セシリア様は家畜や魔獣などの世話をされているらしいの。あんなに澄ました顔をしていらっしゃるのに使用人みたいな事をしてらっしゃるなんてとんだ伯爵令嬢ですこと、ふふ。 普段 人と距離を取るのは獣臭いからとか…うふふ、それに! あまり話さないのは話すと田舎臭い話し方が出て恥をかくからとか…クスクス そう考えると見方が変わってまいりますでしょう?」
人は怒りが沸点に達すると思考は冷えて冴えわたるものなのだな。
セシリアはお前よりよっぽど上品で洗練された気品がある! 自分を何様だと思っている!! 獣臭い? お前の方が余程醜悪な臭いがする、下品で他人を貶めることしか能がない。お前から実家の後ろ盾を取ったら何が残る? 私はこんな女と結婚するのか? 勘弁してくれ!
「ちょっと、ローレン様 聞いていらっしゃいますの?」
「ああ、すまない、少し考え事を。用を思い出した、また後で」
「ちょっと! ローレン様!! 戻ってきますの? ねえ!
何なのよ! こんな場所に女性を1人にしていくなんて!! 恥ずかしいったらないわ!!」
今のローレンには、メディチ侯爵家との縁を断ち切る事は出来なかった。ただプライドの高いリネットがこんなロマンティックな場所に1人で放置されたら怒って1人で先に帰る事は分かっていた。だから敢えてそうした。
ローレンは人目のない暗がりに入りリネットを観察していた。
「くだらない、私も含めて…くだらない」
誰にも聞かれない闇に独りごちる。




