42、デート−1
ベルナルドは父親からセシリアと親しくなるよう厳命を受けたが、生憎今は夏季休暇中で接触を図れるところがなかった。そうなると考えつくのはブルームのところ。聞いた話ではブルームのところに昼食を届けにくると言うのだ。利き手が使えない今、いつもなら癪に触るのでブルームの訓練時間とずらして受けに行くのだが、父上の命令となれば仕方なく、いそうな時間帯に行きブルームを探した。
だが見つからない。
同僚に聞いても知らないと言う、上官に確認すると今日は来ないと言う。
その次の日もその次の日も探したがブルームは来ない、だからセシリアも来ない。
1週間ずっと探したが来ない、魔法騎士団に登録しているはずなので、魔法騎士団の者に確認したが知らない、そこで魔法騎士団長のサルヴァトス団長に聞いてみると、なんとも歯切れの悪い答えだった。
「ブライトは忙しいので騎士団への訓練参加は辞退した。まあ、正式な騎士でもないし、今後は来ないかもしれない」
はぁぁぁぁぁぁぁ!? 何だよそれ!! 剣術の天才なんて言われているのに辞めた!?
ふざけるな!! 俺の手で倒すべき相手なのに!!
「アイツは今 何しているのですか?」
「今は国務部、外交部、総務部、財務部などを数日交代で手伝っているって話だ」
「えっ!? アイツはまだ17歳ですよね? 何故文官の仕事をしているのですか?」
「ああ? 優秀だからに決まっているだろう! 元は財務部を手伝っていたが、今は仕事が早く丁寧で愛想も良いと引っ張りだこだよ。どこも今のうちに唾つけて卒業後に入って貰おうと躍起になってる」
「パクパクパクパク…嘘だろ」
言葉にならない。
「国防部には入らないのですか!?」
「ふー分からない。先日のケイ…いや、何でもない。まだ学生だ。それに彼は伯爵家を継ぐ人間だ、どんな選択をするか決めるのは彼自身だ」
「いや! 訓練は毎日しなければ体は鈍るし勘は鈍る! 騎士を舐めるのか!?」
「まー、それも事実だが…、先日ブルームのレベルチェックをしたが問題はなかった。今後こちらには来ないが自主練は続けるそうだ。騎士試験の時、技能が伴わなければ騎士にはなれない、それだけだ」
『だが、自主練相手があのセシリア嬢ならレベルが上がることはあっても下がることは…ないな』
「お前はしっかり訓練しろよ」
「はい、承知致しました」
嘘だ! あれだけの才能を持ちながら騎士にならないだと!? ふざけるな!!
ブツブツ言いながら帰った。当初の目的は忘れてしまっていた。
アシュレイ王子殿下は度々魔獣のところへ来るようになった。
忙しい合間を縫っても会いに行くし、眠れない時は檻の外からサリュの側にいる事を望んだ。
「サリュ、いつも愚痴ばかり聞かせてごめんね。サリュと一緒の時が一番心が穏やかになれるんだ。サリュと一緒にいると懐かしい何かを思い出せそうな気がする。
はぁ〜、疲れたなぁ〜。サリュと空を飛びたいなぁ〜」
檻の中のサリュの体を撫でる。それに気持ちようさそうに応えるサリュ。
「サリュ、ごめんね…こんな檻の中じゃなくて大空を飛ばせてあげたいのに」
「ぐるるるるるる」
「ねえサリュは 何が好き? 何をしたい?」
「ぐるるるるるる」
「サリュはちゃんと私に答えてくれているのにそれを理解できないなんて…悔しいな。
あー、サリュと会話がしたいよ、いつも私の話を聞いてもらっているけど、私もサリュの話が聞きたい。ずっと ずーーーっと一緒にいれたらいいのにな」
「ぐるるるるるるる」
「ふふ 何言ってるか分からないけど、きっとずっと一緒にいると言ってくれてるんだよね? ちゃんと伝わっているからね」
「ぐるるるるるる」
「ふふ 大好きだよ」
一方ディアナの部屋ではダンがアシュレイ王子殿下の行動を報告していた。
「などと魔獣に対し話しかけられておりました」
「まあ、随分純粋でいらっしゃる事。わたくしと結婚するまでにはもっとしっかりして頂きたいわ」
「ずっと側にいて欲しいと愛を囁いていらっしゃいましたよ」
「まったく、何故それをわたくしに言えないのかしら? 状況判断が出来ないのかしら?」
「ディアナ様が魔獣のように大人しくなればよろしいのでは? ふふ」
「あら、わたくしを飼い慣らすにはそれなりの技能が必要なのよ? 低脳な魔獣のように媚を売るだけなんて出来ない相談だわ」
「次回のお茶会のメンバーは決まったのソディック?」
「はい、セヴィリール公爵家に与する者たちも今回は参加されます」
「そうね、そろそろ派閥にばかり拘っていると私が王妃になった時に締め出されて取り返しがつかなくなるものね。ふふふ マルゴット侯爵家は?」
「はい、参加されます」
「あの方はアシュレイ王子殿下には興味がないの?」
「はい、アナスタシア・マルゴット嬢もタフィナ・セヴィリール嬢もブルーム・ブライト伯爵令息に夢中です。他の令嬢たちもブライト殿をあの手この手で狙っていますよ」
「ブルーム・ブライト…名前はよく聞くけど会った事はないわね…。それほど魅力的なの?」
「そうですね。眉目秀麗、文武両道、頭脳明晰、遠慮会釈、謹厳実直…彼を悪く言う者はいません。いるとしたら…モテない男のやっかみですね」
「胡散臭いわね、たかだか伯爵家の分際で? あり得ないわ」
「ブライト伯爵家の後ろ盾はブルーベル侯爵家です」
「ブルーベル侯爵家…ね。あなたの目から見てどう?」
「はい、大変優秀です、サンフォニウムではグラシオス様の上をいき1位を獲られました」
「ふぅ〜、アシュレイ様より優秀な者が多くいるのは良くないわ。グラシオス様はアシュレイ様の側近となり右腕になるからいいとして、ブルームは少し邪魔ね。お茶会にサプライズで呼ぶのはどうかしら?」
「調整致しますか?」
「ええ、そうだわ! 魅惑的な男爵令嬢も用意して頂戴、それでそのブルームと言う男を夢中にさせてしまうの! そうしたらブルームもアナスタシアもタフィナも纏めて排除できるわ! いい考えだと思わない?」
「承知致しました、丁度いい男爵令嬢ですね…、すぐに探してみます」
「ねえ、それからルクレツィア王女殿下はどうしていらっしゃるの? 最近噂を聞かないわ」
「何やら勉学に勤しまれているようですよ?」
「まあ、どう言う風の吹き回し?」
「さあ、もうすぐ王立学園にご入学ですからそのご準備では?」
「あの娘もわたくしが義姉になると言うのにちっとも気が利かなくて使えないわ。アシュレイ様との時間が取れないから時間を作るように言ったのに未だに何の連絡もない。
はーーー、結婚した後 優しく出来そうにないわ。そうね、こっそりうちの手の者がを側に付けて頂戴! わたくしに逆らうとどうなるかを教えて差し上げなくてはね」
「ですが、ルクレツィア王女殿下にお仕えする者たちは、代々決まった家から選んでいますので問題ない者たちを排除して、手の者を送り込むのは難しくあります」
「……なら、問題ない者たちに問題を作ればいいわ。それが無理ならいっそ家に問題を起こして貰えばいいじゃない?」
「そう上手くはいきませんよ、ヴァンクリフト侯爵家とナルバジーク伯爵家は管理が徹底されていて、使用人たちの教育も完璧です。金銭関係も定期的に厳しくチェックされていて王宮内に密偵を作る際も1人も落ちませんでした。ですから女官などは断念し掃除婦、護衛にしか潜り込ませられませんでした」
「そこを何とかするのがお前の役目でしょう?」
「アシュレイ王子殿下の時に散々確認致しました。諦めてください」
「何よ! 使えないわね!!」
バチーン
ソディックの頬を打った。
だがソディックは何の反応も示さない。
「うぅぅぅ忌々しい! では何なら出来るの?」
「申し上げた通り、掃除婦と護衛です。旦那様の手の者を忍ばせる事は可能だと思いますが、あの者たちが旦那様ではなくお嬢様の言うことを聞くかは不明です」
「何故? お父様の手の者ならこのシルヴェスタ公爵家に仕えているのだからわたくしの言うことを聞くべきでしょう? 何故わたくしでは駄目なの?」
「はー、お嬢様考えてみてください。旦那様は長い期間を要して少しずつ手の者を忍ばせたのです。それは当然目的があってそうなさったのでしょう。それをお嬢様のくだ…コホン 嫉妬やプライドの為に失うわけにはいかないし、失敗などしては長年の計画が台無しになってしまいます。ですから、旦那様の人間を使う場合は旦那様に了承を得る必要があるのですよ!」
ソディック…うっかりくだらないって言いそうになってたね、ダンがニヤニヤ こっちを見ている。ソディックはそれに気づかないフリをする。
「分かったわ。わたくしも悪事を全てお父様に知られるわけにはいかないもの。掃除婦でもいいし護衛でもいい、わたくしの指示に従う者を作って忍ばせて頂戴」
「畏まりました」
「ねえ、ところでお父様の長年の計画って何かしら?」
「さあ、存じ上げません」
「嘘ね、あなたは知らされているはずだわ」
「何故そう思われるのです?」
「だってわたくしが巻き込まれたら困るから関わりなくても知っているはずだわ! どう? 違う?」
得意満面で聞いてくる。
「まあ、お嬢様が知るべき事や関わる事が有れば知らされるでしょうが、お嬢様の知る必要のない事であれば知らされません。秘密を知る者が多ければ秘密ではなくなりますから」
「ふーん、それでは王宮内に密偵を忍ばせるのは何の為?」
「存じませんが、普通に考えればシルヴェスタ公爵家の勢力拡大でしょうか? お嬢様だって嫁いでもまだ王子妃でしかありませんし、発言権も大きくはありません。ですが、王太子妃となり王妃となった際、今 仕込んだ者たちもそれなりの地位に就いていて、重要なポストに自分の手の者にしておけば旦那様が提案した法案などは全て可決される、そう言うことではないでしょうか? お嬢様だって、アシュレイ王子殿下が側妃や愛妾を持ちたいと話が上がった時、手の者が多ければ止める事ができます」
「お父様がそんな事のためのするとは思えないけど…まあいいわ。ねえ、ダンちょっと探ってみてよ!」
「はぁ? 失敗したら俺 殺されるんですけど?」
「そこはいざとなったらわたくしの命令ってことで、ね! もっと違うことのような気がする!」
「絶対見捨てないでくださいよ! 見捨てたら恨んで呪い殺しますからね!」
「死んだらお墓は作ってあげる、ふふ」
「ああ、ハドソン伯爵家はいよいよソフマン侯爵に借金の申し込みに行ったよ。それと、カラリラ子爵家のナディア嬢とデュフル伯爵家のシャクラン嬢は男たちに襲わせて自宅療養中、予定通り排除完了したよ」
「有難う、いい子ねダン。アシュレイ様に色目を使うからこういう目に遭うのよ。 身の程を弁えてもらわなくちゃ。ふんふんふうーん」
「こんな胸糞悪い話に鼻歌とはお嬢様は…、殿下の前で本性出さないでくださいね」
「勿論よ、さて 後はアシュレイ様ね。そうだわ、偶には外でデートをしましょう!」
「最近、何かと理由を作って会って頂けないのにどうやって誘い出すのです?」
「うーん、そうね…、良い子ちゃんのディアナがしそうな事ねぇ、そうだわ! 孤児院の慰問なんてどうかしら?」
「そうですね、それはお茶会などより断り辛いですね、いいと思います」
「そうでしょう? ソディックはデートプランを宜しくね!」
「どちらかいきたい場所などはございますか?」
「そうね、お茶会で聞いたレガシーって言う宝石店とスターヴァって言う所で食事はしてみたいわ。ドレスは流石にこの間トレヴィで作ったから難しいし、後は適当に盛り上がりそうな所をお願い」
「承知致しました」
ご機嫌でディアナは話をしていたがそれを廊下でローレンが聞いているとは知らなかった。
ローレンは義姉のディアナに救われ恋心を抱いていたが、そのディアナの本性がこんな醜悪だとは知らなかったのだ!
先程聞いたナディア・カラリラ子爵令嬢とシャクラン・デュフル伯爵令嬢とは、つい先日までディアナの取り巻きだった者たちだ。最近見ないと思っていたら、まさか義姉が襲わせていただなんて!? いや あの優しいディアナがそこまでするなんて、よっぽどのことがあったのだ! そう思い込もうとしても義姉への疑念が生まれてしまうとなかなか消す事ができなかった。




