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36、偶然−2

突然目の前に現れた1人の男とその後を追いかけてくる者たち。

驚愕し目をパチクリさせる。


「何故なのだ! 何故ここにいる!?」

「殿下!? コホン、ここで何をしていらっしゃるのですか?」

「私が聞いているのだ! ここで何をしているのだ?」

「えーっと、食事です」

「ここには予約をしないと入れないと聞いた。ならば何故お前たちが入れるのだ!?」

2人は腕を組んだまま、顔を見合わせて首を傾げながら答える。

「予約をしてこちらに参りましたが?」


「では、随分前からの関係なのか?」

「ええ、まあ そうです」

「恥知らずにも認めるのか! そなたはエレンと友人であろう? その婚約者となんて!」

「は?」

「ああ! なるほどそう言うことか、セシリア」

エヴァレットはセシリアの耳元で内緒話をしている。その親しさにもイラっとくる。

「ええ!? まあ、それは何というか…。少しお待ちください」


そう言うとセシリアは『スターヴァ』に戻り何かを話した。

「ここでは目立つので場所を移しましょう。お店の方のご好意で先程まで使用していた部屋をまだ時間が残っているのでお貸し頂けることになりました。さあどうぞ」

そう言うと先ほど通った道を引き返す。

歩き出すセシリアに自然とエヴァレット卿が手を差し出し、それに手を添え歩いていく。


「護衛の方は中に入られますか? それとも外に?」

「2名は扉の外に残します」

代わりにシリルが答えた。


思わぬ形で『スターヴァ』の店内に入ることが出来たアシュレイお殿下は店内を見回した。

あちこちに気配りが効いた居心地の良い空間だった。

そう言えば、廊下には小さな音でい音楽が流れていたな、あれはリラックスも出来るし、盗聴防止にもなるな。だがどう言った仕組みなのだろうか? 心地のいい音楽だ。

思わずメニュー表に釘付けだった。

『見たい! いや…やっぱり見たい! でも今はそれどころではない!』


「殿下、時間は30分程しかございません。ご用件は何でしょう?」

ルシアンはセシリアを『あまり虐めてやるなよ〜』と見ているが、それがアシュレイには『君の瞳は百万本の薔薇より美しい』と変換されて見える。

シリルは先程のやり取りで何やら誤解だと薄々感じていた。


「ゴホン、何故君は友人の婚約者であるエヴァレット卿と食事を共にしたり、宝飾店に行ったりしたのだ! これは友人に対する裏切りではないのか!?」

「まあ、レガシーの事もご存知ですのね…付けてらしたのですか?」

『殿下〜、今の聴き方はそうとられますって!』

「いえ、殿下は視察で立ち寄っただけです。偶然見かけました」


「殿下、ご挨拶させて頂きます。ルシアン・エヴァレットでございます。そしてご存知の通りエレン・ブルーベルの婚約者です」

今更何なのだ!?

「私とエレンそれにセシリアやブルームは幼馴染なのです」

「幼馴染…それがどうした?」

「殿下、聞く気がないなら説明しなくても構いませんね?」

セシリアの強い口調は周りの者たちをピリつかせた。

だが、当の殿下は背筋が伸びて姿勢を正し、謝罪した。

「すまない。説明を続けてくれ」

その様子に面食らったのはシリルたちお付きの者たち。


それをルシアンは気の毒そうに見る。

「端的に言えば今日、私がセシリアと共にいるのは頼まれたからです」

「頼まれた?」

「はい、今日セシリアは以前から話題の店を見てみたいと計画を立てていたそうです。本来ならばリアン…彼女の従者と来る予定だったのですが、仕事で来ることが出来ず、兄のブルームも仕事で忙しい。するとセシリアは1人でも大丈夫と言い張りましたが、兄のブルームはセシリア1人では外出を許しませんでした。そこでせめてエレンと共に護衛を連れて行くように説得しましたが、生憎エレンも今日は予定が入っていたので、心配したエレンが私に同行することを頼んだのです。元々リアンと2人で行く予定でしたし、この店も2名で予約を入れていた、代わりに私が護衛兼話し相手を務めたと言う訳です。

誓って私はエレンを裏切っておりませんし、セシリアもエレンを裏切ったりしておりません」

「えっ!? セシリア嬢が街に1人で行くのは誰だって許可できないだろう!いくら剣に覚えがあると言っても大勢で囲まれれば太刀打ちできない、それはやはりエヴァレット卿が同行して良かったと思うぞ!」

シラーッとした目でアシュレイ殿下を皆が見ている。どの口が言う?

「それで、殿下? 店先で何と仰っていたかしら?」

ニコリと微笑んでいるが、何故か背筋がゾクゾクして全身の肌にブツブツした物が出来てる感じがする。蛇に睨まれた蛙とは…この事か!


「勘違いで往来でお問い詰める様な真似をしてすみませんでした!」

王族でありながら潔く謝罪した。

「殿下、証拠もないことを殿下が口にする事で真実になってしまうことをご自覚くださいませね? その結果エレンお姉様を傷つける様なことになったら…、ふぅぅぅ」

あれ? 部屋が凄く寒くない? あっ! 目が! 光ってこっちを睨んでる気がする!!


「はい、短慮だったと自覚しています」

「クスクス」

笑ったのはルシアンだった。

「セシリア、殿下に対してやりすぎだ。 殿下、セシリアって可愛い顔して怒ると怖いですよね? 私も10歳の頃 こっ酷くやられたものです。当時5歳のセシリアに勉学も剣術も乗馬も何一つ勝てず、伸びた鼻をへし折られました。でもお陰でまともな人間になれました。 ふふ、セシリアは愛する者を傷つけられると全身全霊をかけて戦います、そんな情に厚い優しい娘です。どうか セシリアを信じてやってください」


「いや私こそ勝手な思い込みで迷惑をかけた、すまない」

「謝罪を受け入れます。さて、話が終わったなら出ましょうか、店の迷惑になります」

「ああ、名残惜しいな。ここで食べてみたかったのだが、予約は半年後だそうだ」

「でしたら、頼んでみたら如何ですか? その代わり残り時間は20分ですが」

シリルを見ると呆れた顔をする。


「それでは私たちはお先に失礼します」

「待て、この後どこに行くのだ?」

「何故ですか?」

「いや、先程から同じ場所の様だから同じであれば共に行こうかと思って」

「…………。申し訳ありませんが、ご遠慮申し上げます。殿下は人目を引くので、目立ち過ぎます。それでは、お先に失礼します」

微笑んで、苦笑いのエヴァレット卿と出て行ってしまった。


「セシリア嬢はご自分が誰より目立っているとは気づいておられない様ですね」

「ああ、全くだ」

「恐らく殿下がここで食事を摂れる様に気を遣ったのではないでしょうか?」

「ああ、そうだろうな」

「もう、見かけてもいきなり走っていかないでくださいね!」

「悪かった」


アシュレイは昔 行方不明になってから自分に非があると思ったことは素直に謝る性格になったのだった。王族は謝るな精神を打ち砕く何かがあったと考えている。だが、大した面識もないセシリア嬢に謝罪したのには驚きを隠せなかった。


アシュレイはこっそりカレーを頼んだ。それが1番早く出せると言うから。

見た目はあまり宜しくなかったが、食べれば食べるほど美味く感じた。いつも冷えた食事だが今日はシリルが毒見でした後皆で注文し食べた。食べると体がポカポカして身体中汗ばんだ、不思議な食べ物だ。他の料理も気になったが時間もない、またの機会にすることにした。



「それにしてもセシリア嬢とは変わった方ですね。大半の同じ年頃のご令嬢は殿下に取り入りたいと媚を売るのに、叱るだなんて…くっくっく」

「うん、普通だったら腹立たしく思うと思うのだが、なぜか従ってしまった」

「失われた記憶と関係があるのでしょうかね?」

『そうかもしれない、だが まだ確信がないが、私の中にセシリアがいた、そんな気がしている』


「次は何だったか?」

「はい、騎士の訓練場近くの屋台でございます」

「冷たい飲み物だったか?」

「はい、何でも細かい氷が使われているとか。高等な魔法ですので、魔術師を同行の元確認させてみましたが、魔石を使った魔道具を購入したとの事でした。しかもかなり複雑で水魔法で水を生み出し、その水が管を伝って成形皿に溜まります、それを氷魔法で凍らせ、凍るとその下にある箱に自動的に溜まっていくというものでした」

「氷魔法の使い手はプライドが高い、安い商売に手を貸すとも思えないが」

「ええ、魔道具を作った技師は天才ですね。ですが、誰が作った物かは確認出来ませんでした」

「何故だ?」

「実は店主はマリオと言うのですが、元々屋台をあちこちでやっていたらしいのです。そこにひょっこり来た男がいて飲み物は温かいものしかないと言うと、こんなクソ暑い日に熱い飲み物なんか飲めるか!って、文句を言いながら帰ってしまったらしいのです。そして後日その魔道具を持ってきてこれからはこれで冷たい飲み物も出せって置いていったって言うのです。その後 来店したか聞くと忘れた頃にフラッと2度来たらしいです」

「タダで置いて行ったのか!?」

「はい、それで来た時に魔道具の調子を確認し、改善点はないかを聞かれるらしいです」

「はぁー、かなりの変人だな」

「ええ、店主はそれ以来 訓練場に固定でいるらしいので、近くに住んでいるかもしれませんね。取り敢えず行ってみますか?」

「ああ、そうしよう」




今日はプリメラもデートをしていた。

相手はフェリス・カーライル。順調に交際を続けている。

「今日は何が食べたい?」

「んー、スターヴァに行ってみたい!」

「了解、行こうか」


ところが長蛇の列。

「プリメラ、凄く混んでるみたいだよ? どうする?」

「えー! 残念!流行ってるって聞いたから行ってみたかったのにぃ〜!」

「う〜ん、並ぶ? これだと食べるまでの2時間以上かかりそうだけど?」

「また今度にするわ! じゃあ、何にしようか〜?」

「プリメラが好きなものでいいよ?」

「本当? えーっとなら次は?バルバンのレストランに行来たい!」

「いいよ」

「食事の後はどこに行く?」

「プリメラの行きたいところだったらどこでもいいよ?」

「本当? レガシーでお買い物!」

「いいよ」


「あー、お腹いっぱい! じゃあレガシーに行きましょう!」

「うん、いいね」

フェリスはポケットを弄る。


「あ、あれ? 参ったな」

「どうしたの?」

「財布を落としたみたいだ」

「ええー!! 大丈夫?」

「どこで落としたんだろう? 花を買ったときはあったんだけど」

「まさか、取られたんじゃない?」

「そうか、落としたんじゃなくスラれたのか…、ごめんプリメラここの支払いなんだけど」

「分かったわ、私が払うわね」

「ごめんね」


支払いを済ませると、

「プリメラ 次はどこに行く? レガシーだっけ?」

「うん、じゃあ行こうか!」

お揃いの宝石のついたキーホルダーが欲しかったけど、フェリスはお金がない。交換は出来ない。残念に思っていると、フェリスは凄く似合うと褒めてくれる、でもキーホルダーそのものが欲しいと言うより恋人同士で交換したいのに。

「やっぱりいいわ、欲しいけど好きな人と交換したいの。今日はフェリスが財布を持っていないからまた今度でいいわ。次に行きましょう!」

「…ああ、そうだね」


その後は手を繋いで散歩を楽しんだ。

通りの向こうにアシュレイ王子殿下を見つけた。

「アシュレイ王子殿下―!!」

大声で呼んだが振り向かない、周りの者たちも『王子殿下がいるのか?』と騒然となったが、やはり気づくことはなかった。


「アシュレイ王子殿下ったら耳が悪いのかしら?」

「プリメラ、殿下は変装をしてらしただろう?」

「変装? そうだった?」

「じゃあ、王子殿下は正装をしていなかっただろう?」

「それはそうね」

「つまり一般貴族に変装していたんだ。だから身分を隠していらっしゃるのに大声で呼んだりしたらパニックになるから声をかけないのがマナーだよ」

「そうなの? 何故変装する必要があるの?」

「ご公務ではない場合は視察じゃないかな? 皆 王子殿下が来たとなれば普段の姿を見せないしね」

「そうなのね、気をつけるわ。それじゃあ次はどこへ行く?」

王都の街をブラブラ歩いて行った。

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