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49、陰謀−1

魔獣たちは今はすごく楽しい。

だってセシリアがいるから。


夜中になると開く魔獣の楽園がある。

当初は死期の近い魔獣たちは居場所がなく、日々檻の中で弱っていくだけ。檻の外を夢見た時もあったが、今の自分では外の世界では餌を取って生きていく事が出来ないと分かっている。外で自由に生きれば、人間のために働いて自分たちが討伐対象になる。だから無意に毎日を生きていた。

それをセシリアはもっと自由に外の世界を感じさせてあげたいと思った。

そこで『最期の楽園』を作った。

安らかな最期を迎えるための魔獣たちにとっての安住の地。


魔獣舎の魔獣たちの魔力を借り受け、自由に飛び回れる世界。

山や川や池や広いグランドや洞窟や岩場、憧れた世界がそこにはあった。


『朝になると元に獣舎場所に戻る事! 相手を殺すような喧嘩はしない事! いい?』

『ウギャーーーーーーー!』

『アオーーーーーン!』

『ギギギギギギギギ!』


最初は今にも死にそうな子たちだけが行けるようにしていたのだが、死にそうですと、ヨボヨボしていた魔獣が日々若々しく爛々としてしまった。そして他の子たちも行きたいと強請るので夜中の0時〜5時まで開園している。魔獣は夜行性が多い。


「一応、檻には残像を残しているけど、自分の名前が呼ばれたら檻に戻るように、いいわね!」

暫く経ったある日 ひどい怪我をしている子たちがいた、遊んでいたら夢中になってしまったらしく血だらけ。それでランクル局長にバレた。仕方なく『最期の楽園』を公開。

だけど、グリフォンが自由に空を飛べると考えて作ったら東京ドー◯何個分どころか、◯◯大陸分くらいになってしまった。だって、種族によって生息地が違うから! 

だから全部を見回ることは出来ない。

そこで館内放送が出来るようにした、サイズを小さくするように言われて仕方なく北海道1個分になった。それから時間になると転移で元の場所に戻ることと、戻る際は回復魔法で怪我を治すようにした。

どっかの水族館で鰯の水槽に鰯だけの時よりサメを入れたことにより寿命が伸びたって聞いたことあるけど、魔獣たちも餌のために命をかけるような戦いはしないが、頭を使い経験を積み戦うことで、毛艶も良くなり健康になっていった。


夜中にこっそり来てはリアンの背中に乗ってセシリアも飛んでいるし、魔獣たちと戯れてもいる。リアンもドラゴンの姿で好きに過ごせる時間がお気に入りだ。


魔獣も魔獣に生まれたからと言って飛行が得意だったり狩りが上手な訳ではない。リアンも小さい頃は狩りの練習をした、今でも偶に旅に出ている。

ここにいる子たちはあまりそう言う機会も無かったようなのでそれぞれが思い思いのことをしている。


魔獣たちのブラッシングが終わると夕方かなり遅くなってしまっていた。

セシリアは財務部へ向かった。

何重にも通る検査ゲート、それも毎日のように通えば顔見知りにもなる。

「ブライト様、今日はどちらへ行かれるのですか?」

「こんばんはマレイさん 財務部のお兄様のところに行くところですわ」

「仲が宜しいですね、行ってらっしゃい」

「有難うございます」


財務部のところへ行くと忙しなく皆働いていた。

「セシリア嬢、ああブルームかちょっと待ってて」

「おい、ブルーム! セシリア嬢が来ているぞ!」

「あっ、はい!」


「どうしたの?」

「ご一緒に帰ろうかと思いましたの」

「そうか、今は少し手が離せないんだ、時間がかかるかもしれないけどいい?」

「はい、勿論です。では、わたくしあちらのテーブルで本でも読んで待っていますわね」

「分かった、待っていてね」


通る人々に多く目撃される。

美しいセシリア嬢がそこにいるのだ、一時の目の保養をして仕事に戻っていく。

そこへヨハンが来た。

「セシリア、ここで何をしているの?」

「ヨハンお兄様! ブルームお兄様を待っているのです、少し遅くなってしまったから一緒に帰ろうと思いまして」

「そうか…。実はイレギュラーで今すぐには皆帰れない状態なんだよ…。

そうだ、セシリアも少し手伝ってくれる?」

「ええ、勿論です。私に出来ることでしたら何なりと仰ってくださいまし」


聞くと、急にシルヴェスタ公爵家から孤児院に対する予算編成の指示があったと言うのだ。先日の視察を経て、子供たちに対する教育に力を入れるべし、と言うものだった。

シルヴェスタ公爵の提言に対しすぐに全員がそうするべしと意見が纏まり、その予算を捻出すべく財務部に回ってきたのだ。


セシリアは首を捻った。


「ヨハンお兄様、お忙しい時に心苦しいのですが、お時間を頂戴できますかしら?」


別室で結界を張りヨハンとブルームとセシリアとリアンの4人で話をする。

「実はこのサディカ孤児院とは縁がございまして少し調べましたの。


サディカ孤児院に国から年間支援されている金額 20枚金貨とシルヴェスタ公爵家から支援されている金額5枚金貨を合わせると現在25枚金貨、孤児院から提出されている収支表には毎月100枚銅貨の赤字となっております。

ですが実際は子供たちの食事は3日に1回しかありませんし、着る服も1年を通して1枚きりで暑い夏も寒い冬も同じ物を着ています。また孤児院に在籍している子供たちの数ですが、60名となっていますが、子供たちの大半は逃げ出し現在は26名程です。

経費に人件費などを合わせても1枚金貨にもなりません。ではどこに消えているかと言えばシルヴェスタ公爵家に上納されています。そしてそれらを使って善行を施したフリをし、密偵を育てています。因みにこのリストが月々シルヴェスタ公爵家に渡っていると思われる金額です」


「なんだこれは……。つまり予算を増やせば増やすほどシルヴェスタ公爵家が潤い、手の者が増えると言うことか?」


「はい、そうなります。まあ孤児院だけでもありません。『ヴェスタ』と言う陶磁器を専門に取り扱っているところも、『ヴェスタ』を通さなければ商売が出来ないように仕向けておきながら、会員費を迫ります。支払えなければ陶磁器は店の隅で馬鹿高い価格がつけられ1つも売れずに衰退していきます。

更に王都にし出店している多くの飲食店は『シルヴァータ』と言う店から食材を仕入れています。最初は手頃な価格ですが、少しずつ値上げされていきます。こちらも会員費と言う名の上納金を支払わなければ食材は卸さないと脅されます。それら全てがシルヴェスタ公爵家の資金源となっています」


「はっ! どうりで孤児院の予算がこんなに早く決議された訳だ。使い道は決まっているの?」

「そうですね、一部は優秀な密偵に爵位を与え従順な手の者を各部に送り込んだりしています。その際爵位を再興させるために支払われている賄賂、各部に送り込む為の賄賂などにも使われています。表にはならないお金なので湯水のように使っています。

あとは本気でこの国の実権を乗っ取るつもりだと言うことくらいしか…、あまり詳しく分かっておりません」

「いや、十分だろう。だがこれで予算を通すのは危険だな。これらを王家に伝える気はないの?」

「今のところは、シルヴェスタ公爵家は狡猾で証拠を残しておりません。しかも直接は関わってもいません。『シャングリラ』と言う組織を作り自身の存在は表に出していないので、公で糾弾するのは難しいと思います」

「我々はその『シャングリラ』の資金源を作るために汗水垂らしていると言うことか!」


「ねえセシ、今日私を迎えに来たのには理由があるの?」

「うふふ アリバイです」

「アリバイ?」

「はい、今日お兄様は家に帰る途中、襲われている女性を救うのです」

「襲われる女性がいるなら憲兵を向かわせる?」

「残念ながらブライト伯爵家の馬車が通らないと事件は起きないんですの」

「誰かがブルームを嵌めるのか?」

「はい、計画では 馬車の前に傷ついた女性が飛び出し、馬車を停めます。お兄様が傷ついた女性を馬車に乗せて憲兵の派出所に連れて行く。そこでお兄様は経緯を話しますが、女性は『この男に襲われた!』と証言するんですって」

「ブルームが女性を襲った卑劣な犯罪者になるのか…首謀者は?」

「ディアナ・シルヴェスタ公爵令嬢です」

「殿下の婚約者が何故! 目的は?」

「アシュレイ様より目立つ男はいらないわって言ってました」


ヨハンとブルームから冷や汗が流れる。

これはセシリアから敵認定されたな、と。どの道ディアナの未来は破滅確定。あとは家が道連れになるかどうかだ。


「あー、それでシルヴェスタ公爵家を調べてた?」

ニッコリとセシリアは嗤う。

ヨハンとブルームの脳内では

『退避! 退避だー!! シルヴェスタ公爵家から離れろー!!』

声がする。

国内随一の名家、国内最高権力者、終わったな。


「それで今日の予定は?」

「んー、みなさまと組んではならない予算でも弄ろうかと思っております」

「了解。シルヴェスタ公爵家の不正は公表するの?」

「まだ時期ではありません。まずは自分の手足をもいで貰うつもりです」

「あー、そう。彼女もブルームに手を出さなければ王子妃になれたのにね」

「馬車はどうするの?」

「王宮から出発し目撃・確認させた後、みんなのお夜食でも買って来てもらう予定です」

「でもそれだと…傷ついた女性が飛び出せないんじゃなかった?」

「マルゴット侯爵家のレイモンド様辺りがお助けになるのではないでしょうか?」

「仕組んだの?」

「いえ、その時間帯でしたら他のお勤めの方たちもご帰宅の時間帯ですので、通りかかるのはその辺りかな?と思っただけです。うふふ」


絶対嘘だ。だってマルゴット侯爵家をシルヴェスタ公爵家が自分の陣営に引き込もうと躍起になっているのを知らないわけがない。その上レイモンドだって?


「さて、まあそれでは不毛な残業に入るとしますか!」

「でしたら、孤児院の方は他の方にお任せになり、他のご検討頂きたいことがございます」

「はぁー、用意周到だね。OK、よし行こう!」


殺伐とした部屋に4人は戻っていった。

財務部の者はセシリアの登場に癒された。無駄に働かされるとも知らずに…。




プリメラはソフマン侯爵の事を考えていた。

ソフマン侯爵はいかにも高利貸しって顔はしていなかった。品の良い老紳士と言った感じで若い娘を妻に据えようと探しているとは思えなかった。

プリメラは思い切ってソフマン侯爵の行く手を塞ぎこう聞いた。


「ねえ、ソフマン侯爵でしょ? 私があなたと結婚したらうちの借金なくしてくれるの?」

「君は誰だ?」

「えっ? 私を欲しいんじゃないの? えっ?どう言う事?

えっとー、プリメラ・ハドソンです。ハドソン伯爵家の借金を何とかするには結婚するしかないって言われて…」

「何故私が君のような殻のついた乳臭い常識はずれの子供を娶らねばならん? 話にならない、親にでもキチンと話を聞き直せ。私は君など欲してはおらん、帰れ!」


『ええーー!! 勘違いだって言うの!? ヤダ超恥ずかしい!!』

プリメラは急いで帰って父親に確認に行った。だけど父親は今日も金策に走り家にはいなかった。

ねえ、結局どっちなの? 私は売られるの? 売られないの?

あー、でもフェリスとはお別れね。貧乏な彼に貧乏な私は相応しくないものね。


プリメラは心を込めてフェリスにお別れの手紙を書いた。




財務部は掃き溜めに鶴、セシリアに癒やされていた。

しかも置物のように眺めるだけではなく役に立つ。仕事が丁寧で早い、流石ブルームの妹と喜んだ。最初こそは『セシリア嬢にはさせられない』などと言っていたが、あまりの有能さに最後はあてにするようになっていた。


「セシリア様、買って参りました」

「有難う。 皆さま、お腹もお空きになられましたでしょう? 軽く摘まれませんか?」

「ああ、セシリアすまないな。仕事の他に気まで遣わせて、有難く頂くよ。

さあ、皆んな休憩して食事にしよう!」


「お兄様、これお兄様お好きでしょう? 召し上がってくださいまし」

「有難うセシ。こちらへおいで、セシも食べなくてはいけないよ。リアンもおいで一緒に食べよう」

「有難う存じます お兄様」

皆ニヤニヤしながら横目でセシリアたちを見ている。


「はい、お兄様のお好きなものですわ。 さあ、どうそ召し上がってくださいまし。

はい あ〜ん」

「セシ、人前で恥ずかしいよ」

「やん、ごめんなさい私ったら」

シュンとしているセシリアに、

「セシ、そんなに落ち込まないで、一度だけだよ? はい、頂戴」

「えへ 有難うお兄様、美味しくお召し上がって」

「ん、美味しいね。セシが食べさせてくれたお陰でもっと美味しくなった」

「やだ、お兄様ったら」

「セシ、これはセシが好きなものだろう? 今度は私が食べさせてあげるよ」

イチャイチャラブラブしている。

周りの者は鼻の下を伸ばしながら見ていた。

これがもしもの時のアリバイに利用されるとも知らずに。

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