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4、リュック

卵との生活は3ヶ月にもなった。

もっと小さければ持ち運びがしやすいのだが、何しろ大きいから持ち運ぶのが大変。

今のセシリアは案外忙しい。

ブルーベル侯爵家のレッスンに、動物巡回、自主練習。外出の時は目立つし割らない様に注意を払わなければならない。毛布のリュックではそれはそれで目立ってしまうので、リメイクした。取り敢えず体力トレーニングの為と言っていつでもどこでも背負っている。

ただ、ブルーベル侯爵家での学習中は流石に背負えないので、待機している馬車の中に保管して置いた。お風呂も端っこに置いて、ご飯の時も背負って行ってテーブルの下に置いて用が済めばまた背負う、そこまでするとセシリアがリュックを背負っていても違和感がなくなった。


でも3ヶ月もした頃からリュックを背負って動物を見に行くと、動物が怯える様になった。

んーーー、何だか嫌な予感がしますねぇー、どうして動物がリュック中の生き物を怖がるのでしょうか! 

正解は…まだ不明、まさかの魔獣だったりして! はは…は、飼えるかなぁ〜? いや、孵ったら旅立つのか? 

ま、いっか なる様になるでしょう!! 仕方ないので少し離れたところに置いて見に行くようになった。




いつもの様にベッドに置いて挨拶をする。

『お休みぃ〜、また明日ね ふぁぁぁ』

『お休みセシリア』


真夜中に唸り声で起こされた。

『う゛う゛う゛ぅぅぅぅ!、』

「ん、んんんーーー、ふあぁぁ、ん? どうしたの? どこか痛いの?」

『ぐあぁぁぁ! フーフーフー』

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

『ダァーーーーー!』

パキパキパキパキメリ ミシッ!

「グァー!」

「うわぁぁ、う、生まれた……」

『セシリア、初めまして。お陰様で無事生まれたよ!』

「うん、初めまして、えーとおめでとう…それで種族は何になるのかな?」

『どこからどう見てもドラゴンでしょ!!』

「ですよねーーーー。あははは、はー。さてこれからどうしよう?」

『うーーーん、僕はまだ赤ちゃんだから外には出られないかな、しかも結界が張ってあるから、今はこの結界の外にも出られない』

「そっか、じゃあここにいるしかないね。あと聞きたいんだけど…」

『なあに?』

「何を食べて大きくなるの?」

『自分で魔力を得られる様になるまでは、魔力を供給して貰うんだ。大きくなると口で獲物も食べるかな』

「あらまあ、魔力か…魔力 どうやったら食べさせられるかしら?」

『うん、もうずっとセシリアから貰ってるよ? だから今まで通りで大丈夫!』

「ああ、そうなの? なら良かった…。あとは…、名前がないと不便よね〜。

……リアンなんてどう? 絆って意味なんだけど縁あって私のところに来てくれて、こうして無事に生まれてくれたから、これからもこの絆を大切にしたいなって思うのだけど…」

ビーーーーン!

『うん、素敵な名前を有難う。セシリアと僕の間に絆が繋がったね』

ん? 絆が繋がる? なんだそれ、まあいっか。

「取り敢えずまだ夜中だから寝よっか…ふぁぁぁぁ」

『うん、おやすみセシリア、また明日ね』

「ん、リアンお休みぃぃ、くぅー」



セシリアは何事もなかった様に今まで通りリアンを背負って何処にでも出掛けた。


最近はブルーベル侯爵家のレッスンの時も褒められることが多くなった。筋力を増やしたことにより姿勢を保っていられる様になった。勉強は中身アラフォーだしコツを掴めば出来る、というか昔は何も勉強していなかったから分からないことだらけだった、エレン様から頂いた参考書やブルーベル侯爵家にある図書室で様々な本をお借り出来たので、それでコツコツ勉強した。


そしてもう一つブルーベル侯爵にお願いをした。

「ブルーベル侯爵様、あの私にも兄と同じように剣術や弓術や馬術も教えて頂けないでしょうか!」

「ん? セシリア、今度はどうしたのだ? 分かるように説明しなさい」

「あ、はい。山で傷ついた鳥を拾ったのです。その子の餌を取りたいのです。その為の技術が欲しいのです」

「鳥か…、使用人に取りに行かせるのでは駄目なのかい?」

「勿論、事足ります。でも彼らに余計な仕事を増やしたくないのです。家の中で1番仕事をしていないのは私ですから」

「そうか、…分かった。その様に手配しておくよ。他に困った事はないかい?」

「いえ、よくして頂いて感謝申し上げます。私にできる事でしたら何でも仰って下さい」

「ふっ、私を信頼して言ってくれているのだろうが、レディが迂闊にそんな事を言ってはいけないよ。それにしても見違えるほど素敵なレディになったね。無理をせずにね、もし力になれる事があったらこれからも言いなさい」

「はい、有難うございます」


剣術の稽古は木剣で素振りをするところから始まった。

マラソンと腹筋、背筋、腕立て伏せは続けてきたが、木剣でも振り続けるのは厳しかった。

「ではまず素振りで毎日300回振ってください。出来る様になったら次の指示を致します」

「はい!」


兄ブルームたちが剣術を習っている横でセシリアはひたすら素振りを続ける。


弓術も矢のない弓をただひたすら引き続けるだけ。だけどこれもキツい!

掌もタコになっているところに弦が当たって血が滴る。肩甲骨も上腕二頭筋も力瘤も首もどこもかしこも痛くて堪らない。


ガーー!! 痛い! 辛い! 痛い! 辛い!!

でも諦められない。

だってこんな機会普通はない! 自分の家では無理だから!

ブルーベル侯爵家の教師たちは一流だった。うちみたいな しがない伯爵家ではこんな優秀な者たちから教えを乞う事はできない。マナーだってなんだって最高レベルの教師たち、こんな幸運な事はないのだ! 持ち前の守銭奴、ドケチ根性で学べる事は何でも貪欲に学ぶ!


あっ、またマメが潰れた。

くぅー、この世界は絆創膏とかないんだよねー。

「セシリア、手が痛いだろう? ほら、手を出して」

「お兄様、有難うございます」

ブルームはセシリアの手を見つめ優しく撫でると、自分のハンカチで巻いてくれた。

「これで少しはマシになるだろう」

「ごめんなさい、お兄様のハンカチが汚れてしまったわ、血抜き出来るかしら?」

「馬鹿、ハンカチなんかよりお前の方が大切だよ」

「嬉しいお兄様。少しだけ抱き締めて貰ってもいい?」

「ああ、勿論! おいで。 あー、よしよし、よく頑張ってるなー、偉いなぁセシリアは。でも、あまり無理するなよ、僕だっているんだから、1人で何もかもしなくて良いんだぞ? ん? なぁ?」

「うん、有難うお兄様。ただの貧乏根性なの、我が家ではこんなに優秀な人に教えて貰えないでしょう? だからタダなら教えて貰えるなら学ばなければ損する気がして…。だから大丈夫よ。

えへへ、ブルームお兄様、大好き!」

体を揺らしがら会話をする2人はまるでダンスを踊っているよう。

「少しは休憩できた?」

「うん、有難うお兄様」


セシリアはまた弓を弾き始めた。

その後、馬術は馬との意思疎通がバッチリなので恐怖心にさえ打ち勝てれば問題なし。

前世でも馬に乗せてもらったことがある。と言うか、大学内を馬で移動したりもした。足さえ届けば問題なし。

剣術も弓術も馬術も自分が教えて欲しいと頼んだのだから、弱音は吐けない。


前世での私は伯父さんにお金を返したい、負担を減らしたいとお金を稼ぐことに夢中だった。若いから大丈夫だってかなり無理していた、だけど私は36歳で死んだ。人が70年生きるだなんて妄想だ、人はいつ死んでもおかしくない、病気じゃなくても人は死ぬのだ。しかもここは魔法や魔獣の不可思議な世界、出来る事は何でも貪欲に取り組むべし! 何が役立つか分からない、手段は多ければ多いほど良い。だから必死で取り組む。



以前はエレン様だけがマナーを一緒に受けてくださっていたが、最近はアリエル様やローハン様も共に受けたり指導してくださったり構ってくださる。ローハン様やアリエル様はマナーだけではなくダンスや勉強の方も見てくださる。ローハン様は剣術や弓術で私が血を流していると、お兄様より早く近寄ってきて手当てをしてくださる。

「セシリアは女の子なのにこんなに手を固くして」

そう言うと私の手の手当てが終わると手袋を嵌めて下さった。

「ローハン様 これは?」

「手袋だよ、ほら見て、みんな手袋しているだろう? 手袋はね消耗品だから駄目になったら新しいのに変えるんだ。それに滑り止めになる、使って」

明らかにサイズがセシリア用だった。わざわざセシリアの為に購入してくださったのだ。

「ローハン様、こんな高価なもの受け取れません! お気持ちだけで結構です!」

「馬鹿、大して高価でもない。それにセシリアもブルームも妹や弟みたいなものだ、これぐらい贈らさせてよ」

「はぁ、でも 何もお返し出来ません」

「セシリア、 こう言う時は『有難う』で良いんだよ!」

有無を言わせない笑顔。

「…はい、有難うございますローハン様、大切に使います!」

「うん、それでよし」

私に手にフィットする手袋を嵌めると、血で滑った剣も、血だらけになった弓の弦も扱いやすくなった。



ブルーベル侯爵家の皆さんには本当に優しくて

兄妹揃って可愛がって貰った。

最近はみんな揃って一斉テストがあったりする。同じ問題を解くのだ、私が1番年齢が下なので、『下剋上起こしたるわい』と頑張る。1番ローハン様が有利なのだが、何気にアリエル様も一矢報いる気満々なのが伝わる。


ブルーベル侯爵家ではまだ弓で的に狙う練習はしていなかったが、自主練にリアンの餌を取りに山に来ては弓を射る。

「リアン、今日は何が食べたい?」

『んー、そろそろ大きな獣が食べたいかな?』

「オッケー、どこら辺にいそう?」

『南南東に50歩ってところかな? 念話で話そう』

『了解でーす。 ってあれは熊です。私には仕留める能力がありません』

『ちぇっ、じゃあその熊が狙ってる猪でいいよ』

『猪だって一矢で仕留めらんないし! ここからだと熊に横取りされる可能性78%なんですけど』

『何その数字、くっくっ ヤケにリアルだね。 んー、まあ恐らくそうかもね』

『ちょっとリアン!』

『んー、じゃああっちの洞窟にオオトカゲがいる、あっちにする?』

『でも熊が食べたいのでしょう? ちょっと待って。駄目だったらリアン宜しくね!』


セシリアは弓を構える、狙いを熊に合わせる。

「魂縛弾、イケー!!」

バシュッ!!

本来では届かない距離だがセシリアの魔法による矢は相手を標準に捉えたら離さない追尾機能もある。しかもセシリアが編み出した技は相手の魂を捕縛する為、すぐに動けなくなる。

ドスっ! グラリ ドシーーン!!

その音に驚いて猪は逃げた。リアンは急いで熊のところへ行って、バリバリ頭から食べていく。喉を鳴らすかの様に満足気に余すところなく綺麗に喰らい尽くす。


セシリアはついでとばかりに先程の猪も捕獲しリアンに差し出す。

『少しはお腹いっぱいになった?』

『うん、まだ食べられるけど食べたい力を食べられて満足だよ』

『そう、良かった。あん、お口の周りについてるわ』

そう言うと川に行ってハンカチを濡らしリアンの口の周りを拭く。

食事の後は2人で軽い運動もする。

生後8ヶ月も経っているリアンは自分で餌を獲る事もできるが、ドラゴンの姿を見られれば混乱に陥る事は分かっている。だから高く飛ばない狩りしかしていない。


『リアンがもっと小さいサイズなら突破出来るかもしれないのになぁ〜』

『なんの話し?』

『リアンも狩りの練習をさせてあげたいのに、ここブルーベル侯爵領では万が一を考えるとね。だから隣のハドソン伯爵領とかならいけるかなって思ったの。でも最近のリアンは大きいからリュックには入らなくなっちゃったでしょう? だから小さくなれればなぁって思ったのよ』

『んー、じゃあやってみる』

暫くブツブツ言いながら色々と試しているみたいだった。

『あっ、これかな?』

プシューーーーー

40cm位の鷹の様なドラゴンの完成!

『おおう、素晴らしい!理想的だよリアン! 調子悪くはない?』

『うん、大丈夫だよ』


リアンは毎日ご飯を食べなくても大丈夫で、一度の食事をエネルギーとして蓄積するので、力を使わなければエネルギーも使わない。それともう一つは結界の突破だ。だけどこれも全然問題がなかった。と言うのも、リアンは卵の時からセシリアの魔力を食べていたので、魔獣でありながら聖属性の魔力も溜まって聖魔獣となっていた。だから魔獣結界には引っ掛からなかった。


念の為、いつものリュックにリアンを入れてマラソンと称して山の中を走りながらハドソン伯爵領側に入った。そこでリアンと狩りの練習をした。まだ生まれたばかりのリアンは本来は野生のドラゴンだ、親の庇護のもと狩りをし、逞しく成長を遂げ、生後半年後には一本立ちするのだろうが、卵の時からセシリアに甘やかされて育ち、周りに危険がない為ぬくぬく&スクスク育ちよく眠る。狩りをしたり遊び疲れて眠ったリアンをリュックに入れて背負って家路に着く。

望愛にとってリアンとの時間が1番何も考えずにリラックス出来る時間だった。

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