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50、陰謀−2

財務部は夜中の11時過ぎにやっと解散することとなった。

次の日も仕事だ。

魂の抜けたような男たちがゾンビのように帰っていく。


その頃の憲兵の派出所では大騒ぎする者たちがいた。

「あたしはそこの男に襲われました!」

「ふざけるな、私は仕事から帰る途中、お前が飛び出してきたから馬車を止めたに過ぎない」


「お貴族さまでも、女性を襲ったとなるとすぐにはお帰し出来ません」

下卑た視線で男を馬鹿にした発言をする憲兵。

「上司を呼べ、お前では話にならない」

犯人として捕らえられた男は尊大な態度でそう告げる。


『あたしは馬車が来たら 助けてって言って憲兵がいるとこ行ったら、助けてくれた男に襲われたって言えばお金くれるって言われただけだし、ちゃんとやることはやった。後はそっちの仕事でしょ?』


『俺は男に襲われたと娘を連れてきた男を、犯人として捕らえれば、金が貰えてお偉いさんに仕えることが出来る、簡単な仕事だ』


襲われた女を連れてきた男が何を言っても憲兵は話を聞かない。そして尊大な態度で上司を呼べと言う男を無視する。まあ目の前の男が何者でも雇い主よりも身分が上と言うことはないだろう、まあ万が一高くても俺は俺の仕事をしただけと、心置きなく男に罵声を浴びせ犯人扱いをしていた。俺の仕事はこの男を強姦魔扱いする事なのだから。


「オタクはなんて名前なの?」

「……………。」

「黙っていてもここからは出られませんよ!」

「……………。」

「な、ま、え! 名前も言えないのか!! 貴族だからって軽く考えていると痛い目見るよ?」

「お前こそ名前は何という?」

「ああ? 名前聞いてんのはこっちだろう! ふざけやがって!」

「女の名前は聞かないのか?」

「はぁ? まあ聞くか? おい、君は何て名前だ?」

「……ララ」

「ララね。被害者の名前はララだってさー、これで満足か?」

「それでその取調官の名前は? 調書を作るのだろう?」

「調書か、確かに調書を作らなければな! 作成者…マードフっと。ほら、あとは加害者の名前だよ、アンタのなーまーえー!」


ガチャ

「ご主人様 遅くなり申し訳ありません」

「ふー、それよりこの女 被害者と言っているララと取調官のマードフと言う男はグルだ。捕らえよ!」

「はっ? 馬鹿言ってんじゃねー!」

「な、何であたいが! あたいは被害者だろ!?」

先程までとは話し方が変わっている。


「失礼致します! 王都 第14派出所 所長 グルモンド参りました!」

「グルモンド所長、このマードフを採用したのはいつだ?」

「10日ほど前でございます!」

「この者たちはグルだ。私を狙って嵌めるつもりで今回の事件を起こした。背景を探れ!」

「はぁ? 何言ってんだよ! アンタはあのララって奴を強姦しようとしていたところを逃げられたんだろう?」

「馬鹿か? 何故 襲った女をわざわざここまでる連れてくる必要がある?」

「ああ? そ、それは…、人に見られて証人を作るため…とか? アンタが間抜けだから?」


「この通りだ。私は馬車の前に飛び出し助けてくれと言われたから馬車を停め、ここまで連れてきた。しかしここへ着くと女は私に襲われたと言い、あの男は私を犯人だと拘束した」

「な、何たることを!!」

「もしかすると10日前にここへ入ったのも今日の為かもしれない、背後関係をよく探れ!

マードフと言ったか、私はここへ来るまでお前たちのもっと上の上官と会議をしていたのだ。そして帰る途中に遭遇した。部下も付き従っていた、証人はいくらでもいる。さてあの女は誰に襲われたのだろうか?

ああ、女には念のため医者に診せて襲われた形跡があるかも確認せよ。私を嵌めようとしたのだから、相応の仕打ちをしなければな」

「はっ! マルゴット副騎士長」


レイモンド・マルゴット副騎士長は規行矩歩、四角四面、超ど真面目人間で厳格な男で有名だった。その融通の効かなさを買われて王都の警備副騎士長に抜擢されたのだ。


「いつまでに調べがつく?」

「1週間ほど頂きたく…」

「長いな、それまで私に不名誉な噂を背負わせる気か?」

「申し訳ございません!! 4日! 4日でお願い致します!!」

「……承知した。報告は犯人と共に持ってこい、いいな?」

「はっ! 承知致しました!」


徹底的に調査されることとなった。




「お嬢様! 大変でございます!」

「ソディックったらなぁに? 騒がしいわね。 ヨル、今日のドレスはクリームイエロー系でお願いね」

「お嬢様! 大変でございます! 昨夜 女を強姦未遂で憲兵に」

「ああ、そうね守備はどう? ブルームは捕まったの?」

「だから、違うのです!! 女が助けを求めた馬車はレイモンド・マルゴット侯爵令息だったのです!!」

「はぁ? 何言ってるの? わたくしはブルームを狙って評判を落とせと言ったのに何故マルゴット副騎士長になるのよ!!」

「分かりません! 手配した者たちは既に捕まり取り調べを受けています!」

「何ですって!! マルゴット副騎士長だなんて! いえ、今はそれどころではないわね。我が家に繋がるものは何かあるの?」

「女は金の約束しかしていませんが、男の方は今回の事が上手くういけば、お嬢様の手の者として引き上げてやると匂わせています」

「何でそんな使えない奴を引き入れたのよ! この役立たず!!」

マズいマズいマズい

マルゴット副騎士長と言えば融通の効かない堅物で有名じゃない! お金も権力も役職も何で釣っても効果がないわ!

「顔を知られているのはソディック、あなただけね!」

「はい」

「ならあなたは熱りが冷めるまで領地に帰っていなさい。落ち着いたら呼び戻すからそれまで大人しくしてて」

「………はい」


参ったわね、こんな筈じゃなかったのに!

なんでブルームじゃないのよ!!



ディアナは王宮へ向かった。

いつもは羨望の眼差しを向けてくるのにどこか視線が冷たい。あっちでもこっちでも噂をしている気がする。耳を澄まして内容を聞くと…

『なんでもブルーム様と間違えてレイモンド様を罠に嵌めようとしたらしいわ! なんとその首謀者がディアナ様って話よ! 捕らえられた者たちが自白したらしいわ』


心臓が今までにないくらいバクバク早鐘を打つ。

何故バレたの? ソディックは名乗ってはいないはず…、いえ 私の子飼いにする約束はしていた…? でも『さる高貴な方』と名前は出してないって!では何故 私の関与を知っているというの!?


ディアナは取り敢えず毅然とした態度で王宮の与えられた部屋に入った。


「ソディック! 一体どうなっているの!!

あっ…、いないんだった。ヨル、ねえ、さっきの噂聞こえた?」

「いえ、何かありましたか?」

「嘘よ! 皆んなこっち見て何か言っていたじゃない!  ダン! ダンはどこ?」

「ダンはお嬢様が憲兵がどこまで掴んでいるか調べに行かせましたが?」

「そ、そうだったわね。戻ってきたらすぐに言ってちょうだい」


ソディックもダンもし側にいないので、現状が分からず1人焦っていた。

「ディアナ様、お時間です」

「ええ、有難う」


本日の講義の場所へ向かっているとまた噂話が聞こえた。

『アシュレイ王子殿下がブライト兄妹を執務室に呼んで人払いをしたんですって! 何を話されたのかしら?』

『意味深よねぇ〜』

『ご兄妹揃って優秀ってお話だし、側に置かれるのでは?』


『で・も! それを口実にセシリア様をお側に置きたいのでは?』

『殿下が最近魔獣舎に行かれるのだって…ねえ? セシリア様が毎日魔獣舎に通っているって、有名な話よぉ〜。実はそこで密会しているのでは!むふふふふ』

『でも分かるわぁ〜、セシリア様って何とも言えない魅力があるわよねぇ〜。神々しいっていうか、ブルーム様と戯れているところを見ると癒されるぅぅぅ』

『分かる! ブルーム様とセシリア様のセットって尊いわよねぇ〜』


きゃははははは あはははは



何ですって? アシュレイ様がセシリアと密会?

「ソディック! ダン!」

「お嬢様…2人はおりません」

「チッ! 使えないわね!」

「お嬢様! ここは人の目がございます、舌打ちは…」

「はっ、やだわ。ヨル、ダンが来たらすぐ言うのよ!」


ところが夜になっても翌日になってもダンは帰ってこなかった。

一体どうなっているのよ!!


アシュレイ様がセシリアと会っている? わたくしと言う完璧な婚約者がいて?

許せない!! 


「そうだわ! わたくしも魔獣と契約すればいいのではない? そうよ、そうすれば…ふふ、セシリアにわたくしの魔獣を世話させればいいの! どちらが主人か分かるってものね! あはははは」


早速、王宮に行くとアシュレイ王子殿下と共に魔獣で空を飛びたいから、魔獣と仲良くなりたい、と願い出た。

それを周りは健気な婚約者と捉えていた。

だがこれにアシュレイ王子殿下は辟易とし、密かに反対した。唯一の息抜き、憩いの場がなくなるからだ。


王宮の庭園でアシュレイ王子殿下とディアナはお茶をしていた。

「こうしてお茶をするのは久しぶりですわね」

ただの事実だが、今聞くと嫌味に聞こえる。

「ああ、忙しくてね。こうしてお茶を飲む時間を取れて良かった」

シーーーーーーン

先日の視察の際の謝罪要求でギクシャクしていたが、ディアナはでアシュレイを手懐けるつもりで、しおらしくあの後謝罪した。それをアシュレイ王子殿下も受け入れた。ディアナの中では策謀の一環なので既に忘れたが、アシュレイ王子殿下にとってはまだ…いや蟠りがしこりの様に残っている、それは日々大きくなっていく。だから今この空間も気不味い。


「そうですわ、ブライト兄妹をお呼びになったとか…、何のご用でしたの?」

「ああ? ああ、大変優秀な2人だと聞いているから話がしてみたかっただけだよ」

あまり多くを悟られないように平静を装う。

「その優秀なお2人から何をお聞きになりたかったのですか?」

『はぁー、面倒だな。何でいちいち内容を明かさなければならないんだよ! かと言って頑なになれば彼らが危険になる、いやもう手遅れか? あーあ、もっと話したいのに知らないフリまでしなければならない、実に馬鹿らしい事だ。これが一生続くかと思うと地獄だな』


「サンフォニウム宮殿では成績はトップ、剣術でもトップ、興味深くてね。卒業後の進路などを聞いたのだよ」

「それだけですか?」

「それだけとは?」

「何でもセシリア様は毎日魔獣舎に通われているとか、アシュレイ様もよく向かわれているので」

アシュレイの些細な表情も見逃さないように見ていると、明らかに表情が輝いた。

失敗した! アシュレイ様は知らなかったのだ!!

「セシリア嬢が毎日魔獣舎に通っている? 一度も会ったことはないが…、時間帯が違ったのかな?」

アシュレイの目には好奇心の色と喜びの色が映り、頭の中はセシリア嬢の事でいっぱいと言った感じになっていた。

ディアナはテーブルの下で扇を握りしめ悔しさを滲ませているが、アシュレイはそれに気づかない。


『何よ! 従者に興味があるなんて言って、結局あの女なんじゃない!』


「ブルーム様も先日 魔法騎士のコバック小隊長と死闘をしたとか…、案外 気の荒い性格でしたのね」

「何? ブルームが? 詳しく聞きたい!」

あっ! これも知らなかった? バカバカ興味を引いてどうするのよ!


「何でもセシリア様を紹介しろと言った上官に『自分より優秀で強い者でなければ紹介できない』と断ったそうです。それで試合をする流れになったとか…」

「ふふふ ブルームらしいな。サンフォニウムでもセシリア嬢にべったりくっついてグラシオスすら近づけさせなかった。それで結果は? …はっ、聞くまでもないか」

「ええ、圧勝だったそうです」

「やはり面白いな…」

アシュレイの様子は恋慕と言うより好奇心に見えた。もし、ブルームが部下になるならば、優秀であっても問題はないわね。嵌めたのが今となってはブルームではなくマルゴット卿で良かったと安堵した。ディアナにはマルゴット副騎士長との間に接点はないからだ。

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