53、チャリティーパーティーー1
スターヴァや屋台のマリオにも出店要請が来た。
マリオの屋台はいつものメニューのホットドッグとフライフィッシュ。スターヴァはロコモコ丼とスパイシータンドリーチキンで出店。
レガシーはエヴァレット公爵家とブルーベル侯爵家の協賛でイニシャルをつけられるブレスレット。
ブレスレット部分のデザインは同じでついている宝石は安価な小さめの石なのだが繊細な細工とカットで美しく輝き、似たものはあるがどれも全く同じというわけではない。しかもそこにイニシャルをつけられるのでオリジナルの世界で1つの物が出来る。
実はこの宝石はエヴァレット公爵領で産出されるものだ。
元々レガシーはエヴァレット公爵領の産出された鉱物を使って作っているのだが、貴族の中で喜ばれるのは、大きくで純度の高い高価な石だ。だがそんな物はポンポン売れるわけではない。どこの領も謂わばその屑石を持て余し、通常は安い土産物にしか利用価値がない。だから放置されていることが殆どだが、それにセシリアは価値を見出し、繊細な技術を持っている職人を『ファーム』に抱えたのだ。繊細なデザインを活かす小さな石は大粒の宝石にも引けをとらなかった。石が小さい分、繊細なデザインと併せて軽量な物が出来上がり、身につける者の負担を減らした、結果今までより数を多く指や胸元を飾ることになった。
『ファーム』の中には様々なものがあり、一つの街のようになっている。何でも揃うし、要望すれば叶ってしまう。職人たちは魂を込めた作品を生み出す、原材料費や家賃、食費、商品の価格・納期交渉は専属の者が行うので煩わしいことは一切なく、自分の好きなことに打ち込んでいた。その上、ノアが持ってくる話は職人魂を刺激されるものばかり、喜んで打ち込んでいた。
ルシアンは屑石を『どうせいらないものだからタダでいい』と言ったが、商品として世に出しても十分採算が取れると踏み、需要と供給を見極めると、それらにもキチンと代金を支払った。宝飾品にならなかった屑石も別の用途を編み出していた、正に捨てるところなし!
因みに王家御用達の『ファブシー』宝石店も当然毎年出店している。
強面の屈強な護衛を侍らしネックレスや指輪を持って来る。
それに王都の高級店『シャンゼル』も出店している。コチラは本格的な料理をフルコースで店先のテーブルで食べられるらしい。ここら辺の高級店は売る目的というより、参加することで格式高さをアピールする為に来ているようなものだった。
それから今回はチャイニーズレストラン『鳳凰』も出店!
当然これもセシリアの店だ。以前から準備して来たのだが、香辛料や食材を調達するのに時間がかかった。これも『ファーム』での研究の成果と言えよう! やっぱり中華も食べたいじゃん?
コチラは水餃子のスープ、北京ダックもどき、油淋鶏を出品する。
それぞれがチャンスと捉え張り切って準備している。
いよいよ初日、多くの人間が学園に押し寄せる。
この日の為に王都に上ってくる貴族もいれば、国外から来る者もいる。
売上は店の看板の上に掲示されている。それぞれがライバル店に差をつけるべく頑張っている。
最初に売上金額がついたのは意外にもマリオの屋台だった。
冷たい飲み物が大人気だった。まあ、暑いしね!それと手頃な価格だ、食べ歩きをする為に、今日はホットドッグたちも小ぶりになって価格も通常より安くなっている。
令嬢たちは興味はあったが、騎士の訓練場の入り口付近にあるので、大口を開けてかぶりつく勇気がなくイマイチ踏み出せなかったが、ここなら誰でも買えるし、ちょっと人目につかない所に移動することも出来る。いつも気になっていた味を堪能していた。
他の店もいつもは予約しなければ入れないところも、店にはない商品が並んでいるのでつい、食べ比べをしたくなってしまう。
『ファーム』で働いている子供たちも報酬を貰っているので金を握りしめ、目を輝かせながら店を回っている。
生徒会の人間も魔道具で連絡を密に取りながら、走り回っている。
プリメラはと言うと、今はお金がないので何も出品できなかった。それに多分何も買えない。その分、生徒会の人たちと裏方として走り回っていた。
カップルも結構多い。
子供でいられる場所ならではだ。婚約者がいる者たちは約束をして回っている。
エレンみたいに店に出資して自分自身が店に立たない者たちは時間が自由になる。自分で用意した物を売る者たちは店に立たなければならないので、大半が5〜6人でグループを作り店番を交代する。
因みにブライト伯爵家は父の店が出店している。国外の珍しい工芸品や土産物やスパイスを売っている。そしてブルームたちはフリーだ。
このチャリティーパーティーは2日間行われる。
高位貴族が集まるこの学園でのお祭りだ、良からぬ者たちが侵入するとも限らないので、王都の警備兵の他にも近衛騎士も投入されている。2人1組で回る者と、定点で警備をする者。その他にも学園側が雇っている私兵もいる。制服の色で所属が分かるようにされている。
売上の調子が良いのは、レガシー宝石店とスターヴァだ。
ファブシーの指輪やネックレスは1つ当たりの単価が高いので、1つ売れれば大きく売上に影響するが、お揃いのブレスレットはお互いに贈りあったり、思い出を分かち合ったりと2つセットで売れていく。それに高価な指輪であればここで勢いで決めるより、ゆっくり選びたい。高価な指輪ではなく安価な指輪しか売れていなかった。
スターヴァは既に美味い店と認知されている。しかもいつも行列だ、そんな店の手頃な新作とあれば食べてみたい! 食べたい者たちが並び美味い!と口コミで広がり、ここでも長蛇の列となっている。
今回シャンゼルには殆ど人が入っていない。
まず第1にシャンゼルで食事を楽しむなら店に行って食べればいい、シャンゼルは高級店で格式高い店だ、特別な時間を特別な人と共有する特別な店。こんな多くの人がごった返す外で食べる理由がなかった。それにここに食事をしに来ているわけではない。多くの人は通り過ぎていった。まあ、毎回名前を売る目的で売上自体はあまり期待していない。何故ならこれはチャリティーだ、売れれば売れた分だけ全て自腹となる、結果売れない方が店のためとなる。
「どう言うことなの? シャンゼルもファブシーも全然ダメじゃない!!」
「はあ、格式と伝統が高くても流行にはついていけていないようですね」
「はぁー、責任者を交代させるべきね」
「それは旦那様のお考えになることです。トータルとして売り上げを上げれば問題ありませんから」
『サムリはお父様の信奉者ね、ソディックと違って融通が効かなくて可愛げがない。他の男に変えようかしら?』
「まあ、いいわ。このチャリティーの寄付金もどうせ我が家に入るのだし、そうだ、あちらの手配はどうなっているの?」
「プリメラ嬢の誘拐の件ですか?」
「ちょ、ちょっと声が大きいじゃない!ソディックと違ってサムリ、あなたはまだわたくしの執事の素養が足りてないみたい。もう少し使えるようにならないと、交代させるわよ?」
「はい、承知致しました」
ディアナはこの騒ぎに乗じてプリメラを誘拐するつもりだった。
「ですがお嬢様、現在のハドソン伯爵家は没落寸前です。彼女を誘拐するメリットがありません。あるとすれば、普段アシュレイ王子殿下に纏わりつく煩い虫を排除したいお嬢様だけです。手違いがあれば、お嬢様が疑われますよ?」
「だから! 失敗しないようにやるのがあなたの仕事でしょう! 馬鹿なの? いい加減にして頂戴!!」
「失礼致しました」
本当腹立たしい男ね!
「ところでアシュレイ様はどこにいらっしゃるの?」
「さあ、パースにでもお聞きになってください」
「使えない男! パース! パース! どこ?」
「はい、何でしょう?」
「アシュレイ様はどちらにいらっしゃるの?」
「執務室で様々な方から挨拶をお受けになっておいでです」
「そう。まだ続くのかしら?」
「ええ、廊下まで列を成しておいでです」
「そう、残念ね。分かったわ」
「そうだ、リリアンとジャニスの守備はどう?」
「プリメラ嬢に対する嫌がらせの件ですか?」
「いちいち言わないとダメなの? 決まっているじゃない!」
「お嬢様のご指示通り教科書を破ったり、食堂で足をかけたり、噂を広めたりはなさっておいでですよ」
「そう、良かったわ。ふんふんふ〜ん、本当に目障りなんだから! わたくしとアシュレイ様がいる所に現れて邪魔なのよ! フェリスと別れた途端本当にアシュレイ様を狙うなんて本当に厚かましいんだから!!」
「もうすぐ本日は終了となりますよ。お嬢様はどなたかご挨拶なさらなくて宜しいのですか?」
「そうね、最後顔だけ出しておこうかしら?」
「それが宜しいかと思われます」
1日目が終わる少し前、各店は自分のところの売上の集計と他店の売上が気になる。
それがポイントの掲示板に張り出される。
やはり中間報告通りレガシーの売上がダントツだった。その次にスターヴァ、鳳凰と続いていた。飲食物がシャンゼルやファブシーより上にくるなど前代未聞であった、腐っても伝統と格式を重んじる貴族において矜持が全てなのにだ。
スターヴァや鳳凰は大喜びだが、ファブシーやシャンゼルは屈辱に悶えた。
最終的な勝負は明日へと持ち越された。
それぞれが反省会をし明日へ活かすよう話し合われている。
シャンゼルとファブシーは売上が振るわなかった事をシルヴェスタ公爵にこっ酷く叱られていた。例年通りであるにも拘らず、明日の売上トップを奪還する為に戦略会議を寝ずにさせられていた。
2日目が始まった。
昨日あたりをつけていた店に朝イチ並ぶ者も多い。今年は例年より盛況だった。代わり映えのしない伝統と格式に新興勢力が一石を投じた感じた。
昨日負けた店も今日こそはと気合を入れる。
そして水面下ではなく表立って事件は起きた。
プリメラ・ハドソン伯爵令嬢が誘拐されたのだ。
「アッシュ殿下ぁ〜! 助けてぇ〜!!」
と暴れて大声で助けを求めたところを、口を抑えられて死角に連れ込まれ、そのまま連れて行かれそうになった。
アシュレイ王子殿下の視界に入り、咄嗟にエアバズーカを放った。犯人に当たったが、第三者に当たることを恐れて威力が弱かった。致命打には至らず引きずって逃げていく。すぐに警備の者は犯人を追った。
その結果、馬車の連れ込まれる前になんとか助け出すことが出来た。
ちょっとした騒ぎになったが、無事戻ったことからそのままチャリティーパーティーは続けられる事になった。
プリメラ・ハドソンは王宮警備兵に事情聴取される関係で王宮へ連れて行かれた。
王宮警備兵は誘拐犯たちを追っていた。
学園の中でプリメラ・ハドソン嬢が男たちに連れ去られそうになったところをアシュレイ王子殿下が気づいて事なきを得た。現在 犯人たちを警備兵たちが追っている、と言う話が駆け巡った。
学園生たちはアシュレイ王子殿下の咄嗟の判断で誘拐を食い止められた、と褒め称えた。それと同時に『何故プリメラ・ハドソンが?』この疑問ついて回った。何故ならハドソン伯爵家をわざわざこんな場所で狙う意味が分からない。ここには他に金持ちも言ってしまえば王子もいる、そうなるとプリメラを狙う理由は怨恨ではないか?では誰が一番プリメラを恨んでいる…? 今はその話題で持ちきりだった。
1人ガタガタと震える者がいた。
それは当然 ディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢だ。
「何で失敗するのよ!!」
「声を押さえてください」
「アンタが雇った奴ら使えないにも程があるわ!!」
「誰かに聞かれたらどうなさるのですか?」
「煩い! 煩い! 煩い!! 何でアンタみたいなポンコツを執事にしたのかしら! ソディックならこんなお粗末なことにはならなかったわ!」
『そのソディックを殺したのはお前じゃないか』
「雑踏に紛れて拐うように言ったのですが…、申し訳ございません」
「使えない! 使えない! はーはーはーはー!………ふぅ、逃げた者たちから知られることはない? 間違ってもわたくしに辿り着くようなことはないわね!」
「はい、私に辿り着く可能性はありますが…」
「馬鹿なの!? それでは意味がないじゃない!! プリメラを憎らしく思っているのがあなたではなくわたくしだって誰が見ても分かるじゃない!! 使えない! もう、本当に使えない!! ねえ、分かっているの? ソディックはどうして死んだか?」
「シルヴェスタ公爵家に迷惑がかからないようにです」
「あなたも同じよ? わたくしが無事にアシュレイ王子の妃になれなければ、あなたにも輝かしいキャリアはないの、分かっているの!! 今度こそ…いいわね?」
「承知しております」
「キチンと後始末をして頂戴」
「承知しました」




