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57、マジでキュンするLOVEゲーム

シルヴェスタ公爵は意識を取り戻し愕然とした。

収入源の多くを失っていたからだ。しかも王宮に忍ばせている手の者はいつの間にか地方へ追いやられ機能していなかった。


「これは一体どう言うことなのだ!!」

「旦那様、落ち着いてください、お体に障ります!」

「煩い! それどころではないのだ!! おおおおおい、説明するのだ! 何故こうも状況が変わったのか!」


家令のハデスはシルヴェスタ公爵が意識がなかった時の出来事を手短かに説明した。

「何故だ!? 何故そんなに早く王家が動いた? 何より何故私に何の連絡も無くことが動いたのだ!!」

「分かりません。実は手の者と連絡が取れていません。ですから、何が起きたのか分からないのです」

「ふざけるな!! 今までどれほどの金と時間を費やしたと思っているのだ!!」

「…………。」


「孤児院や修道院には金が別に流れていると掴んでおり、王命のもと捜査の兵が踏み込み証拠品の押収をおこなったそうですが、基本的に帳簿は偽物を用意していたので問題ないはずでした。ですが、孤児院や修道院で書かれていた嘘の帳簿を疑い、ずっと内偵調査で裏取をし一切の購入実績はないと偽装を疑い踏み込んだところ……、サディカ孤児院のシスター ヴァビロアが二重帳簿を作成しており、隠してあったその正式な帳簿も押収され、多額の金が『S』に渡ったと証明されました」

「おい! あれほど帳簿を作らせるなと言ったではないか!! はっ! 何やっているのだ! そ、それで『S』からその先は?」

「それは掴んでいないようです。ただ入所の子供たちの数も調べ上げていたので、時間の問題だったかも知れません」

「それで何故私に捜査情報が入らなかった?」


「大金の行方のついて、大きな組織がバックに付いている、そこで情報が漏れないように極秘任務で動いたようです」

「忍ばせている者たちは何故連絡が来なかった!!」


「それが…いないのです。こちらの手の者たちは皆移動させられていたのです。王妃陛下の里帰りのための警備と準備の為、南の離宮までに立ち寄る離宮などに割り当てられていて出払っていたのです」

「馬鹿な! そんな偶然…重なるわけがない!! バレているのか?」

「分かりません、密偵たちも戻っておりませんので」

ガシャーーーーン!


公爵は水差しのコップを投げつけた。

「捕まったのか?」

「それも分かりません」


嘘だ! こんな所で終わってたまるものか!! やっと! ここまで来たのだ!!


「それと旦那様…、お嬢様がサムリに言ってある女性を誘拐させようとしていた件ですが、実行犯は捕まりましたが、首謀者と思われている者は、兵より先に見つけ始末しましたので事なきを得ました」

「そうか! ふーーーー、よ、良かった!」

「ですが……、その件でお嬢様がサムリやメイサをクビと称して移動させました。それからパースが戻って来ません」

「パースだと!? あの者は優秀だったはずだ! 何故!!」

「分かりません」

「すぐに調べるのだ!」

「調べに行かせた者が戻らないのです」

「何!? どうなっているのだ!!」


シルヴェスタ公爵は得体の知れない敵に恐怖していた。

「優秀な密偵に探らせろ」

「承知致しました」


情報がなければ動きようがないので、優秀な手駒を減らすのは惜しいが密偵を各地に飛ばした。 



学園ではベルナルドの変化が著しかった。

以前は女性関係が派手で軽薄なイメージがあったが、この頃は真剣に剣を振り、勉学にも励みイメージを一新させた。それも単にすぐ横に目指す人物像がいるから。話を聞くだけの時は完璧人間ブルームを胡散臭く思い、目の敵にしていたが、話してみると弛まぬ努力を積むブルームは年下ながら尊敬すべき人物であった。見方を変えたら自分が如何に偏見を持っていたか分かるようになった。それはグラシオスもローレンも同じだった。

特にローレンは最近、毎日ブライト伯爵家で寝泊まりしている、最早居候の域を超えた感じだ。


あの日、気を失ってブライト伯爵家で目を覚ましたローレンは、ブライト兄妹の関係を目の当たりにした。自分もディアナと仲が良いと思っていたが、その比ではなかった。

互いに相手を思いやり遠慮のない物言いに甘えた態度、恋人のような甘い囁き、本当の兄妹とはこう言うものかと思った。実家の兄弟とも違っていたが、そこに駆け引きも腹の探り合いもなく確かな信頼関係があった。

早朝に2人でトレーニングして剣を合わせて、転げ回っている。

ブルームとセシリアとリアンの屈託のない笑顔に癒された。いや、現実逃避かも知れない。

それ以来、頼み込んでブライト伯爵家で寝泊まりし、一緒に登校している。だけど勿論ブライト伯爵家に入り浸っている事は内緒だ。


アシュレイ王子殿下も学業に政務にと大忙しで、ゆっくり休む間もない。それもグラシオスやブルームやベルナルドやローレンが側近として機能しているので充実感があった。

以前は傍らにディアナを伴っていたが、最近は側近が常に一緒にいる。その壮観な絵面に女性たちはキャーキャー黄色い声を上げる。『淑女たれ』と叱られる事もしばしば、殿下たちも依然と違い気軽にそれらの声に手をあげて応えている。今や殿下たちの集団は身近なアイドルのような存在だった。



執務室の前で中に入れろと騒ぐ女性がいた。

「殿下に取り次ぎなさい」

「ですから、現在は来客中でどなたも取り次ぐなと言われております。お帰りください」

「どなたがいらっしゃっているの?」

「申し上げられません」

「お前! わたくしを誰だと思っているの!」

「勿論ディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢と存じております。ですがお通しできません」


「ローレンを呼んで頂戴」

「ローレン様は現在こちらにはいらしておりません」

「どこへ行ったの?」

「申し上げられません」

「使えない男ね!! シルヴェスタ公爵家に楯突くと言うの?」

「職務ですから」


室内ではそのやりとりが聞こえている。

「はぁー、義姉が申し訳ありません」

「このやり取りだけで精神が摩耗するな」


殿下たちは仕事と称してディアナの執務室への立ち入りを制限した。

ディアナはと言うと、侍女、執事が変わり、密偵は不在のままで情報が手に入らなくなった。だからアシュレイ王子がいそうなところに当たりをつけて突進するしかなかった。

ディアナも思う通りにならない苛立ちから、アシュレイ王子と楽しそうに話していた、と取り巻きから聞けば、その令嬢に近づくなと厳しく直接叱責した。その光景は大勢の目に晒されディアナの評判は下がる一方だった。シルヴェスタ公爵家に対するやっかみもありこの頃になると遠巻きにディアナを悪様に言う者で溢れていた。




今日は第1学年で従魔召喚の儀がある。

王宮より魔術師が派遣されこの学園に所属している者であれば全員が受けることが出来る。ただ受けたとして殆どの者は召喚獣を得られない。召喚獣は聖獣か魔獣かは不明だが、聖獣でも魔獣でも生涯を召喚者に捧げ、召喚者の助けとなる。

召喚獣を得た者はエリートコースとなり、将来安泰! 誰もが一発逆転の夢を抱いている。


第1学年の生徒たちはドキドキしながら魔法陣のサークルの中に入る。

1人、また1人と夢破れていく。


今年も全滅か…そんな嫌な流れの中、魔法陣の中に靄がかかり煙のようなものが立ち上る。

今までと違う流れに魔術師たちも力が入る。そして魔法陣の中の現れた聖獣はエゾモモンガ、小さくて可愛い聖獣モモンガだった。


「こ、これは聖獣です! おめでとうございます!!」

召喚者はプリメラ・ハドソン。

「えー!? 私―!! やっぱり!!私ってやればできる子なの! すごい可愛い! 私にピッタリ! やったー! やったー!!」


意外な人物に召喚獣、しかも聖獣と言う事もあって久しぶりの慶事に湧いた。


セシリアの番になった。

先程より凄まじい煙が立ち上る。魔術師たちも期待が高まる! だが煙が落ち着いたそこには何もなかった。みんな目を擦ってもう一度凝視したがやはり何もなかった。がっくりとして次の人間に移った。


しかしそこには皆は知らない熾烈な戦いがあった。

多くの聖獣や魔獣がセシリアと契約を結ぼうと争奪戦を繰り広げていた。そしてセシリアの契約獣になれる栄誉を勝ち取ったのはパンダの姿の聖パンダ、満を辞してサークルに現れようとした瞬間 思わぬ伏兵に押し戻されることとなった。


普通の人間には見えないが、そこにはドラゴンと白蛇が立ちはだかった。

『セシリアの契約獣は私がいるから必要ない』

『そうじゃ、そなたは必要ない。去ね』


リアンは聖魔獣だが魔獣の最上位種、ゲンは神様の眷属である聖獣、聖獣パンダと言えど太刀打ちできず無理やりゲートを押し戻されてしまった。


そしてリアンの番になった。

またも煙が立ち上る! だが今度は先程のような不発があるかも知れないと、ぬか喜びせず見守る。煙が収まるとそこに聖パンダがいた。そう、先程セシリアの召喚獣だ。

リアンは必要ないと言ったが、『普段ドラゴンとして動けないリアン様の!そしてセシリア様の役に必ず立ちます! どうか、お側にいさせてください!!』 その意見に一考した。

確かにセシリアは目立ちたくない、自分も聖魔獣としてすぐに行動ができない…、リアンには眷属もいるが魔獣だ。動ける聖獣がいれば確かに役に立つかも…、と受け入れた。


プリメラよりも遥かに強力な聖パンダの召喚で歓喜に沸いた。



結局今年の召喚ではプリメラとリアンの2名が召喚獣を召喚できると言う、大金星にその日からその2人を見る目が変わった。因みに召喚獣を得た人物の結婚は王家が介入する。例えば今回のようにリアンのような貴族ではない者は、高位貴族に召し抱えと言う名の囲い込みにあったりするので、その者と家は王家の総務部の管轄となる。


どこに行ってもお近づきになろうと人がワラワラと近づいてくる。

聖獣を得たプリメラとリアンは聖女・聖人として人気は爆上がりになった。


そしてプリメラは人生初のモテ期到来。

何をしても何を言っても肯定される。未だかつてない事だった。

いつの間にかプリメラの後ろには取り巻きのような人間がついて回るようになった。リアンはと言うと、優秀で聖獣もいるが基本的には従者なので貴族のプライドが邪魔して今までと扱いは変わらなかった。


プリメラは自分の聖獣に『モモちゃん』と名付け自分とモモちゃんの可愛さをアピールし肩に乗せて歩いたが、リアンはと言うと聖パンダを完全無視。でもめげずに後ろから構って欲しそうについてくる。でも会話が出来ないと面倒なので『パン』と名付けリアンとセシリアとブルームを繋げた。傍目には完全無視に見えるが心話では皆で結構話をしていた。


因みに召喚獣を得た者は特別な身分となる。

王族 〉公爵 〉侯爵 〉伯爵 〉子爵 〉男爵 〉騎士と言った感じだが、

各部の大臣は実家の爵位は影響するが、権力として通常、大臣は公爵・侯爵と同じくらいにある。それが、召喚獣を得た者や、教会から聖女・聖人と認められると王族と公爵位の間位に一気に上がる。それは国が保護する対象と知らしめるためだ。


つまり今回 プリメラとリアンは生まれに関係なく王族に次ぐ最高位の身分を手に入れたのだ。



ディアナは珍しくアシュレイ王子と遭遇した。

ここ最近は一緒に食事と摂れないし、出かける事もない。この機会を逃すまいとすかさずやって来て話しかけた。

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