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5、魔法

セシリアは5歳になった。

相変わらずブルーベル侯爵家で様々なことを教わっている。


ご嫡男のヨハン様も長期休暇の度に帰って来られ、領地の仕事も侯爵様と共に学ばれていらっしゃるので、時間が空くと兄ブルームと共にセシリアの面倒も見てくれる。

ご次男のローハン様は今年 社交界デビューし、王立学園に通われるために王都へ行ってしまった。ローハン様は面倒見が良く子供たちを統率し、目を配ってくれていた、それに兄と私の遠慮や我慢にもよく気づき声をかけてくれる優しい人だった…喜ばしいことだけど少し寂しいな。

それにダンスの練習が…、今まではローハン様とアリエル様、お兄様とエレン様がペアとなり、ローハン様とお兄様が交代で私の相手をしてくれていたが、3対1でどう考えても私が余る。勿論 先生とも踊れるが、なに分身長差がねぇ〜、厳しいところですよ。5歳になった私は105cm、先生は170cmくらい?

子供が足にじゃれつく子供って感じ、リアンみたいに体のサイズ変えられれば楽チンなのにね。


ヨハン様も17歳、多分もう170cmはいってるな。だって先生たちと変わらないもの。

お兄様は7歳120cmってところで丁度良い感じなのよねぇ〜。まあ、お兄様と家でレッスンするわ、音楽はないけどステップくらいは踏めるでしょう。


「セシリア、つまらない?」

「ヨハン様、つまらないと言うか、早く大きくなりたいと思いまして…。ダンスと言うより構って欲しいとじゃれついているみたいで滑稽だなと…」

「ぷっ、確かにね。セシリアが構って! なんて言ってるところ見た事ないけど?」

「そうですね、お兄様とは2つ違いで3歳の私が抱っこ!なんて言ったらお兄様が潰れてしまいますもの、だから我慢して参りましたの。お兄様が大きくなって抱っこが出来る様になりましたがけど、5歳になり大きくなった私が抱っこをせがむのはおかしいでございましょう? だから仕方なく私は抱きつくのを我慢しておりますの」

「あはははは! うんうん、セシリアは大人だねぇ〜。はっはっは、では兄上の代わりに私めが抱っこさせて頂きます」

そう言うとセシリアを抱き上げた。

そして華麗なステップを踏む。

「ねぇセシリア、君を抱っこできるのは今しか出来ないのだね。長期休暇が終わるのがこれほど悔しいとは! 私は今この瞬間がとても楽しい! 小さなセシリアに感謝するよ!」

「ヨハン様は優しくて大人ですね、有難うございます、私も凄く楽しいです!」

「セシリア、『ヨハン様』では他人行儀すぎだ、せめて…『お兄様』がいい! ね! セシリア、これからはお兄様って呼んで?」

「宜しいのですか? ではヨハンお兄様?」

「うんうん、いいね、可愛い!」

2人でキャッキャと楽しそうに戯れあっているので、珍しく淑女の鑑が声を上げた。


「ヨハンお兄様! わたくしもお兄様に抱っこして踊って頂きたいですわ!」

「ふふ うちのお姫様が膨れてる。さあおいでエレン、子供扱いするといつもは怒るのに珍しいね。抱っこして欲しかったの?」

「幻滅なさいました?」

「まさか! 早く大人びてしまって寂しいと思っていたよ」

首にギュッと抱きつく。

「だってお兄様は普段は王都でいらっしゃらないから…、お戻りになってもいつもお忙しそうです…お側に寄れなかったのです」

「そうだったの? ごめんねエレン。もう少しエレンとの時間も作るからね」

「はい! …でもご無理は良くありませんわ」

「ぷっ、うん、分かったよ」


エレンを暫く抱っこしたまま優雅なダンスをステップを踏む。ダンスが終わるとヨハンはアリエルを呼び寄せた。

「レディ アリエル、抱っこして踊っても宜しいでしょうか?」

普段澄ました顔のアリエル様も花が溢れる様に笑顔になる。皆大好きなお兄様の抱き上げて踊って欲しかったのだ。うん、うん、ヨハン様は優しくて素敵な人だものね。因みにヨハン様はその後、微笑ましそうに見ている兄も同じように踊ってくれた。公平で優しい人だ。



5歳になった私は剣術も弓術もかなり成長した。

ぶっちゃけ弓術はリアンを食べさせるために下手なりの実践で鍛えていたので、動かない的など今やなんて事はなくなっていた。飛んでいる鳥とかも推定距離と風向き対象物の移動距離なども割り出して正確に矢を飛ばすことができる。人がいるところでは追尾機能は封印してるが、それでも当てられるのはリアンへの愛故だね。


剣術も同じ理由で上達した、だって野生の獲物は矢を放ってもすぐに絶命するわけでもないし、熊とかだと蚊が止まったバリに反撃に出てきたりもする。今は魔法弾の『魂縛弾』を使って動けなくしちゃうけど、最初の頃は怖いもの知らずでデカい方がリアンがお腹いっぱい食べられるかも!と果敢に挑んでいった。


最初の大きな失敗は猪だった。

案外すばしっこく早い、狙っている間に距離を詰められて跳ね飛ばされた。

正に車との正面衝突ばりの衝撃よ!3歳の体では体重だって向こうは5倍以上だしね。

あれは死ぬかと思ったね。コマ送りの様に木の枝が顔や体に打ち付けられて痛いって思う暇もなかった、今度は重力によって降下し始める。地面に打ち付けられた衝撃で呼吸が出来ずに「ガハッ!」と目がチカチカして『ヤバイ、やっちゃった! リアン、逃げて!!』バタリ……、いや死ねるかーい! あの子には私しかいないんだから!! でも動けなくて、まずは回復しなきゃ!! 私より先にリアンが狙われたらどうしよう!! 治れ! 治れ! 治れー!!

訳もわからず頭の中で叫び続けた。そして次の瞬間、剣を片手に猪に向かっていった。

時間にしてどのくらいだったか…、無我夢中で剣を振るった、上手く振れなくて、また猪に体当たりされた。「くっ! 回復!」牙が腕に刺さった、「キャー! 何すんのよ!回復!」後ろに後退りすると、木の枝が足に刺さった、痛い!! でも死ねない!! 「回復!」 正に死闘だった。

なんとか身の丈に合わない猪を仕留めることができた。

『リアン、はーはーはーはー、やったよ、ご飯だよ』


でもこの無謀な戦いは実りあるものだった。

回復魔法を発現させた、自分で使っている感覚もないままに『治れ!動け!』それだけを強く願っていた。お陰で魔法の発動時間が最後の方が早くなった気がする。

冷静になるとボロボロの自分に気づいた、このまま家に帰るのは不味いと思った。全身に擦り傷切り傷だらけ、服は穴だらけのボロボロ。血で黒ずんだ衣服から除く肌、貴族令嬢あるまじき。

生命の危機に回復魔法を発現したので、まだ残る怪我に向かって『治癒してくれー!』あれ? 駄目? いや、ここで諦めるわけにはいかない、下手するとリアンがバレる。

えーっと、回復魔法の時はどうやったっけ?自分の頭の中にステータスを思い浮かべる、

治癒魔法、怪我が綺麗さっぱりなくなる!! これだー!!

その後、服はどうしようか…?

ステータスの中に使えそうなものがない。

んー、回復、原状回復、逆再生、時を戻す、そう新品だとおかしいとバレる、だから元に戻るがベスト! んーー、逆再生で猪まで元に戻ると困るしー、そう、やっぱり原状回復!


原状回復! この服を原状回復してくださーい!!!!!


キターーーーーーーーーー!!


そうそうそう、この汚れ、こう言うのも急になくなると変だからね。

魔法って便利だね。



それからもセシリアはリアンと共にハドソン伯爵領に入っては密かに、実地で訓練をしてきたので5歳にしてかなりの勘? 経験値を踏んだ。しかもリアンは日々大きくなっていく、獲物も大きくなった。そして、あの日『魂縛弾』を習得した。

これも魔法の基本をブルーベル侯爵家の図書室で色々勉強できたからだ。

ドラゴンの飼育の仕方は流石に本には載っていないので手探りではあったが、リアンも今では立派な狩りができる様になった成体だ。ドラゴンとしての経験値は赤ん坊に等しいが、体つきは大人と同じ、相変わらず人懐っこいセシリアの言うことをよく聞く可愛い子だ。

リアンは成体になった今も縮小化してセシリアのリュックに入っている。 



セシリアのこの2年で急激な進化に指導者たちも驚きを隠せない。

良家の子息・子女の手習として剣術や弓術を習う者は多い。武家の一門でもない限り嗜む程度だが、令嬢でも狩りに参加したりする機会があるから、だがその場合、護衛などのサポートがつきグループで臨む場合が殆どだ。

普通子供がここまでの実力を持つには毎日必死でやって10歳でやっとといったところだ、それが5歳の女児に成せるとは思えなかった。


「セシリア様はどの様に訓練を積まれたのですか?」

「先生の言う通り素振りを300回しております」

「それだけではないだろう?」

「はい、元々マラソンと腹筋、背筋、腕立て伏せはしていました」

「それだけかい?」

「あとは…実践です。鳥を飼っていまして、餌を取りたかったので始めました。鳥も成長するので餌も大きくなってすばしっこくなっていったので自然と身につきました」

「なるほど、鳥への愛ですね」

「はい、あの時あの子には私しかいませんでしたから」

「ところで伯爵令嬢のセシリア様が…どこを目指しておられるのですか?」

「特に目指すものはないのですが、我が家は領地を持たぬ伯爵家、爵位も商売も継ぐのは兄です。ですから私は生きていく術を多く得ようと思っただけです。幸いにもブルーベル侯爵様にこうして様々なことを学ぶ機会を頂いておりますので、学べることは何でも学ぼうと取り組んでいる次第です」


「セシリア様なら嫁ぎ先だって引くて数多では? 王立学園での出会いだってあるのではない?」

「どうでしょう ふふ、でも…王立学園には行かないかもしれません。近場の学園にでも通わせて貰えればと思っています」

「そうなのですか…、だったら積極的にお茶会に参加して知り合いを作っておくのは如何ですか?」

「はい、でも…、 小さい頃ハドソン伯爵家のお茶会に出て嫌なイメージしかないのでつい気後れしてしまって。それに私はこれと言って秀でたものもありませんから、動物のお医者さんとか出来たらいいなって思っています」

「ふふ 動物のお医者さんですか…、珍しくセシリア様が子供らしい事を言って安心しました。普段しっかりし過ぎているので…少し心配していたのですよ。ん? 動物のお医者さんに剣術は必要ですかな?」

「お医者さんには必要ないかもしれませんが、なにが起こるかは分かりません。身につけておくに越したことはありません!」

「なるほど、備えあれば…と言う事ですね」

「そうか、じゃあ私に出来ることは協力しよう! では今日はまだやっていない型をやろうか!」

「はい! お願い致します!!」




いつも通りハドソン伯爵領に狩りに行く。

『リアン、今日はさ隠れ家を探そうと思ってるの、だから人が寄り付かない方へ行ってみようか!』

『何で隠れ家?』

『リアンが大きくなった事もあるし、何かあった時におち合う場所があったら便利だし、隠れ家ってカッコいいじゃない。少しずつモノを増やして快適な空間にしたいなって』

『ふーーーん』

『不満そうだね』

『だってセシリアと離れたくない! 別にずっと僕小さいままでもいいよ?』

『うん、分かってる、私もリアンと離れたくない! だから狩りの時の休憩場所って思えばいいじゃない! ね?』

『………分かった』


人が踏み込める場所だと、折角作った秘密基地を他人が使ってるとか嫌だなぁ〜って思う、それにドラゴンの姿でも入りやすい、でも大きい洞窟だと他の動物たちの棲家だったりもする。


「はぁー、思ったより丁度いいのがないなー! 人目にはつかず、室内広々空間!」

「そもそもさー、セシリアはそこにベッドやテーブルを持ち込む気なんでしょう? そんな空間ある訳ないじゃない。 あるとしたら魔法で作るしかないでしょう?」

「あぁ! そうだね…盲点? 失念してた。そうだよね…、滝の上のリアンは上がれるけど私は上がれない、そうなると梯子が必要、でも知らない人が偶々梯子がそこにあったら登りたくなっちゃうもんねー。

作るなら魔法空間があるんだから、出来なくはない。しかも意識阻害の魔法で認識されずにそこにはある…、私とリアンの魔力にだけ反応して開くゲート、ブツブツブツ」


リアンは考え込むセシリアを放置して、小さい姿のまま周辺を見て回る。

リアンとセシリアは絆で繋がってる、セシリアが望む場所を飛んで見て探す。

水が近くにある場所、外敵に気付かれにくい場所、セシリアが安全な場所。


滝の後ろを通れる場所があった。だが滝の向こうは行き止まりで断崖絶壁。

理想的だ、向こうからは滝の水飛沫で視界が遮られている、追ってきても先の道は行き止まりだから探すなら滝の後ろの洞窟を探すだろう。良い場所を見つけてセシリアの所へ戻った。セシリアはまだ何か考え中。


『セシリア、良い場所を見つけたよ』

『リアン、有難う じゃあそこへ行こうか』

『他はいいの?』

『多分ね、ダメそうだったらその時考える』


行ってみると案の定セシリアも気に入った。

『リアン、力を貸して』

『オッケー』


作る場所に実際は空き地がある必要はない。ゲートから亜空間に繋ぐイメージだ。

ここではリアンを成体のサイズのまま過ごさせてあげたい。出来るだけ広い空間を作る。だから強大な魔力を必要とした。目の前でセシリアのイメージが具現化していく。

山の中の滝の先に◯◯ドーム何個分みたいな空間が出来た。


「はひぃぃぃぃ、しんどーー!! リアン魔力めっちゃ消耗したーーー、少し休ませてーーー!!」

甘えるセシリアにリアンは成体になり前足のところにセシリアを囲い優しく大切に護り2人で眠った。

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