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47、再会

フリード・クラウン子爵


多彩な男だった。

優秀な男でエヴァレット公爵家の分家のシャクール子爵家の次男に生まれ、学業も武術もそつなくこなした。シャクール子爵家はエヴァレット公爵家に仕えるために存在している。フリードの兄サンディスはエヴァレット公爵の側近として働いている。

フリードもエヴァレット公爵に仕えていたが、現在は嫡男ルシアンに仕えている。

クラウン子爵とはエヴァレット公爵家の嫡男が幼少期に使う爵位だ。それを与えてまでフリード・クラウン子爵を『ノア』につけた?

それが何故、王都の話題の店の『ノア』の代理人などしているのだ!?


いや、答えは出ている。

あの日ルシアン・エヴァレットとセシリア・ブライトがトレヴィやスターヴァにいた。

セシリアの従者はリアン、つまり『ノア』とはセシリア・ブライトだ。


頭の中の靄が全て消え去った。


私の命の恩人、そしてアシュレイ・キース・バファロークを正した恩人。

ずっと探し求めていた人。ああ、早く会いたいな。




ディアナは自室で悶々としていた。

「アシュレイ様は何を考えておられるの? ご自分の立場を理解しておられるのかしら?」

「落ち着いてくださいお嬢様。でも流石に謝罪要求はやりすぎです」

「だって! あの様に庶民の食べ物に目を輝かせ、人の目のあるところでわたくしを否定した! あれはわたくしに対する侮辱です!」

「殿下を人前で否定したのはお嬢様も同じですよ? 

ただ、王族とはもっと誇り高き一族かと思っておりましたが、いやはやアシュレイ殿下はまだ理想を抱く青臭い青年なのですね」

「この国は王族が動かしているのではない、このシルヴェスタ公爵家が動かしていると言う事をご存知ないのね。

はーーーー、困った方。

ソディック、お父様のところへ行くわ」



「お父様、王都へ入ってくる全ての流通を適当な理由をつけて止めて頂きたいのです」

「どう言う事だ?」

「アシュレイ様は、まだ青臭い理想を掲げこの国を自分たち王家が動かしていると思っていらっしゃるみたいなの。このシルヴェスタ公爵家に頼らなければならない状況を作り出したいのです」

「ソディック どういう事だ?」

「本日出掛けた先で、殿下が『スターヴァ』で食事を摂りたいと仰られたのでその様に手配をしたのですが、庶民の食堂と言った程度のものだったので、お嬢様が『シャンゼル』に変えるように私めに言ったところ殿下はそれを拒否なさったのです。

お嬢様も人前で王族たるものの権威を汚すと仰られて…、殿下はここへは視察に来たのであって遊びに来たわけではないと応戦され、更に不満であれば今からでもシャンゼルに行って食事をすればいい、と突き放され…お嬢様が、謝罪するなら今ですよ、と脅す形になり私がその場からお嬢様を連れ出しました」

「ディアナ、一体何をしているのだ、折角今まで上手くやって来たではないか。今回はお前の不手際だ」

「ですが! アシュレイ様はこの国は誰のお陰で回っているかお分かりではないのです!もしお分かりであればわたくしに対してもっと敬意を持って接すると思うのです。それにわたくしが王妃となりもっと大きな権力を手に入れ力を握り、このシルヴェスタ公爵家を更に強大な力を齎すためには、最初の躾が肝心だと思うのです!」


「ディアナ、落ち着きなさい。 ふーーーー、躾ね……お前はアシュレイ殿下が窮地に立たされても構わないのか?」

「最終的にわたくしが救って差し上げるのですから問題はありません」

「そうか、ただ短絡的だ。この王都から全ての流通を止めて仕舞えばすぐに足がつく。やるなら絶対にバレないように狡猾にやらなければ意味がない。例えば…、事故があって、物価の上昇や謎の集団による略奪で流通が止まるなどだ。

だが、今ではない。このまま策を講じればすぐにお前の周りが疑われる、まずは殿下の謝罪をし歩み寄れ、良好な関係でなければ助けも求められないではないか、その後に真綿で首を絞めてやるのだ、いいな?」

「はい、お父様」

ニタリと笑うディアナ。

確かに父の言う通りだ、今のままでは疑われ亀裂は取り返しがつかなくなる。

関係が修復出来なければお飾りの王妃となり、側妃の横で馬鹿にされるなど! 許せない! 実権だけではなく、王の寵愛、王位継承者の母、どれも譲る気はない。

「ソディック、アシュレイ様にお詫びに伺わなければならないわ」

「はい、承知致しました」




ペックが言っていた『ファーム』子供たちが犯罪に巻き込まれているのではないかと心配したが、彼が言った『ノア様』が私の思い浮かべるノアと同一人物であれば問題はないだろう。ノア…セシリア本人から話が聞きたくなった。


そこでブライト兄妹を王宮に召喚した。

謁見室にいる2人の姿、それとセシリアの後ろにはリアンの姿がある。

入ってきたアシュレイ王子殿下は学園生ではなく王族として対面している為、全員が膝を折り出迎える。

「忙しい中呼び出してすまない、少し話がしたくて呼んだのだ。楽にして 掛けてくれ」

「「はい」」


殿下の話はスターヴァ、レガシーなどの話だったが、3人が表情を崩すことはなかった。


「少しプライベートな話がしたいのだ、悪いが全員席を外してくれるか」

「護衛1人は残しませんと、殿下を護衛することが私どもの仕事です!」

「大丈夫だ、友人として話がしたいだけだ。彼らが私を害する気なら剣など必要ない。

いいから下がれ、これは命令だ」

「ぐっ、せめて従者は外に出させるべきでは?」

「必要ない、早く出ろ」 

「…はい、扉の外でお待ちしております」


4人きりの部屋になった。

アシュレイは立ち上がり3人の側まで歩いてくると、膝をつき頭を下げた。

ブルームは面食らったが、セシリアとリアンは動じていない。


「10年前のあの日 私の命を救ってくださったのはセシリア嬢とリアン殿ですね?

やっと記憶を取り戻しました。長い間 感謝も述べられず申し訳ありません、私が今こうしていられるのは全てお二人のお陰です。心より感謝申し上げます」


頭を下げたまま動かないアシュレイ王子殿下、セシリアとリアンは否定するだろうか? だけどもう間違いないのだ。素直に話してくれるだろうか? 様々な感情を思い巡らせていると、

「頭をお上げください。ご無事に成長され宜しゅうございました。お助け出来ることができて良かったと思っております」


「ははは、良かった…知らないと言われるかも知れないと内心ドキドキしていたのだ」

「記憶が戻ってしまったものは仕方ありません」

「相変わらず素っ気無いな。君たちはあの時のことを隠したいようだったので、こうして人払いをしたのだ、立場上 気軽に家にお礼に行くことも出来ず来てもらってすまなかった」


「そうですね、まああの時は無謀な治療をしたことと、リアンの姿を晒してしまいましたし、面倒に巻き込まれたくなかったからです。出来ればそのまま秘密でお願いします」

「セシ、殿下を助けたのはセシだったの?」

「ええ、偶々リアンとお散歩していたら降ってきたから」

「降ってきた…、今 足が動くのは奇跡だって分かっているよ。本当に有難う」

「上手くいって良かったです。あの治療は確立されていない、一か八かの賭けみたいなものでしたから」


『セシ? どういう事? まだ秘密があったの? 聞いてないんだけど!?』

『お兄様…実はあの時 殿下が乗っていたワイバーンがリアンの気配に驚いて殿下を振り落としてしまったからまずいと思って必死だったの。あの時の殿下の記憶も消したしすっかり忘れてたの! わざとじゃないの!』

『もう、あまり危ないことはしちゃダメだよ?』

『はーい』


「リアンも沢山助けてくれて有難う。思い出した、一緒に過ごした時間は今でも宝物だ」

「1人でお風呂に入れますか?」

「リアンー! 恥ずかしいな、でも今は1人で入る必要性がないから…忘れたかも」

「ははは、気軽に旅にも行けないな」

「こらリアン、不敬になる」

「いや、このメンバーなら構わないさ。それにこの方が居心地がいい。ノアはリアンには優しいのに私には他人行儀で、指示は全部メモだったんだ。だから疎外感ですごく寂しかった。だからリアンがすごく救いになってた」


『珍しいね、拾った動物にも優しいセシが』

『服装とワイバーンの配置から見ても高貴な身分か高位貴族って分かったから、懐かれて執着されたら面倒だと思ったの』

『わお、辛辣。なら仕方ないか』


「これからも距離を置いた方がいいのかな?」

「ええ、それでお願いします」

「寂しいな、私の人生の中で1番楽しく幸せな時間だったのに。

そうだ、他にも聞きたいことがあるのだ。

ノアはスターヴァやレガシーなど手広く事業をやっているけど、『ファーム』ももしかしてノアが手掛けているのかな?」

「はい、そうです」

あっさり認めて吃驚、拍子抜け。


「ファームではどんな事をやっているの? 孤児院の子たちの仕事は何?」

「まあ色々やっています。

まず例えばスターヴァで出す食材などの生産などですね。よく使う食材の自給自足、それに今後出したい商品の研究などもあります。特殊な商品や鮮度を問わないものなどは国外から父に取り寄せてもらう事も可能ではあるのですが、国内で流通している一般的な商品はシルヴェスタ公爵の匙加減で価格が決まる事が多いのです。じゃがいも、とうもろこし、肉、玉ねぎ、人参、卵などよく使う食材を購入するにはシルヴェスタ公爵家の『シルヴァータ』から購入しなければなりません。最初の契約ではじゃがいもは1kg 500枚銅貨でした。それが半年経ち軌道に乗ると1kg600枚銅貨に変更すると一方的に通達され、嫌なら卸さないという。更に半年経つ頃には1kg800枚銅貨を要求され、更に『シルヴァータの会員費として50枚銀貨(5万枚銅貨)を支払え』ときて支払えなければじゃがいも1kg1200枚銅貨に値上げだという。

シルヴァータとの取引は正当対等な取引とは言えません。そこでファームで自給自足を始めたわけです。


店で取り扱う食材などを育てています、正直言えば魔法で何とでもなったのですが、孤児院の子供たちと知り合う機会があったので、子供たちが安全に働き報酬を得る場所があれば自立出来るかと思い、手伝って貰っています。


もうご存知でしょうが、サディカ孤児院は国から得た支援金をシルヴェスタ公爵家に横流ししています。だから子供たちの大半はお腹をすかし、暴力と搾取に我慢を強いられ不衛生な環境で守ってくれる大人がいないまま、虚な目をして12歳になると何も持たずに追い出される。だからせめて生きる力を身につけて欲しいなと思ったのです。


子供たちは植物の収穫の手伝いと、文字の学習、それに男の子は体術と剣術、女の子は縫い物と料理を教えています。男の子は兵士になれたらいいなと思い、女の子は生きることに直結する料理や裁縫を教えています、料理も出来れば取り敢えずは生きていけるかも知れないし、縫い物もそれが身の助けになるかもしれない、生きる為の助けになればと思っています。それに彼らは寒い季節もまともな物も着る事ができません。街で生活していれば盗むことも出来ますが、孤児院にいるとそれも出来ずに痩せ細り死んでいきます。だから今シーズンみんなが着る服を作れればと思い練習がてら作っています」


「すまない、国がしっかりしていないばかりに。ところで孤児院でペックという者がファームに行きたいけど僕は連れて行って貰えないとガッカリしていたのは何故?」


「恐らく私が暫く国外に行っていたからだと思います。入館証は私がいないと作れないので、魔法で管理していますから」

「ペックはずっと具合が悪かった。だから農作業をして倒れたらいけないから連れて行けないとサムが言っていた…ました」

「そうか、ならもうすぐペックも行けるのだな、良かった。ところで何で入館証?」

「子供たちから話を聞いた者たちが侵入して盗もうとするので結界が張ってあります」

「ああ、なるほど。そのファームに私に出来ることはないだろうか? そうだ! 王家の認可証を発行しよう! そうすればシルヴェスタ公爵家の妨害に少しは役に立つかも知れない」


「…有難うございます」

「それから何故フリード・クラウンだったの?」

「当時わたくしはもっと小さかったので代理人を立てる必要があったのです。そこでルシアン・エヴァレット様にご相談した際に紹介してくださったのです」

「エヴァレット卿と本当に親しいのだね」

「ええ、エレン様の婚約者様ですので幼少の頃より親しくさせて頂いております」


「私も何か役に立てればいいのだが。気軽に相談して欲しい、それに相談にも乗って欲しい!」

「ん? 今まで通りの距離感で、と言うお話だったはずですが?」

「リアン! ノアが冷たい!」

「あまりノア、ノアと連呼しないでください。偽名の意味がなくなります」

「すまない」

「相談については相談ということで」

「断る気満々だな、冷たいぞセシリア」

「そろそろ護衛を入れないと心配されますよ?」

「分かった、はぁーーー。ブルーム、せめてお前だけでも私の側にいてくれまいか?」

微笑むだけで返事をくれないブライト兄妹。


「それでは1つプレゼントを差し上げます。王宮内のシルヴェスタ公爵の手の者のリストです、以前のものと違って王宮内全部のものです。どうぞご活用なさってくださいまし」

「先日だいぶ粛清したのだが……、これほどか! なるほどディアナに情報が筒抜けなわけだ。困ったものだ。セシリア嬢 有難く頂戴するよ。今後とも宜しく頼みたい」

微笑むセシリアは返事をせず、ブルームたちは謁見室を後にした。

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