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6、落とし物−1

30分ほど眠ると目が覚めた。

『目が覚めた?』

『リアン、うんアレ? 体の調子が良い…リアンが魔力分けてくれたの?』

『うん、帰らないと心配して捜索隊が出ちゃうからね』

『そっか、確かに。 あははは、良かったぁ〜、リアンが成体のまま飛べる場所にしてあげたかったんだ。ここなら何もないけど自由に飛べるよ、リアン』

『うん、有難うセシリア』

成体のリアンの手には小さなセシリア、それをそおっと潰さないように大切に包みキスを贈る。


『さて、今日はゲートに隠蔽魔法をかけて帰ろっか! 家具とかはまた後日! 魔法バッグに詰めて持ってこよう!』

『うん、大丈夫? 僕が人間だったら運んであげられるのに…ごめんね』

『私はリアンがリアンであってくれて嬉しいよ? 人間とかドラゴンとか関係ないよ。私はきっとリアンに出逢う為に生まれ変わったんだもん!』

『大好きだよ、セシリア』

『私も大好きリアン』


隠蔽魔法をかけて人がいない場所はリアンの背中に乗って、途中からはリュックを背負っていつも通り家に帰った。




「セシリア、カルロさんが屋根から落ちたらしいのだ。足が折れているみたいなんだけど、お金がないから医者を呼ばないって言ってるんだ。一緒に行ってくれないか?」

「はい、お父様」

田舎の領では領民はポーションなんて高価なモノは買えない、医者だって町医者なんていない。基本的には領主のお抱えの医者がいるだけ。だから必死で領主に頼み込んで診てもらうだが、大抵いい返事はもらえない事が多い。金持ちで領民思いの領主だとポーションを常備し、それを安く売ってくれる場合もある。


ブルーベル侯爵領は治安もいいし、ブルーベル侯爵様は領民思いなので基本的にはポーションを用意してくれている。だが、無償ではない。通常より安いと言っても平民には高価で安易に手が出せない。

風邪も怪我も数日我慢すれば何とかなると思うとそこにお金をかけたりしないのだ。


カルロさんは聞いていた通り、右足の骨を折っていた。

その影響で熱も出ている。

ブルーベル侯爵領の領民なのだが、ブライト伯爵は貴族でありながら具合の悪い動物など気軽に相談に乗ってくれる比較的話しやすい人物と言う事もあり、見かねた隣人が相談に来たのだ。


「大丈夫かい?」

「あっ伯爵様! それが少し前から意識がなくて… ううぅぅぅ」

「サミ大丈夫だ、きっとカルロはもう少ししたら元気になるよ、だから泣くな」

「うぅぅ はい、伯爵様」


見るとカルロは熱に浮かされ寝ている。

「セシリア どう思う?」

「お馬さんのご本では折れた足を固定すると良いんだって、それでぎゅーーっとキツめに縛るの。そうすると暫くするとくっつくんだって」

耳元でコッソリ話す。

それをブライト伯爵が指示を出してやらせる。

「お熱も高いみたいだからお水で冷やしてあげたら気持ちいいと思う」

それもすぐにやらせる。

サミもさっきまでカルロは会話も出来ていたのに、急に意識を失ってしまったのでパニックを起こして、何も手につかなかったのだ。指示を出されてやっと動き出した。

一通り指示を出してから帰ることにした。

「ああ、ブライト伯爵様、来てくださって本当に有難うございました! あの、あの人…大丈夫ですよね?」

「きっと大丈夫だ、さっき言った甘ジョッパイ水をスプーンで口に入れてあげなさい」

「はい、はい そうします、有難うございました」



部屋でセシリアは落ち込んでいる。

『どうしたの?』

『んー、今日ね 街のカルロさんところ行ったでしょう?』

『うん』

『カルロさんは足の骨を折って熱出して苦しんでいたのに私は回復魔法を使わずに帰ってきたの』

『うん、それで?』

『私って利己的で悪い子だなって自己嫌悪』

『何でセシリアが悪い子になるのか分かんないよ。僕たちは元々他者のために何かすることなんてないし、セシリアの今後を考えたらやっぱり黙っている…魔法は使わないと言う選択がベストだったと思う。 ねえセシリア、人間は…他の奴らはもっともっと利己的だって、魔法は使えないと分かっていながらカルロのとこに行ってやっただろう?普通ならそれすらしないって』

『あんなに苦しんでいたし、奥さんのサミさんもあんなに泣いていたのにな…。スンスン』

リアンは丁度いい大きさになって、セシリアを包み込む。

『よし、2〜3日経っても良くなってなかったらコッソリ魔法かけに行く! でも今は我慢する!』

『どんな選択しても僕の中ではセシリアが正解だから、そんなに落ち込まずにもう眠りな』

『うん、そうする。おやすみリアン』

『おやすみセシリア』


私にとってリアンが1番なのだ。

リアンを危険に晒したり、一緒に居られなくなることが怖くて仕方ない。

その為に他の人を犠牲にする覚悟をしてしまう。

『ごめんなさい、ごめんなさいカルロさん、サミさん 早く良くなりますように』




最近またハドソン伯爵家からお茶会の招待状が度々届く。

あー、ウザい。

まだお姫様ごっこしてんのか、あの問題児は!?

しかも今回は断れないみたいだ。と言うのもお父様の取引先からの後押しまであって断り難いらしい。過去にこっぴどい目に遭ったと話をしたらしいのだが、最近マナーの勉強を頑張っているのでそれを披露したいらしい。

何故、それに他人を巻き込むんだか…。


くっそー! これも仕事と割り切るしかない。

今回は前回のことがあるのでキチンとデイドレスを着て兄ブルームと向かった。

勿論、兄はプリメラをエスコートはしない、それも条件に入れた。


はいはいはーい、小学生低学年の時のお誕生日会みたいなものね。全力でヨイショに徹するアレ。(と言いつつ行ったことないけど)

プリメラがドレスの端を持ってお辞儀するだけでプリメラパパンが涙を流して全力で拍手を贈っている。お茶のカップをソーサーごと持っただけで

「ああ、プリメラ素晴らしい! お前はどこに出しても恥ずかしくない完璧な娘だ!最高の淑女だ!」

とかプリメラパパンが言ってる。

ないないない、あり得なーい! ブルーベル侯爵家でマナーを学んできたせいか、どれをとっても完璧には程遠いお粗末なマナーにしか見えない。

でもちゃんと目立たない様に良い子にしてる、だって絡まれると面倒だから。


少ししてからそっとトイレと見せかけて生垣の影に入って休憩中。

おっと他にも先客がいたか…。息を殺して近づくと…噂話が聞こえる。どうやらどこかの家の侍女らしい。

「良くやるわよねー、ハドソン伯爵また懲りずにこんな事して」

「本当よねー」

「何々何かあったの?」

「あら、あなた知らないの? そう言えば見たことない顔ね…ここは初めて?」

「今回初めての参加なのよ。ねぇ、それで何があったのよ!」

「ハドソン伯爵は娘プリメラ様を溺愛していて、プリメラ様に言われるがまま毎回お姫様ごっこしてるのよ」

「そう、毎回『素敵な王子様がプリメラをすっごく褒めてくれるのがいい!』から始まって、『今日は王子様とダンス』だの『エスコート』だの、まあ最初は可愛らしいおねだりだったんだけどエスカレートしちゃって、どこかの伯爵令嬢を罵ることで目覚めちゃって以来、下僕だの、崇め奉るだの、よく分からない脱線の仕方していっちゃって」

「とうとうやらかしたの! ハドソン伯爵は同じ年頃の子供に手当たり次第に声をかけてお茶会を開いていたけど、毎度ターゲットを決めて罵ったり奴隷扱いするモノだから誰も来なくなっちゃったのよ。そこでちょっと遠いところの伯爵位までの近い年代の子に声をかけまくってやっと集まったお茶会で!」

「ある伯爵家の子息に『お前の顔はイマイチだから、これからお前はわたくしの奴隷だ!』って言っちゃった訳よ!」

「うっそ!! 嘘でしょう!? 誰も止めなかったの!?」

聞いている者たちも顔を青くする。


「それが、言われた坊ちゃんも意味が分からなかったみたいでキョトンとしていたの。それで気が弱いと思ったのかプリメラ様はエスカレートしちゃって『四つん這いになってご主人様と言え!』って言ったら、会場中がシーーーーンとなったの!」

「そりゃなるでしょうよ! それでそれで?」

「お付きで来ていた侍女の登場『お前如きがこの方をどなたと心得る! ワグナール公爵家 傍系のキグナス伯爵家のノルティス様に対し何たる不敬、この事は報告させて頂く!』って激怒しちゃって、その場でハドソン伯爵は娘の首根っこ持って2人で地面に額をつけて平謝りしたって訳」


「ちょっと…言葉にならないわ。恐ろしくて恐ろしくて…」

「そうでしょう! それでその後ワグナール公爵家からもキグナス伯爵家からも厳重注意を受けたの、それで聞いた話では『貴殿の娘の教育が出来ていないらしい、教育が済むまで人前に出すのは遠慮するべきだな』って釘を刺されたらしいのに! 今回これでしょう? だから今日ここへ来た人たちは、その後が知りたくてって感じ」

「そうよ!だってお茶会出来るレベルじゃない、お前の娘は無知、その親も非常識だって言われて1年経ったとはいえまた性懲りも無くお茶会開いたのよ?ちゃんとお許しを頂いたのかしら〜?」

「だからなのね! うちはさ〜、ハドソン伯爵とは直接関係はないんだけど、知り合いからどうしてもって泣きつかれて来ることになったのよぉ〜、やっぱり訳ありだったわけね」

「そう言うことね」


「今回は『生まれ変わった娘を見てください』ってところね」

「へぇ〜、でも満を持して開いたお茶会のわりに…ショボいわね」

「それね〜、てっきり美味しいものが食べられるかと思ったのにガッカリよ」

「そう?こんなものじゃないの?」

「まあ、普通はね。でも1年半前に来た時は使用人用の食事なんかも豪華で『当たり』だったんだけど…これも『貴族の品格』の指導なのかしら〜?」

「そこは直さないで欲しかったぁ〜!」

「あはは、ホントそれ」



ふむふむ、そんな事があったのね。

生まれ変わった娘のお披露目、でもまずは他所に招待されて徐々に慣らせば良かったのに。あ、そっか、誰も誘ってくれないから、自分で開くしかなかったのか…。


「こんなとこにいたの? そろそろ帰ろうか?」

「お兄様! ええ、もう帰りたいわ」

挨拶をして馬車に乗り込む。馬車の中で侍女たちの噂話を兄にも伝える。


「ははは、本当に迷惑だね。アレで完璧なマナーなんて笑っちゃうよ」

「あら お兄様が毒づくなんて珍しいですわね?」

「ただでさえ良い印象を持っていないのに…この程度ではね。確かに以前よりまともになったと思うけど、『生まれ変わった完璧な私を見て、頑張った私を褒めて!』感が強くてもうお腹いっぱい。

しかもエレン様たちを間近に見ていると、完璧な令嬢?ふっ程遠いな」

「そうですわね、はぁー、面倒も終わったし、帰ったらトレーニングしなくちゃ!」

「セシリア…いつまでも家にいて良いんだからね? セシリアは何でも出来るんだから、僕も一緒に頑張ってお金貯めてセシリアのお店を作ってもいいし、動物のお医者さんも向いていると思う! いつでも一緒に考えるから突っ走っちゃ駄目だよ?」

「うん、有難う。優しいお兄様がいて幸せだわ」

「僕も可愛い妹がいて幸せだよ」

セシリアは『兄』という存在を手探りしている感があったが、ブルームが優しく包み込んでくれるのでホッとしていた。




セシリアとリアンは隠れ家に来ていた。

家具は外から持ち込むつもりだったけど、5歳児がベッドを一人で買うとなるとかなり目立つ、届け先だって聞かれる、自宅に着けば絶対聞かれる。だからいくらマジックバッグに何でも入れられたとして、経緯は誤魔化せない…。

そこでセシリアは考えた。


『ここに魔法でベッドとか家具とか食器とか出せたら良いと思わない?』

『そうだね、運ぶ手間もないし、イメージ通りのものが揃う』

『そこよ、そこ! 私のイメージが具現化出来れば理想が手に入るって訳! そしてどんなに魔力を消費しようとも私にはリアンがいる! 出来ると思わない!!』

『そうだね、セシリアには僕がついてる』

リアンは顔のニヤケが止まらない。セシリアがリアンを頼りにしてくれているのだ!



セシリアは腕を組み眉間に皺を寄せ考える。


この世界に拘らないもの作りたいな、だってここは隠れ家でリアンと私しかいないんだし、どうせなら快適がいい。常識で考えればトイレもお風呂もシャワーも電子レンジもテレビもない。でも私の頭の中のイメージで蛇口から水が出せたら? シャワーからお湯が出てきたら? テレビ、電話は必要ないわね…。ドレス?動きずらいからジャージとかあったら良いよね? あーーーーー!! た、食べ物は! 食べ物はどうなのかな!! 伯父さんの作ってくれたシチューとか少し焦げたハンバーグとか…食べられるのかな?

そう思ったら無性に伯父さんが作ってくれたハンバーグが食べたくなった。


すると今まで頭の中にあったボヤんとしていたイメージが目の前に具現化された。


目の前に出てきたのは伯父さんと並んで作った伯父さんの家のキッチンだった。

勝手知ったる慣れ親しんだ場所、懐かしさで涙が溢れた。

温かい手作りのご飯が食べられる場所。思い出の中の大切で温かい場所だ。唯一帰りたいと思う場所。


蛇口を捻ってみた。

水がジャーっと流れ出した。

「魔法って、本当に不思議。魔法のお陰でこんなにも幸せになれるなんて」

セシリアは嬉しそうでありながら寂しそうな顔をしていた。


冷蔵庫も作った、まあ、冷蔵庫の形をしたマジックバッグってところか? いや、ひ、冷えてるー!! 凄い!! それに炊飯器も電気なんてないけど開けたらホカホカご飯が入っていた! 具体的なイメージって大事だね。

だけど…、テーブルは伯父さんの家のテーブルではリアンが乗ったら壊れちゃうから駄目だな。それと、ここにはリアンと私の2人の為と言いつつも、だだっ広い部屋にキッチン、バス、トイレ、ドレッサー 丸見えってのも落ち着かない。ここは小さいリアンで動ける幅で仕切らせて貰おう。そうね、イメージは家と広い庭。芝生にハンモックにテーブルに椅子、屋外キッチン、ツリーハウスもいいな、清らかな小川に、花が咲き乱れ芳しい甘やかな場所、ああ! セグウェ◯! 大学内走っているの結構見かけた。イヤイヤ、リアンがいるから掴まっていけば早いか、そうだ! 伯父さんの建ててくれた病院! いや、患者の来ない病院は虚しいか。


それからも思いのままにセシリアとリアンの家を作り上げていった。


『セシリア、外が騒がしいみたい』

その声で現実に戻ってきたセシリアは耳を澄ました。何も聞こえない。

リアンが言うなら何かあったのだろう。

『見に行ってみよう!』

外に確認に向かった。

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