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51、悪役令嬢

勿論アシュレイは目の前のディアナが自分の一挙手一投足を観察していることは分かっている、本心を気取られてはならない。だから純粋に好奇心で興味を持っているように見せている。間違ってもセシリア個人に興味があると思われてはならない。


「流石だな、ブルームは現役の小隊長にも勝ったのか、詳細は知らないのだろう? 内容が知りたいな。シリルは知っている?」

「さあ、詳しくは存じませんが何でも圧倒的な差で勝ったとか…。納得出来ないコバック小隊長が泣きの1本を申し込み、勝敗を確定させた後にもう1勝負したらしいですよ」

「それにも勝ったのだろう? ますます興味深いな。彼が側近に入ってくれればいいのだが、この間の感触では難しそうだったな」

「まあ! 殿下からの打診をお断りになったのですか?」

「いや、そうではないよ。卒業後の進路について魔法騎士を目指しているのか、文官を目指しているのか、何か目標があるのか聞いてみただけなのだ。あちこちからブルームは狙われているからね」

「それでどうでしたの?」


「ふふ、兄妹でイチャイチャしていただけで何も分からなかったよ。お互いがお互いの思いを優先させて決まらないのだ。婚約についても聞いてみたが、こちらも理想の相手がすぐ側にいて他には目がいかないようだったよ」

「まあ、兄妹でそこまで仲が良いと言うのも、些か妙な感じが致しますわね」


「はぁーー、そう? 私は仲が良くて羨ましかったよ、ただそれだけだ。私たち王族には常に人の目に晒されるし、兄妹で力を合わせて何かをする事もない。こうしてすぐ邪推する者たちに囲まれて本心も晒せない。いつも仮面をかぶって本心ではないところが真実であるかのように語られて正直うんざりだ。きっと兄妹として暮らしてきた時間の中で強固な信頼関係を築いてきたのだろう、羨ましくはあっても気持ち悪いなどとこれっぽっちも思わない!」

「で、殿下! 落ち着いてくださいませ」

初めて見るアシュレイ王子の激昂ぶりにディアナは言葉を失っていた。シリルが止めなければもっと興奮し決定的な言葉を言ってしまっていたかもしれない。


「すまない、これは八つ当たりだな」

シーーーーーーン


「いえ、わたくしも言葉が過ぎました」


そこへ王都警備兵がやって来た。


「殿下、王都警備兵がディアナ様とお話ししたいと参っております」

「王都警備兵? ああ、通してくれ」

「はっ!」


アシュレイ王子とディアナの間は何とも言えない空気で、雰囲気が悪かったので丁度良かった。



「ご歓談中申し訳ありません! ディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢にお伺いしたい事があり参りました!」

「わたくしに? まあ、何かしら?」

「ソディックと言う者をご存知でしょうか?」

えっ? 何故ソディックを王都警備兵が聞くのかしら? まさか!? 憲兵ではないの?


「ソディックはディアナの執事だ。ソディックがどうしたのだ?」

「はい! 昨日 ある事件が起きそのソディックと言う者の関与が疑われています。ソディックの身柄を引き渡して頂きたくお願いに参りました!」


これはわざとだ。本来であれば関与が疑われてもシルヴェスタ公爵邸で密かに交渉される事、それをアシュレイ王子殿下や使用人や護衛が多数いる場で、敢えてディアナの執事と知った上で口にしているのだ。つまりはソディックの裏にはシルヴェスタ公爵家若しくはディアナ個人が関与していると踏み、逃がさないための策だろう。


「ま、まさかソディックが!? な、何の事件に関与していると仰いますの?」

「そう言えば今日はソディックを見ないな。ソディックはどうしているの?」

「何かの間違いです! ソディックが、ソディックに限って…」


「失礼致します。殿下、私レイモンド・マルゴットより事件の経緯を申し上げても宜しいでしょうか?」

「ああ、マルゴット副騎士長か、頼む詳しく知りたい」

なんて事! マズいわ!!


「昨夜の事です。私が王宮で会議が終わった後、馬車で屋敷に向かう途中、ララと言う女が馬車の前に飛び出して来たのです。ララは御者に『助けてくれ』と縋った、見れば服は破れ、身体中怪我をしていることが見て取れた。そこで私に指示を仰ぎ、私は近くの憲兵の派出所に連れて行きました」


まあ、よくないことではあるが、よくある事件だ。


「ところが派出所についたララは、私に襲われたと騒ぎ出したのです」

「どう言うことだ?」

「更に解せないことに、憲兵は私の意見は全て無視しララを被害者、私を加害者として調書を作り始めました。一切の捜査も行わないでです」

「それで?」


「私はララとこの憲兵マードフは協力関係にあると思いました。冷静に考えれば襲った本人が被害者を連れて憲兵のところに行くなど考えられないことです。ですが、それに疑問も持たずに私を犯人として調書は作成された。そこで捜査させたところ、ララはある男から言われた通りにすれば金をやると言われたそうです。マードフの方はソディックと名乗る者からこの件を上手くやれば密偵としてさる高貴な方が使ってやると言われていたそうです。因みにマードフの証言を得て似顔絵でララに確認したところ同じ男と確認が取れました。因みにララと言うものは乱暴された痕跡はなく偽装であったことが判明しています。

よって今回の事件はソディックが裏で糸を引いていたと断定されました。


シルヴェスタ公爵令嬢、ソディックから話を聞く必要があります。彼はどこにいますか?」


マズいわ! レイモンド・マルゴットでは権力やお金で口を封じることができないわ。

ディアナは肩を震わせ取り乱した演技をする。


「そんな、何故ソディックが…!」

「ディアナ、無関係であるならばソディックの居場所を言うべきだ」

「わたくしは無関係です! でも…でもソディックが犯人なんて信じられません」

「犯人隠避罪でシルヴェスタ公爵令嬢も罪に問わねばなりませんが?」

「何故わたくしが!」

「ではどこにいるかお話しください」


「実は知らないのです。今朝から一度も見ておりません」

「隠し立てするとシルヴェスタ公爵令嬢も関係ありと取られますよ?」

「本当です! ソディックさんは朝にはいなくなっていたのです! いつもならいらっしゃるのに…だから今日は私1人でお供してきたのです」


「そうですか、では指名手配ということでこちらで捜索します。ああ、因みに、ネズミが1匹捕まりましてね。どうやらこの事件の捜査状況を探っているようでした。飼い主は誰なのでしょうね?」

射抜くようにディアナを見ている。話からするとネズミとはわたくしの関係者、ダンが捕まっているようだった。

最悪の状況であるには違いなかった。


「ご歓談中お邪魔をして申し訳ありませんでした」

レイモンド・マルゴットは帰って行った。当然、ソディックとネズミの主人はディアナと判断し様子を見に来たのだ。

こんな筈ではなかったのに!!

テーブルの下では必死に震える手を押さえていた。


「ディアナはソディックを信頼していたのだろう? 困ったことになったね、ソディックの目的は一体何だったのだろうね? 早く捕まるといいけど」

アシュレイも心配そうな顔の下で、ディアナに対し猜疑心を向けていた。


「アシュレイ…アッシュ様、わたくし本日はこれで退城しても宜しいでしょうか? ソディックの事が気になってしまって」

「ああ、構わないよ。ネズミも何か知っていればいいのだけれど」

更に顔色が悪くなる。



ディアナはソディックを捕まえさせるわけにはいかなかった。

首謀者をソディックにする訳にはいかなかったのだ。仮に捕まってもソディックはディアナの事を話はしないだろうが、ディアナの執事が首謀者として捕まれば、社交界でディアナの立場はなくなる。

急ぎ自宅へ帰ると決断しなければならなかった。


父親の腕利きの暗殺者を借り受け、ソディックとダンの暗殺を命じた。


『ふぅーーーーどうか、間に合いますように、どうか、バレませんように!!』



王宮警備兵たちもシルヴェスタ公爵領や所有の家屋など捜索したが、あまりに多くの保有物件があり、分家や取引先などを合わせるととてもではないが絞れなかった。そしてシルヴェスタ公爵領の屋敷はまさか匿っているわけがないと後回しにされた。


数日後、ディアナは暗殺完了の報告を受けた。間に合ったのだ!

ソディックは屋敷で普通に働いていたが、密命を受けたと呼び出しその場で殺して放置し、偽の遺書を用意した『ご主人様の邪魔をする者たちが許せなかった、全ては私1人の犯行です。お嬢様もシルヴェスタ公爵家も関係ございません。死んでお詫び致します』そう記されていた、ダンは牢の中で毒針を飛ばして殺害し放置した。

結果、捜査はそこで打ち切り、ララの身柄だけ奴隷の焼印が入れられ、過酷な地へ送られた。


やっとディアナは憂がなくなりいつも通りの日常が戻ってきた。



それにしてもソディックもダンもいなくなって、不自由が多くなった。

ソディックの代わりの執事候補が目の前に揃う。

ダンの代わりは父に頼んだ。


それにしても…、ソディックは使い勝手のいい男だった。

頭も勘も良かった。ソディックと特定されなければ、表に出ない形で使い続けたいと思っていた。


「あー、ソディックが失敗さえしなければ…」

「お嬢様あんまりです!」

「ヨルどうしたの?」

「ソディックさんはいつもお嬢様に従順に従っていました。お嬢様に叩かれても怒ったりもしないし、お嬢様の無茶にもいっつも応えようと…努力なさっていらっしゃいました! あんなに一生懸命お嬢様に尽くす人、きっと他にはいません!! それをお嬢様は簡単に切り捨てたんです!!」

「ヨル、いくらあなたでも聞き捨てならないわ!

ふー、わたくしだって好きで捨てたんじゃないわ。失敗してこのままではわたくしの身だけではなくこのシルヴェスタ公爵家まで危険になるところだった、だから」

「それだって! 今回の事は本当に必要な事でしたか? ブルーム様を陥れるのは殿下のためみたいな事言ってましたけど、殿下は優秀な部下として重用しようとなさっていたではありませんか! お嬢様の早とちりでソディックさんは死んだんですよ! もっと、もっと悲しんであげてもいいじゃないですかー!!」


「ヨルいい加減にして頂戴! わたくしだって悲しいと思っているし申し訳ないと思ってる! でも仕方なかったの! これ以上何か言うならわたくしの侍女から外すわよ」

「……ひっくひっく、はい、今までお世話になりました。私…お嬢様の侍女を辞めさせて頂きます。失礼致します」

幼い頃から共に過ごし、手足となって働く者がここへ来て皆いなくなってしまった。

『何でこんな事に…、使えるモノをすぐに手配しなければ』



「もう、何なのよ!! あなたはクビよ」

ソディックもヨルも気が利く者たち、いちいち指示せずとも自分で考えて行動した、そしてそれはディアナの満足するものであった。代わりの者たちでは満足できず苛立ちを覚えていた。


代わりに手配した者が気に入らず、これで何人か目のディアナの執事候補を選んでいた。

「お嬢様、それで誰になさいますか?」

「はぁ? ああ、左から3番目の者でいいわ」

「承知致しました」

「お嬢様、ご挨拶させて頂きます。サムリと申します、この時よりお嬢様付きの執事となります、どうぞよろしくお願い申し上げます」

「ええ、宜しくね。早速だけど、侍女の手配もお願い」

「承知致しました」


侍女ヨルの代わりはメイサとなった。


そうだわ、夏季休暇がもうすぐ明けるからその前に…

「サムリ、親しい方を招いてお茶会をしたいわ。呼んでほしい方のリストよ、宜しくね」

「はい、承知致しました」


取り巻きの中で手足となりイジメ代行をさせていた者たちもいなくなってしまったため、新しい駒が必要になっていた。その手足を早速探し始めた。



気付けばディアナの側にいた者たちはいなくなっていた。

ローレンもそれらを陰から見ていた。

今後 自分がどうするべきかそれぞれが岐路に立っていた。

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