43、デート−2
グラシオスは図書館に通い詰めても一向にセシリアと遭遇できないので、ブライト伯爵家を訪ねた。ところが父親と買い付けに出ていて帰ってきていないと言う、仕方なくいつ帰るか聞いたが不明とのことで肩を落としてアシュレイ王子殿下の執務室に来ていた。
「グラシオスどうしたのだ? 今日は仕事に身が入らないようだな」
「はぁ、殿下…申し訳ありません」
「一体どうしたと言うのだ?」
「はぁ、夏季休暇に入ってからちっともセシリア嬢に会えていないのです」
「まあ普通はそうだろうな、約束でもしない限り偶然会うのは難しい。それでそんなに萎れているのか?」
「手紙を出して誘うか、直接誘ってみては如何ですか? バーナー侯爵ご子息様を無碍にはしないのでは?」
「何でもずっと図書館にも空いた時間で通っていたらしいしな。まさか! 断られたのか!?」
「ちがーう! 違います。セシリア嬢はお父上の仕事について回っているらしく、いつ帰ってくるか不明だと言うのです」
「ああ、なんだそうか。まあ、それは仕方ないな」
「はぁー、接点がなさすぎる! 殿下いっそ彼女をここに迎えてはいかがでしょう?」
ガチャ
「失礼致します」
「よーーー、ベルナルド久しぶりじゃないか、最近はリハビリがてらずっと騎士の訓練に熱心に参加していたのだろう?」
「ええ、まあ」
ブルームを探していて気付けば毎日毎日訓練していただけなのだ。
「ああ、あれか? ブルーム・ブライトが訓練に来れないからその間に差をつけるつもりか?」
「あ? ああ、いえ。でも何故 殿下がご存知なのですか?」
「父上のところに行ったら、バーナー宰相がブルームを連れていたので聞いたのだ」
「えっ!? 父上がブルーム・ブライトを伴っていたと言うのですか!?」
「ああ、驚きだろう? 私も目を疑ったよ。何でも有能なブルームを各部が奪い合いをするから、宰相が取り上げたと言っていた。くっくっく 全く凄いな、ブルームと言う男は」
「殿下先程の話です!セシリア嬢を側近に加えましょうよ! 優秀さはサンフォニウムでも証明されました! 兄のブルームの信頼も厚い頼みますよ!」
「馬鹿言うな! お前の恋愛のためにここに女性を入れると言うのか!? それこそ私があらぬ疑いをかけられる!」
『そうだ、ここにセシリア嬢が入ればディアナが彼女に何をするか…』
「セシリア嬢をここに入れるのですか?」
「なんだ、ベルナルドまで興味があるのか? おいおいやめてくれよ。痴情のもつれで仕事にならなくなる」
「おい ベルナルド、君はセシリア嬢に興味がなかったはずだよな? 急にどうしたのだ?」
「………、グラシオスの話を聞いていたら私も興味が出てきた」
だがその顔は恋慕と言うより苦悩が満ちていた。
「ベルナルド、君はブルームをよく思っていなかったのではなかったか? その妹であるセシリア嬢に恋愛感情を持つ? 大体君はどこで彼女と出会う事ができたと言うのだ?
興味だけなら君はモテるのだから他の女性にしてくれたまえ」
「確かに、まともに話をしたこともない、だが付き合いたいと思っている!」
やめてよ、負けられない戦いは執務室の外でやって欲しい。
「セシリア嬢を側近に加えるつもりはない。女性1人を加えることにより様々な憶測を呼ぶことになる、それは得策ではない。どうせ呼ぶならばブルームであろう。
兎に角、セシリア嬢をここに呼ぶ事はない! いいね?」
グラシオスとベルナルドは睨み合ったまま。
コンコンコン
「殿下、ディアナ様の執事が参っております」
「通してくれ」
「ソディックか、どうしたのだ?」
「はい、お嬢様からのお手紙をお持ち致しました」
「そうか」
ローレンの顔色は悪い。
「すぐに返事が必要なものか?」
「はい、出来ましたら…」
「では、少し待て」
開くと孤児院への慰問の誘いだった。
王都の孤児院は満員状態で環境はあまり良くないと話は聞いていた。食料も衣服もベッドも何もかもが足りていないと報告は来ていた。王都では魔獣による被害で親を失う子は少なかったが、仕事を求め多くの人がなだれ込む為、育てられず捨てられる子供も多かった。
ディアナのシルヴェスタ公爵家がだいぶ支援してくれていると聞いたが、忙しさから確認には行けていなかった。そういった関係でシルヴェスタ公爵家は詳しいのだろう、これは断れない。
「これは私も気になっていたのだ、グラシオス日程を調整してくれるか?」
「承知致しました。人数はどれくらいでみ組みますか?」
「そうだな…、ディアナと孤児院の慰問が終わった後、先日の視察の続きもしようか。
それから例の報告書の件も様子を見てみたい」
「ソディック、日程が決まったら返事をすると伝えてくれ。それから孤児院の後は別行動となるのでその旨も伝えてくれ」
「…お嬢様はお孤児院の後、ご一緒にお食事でもと仰っていましたが…」
面倒だが流石に仕方ないから…。
「予約はこれからだろう? であればまたの機会に」
「殿下、それでは流石にお嬢様がお可哀想です。お忙しい事は重々承知しておりますが、夏季休暇中でもございます、1日とは申しません。お食事をご一緒に召し上がってあげてくださいませんでしょうか」
「ソディック控えろ、私は殿下の側にいてお忙しいのを知っている。姉上には申し訳ないが、我儘で殿下の時間を割くものではない」
「いや、ローレンすまない。確かに私の考えが足りなかった。グラシオス、食事まで時間を作ってくれ」
「承知致しました」
「でしたら、我儘ついでにお嬢様が行ってみたいと仰られていたスターヴァをお取りしてもよろしいでしょうか? 食べたことのない味だとか…お口には合いませんでしょうか?」
ディアナの庶民の味も知りたいの、私って民に寄り添える優しい娘 演出。
「ああ、私もそこは食べてみたいと思っていたのだ。では頼む、ただなかなか予約が取れないと聞いたが大丈夫か?」
「はい、何とか致します」
不敵な笑みを見せている、アシュレイはもういいや、と諦めた。
セシリアは父と一緒にカラルーニャ国へ来ていた。
国によって採れるものは違ったりするので、外国の旅は刺激が沢山あって楽しかった。
小さい頃から父について旅に出ていたので、カレーに使う香辛料も買う事ができたし、あまり流通していないモノを購入し、それをセシリアが父の会社で販売させている。その父の会社から買い付けスターヴァなどに卸している。トレヴィで扱っているドレスも一部は父の会社を通して購入している輸入品だったりもする。
因みに父の会社と直接の取引ではない。
セシリアは『ゼネラル社』と言う会社を作りそこを通して商売している。
代表者はバンダル・ゴールドバーグ、偽名だ。いかにもゴツいイメージで作った。
商品は転移させるのでコスト0円? 私の魔力だけ。
当然各店の代表者には話を通しているので問題なし。
マリオの屋台も屋台を倉庫にしまう、すると次の日には補充されている、あら不思議。だからマリオが作っているとしか思えない、屋台で簡単な調理しかしていないのだが、マリオは料理名人と思われている。
スターヴァは店から仕入れ業者を知ろうと連日 密偵が張り付いているが、知ることが出来ず従業員買収、無理なら従業員として潜入、敵もあの手この手だ。今のところ仕掛けたトラップに引っかかり憲兵に引き渡されている。でも仕方ないよね、今や白いカラスつまりセシリアに式神はあちこちにいるから、犯行の情報が事前に分かっているのだから、対処しちゃうでしょ?
まあ、そんなこんなでセシリアの存在に気づかれず商売が出来ている。
今回の目的は豆! チリコンカンを作りたいんだよねぇ〜。スパイスとかはもうかなり各国から取り寄せて流通もさせてるし、何だったらダディの倉庫から拝借もできる。
自国は豆をあまり栽培していなかった。
もしかしたら調理法が確立されていないのか、家畜の餌と認識されているのか、気候が合わないのか…、だから出来れば大豆とかインゲンとか小豆とか定番で使い勝手が良いものは自分でも栽培できれば嬉しい! それと甘いものは脳を活性化させる、いや 気分を上げる。疲れた時にかぶりつくシュークリームやプリン、ぷるんぷるんのわらび餅に黒糖かけてアイス乗せて背徳感たっぷりでパクリ!食べてた甘味は最高に美味しかった!!
いちご大福を最初見た時邪道だと思った、食べた後謝ったよ、勝手なイメージで毛嫌いしてごめんなさいって。
普段は余計なお金は使いたくなかったから自分では買わなかったけど、伯父さんが誕生日にホールの苺のケーキ買ってきてくれて蝋燭立てた時は、蝋燭の炎が厳かに思えて、その薄暗い灯りの向こうで伯父さんが微笑んでくれているのに気づいた時、胸がギューーーーってなった。2人しかいないのに大きなケーキは、『望愛が好きなだけ食べなさい』って言われても限界があったけど自分の誕生日を祝ってくれる事が、笑顔を向けてくれる人が目の前にいてくれる事がすごく嬉しかった。
だから今も甘いものは私にとって特別な食べ物だ。私にとっての甘味は優しい記憶と共にある。
と言うことで、砂糖も大量に仕入れたいなぁ〜。でも、高価なんだよねぇ〜。
サトウキビとか甜菜とか栽培できるところあったらいいな。
『作ればいいじゃないか、セシリアには魔法空間があるんだから』
『あっ! そうか! 人を使わないからこそトラクターとか、粉砕機とか分離機とか自重なく使えるか! 何だったら魔法でワントライしちゃうし、いいかもしれない! そうしたら美味しいものがいっぱい作れるかも!!』
セシリアが欲しいモノを見つけるためにダディとは一旦分かれて、市場をリアンと回っている。
『マジックバッグがあるから何でも持って帰れるから、色々育つか確かめてみたいよね!』
『セシリア、あっちに甘い果物がなってるよ!』
『リアン? ここら辺に詳しいの?』
『この間通った時に教えてもらった!』
『そうなのね、じゃあ案内してくれる?』
『うん、行こ行こ!』
リアンさんのあっちが遠くてビックリだし、山の中も想定外、しかもなんだかこの山、禍々しいんですけど…。
『ねえ、リアン間違っては…いないのよね?』
『うん!』
『ねえ〜、リ・ア・ン! 疲れちゃった。乗―せーてー!』
『ふふ いいよ、勿論。あ、でもここら辺は人間ゼロじゃないから姿消して行こうか』
リアンがドラゴンになるとあっという間に着いてしまった。
「うわぁー! 素敵!! 下から見た時と印象がまるで違うのね!」
「うん、ここはね動物たちの憩いの場、羽を休めたりする場所なんだって。それでここに生えている植物で腹を満たしてまた飛んでいったりするんだ」
「ねえ、魔獣たちはここに住んで自分だけのものにしようとはしないの?」
「いないね。と言うのもここは近くに神域があるんだ。だから神聖力の影響が出る。だから魔獣は長居しない。普通の動物たちもここには魔獣が来ると知っているから、のんびりしていると魔獣に食われるからあまり近づかないんだ」
「へぇ〜、なら聖獣はここに来るの?」
「来るみたいだよ」
「聖獣と魔獣って喧嘩するの?」
「力の弱いもの同士では喧嘩にならない。大きいとどうなんだろう?同格なら相打ちになるからやっぱりしないんじゃない? 同格じゃない場合長くここにいると魔獣の方が分が悪いからそっとその場を離れるんじゃないかな?」
「ふーん、人間より賢いわね。ねえ、リアンは聖魔獣でしょう? ここにいると何か影響があるの?」
「うーん、別にない。聖力も魔力も僕の力になるから、減っていれば補充するってだけかな」
「そうなのね、良かった。もし影響が出て辛いならすぐに帰らなくちゃって思ったの」
「ん、大丈夫だよ。さあ果物を取りに行こう。あっちだよ」
果物がなっている場所に着いた。実際に見て言葉を失った。
「ねえリアン…大きな果物ね。そうかリアンみたいなドラゴンが食べる果物ですものね、大きくなくちゃ食べでがないものね。うーん、大きすぎて食べきれなさそう」
「待ってて。ヨイショっと」
大きな木には大きな実がなっている。下から見た時より実際に目の前にするとかなり大きかった。2m位の球体だった。見た目はクリーム色?ケバケバしていてどう食べていいのか? そう思っているとリアンが刃物で1口サイズに切ってくれた。
1口食べると果汁がジュワーっと染み渡った。桃とバナナを合わせたような味(桃強め)すっごく美味しい果物だった。
「リアン! すっごく美味しいね! 瑞々しくてすごい甘くて美味しいわ!!」
「そうでしょう!! これをねセシリアに食べさせてあげたかったんだ。いつも僕に美味しいものを作ってくれるから僕もセシリアにお返しがしたかったの!」
「有難うねリアン!」
早速残りはマジックバッグへポイ。
他の植物を見て回っていると向こうに大きな山があった。
向こうの景色に気を取られてて何かに躓いた、なんだコレ!?
4〜5m位の白い塊があった、回り込んでみると動物? 見た感じはトラっぽいんだけど、白くて毛がモサモサ生えていてポケモ◯のライコ◯みたいに牙が下に長く生えている。
「リアン、知ってる?」
「いや、知らない。でもきっと聖獣だね。魔力を感じない」
「ねえ、あなたどうしたの? どこか具合が悪いの?」
「セシリア、こっち来て。腹のところから血が出てる!」
「えっ!? 本当だわ、コレが原因なのかしら? それとも別に原因が…? 少し診るわね、もう少し頑張って!」




