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44、デート−3

大きな体はスキャンするのも一苦労。

「えっ! 嘘!? あなた妊娠しているのね!!」

「どう言うこと?」

「このこ今 妊娠しているの、その赤ちゃんが狙われたみたいで怪我しているわ」

「赤ちゃんは無事かな?」

「分かんない、取り敢えず回復魔法使ってみる!」

「待って、この聖獣を襲ったやつが来たみたいだ」

「えっ!?」


魔獣が3体やって来た。傷ついた聖獣が逃げ込むならここだと当たりをつけて来たのだろう。

「リアン、ごめん。この聖獣は今助けないときっと母子ともに死んじゃう。だからこっちを優先するね」

「うん、セシリアのことは僕が守るから心配しないで!」

「有難うリアン!」


ガルムが3体やってきた。ガルムは知能の低い狼犬だ。ただチームで連携して狩りを行う。恐らくこの聖獣が妊娠していて動きが悪いから狙った…?

兎に角 今は目の前の聖獣を助けなくちゃ!

この聖獣は腹を食いちぎられている。よく見るとガルムたちは聖獣を狙ったと言うよりお腹の子供を狙ったように見える。


『聖獣のお母さん頑張って! 絶対! 絶対大丈夫だから! お腹の子も絶対助かるよ!』

少しずつ回復魔法で修復していく。

『コレでお腹の袋は治ったかな? 次はお母さん行くよ! 治れ! 治れ! 治れ!!』


『…うぅぅぅ、赤ちゃんを助けてぇ〜』

『うん、きっと大丈夫だよ』

『お、お腹の子から魔力を抜いて! 魔力を!!』

『魔力!? なんで聖獣なのに魔力なの?』

『アイツらが私の子を聖獣として生まれないように、魔力をお腹に…』

『うん、分かった、でも先にお母さんの治療しなくちゃ、どの道赤ちゃんも助からない。だから頑張って! 行くよ!』

『あぁぁぁ!!』


「お前たちの相手は僕がするよ、死にたくなかったら早く消えな」

「何故ドラゴンが!?」

「邪魔をするな! 我らはお前に用はない!」

「たった1体で何が出来る? 殺すぞ!!」

「ふーん、やっぱりガルムって頭が悪いんだね」


3体は広がって別々の場所から一気に攻撃を仕掛ける。それに対するリアンは微動だにしない。リアンに3箇所から炎を浴びせるが届く前に体が空中で縫い留められた。何が起きたか分からずそこから逃れようと必死でもがくが動かない、次第に体に力が入らなくなる。

「ぐるるるるるる」体から力が抜けていく、目の前のドラゴンを見ると悠然と佇み、巨体から見下ろしている。

「な、何をしやがった!!」

「まだ理解できないの? 本当に馬鹿なんだね。お前たちに使ったのは『浄化魔法』だ。お前たちの体から魔力が抜けていくのが分かるだろう? お前たちはもう、『ガルム』じゃない、ただの駄犬だ。目の前の敵のレベルを正確に推量れないからこんな目に遭うのだ」

「なんでドラゴンが聖力を使えるんだ!?」

「嫌だ! やめてくれ!! ゆ、許してくれ! すぐにここから立ち去るから!!」


「あははは、遅いよ! だってもう体内に魔力を感じないだろう? お前たちはこれからただの犬として生きていんだ。あー、だけど ただの犬がこの山から無事降りられるかは知らないけど」


「た、助けてくれよ、もう月虎の子供を狙ったりしないから」

「邪魔だな、もうどっかに行って」

リアンは転移させて元ガルムをどこかへ消した。



この聖獣は月虎という種族らしい。

回復魔法と治癒魔法で怪我を治したが、腹を食いちぎられながらも子供を守りために聖力を使いすぎてぐったりしていた。それもあってこの地に逃げてきたのだろう。

早く治してやりたいが、この巨体の月虎の聖力を回復させるほどの聖力はセシリアにはない。そしてリアンもセシリアも聖力だけではなく魔力も保有している。つまり仮にリアンの聖魔力を注いだ場合、どんな結果を招くか想像できなかった。

リアンもセシリアから無意識に聖魔力を奪ったことによって純粋な魔獣ではなくなってしまった。リアンは私とお揃いで嬉しいと言ってくれるが、私の寿命などリアンにとって刹那だ。私がいなくなった後、悠久の時の中でそれがどんな影響を齎すかと考えると怖くなる。独りぼっちで寂しい思いをしないだろうか、困った事態にはならないだろうか。だから目の前の月虎に私たちの魔力を注ぐことは最終手段にしたい。


「確かこの近くに神域があるのよね? ちょっと行って聞いてみるわ!」

「駄目だよ! 万が一神罰が降ったら…やっぱり駄目だよ!! セシリアにもしもの事があったら僕生きていけない。だったら僕の聖魔力をあげるよ!」

「どうしようもなかったらそれしかないと思ってる。でも、今は他の可能性があるなら試してみたいの、お願い! リアンはここで月虎を守ってあげて! もし、もし私が戻らなかったらリアンの聖魔力を分けてあげて」

「嫌だ! 僕もついていく! 僕には月虎よりセシリアの方が大切なんだ!」

「リアン、時間がないの、お願い!」

「セシリアの馬鹿…、無事に戻って来なかったら恨んで…後を追ってやる」

「大丈夫! そんな事にはならないって予感がする! ね! 行ってくるね!」

そうは言ったが、やはり危険と判断しリアンを置いて行ったのだった。聖域に入りリアンが無事かは不明だから。



セシリアはどこにご神体があるかも知らない。飛べるわけでもない。

ただ何となく感じた、あっちに何かがある。

でもそれは柔らかい雰囲気で眩い光…なんてものじゃない。禍々しい気配におどろおどろしい雰囲気『これ、近づいちゃヤバいやつ』完全なる拒絶って感じがした。

体全身が逆毛だちこの先に進みたくないと訴える。一歩の足取りが重い、だけど先に進むしかない。全身の拒絶具合で方向が分かる、前へ前へ進んだ先は断崖絶壁で先が靄で見えない。落ちたら恐らく死ぬだろう、こんな時 羽が有れば飛べるのだが、今はなんとなく無意味な気がする。ふーーーー、深呼吸をし歯を食いしばり崖からジャンプして落ちてみた。


「えいやーーー! リアンごめん!!」


ドサッ!

目の前の光景は極楽浄土はかくあらん、といった感じだ。

池には蓮の花が咲き誇り、水面には魚の泳ぎ波紋が広がっている。鳥が歌い温かな空気が頬を撫で穏やかな日差しに動物たちがなんの警戒もなく遊んでいる。まるでモネの睡蓮の世界、ただただ美しかった。


ん?

これもまやかしか?

目の前の極楽浄土があまりにも祖母が亡くなった時お寺で見たモネの画集そのものだったから。これってきっと私の記憶の中から映像を作っているのだろう。

自分の中の本能に従う、目の前の池も動物も関係ない、どこに一番力を感じるか?

池の中を歩く、腰までのくる水は冷たく歩きづらい。それでも歩き続ける、ガクンと急に水深が深くなった。顔の下まで水がきた、だがそのまま歩き続けた。頭がすっぽり水に入った。

セシリアの目に映る世界は、池の奥底に竜宮城のような建物が見える。

構わず歩く、呼吸は出来ている。やはりこれもまやかしだ。


一際得体の知れない熱とでも言えるものを感じた。

恐らくここなのだろう。目を凝らしていると、視界が開ける、その先には涅槃像のように横たわった私の前世での母の顔があった。

これも私の記憶の中から取り出したのね。どうせなら伯父さんが良かった。


「よくきたね」

「歓迎していただけるのですか?」

「我は歓迎も拒絶もしない、ここにあるだけ」

「まずは、無断で立ち入りました事深くお詫び申し上げます。そして不躾ではございますが、聖力を頂きたいのです。月虎の親子を救いたいのです!」

「何故? お主となんの関係もない月虎を何故救おうとする?」

「私には前世の記憶があります。そして獣医として働いておりました。ですから救える命であれば救いたいのです!」


「ふむ、聖力をお主にやったとして我の得るものはなんだ?」

「なるほど、報酬ですね。確かに…、わたくし自身は大したモノも持ちません。何であれば報酬になりますか?」

「ふふ、神が見返りを求める事に抵抗はないらしい。そうだな、ではお前が大切にしているリアンかブルームでどうだ?」

「申し訳ありません、お受けできません。他のものであればどうでしょうか?」

「月虎であれば聖獣ゆえ役に立つであろう? たかが人間の1人、魔獣の1体より余程お主に利益を生む、それでも後悔ないか?」

「はい、あの2人と引き換えにできるものなどございません」


「ふむ、では仕方ない。お主自身ではどうだ? お主を差し出せば月虎は助かり、リアンとブルームは一生 無病息災、ついでに財もやろう。これならどうだ?」

「お断りします」


「断る!? 何故だ? お主の目的を遂げられると言うのに!」

「わたくしは獣医であったと申しました通り、救える命もあれば救えない命もあると知っております。わたくしの命を犠牲にしてリアンや兄がわたくしを許してくれるとは思えません。別の道を模索致します、お邪魔して申し訳ございませんでした」


「ほぉ〜、ただの正義感のあつい者ではないのか、面白い。

お主は助けられる命だから助けたいと言ったが、聖獣だから助けたいのではないのか? 聖獣を助け見返りが欲しいのでは? その聖獣を見捨てても良いのか? 魔獣ではないのだぞ?」

「リアンは魔獣です。損得で命を取り扱うつもりはありません。ただ、私にとってリアンと兄は何にも代え難い存在なので、2人と何かを引き換えには出来ないのです」


「ふん、なるほど。まあ良い、お主に聖力をやろう、どう致す?」

「報酬は宜しいのですか? ……もし頂けるならここに転移で月虎を連れてきてもいいでしょうか? それでこの場で聖力を分けて頂けると有難いです」

「んー、面倒である。この神域に余所者が近づくことを好まん」

「なるほど…、怪我は不浄ですものね。私やリアンの聖力を分けても月虎に影響ないでしょうか? 実はリアンは卵からわたくしが育てたのですが、その影響で聖魔獣となってしまったのです。リアンの聖魔力を与えても問題はないでしょうか?」

「諦めるのか?」

「いいえ、確認です。念の為 聞けることは今のうちにと思いまして。」

「つまらんな、もっと足掻いて必死になれば面白いと思っていたのに。まあ、よい。

お主は愚かではないようだ。これをやろう」

白い蛇が出てきた。

白蛇はセシリアに絡みつくと腕にとぐろを巻いたぐブレスレッドになった。


「それは我の眷属だ。名をゲン そのモノがいれば聖力も十分得ることが出来るであろう。我はゲンを通してお主のする事を覗けて一石二鳥だ。ゲンは腕輪だけではなく刺青のように体に入り込むこともできる、会話もできる便利であろう?」

「ゲン様をお貸しくださるのですか? では終わりましたらお返しに上がれば宜しいですか?」

「そうであるな、ゲンを通して連絡するが良い」

「承知致しました」



転移してリアンの元に戻った。

月虎は聖力がなく弱っていた、セシリアは早速ゲンと共に月虎の親子に聖力を注ぎ回復させていく。月虎は無事に回復すると産気付きそのまま元気な赤ちゃんを産んだ。


月虎の母は真っ白なモフモフに覆われ大きな牙、それに青と金のオッドアイだ。生まれた子供も毛はまだ短いが白い虎で立派な月虎を継承している、牙もまだない。目はまだ開いていない、それから雄だね。


「月虎のお母さん、無事に息子さんが生まれましたよ、良かったですね。おめでとうございます」

「私は月虎のパールと言います。この度はお助け頂き有難うございました。意識が朦朧としている中でもセシリア様が励まし治療してくださった事 覚えております。こうして無事息子も産むことが出来ました。深く感謝致します」

「産後どこか不調はありますか? 気になることとか、何でもあれば仰ってください」

「いえ、今のところどこも問題はありません」

「あら、息子さんの目が開いたみたい! まあまあお母さんは青と金のオッドアイだけど紫と金のオッドアイだわ、ふふふ とても賢そうで綺麗ね」

パールは息子の体を舐めて、愛おしそうに見る。


「みゃー みゃー みゃー」

うーん、猫みたいに鳴くんだな、いと かわゆす。


「無事生まれることができて良かったわね。誕生を心よりお祝いするわ。ねえ、それにしても何故ガルムたちはお腹の子を狙ったの? 何か理由があるの?」

「迷信ではあるのですが、月虎の子を喰らうと不死になると言われているのです、だから襲ってきたのだと思います」

「まあ、可哀想に。何故子供だけなのかしら? それに不死ねぇ〜、いい迷惑ね。さてと、月虎の赤ちゃんは何を食べて大きくなるの?」

「私の聖力です」

「そう、ならもう心配ないわね、お幸せに。

リアン 私たちもそろそろ帰らなくちゃ。あっ! ゲンを返しに行かなくちゃ! ゲン! 転移で飛んでいいか聞いてくれる?」

「もう、お帰りになるのですか?」

「ええ、待っている人がいるの」


「リアンはちょっと待っててね、神様はあまり神域に踏み込まれたくないって言ってたから、ゲンをお返ししてお礼を言ったらすぐ帰ってくるから」

「一緒に行きたいよぉー」

「ふふ ごめんね。 ゲン どうかしら?」

「うん、聞いてみる」

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