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39、能力テスト−1

「貴女はブライトのいや ブルームの実力を知っていたの?」

「まだ実力と呼べるモノはお見せしていないように思いますが?」

ザワザワ

「そうか、ではいつ実力を見たのだ?」

「…? いつも兄と訓練をしておりますから、ふふ」

凍りついた。

あのブルームの練習相手をこの令嬢が!?


イマイチな判断がつかなかった…。兄が妹を遊んでやっていたのか、本気の訓練だったのか?


「では、いよいよあなたの番だ、場所を移そうか、やめても良いのだぞ?」

「いえ、負けても構いませんし…兄以外の方とお手合わせ出来ることを楽しみにしております、うふふ」

だってさー、お兄様を傷つけたくないじゃない? だから本気は出せない、編み出した技を試してみたかったんだよねー。


ここにいる者はセシリアが無邪気な悪魔と知らなかった。


「あのー、心配すると思うので兄には連絡をしても構いませんか?」

「ああ、誰か呼んでこい」


魔法訓練場に着いた一行、遅れてきたブルームにセシリアは駆け寄りしがみつく。

「お兄様はやっぱり何をしても格好良いですわ!」

「セシ、何故セシがここにいるの?」

「わたくしも小隊長様と戦う事になりましたの」

「えっ? 何故セシが?」

急に周囲の温度が下がっていく。

「わたくしね、もし魔獣管理局に就職するとなると国防部の所属となるので、剣術などの技能の有無の確認が必要なんですって。ですから現時点での能力テストです」

「セシ…怪我したら、心配だよ…」

「お兄様、ご心配なさらないで? わたくしは負けてしまったらまた鍛錬すれば良いんですもの」

おいおいおい、うちの小隊長相手に勝つつもりだったのか?


『お兄様、覚えた技を試す良い機会ですもの。どれほど通用するか試しいてみたいの』

『セシ…殺しちゃダメだよ? ちゃんと手加減!忘れちゃダメだからね?』

『もう、お兄様ったら心配性ね、ふふ』


魔法訓練場には騎士団長と国防部の各長たちも集まっていた。そこには当然後から呼ばれたランクル局長もいた。見た目は華奢で可憐な少女のセシリアが立っている。その違和感たるや。


「あのー、剣術ですか? 魔法ですか? 両方ですか? 体術や弓術もあったりしますか? ご指定ください」

「その聞き方では何を選択しても問題ないと言うことかな?」

「いえ、そう言う訳ではありませんが、お兄様とリアン以外の方と初めて手合わせをするので…楽しみなだけですわ」

「楽しみ…ねぇ。ケイジャー小隊長は強いぞ?」

「はい、胸をお借りし頑張りたいと思います」

「では、剣術、魔法、体術ってところでどうだろうか?」

「承知致しました」


失笑が漏れる。

「騎士団総長!コバックの野郎が弱っちいから勘違いさせたんじゃありやせんか? 何でこの俺が子猫ちゃんの相手だなんて、とんだ貧乏くじだぜ。うっかり傷受けるどころか殺しちゃったらどうしやすか? ウッヒッヒッヒ」


ブルームから冷気が充満する。

「ブルーム、落ち着け」

「ブルーム! ブルーム! ブルーム! ムカつく名前だぜ、お前がブルームか! 顔だけでのし上がれるほど騎士の世界は甘くない。お前たち若造の中でちーっとばかし剣が振れるからって勘違いした奴は入団してから先輩に可愛がられて再起不能なんて話はよく聞く話だ。今のうちによぉーーーーく考えた方がいいなー。下っ端はあまり金にならないから傷物になった妹抱えて生きていくにはもっと身入りのいい、愛人なんてどうだ?」

「ケイジャー口を慎め! お前は品がなくて小隊長より上になれないのだぞ!

セシリア嬢 怖がらせてしまったならすまない、なんならやめても構わないが?」

「……………。」

「泣かせて…しまったかな…。ケイジャー小隊長、いい加減にしろ!」


「フンフンフン…ルルルン、違うな、ルルルンるんるんルルルンるんるん。あははは、古すぎい…、チャチャーチャー、あー盛り上がるかな? ズンズンバー ズンズンバー 臍を上に腰と肩を落としてリズムを裏でとって あー、なんかわたくしがやるとワカメみたい。あははははは はーおっかしー。シューティングゲーム好きだったな。どっかで研修に行った時にみんなでやったんだけど、クレーゲームやってみたかったな」

あー、そう言えば船の上でエスクリマを教わったんだよね。いつでもどこでも武器があるわけじゃない、だから短い短剣や落ちている棒などで効率的に2本の棒で攻撃、防御をする。船の上に長いことな乗っていると男は溜まってきて良からぬことを考える奴もいるから身を守る術を覚えておきなって。あれも型で流れるようにやると格好よかったな。細まっちょよりマッチョ寄なパナプチさんに教わった。あの時は私がやっても全然締まらなかったけど、今ならどうなんだろうな? ジークンドーも格好よかったな。空手もテコンドーもブラジリアン柔術も 何だかんだ船に乗っている人は色んな武術が出来た。訳を聞いてみたら、好きな事を職業にしていくには難しいからって。下手に武術が秀でていると悪い組織に引っ張られちゃう、外国では真っ当に生きることはとても難しいと言っていた。だから出稼ぎで遠洋漁船に乗るために来てるって、みんな元気にしてるかな?



マウントを取りに来ていたケイジャー小隊長の話を全く聞いていない事に驚きを隠せない。

わざと煽って冷静さを欠く作戦だったようだ。相手が女子供でも容赦しないケイジャー小隊長、そして興味のない話は全てスルーして聞く気がないセシリア。どっちもどっちだった。

「おい! 聞いてんのか、このクソアマが!!」

「えっ? お話終わりました? まだ続くなら…終わってから声をかけてくださいまし」

「舐めてんのか!!」

煽られたのはケイジャー小隊長の方だった。


「では始めるか…、セシリア嬢いいのだな?」

「はい。あっ、最後に」

「なんだ?」

「お兄様とお話ししてもいいですか?」

「あ?まあ、作戦会議は必要か、すぐにすませなさい」

「はい。お兄様―! ぎゅってして!!」

走ってブルームに抱きついた。

その様子は恐怖から行動に見えたが、単に甘えたかっただけだった。

ブルームは15歳のセシリアを抱っこして笑顔でクルクル抱っこしたまま回っている。

セシリアもブルームの首に縋りつきながらとびきりの笑顔を見せている。止まると見つめあってセシリアはブルームの頬に口づけをした。

「行って参ります!」

「怪我しないようにね! リアンが暴れたら大変だから」

「はーーーい!」


「そ、それだけ!? ゴホン、では始めるがいいか?」



騎士団総長に声をかける者がいた。

「少しお邪魔してもいいかな?」

「おお、これはクライブ騎士副団長!」

「とっくに引退しているのだから副団長はやめてくれ」

「いやでも…。 今日はどうなさったのですか?」

「ああ、諸用でこちらに来たら面白いものが見れるって聞いたんで邪魔しに来た」

「ええ、まあ面白いかどうかは分かりませんが…」

キャスター騎士団総長はバツの悪い顔をする。


「ん? ブライトが試合するって聞いたけど?」

「はぁー、ブライトはブライトでも、妹のセシリア嬢の方なのです。ブルームの試合は先程、試合にもならずに終わりました」

「はっ!? セシリア…嬢だって!? おい、相手は!」

「ケイジャー小隊長です」

「ケイジャー小隊長? 聞いた事ないが大丈夫か?」

「ケイジャー小隊長は実力は十分なのですが、性格に難があり弱者を甚振るところがあるのでセシリア嬢が心配ではあるのですが、その彼女は…テストが楽しみと言いまして…」


目の前のケイジャー小隊長は剣を構えていたが、セシリアは剣を鞘に戻してしまった。

「最初の課題は剣術のみだ、始め!」


「ヤバイ! 止めろ!!」

クライブ元副団長が叫んだが、間に合うはずもなかった。

ケイジャー小隊長は性格に卑劣な戦略をとる、罠を張って相手を嵌め一気に叩きのめすのだ。

『馬鹿め! この斬撃に泣き叫べ! 可愛い顔とはおさらばだ!』

ケイジャー小隊長は手加減などするつもりもなく、顔や体を斬り刻むつもりだった。


だが、斬り刻まれたのはケイジャー小隊長の方だった。

ケイジャー小隊長の腕には小枝が刺さっていて、ケイジャー小隊長は自分の剣で自分自身を斬っていた。熱くて痛い、気付けば自分から血が流れている事に発狂した。

「ふ、ふざけんじゃねー! お前何をした? 魔法か? 魔法を使ったのか?」

「えっ? まだ剣術のみですよね?  わたくしが使ったのは落ちていた小枝1本のみですけど?」

「嘘つくんじゃねー!!」

「いや、全員が見ていたが、魔法の形跡はない。ケイジャー小隊長、お前は治療が必要だ、よって 勝者 セシリア・ブライト!」



「こ、これは意外な展開でしたな。止める必要がなかった」

「いや、違う。私が止めたのはセシリアの為じゃない、あのケイジャー小隊長って方だ。セシリアは剣をしまった、勝算があってそうしたのだ。セシリアが本気で勝ちにいった結果だ。

ケイジャー小隊長はブルームを貶めたか?」

「な、何故それを! 何故ご存知なのですか!?」

「やっぱり…。ブルームもセシリアも私の教え子だ。セシリアは普段は温厚なのだが、ブルームを馬鹿にしたり嫌がらせしたりする者には容赦がない。プライドをズタズタにへし折り二度とブルームに嫌がらせしないと誓わせたりする、ブルームが絡むと残忍な性格になるのだ」

「はぁー!? あの令嬢がですか!! あり得ない!」

「彼女はドレスのままだろう? 遊ぶ気があったら軽装に着替えている。ドレスと言うことはさっさと終わらせる覚悟だ。ドレスが汚れないようにな」

その言葉に聞いていた者は皆戦慄した。



「女だと思って手加減してやれば! 次の魔法では目にもの見せてやる!!」

「うふふふ」

「何笑ってんだ! このクソアマがー!!」

「うふふ だって…くふふ、 だって 目にもの見せてやるー!って本当に言う人がいると思わなくて…あはははは。 ああ、ケイジャー小隊長はお兄様と違って顔ではなく実力で選ばれたんですものね。目にもの…楽しみにしていますね!」

セシリアの笑顔が子憎たらしい。


「ふざけるな! てめー、馬鹿にしてんのか? あ!」

「馬鹿にしてなどいません。だって先程仰って…いましたわよね? ケイジャー小隊長は頭も悪いし顔も悪いから愛人にはなれず、騎士を目指し、自分より顔が良くて腕の良い若い芽は潰してきたって…、アレ? 違いましたか?  それで今はお兄様の妹まで現れて騎士になると言い始めたと思って潰しにかかり、威圧して萎縮させてわたくしを叩きのめそうとされているのですよね? 顔や体を斬り刻んで!」

「クソアマが! てめー! ふざけやがって!次は手加減しねー!」


「手加減ですか? それはそうですよね…剣術では手加減する前に倒れちゃったんですもの。次は手加減するかしないか決める時まで立っていられるといいですね!

あー、でもわたくしも覚えた魔法があって 丁度試してみたいって思っていたんです。だからすぐに終わってしまうと試せないから、早く軍医に診てもらって元気になってくださいね。なるべく多くの魔法を試してみたいの、傷つけても心が痛まない方ってあまりいないから、本当にいい機会を有難うございますね」

10歳以上年下の少女に背筋が寒くなった。笑っている少女から凄まじい殺気を感じる。


「ふ、ふざけやがって…」

「治療出来ましたか? 手加減して差し上げたんですからまだ死にはしないでしょう」

みんなには聞こえないように挑発を繰り返すセシリア。

まあ、挑発する必要はないのだが、愛するブルームを顔だけの男と称した事に心底キレていた。

「泣いて許しを乞うても、その顔で二度と外を歩けねーようにしてやるからな!!」

「また顔ですか?  …ふっ、大変ですわねお顔に自信がないと。でもよろしかったですわね、ケイジャー小隊長は顔に傷が出来ても気にならないでしょう? 寧ろ勲章として話を盛るのかしら?」

「クソアマ、ぶっ殺す!!」

殺気を放ちセシリアを威圧する。



「おい、ケイジャー小隊長って奴は死にたいのか?」

「はっ!? それはどう言う意味ですか? ケイジャー小隊長の実力は確かです!」

「確かねー。さっきも剣を合わせるまでもなかっただろう? 

ふー、ああ見えてセシリアは私が今まで見た者たちの中で1番優秀だった、歴代の騎士を合わせてもだ。ブルームもセシリアも剣術や魔法の才能だけではなく、勉学も優秀、多才で1つに絞れないからあまり必死になってくれなくてな。私はこのままずっと指導したいと言ったが、あっさり辞めてしまった。その中でもセシリアの魔術は群を抜いている。私がみたところ、現在の国内一と言っても過言ではないと思っている」

「それほどですか?」

「ああ、ケイジャー小隊長の実力が如何程かは知らないが、殺すだけなら3秒とかからないだろう。セシリアはブルームを馬鹿にした奴を許さない。甚振る気満々だな。

魔法の後、まだ何か残っているのか?」

「弓術と体術を予定しております」

「そうか、恐らくケイジャー小隊長は使いものになるまい、別の人選が必要だな」

「弓術も体術も別の者を用意しておりますが」

「違う…、小隊長のポジションの話だ」


クライブ元副団長の話を聞いて唖然としながらケイジャー小隊長とセシリアの魔法の対決を見つめた。 

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