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52、休暇明け

ディアナもソディックの事件は捜査が打ち切られたとは言え、自分の執事が起こした事件として3日間自宅謹慎した。シルヴェスタ公爵も同じように5日間の謹慎をした。


謹慎がとけると、ディアナは王宮の魔獣舎に来ていた。

自分の魔獣を手に入れるためだ。

わたくしに似合う魔獣は何かしら? それにしても獣臭いわね。


「お尋ねします。責任者はどなたでしょう?」

「はい、私が魔獣管理局 局長のランクルです。ここへはどう言ったご用件で?」

「わたくしはディアナ・シルヴェスタです。アシュレイ王子殿下の魔獣と共に空を駆けられるような魔獣を探していますの。見繕って頂けないかしら?」


「なるほどご用件は分かりました。結論から言いますとここにいる魔獣をシルヴェスタ公爵令嬢にお渡しする事は出来ません。所有者が決まっているからです。

シルヴェスタ公爵令嬢が魔獣を手に入れる為には、ここの魔獣であれば総務部に申請を出し、許可されれば直近で生まれた卵が下げ渡される事となります。

それ以外では、魔獣の卵を闇で売っているところから購入して育てる、この2点があります。いかがなさいますか?」

闇ルートで購入とはつまりは違法行為だ。実質、許可が降りてから卵から生まれた魔獣を待てと言っている。


「遠回しに断られているのよね? それとも自分は無能だってアピールしているのかしら? がっかりだわ…みんな我がシルヴェスタ公爵家に取り入ろうと必死なのよ? 何を犠牲にしても願いを叶えようと躍起になるのに、あなたはチャンスを不意にするのね? 残念だわぁ〜」

「ご用件が終わったならお帰りください」

「ちょっと後悔しないの? わたくしはあなたの名前を覚えたわ。これ以上の出世も見込めない、本気でい構わないのね?」

「面白いお嬢さんだ。魔獣管理局にいて出世ってなんだ? 出世したいなら文官辞めてここに来るわけがないでしょうに。黙ってて差し上げますからお帰りなさい。

大体 魔獣は使用人任せの世話では懐きませんよ。魔法で契約すれば服従すると思っていたら大間違いです。魔力量は人間より魔獣の方が多い、つまり成獣になった魔獣ではあなたを主人と認めない、契約の時点で殺されますよ。これは心からの警告です、分かったならお帰りなさい」

「でも王族たちは皆魔獣と契約しているじゃない! 適当なこと言うと処罰するわよ!」


がしゃーーーん! がしゃーーーーん!!

「グルルルルルルルルルルルルル グゥアーーーー!!」

「ギィィィィィィ!!」

「アギャーーーーー!!」

敵意をもってディアナを見ている。檻がなければ殺されてただろう。


「ひっ! 何なのよ! 煩いわね!! ふん! いいわよ! 帰るわ!」


護衛騎士たちはすずっとディアナの側にいた。

最近のディアナは淑女の鑑とは程遠い存在になっていた。

以前は心優しく気遣いの出来る聖母のような人だったのだが、プリメラ・ハドソン伯爵令嬢が現れてから少しずつおかしくなり始めた。いや、殿下の婚約者になってから本性が現れたと言うべきなのだろうか…。意に沿わないものを全て排除するようになった。


それも少し違うのかもしれない…、以前はバレないようにソディックたちが影でフォローしていたのかもしれないが、今はいないので自身が動いて墓穴を掘っている、こうして近衛騎士である私たちが護衛として側にいるのに本性を見せてしまっている。今のディアナ様はお仕えしたい主君ではない。

日々醜悪さが増していく。

この人は我らが殿下に告げ口するとは考えないのだろうか?

恐らく皆が皆 シルヴェスタ公爵家の権威に従うものと考えているのだろう。

我らは近衛騎士、王家に仕えているというのに。



ディアナは予定通り、お茶会を開き自分の地盤を固め、次の手足も見つけた。

まだソディックとヨルの代わりは使えるとは言えなかったが、元の生活に戻りつつあった。




夏季休暇が明け2学期が始まった。

それぞれが休暇中に行った旅の話や購入したドレスや土産、高価なプレゼントの話に夢中になっている。

休暇中と言うこともあって、ディアナの執事が罪を犯し殺害された話は広まっていなかった。一部の人間は知っていたが堂々と登校してくるディアナに、『執事運がなかったな、可哀想に』と変換された。



この学期にはもうすぐチャリティーパーティーがある。

金持ち貴族が集まっているこの学園だけにド派手なものを毎年やる。

持ち寄ったものを売って、売上金を国中の孤児院や修道院などに寄付するのだ。まあそんな慈善事業には大して興味はない。多くの貴族は自尊心を満足させる為にこの一大イベントに臨む。更に、有体に言うと大金を使った家には国王陛下との謁見、表彰がある。その家は優良貴族としてのステータスを得るのだ。


チャリティーバザーと言いつつ本当に家で余っているモノを出品するのではない。わざわざ購入したモノを出品し、自分たちで購入し金を寄付する。ただその際 

『どこの誰の◯◯が幾らで△△様にお買い上げ』と大きく張り出されるので金持ち貴族は義務感と優越感に酔い、高額購入をしてくれる。


この時期は王都の店はバブル景気に沸く、便乗商法も横行! ついつい財布の紐が緩むのだ。だが高価なものだけでは無い。この日は学園が一般開放されて関係者以外も学園に立ち入りが許可されている。一般のつまり貴族だけではなく平民もこのお祭りを楽しめるように、屋台や出店なども出るし、あまり裕福では無い家柄の者たちが作る手作りのものも、自領の名産も、数名で金を出し合って作った小物なども、お菓子も、面倒だと思う者は王都で流行っている飲食店を出店させたり、花を育てて出品したりと様々なものが広大な敷地に所狭しと並び出品され売買される。


生徒会もこの一大イベントの準備で大忙し。

プリメラはアシュレイ王子殿下が生徒会メンバーでは無いと知っても、何となく手伝っていたのだが、フェリスと交際するようになって足が遠のいてしまった。フェリスと別れてからは偶に手伝って欲しいと声が掛かると手伝っていた、よって今回のイベントにも声が掛かりお手伝いをしている。


プリメラは初心にかえり、アシュレイ王子の周りを彷徨くようになり、食事時などは許可もないのに勝手に隣に座って共に食事を摂ったりしている。アシュレイ王子もディアナとの関係が良好だった以前とは違い、プリメラを無碍にしなくなった。

プリメラの無神経な予測不能な行動は、ディアナとのギスギスした関係を緩和してくれていた。アシュレイ王子も今はディアナと2人きりになることの方がが苦痛だった。

それにプリメラの話は突拍子もなく案外面白い、普通の貴族の常識のそれとは違っていた。代わりにディアナの眉間の皺が濃くなり、目は座っている。怖くてそちらを見ることが出来ない。


最近、私の側近が私の側にいない…。

グラシオスとベルナルドはセシリアを探し回っている。時間があると彼女を探し回り、彼女がいないと私にボヤく。

おかしいだろ、その時間は普通私の周りにいるべきでは? 私の側でディアナとの壁になってほしいのに…。

それにローレン!ローレンはディアナの義弟でシスコンを拗らせていたはずだ。それなのに最近はディアナの側にいない。では何をしているかと言えば…、自分の婚約者と一緒にいる。名前ばかりの婚約者でディアナ以外には目もくれなかったのに、一体どうなっているのだ?


ああ、私もセシリアとリアンと共に過ごしたいのに。

あの時は楽しかったなぁ〜。はぁー、また現実逃避しちゃうよ。



「聞いてます? アッシュ殿下!」

「ちょっとあなた、アッシュ様を愛称で呼ぶなど不敬よ、控えなさい!」

「えーー! ディアナさんだって愛称で呼んでいるじゃないですかー! 自分だけずるいー!!」

「ずるいとかずるくないの問題ではありません。わたくしはアッシュ様から許可を得て呼んでいるのです、あなたとは違います!」

『ああ、またこの議論か…正直どうでもいい。この場から去りたい』


「アッシュ殿下〜、私もアッシュ殿下って呼んでもいいですか〜?」

「………………………。」

聞いてなかった。

「アッシュ様?」

「ああ? 何だったかな?」

「プリメラ様が アッシュ様をアッシュ殿下と愛称で呼ぶ件です! はっきり言って差し上げてください」

「あーーー、プリメラ嬢には許可しない。何度も同じ話に疲れる。はー、悪いが私は執務がある、お先に失礼するよ」

「「どこへ行くのですか! もう!」」

『あー、執務室が学園にあって良かった』


急ぎ足で執務室へ向かおうとすると、少し先でブルームを見かけた。どうやら、気配を消して足速にどこかへ行ってしまった。そちらの方向に追っていくと誰もいない、だけど気になって散策がてら更に先に進んでいくと、小屋があった。


何でこんな所に?

そう思って中を覗くと、小屋の中の人間からもばっちりコチラを見られていた。

「あっ!」

扉を叩き返事を待つ。

「……………。」

返事がない、冷たい。

「お願いです、中に入れてください!」

「………お一人でどうぞ」

アシュレイ王子は三つ子のナンチャラで、セシリアの激辛対応にめげずに尻尾を振って懐きたがる。


「皆はここで待て、私が出てくるまで決して入ってはならない、いいな」

そう言い残すといそいそと入って行った。


「失礼する…、ほぉー、少し懐かしいな」

「ゴホン、ようこそおいで下さいました、殿下」

「ああ、少し邪魔をする。食事中であったか、構わない続けてくれ」

「ではお言葉に甘えまして失礼致します」


そう、アシュレイ王子はセシリアたちの隠れ家に辿り着いてしまった。

王子殿下が来たと言うのに特にお茶も出さない。そして目の前で食事をしている。


「セシ、今日のご飯も美味しいよ。これは何?」

「これはガスパチョと言う冷製トマトスープ、それと冷製豚しゃぶ塩レモンパスタ!今日はとても暑いので冷たくてツルツル食べられるものがいいかと思いまして」

「セシリア、僕これ好き。香りが爽やかで食欲をそそる!」

「ううん、私も好きだな。あまりレモンが入ったものは食べたことがないが、見た目も爽やかで口の中がサッパリするな、それにこの胡椒がお気に入りなんだ」

「うふふ 存じております。だからお兄様がお好きなモノをお作りしたんです。スープも冷たいのでお茶は温かいモノをご用意致しました。これはほうじ茶というモノです」

「ああ、いい香りだね。なんだかほっこりする」


王子がそこにいるのに誰も気にかけない。

すっごく寂しい。これで『私を誰だと思っているのだ!』なんてやったら二度と一緒にいることは叶わない、だから我慢する。


「セシリア、私も食べてみたい」

「食べて来たのではないですか?」

「だけど…食べたい。皆が美味しそうに食べているし、見たこともない料理に興味もある」


「ふぅ〜、仕方ありませんね。その代わり残さず食べるのですよ」

「はい!」

すっかりアシュレイ王子はノアに対し苦手意識というか、逆らってはいけない人物とインプットされ、従順な下僕のようだった。年下の不遜な物言いも気持ち良さを感じ始めている。

セシリアの態度はディアナたちとは全然違うのだ。セシリアの不遜な物言いは親しみからくる、そう駄目な弟にでも接するかのようで、アシュレイ王子はセシリアの気取らない態度がこの王宮で生きる唯一の安らぎだった。


貴族の食事はそもそもバターをたっぷり使った脂っこい食事が多い。だから食後にレモンのソルベなどで口をサッパリさせることが多いのだ。レモンそのものを食べると苦味を感じて最初食べた時は悲しい顔になってしまったが、混ぜて食べるとその苦味もいいアクセントで美味しかった。ガスパチョは冷たいスープ、アシュレイ王子は毒味のすんだ冷たい食事が常なので、冷たいスープにも食事にも思い入れはなかったが、温かい食事が冷めてしまった冷たさと、冷たく食べる為に用意された料理の冷たさとでは別物だった。


「はぁー、すっごく美味しかった! 食事はして来たがそれでもあっという間に食べ終わってしまった。美味しい食事を有難うセシリア」

「はい、お粗末様でした。ところでここへは何の用でしたか?」

「いや、用はない。暫し1人になりたくて歩いていて行き着いた。他人のフリと言われているのにすまない」

「他人のフリというか他人ですが? ここは知られたくないのでもう来ないでくださいね」

「ブルーム! セシリアが本当に冷たい!!」


「恐れながらディアナ様は大変嫉妬深い方です。ここへセシリアに会いに来ているなどと思われればブライト伯爵家は潰され、彼女の取り巻きたちのように…ゴホン、ですからセシリアとは距離をとって頂けると有難いです」

「リアン! リアンなら私の気持ちを理解してくれるよね?」

「んー、もうすぐチャリティーパーティー、…セシリアが狙われるのは困る。アシュレイはここに来ない、セシリアとはただの学園生の関係、それが一番問題ない」

「なんか急にカタコト!! 皆冷たい。ん? さっきの取り巻きって何?」

「さて、授業が始まるのでそろそろ行こうか!」

「また仲間はずれ!」

『別に仲間じゃないし…』

「今、酷いこと考えたでしょ!」

「アシュレイ、子供の頃と全然変わらない」

「ぐっ! わかりました、帰ります。帰りますよ!」


アシュレイ王子殿下を追い出した後、

「ディアナにだけは見つからないようにしないとな」

「以前の密偵の代わりのパースだったか、前の者より優秀だ」

「まあ、流石にシルヴェスタ公爵が使っていた密偵と言ったところかしら?」

「でも今は私たちではない者に気を取られている」

「何にだ?」

「プリメラ・ハドソン」

「ああ、あれね。やり取りを聞いているとおかしいのよ? ディアナ様の正論をプリメラ様の不思議発言でチグハグで、煙に巻かれちゃうの。クスクス まともにやり合うのが馬鹿らしいほどよ」

「ならディアナをプリメラに相手してもらう事にしよう」

「ええ、そうしましょう」


基本的に自分たちに関わりなければ放置する3人であった。

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